第205話 死の淵からの逆転
バザァァァァァァ
シュッ
ガキィン
ズバッ
ユークリット王都前の広大な草原に、物凄い数の屍人の大軍が渦巻き、魔人軍がどこにいるのかすら分からなかった。かろうじて戦闘する音が聞こえるので、まだ生きているのだけはわかる。
お互いが念話で話すのも既に限界。
魔力が底をつきはじめ体術と竜人化薬による身体強化で戦うのみだった。
「ノロくなったよぉ!こいつらなんだか急に弱くなったぁ!」
「当たる!当たるぞ!攻撃が!やはりただの魔人じゃないか。」
サーキュラスとヘール。2対のデモンは今までのお返しとばかり好き放題に魔人達をいたぶっていた。
竜人化したミノス、ラーズ、セイラが何とかデモンの攻撃をしのぎ、ゴブリン隊もすでに他の魔人同様に龍化したドランに防いでもらわねばならなくなっていた。進化型グールが増える一方で、ゾンビやスケルトンは積み重なるように湧いて出てくる。
既に・・勝負はついているはずなのに尽きることなく増援が来るのだった。
「あんまり多くてぇ・・魔人達がどこにいるのかぁわかんなくなったねぇ。そろそろ面倒になってきたわぁ」
サーキュラスは手剣に威力を乗せるために一度距離を置いて助走体制にはいる。どうやら加速してミノスに手剣を突き入れようとしているようだ。青い髪の露出の多い少女は両手を剣にして構える。
「ほっほっほぉ。じゃあそろそろかたずけようかねえ。」
ヘールがとどめを刺すために上空に飛んだ。両手を前面に出し棘ナイフを無数に呼び出して空間に浮かべている。その純白の肌を持つ紳士風の男はまるでポーズをとるような恰好で滞空していた。
「それじゃあ!私の棘の痛みをじっくり味わってもらおうかねぇ。」
おもいっきり勝ち誇った醜い顔になった。今までの端正な顔立ちはどこに行ったのか?
ヘールが手を上にあげると棘が上に上がっていく。距離を取って威力をつけて突き刺すつもりだ。おびただしい数の棘ナイフが空間に出現していた・・
「ふはは!・・・死ぇ・・」
流れ星が一筋。
ボッ
一瞬だった・・
ヘールの額に穴が空いた。
「は?・・なん?・・」
ボッシュゥゥゥゥ
ヘールが霧散して消えた。
「ヘールぅ?どうしたぁ?」
ヘールの気配が急に消えてサーキュラスが目をむいた。
「おまえたちぃぃ!まだ何か隠し玉をもっていたのかぁ!!」
サーキュラスの目が吊り上がり、消えるほどに加速しミノスめがけて走る。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
もう一筋の流れ星。
ボッ
ミノスに到達する寸前にサーキュラスの額にも穴が空いた。
「なん・・」
ボワァァァァァ
「ぎゃぁぁぁぁ・・・」
サーキュラスが燃えるように灰になっていく。
一体何が起こってしまったのか!
はるか上空に何かが光る。
それは・・ラウルたちが乗るチヌーク巨大ヘリだった。
デモン達を撃ち抜いたのは、ヘリ内に寝そべりながらラウルが狙うマクミランTAC-50スナイパーライフルだった。ラウルの魔力連結LV1により最大射程は数倍に伸び威力は数倍になっている。その銃弾がデモンを的確に撃ち抜いたのだった。
デモンを倒したことにより、魔力が枯渇していたユークリット王都制圧の魔人軍が眠りに落ちそうになる。
「おっと。」
しかしラウルは20万人以上のバルギウス兵の魂を吸っているため問題はなかった。連結LV2を行い彼らの意識を繋ぎとめる。
ズゥゥゥゥン
屍人達の群れの中に20メートルの巨大なクマと、人の姿をした何かが降下して来た。その下敷きになった屍人たちが粉々になる。
キュゥゥゥゥゥゥゥゥ
ガガガガガガガガガガガ
ファントムのM61バルカンが火を噴いた。ドミノを倒すように屍人たちが横に倒れていく。
ズバァッ
バシュゥ
セルマ熊がブンっと爪を振れば30体近い屍人たちが粉々に砕かれて潰れた。
そして先の城門を飛び越え都市内に光る何かが飛ぶ。それが地面に落ちると爆発し1000度に及ぶ高熱の赤い炎が炸裂する。さらにラウルの連結LV2の魔力を得て青く輝きを増し一気に一万度まで上昇した。
十数発のナパーム弾だった。
ドン!
ボワァァァァァァ
屍人の群れの中に落ちて炎がアメーバのように燃え広がり瞬く間に焦土と化す。
そしてその上空にアナミスが飛び、爆炎から逃れた屍人をM9火炎放射器で舐めるように焼いて行く。几帳面なアナミスは綺麗に端から焼いて行くのだった。
更に、城壁の外に降りてきたのはシャーミリアだった。
ドン!
恐ろしいスピードで降りてきたシャーミリアの周りの地面が、10メートル四方でくぼむ。この人は無意識にポーズが決まっていて・・可憐でかっこいい。
「あら。お前たち・・静かにお眠りなさい。」
シャーミリアから半径100メートルほどの屍人や進化型グールが、何もされていないのに倒れて動かなくなった。もちろんシャーミリアがラウルの連結LV2魔力を経て、周辺の屍人達を支配下に置いたのだ。
「さあ・・反撃をなさい・・」
すると倒れていたゾンビやスケルトンと進化型グール達が一斉に、攻撃してくる屍人や進化型グールに飛びかかていく。
シャーミリアから200メートル四方の屍人達が徐々に輪を広げて反撃していく。
「エミル!ケイナとグレースを乗せて上空から設置型のM134ミニガンで地上を掃討してくれ!」
「了解。隊長。」
「えっと、た・・隊長2門あるけど、一つ俺が使ってもいいの?」
「味方に当てるなよ。」
「了解。隊長!」
グレースがM134を撃てるので嬉しそうだった。
チヌークが地上に降りてきて俺とカララが地表に降り立った。
ラウルがカララを背に屍人達の群れに悠々と近づいて行く。
「ミノス!みんな!よく一人の欠員もなく耐えてくれた!すぐに終わる・・もうすぐ眠れるぞ!」
ラウルが叫ぶ。
「・・ラウル様・・来てくれたのですね。」
「・・頼もしいお言葉・・待っておりましたぞ。」
「・・お前たち・・主がこられたぞ。」
ミノスがつぶやき、ラーズがホッとした表情で向かえ、ドランが自分の傘に入っているゴブリン隊や魔人兵に語り掛ける。
「・・ラウル様・・お待ちしておりましたわ・・」
満身創痍のセイラが美しい顔で微笑む。
「ラ・ラウル様・・やっと来てくれた。」
「頑張りましたよ!俺!」
「うっしゃぁぁぁ!」
ティラ、マカ、ナタもボロボロになりながら主の到着を喜んだ。
「じゃ、カララやるぞ。」
「はい・・」
ラウルの後ろにいるカララの糸でずらりと天空を黒く染めるほどに出てきたのは・・おびただしい数の銃火器だった。イングラムM11サブマシンガンその数なんと1000丁!貫通して味方の魔人に当たらないように9㎜パラベラム弾を装填している。
ジャキ!
「撃て。」
「はい。」
パララララララララララ
パララララララララララ
パララララララララララ
パララララララララララ
千の自動小銃が空中を舞い、丁寧に魔人達に当てる事の無いように周りの屍人達を削っていく。弾丸が切れたらさらに数千の糸がマガジンを補給する。サブマシンガンの音が切れ目なく鳴り響いていた。連結LV2で魔力が供給されているため、屍人や進化型グールは弾丸に当たると黒い煙となり消滅した。
見る見るうちに耐えていた魔人兵たちの姿が見えてくる。
竜人化した魔人達のウロコがはがれ、怪我をし、血をながして満身創痍だった。だが一人も欠ける事なくそこにいた。
「すまない・・遅くなった。」
「いえ・・我たちが不甲斐ないばかりにこのような醜態をさらしました。」
無線機を取る。
「エミル!一旦魔人を回収してほしい!」
「了解。」
俺は会話をしながらもカララが撃つサブマシンガンの弾薬供給を続ける。バルギウス戦の時より忙しくない。
チヌークヘリが降りてきた。
「皆!後方部分から乗り込め!ご苦労だった!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
カララがすべての屍人を阻止している間に、ラウルが左手を差し伸べているので皆がハイタッチをして、全員がチヌークに乗り込んでいった。
「お疲れ様!」
「怪我は大丈夫か?」
「手をやられたのか?」
「エリクサーを入手するまで我慢してくれ。」
「足をやったのか・・辛かったな・・」
ラウルはひとりひとり全員に声をかけていく。
「ボロボロだな・・まったく・・。逃げろって言ったのに・・・」
「すみません。」
「まあ・・デモン3体は想定外だ。だが2体は意識外から刈る事が出来た!ミノス達が敵をひきつけてくれたおかげだよ。」
「ありがとうございます。」
ミノスが足を引きずりながらチヌークに乗り込んでいく。
全員が乗り込みハッチを閉めてチヌークが上昇する。
俺はヘリが飛ぶのを見送りユークリット王都の方向に振り向いた。
「さてと・・俺の部下をいじめてくれたクソったれの顔を拝みに行くかな。」
既に城壁外の波のような屍人は殲滅していた。到着して10分も経っていない。
「今回はデモンを殺しても眠りにつくこともなく魔力切れを起こさなかった。そして・・おそらくまたバージョンアップした。俺の中の何かが変わった感じがはっきりわかる。」
「では・・」
「一気に都市内を片付けるか・・暴れたくて仕方がない。これだけ使っても魔力がパンパンなのが分かる・・放出したくてたまらないんだ。」
「まあ・・」
カララが少し頬を赤らめるながら言う。なぜ顔を赤らめるのかが分からない・・
「先に都市内に入ったシャーミリア、ファントム、アナミス、セルマを追う。」
「はい。」
カララはしずしずとおしとやかについてくるのだが・・その周りには1000丁のサブマシンガンが浮遊している・・異様な光景だ。
城内に入るとすでにだいぶ戦線を押し上げているようだった。城壁内にはほとんど何もなかった・・ただ恐ろしい温度で焼き尽くされた地表には炎と煙がまだ残っていた。
無線を繋げる。
「エミル!そのまま北に飛んでくれ。反対側に何かいたらミニガンで掃討してほしい。」
「あいよ。」
チヌークが都市の北に向けて飛んで行く。
俺達はユークリット都市内を悠々と進んで行くのだった。
「これじゃあ・・人間は絶望的だな・・」
「ええ。まるで死の街です。」
「カララ・・念のため糸の警戒網を・・」
「すでに広げておりますわ。」
「了解。」
恐ろしい数の屍人や進化型グールはシャーミリアやファントムの敵ではなかった。アッと言う間に消され蹂躙されていく。更にシャーミリアの支配強奪の能力で、どんどんこちらの配下になっていく屍人や進化型グール達。彼女はおびただしい数のゾンビやスケルトンそして進化型グールを掌握していた。
かなりのスピードで戦線を押し上げていた。
俺達が進んでいくとユークリット城が見えてきた。
「やっぱりデカいな・・」
「・・大きな城でございますね。」
「カララも見た事ないか?」
「洞窟に生きておりましたので・・」
「これから住むことになるかもしれん城だ・・いや・・でももうボロボロだな・・まるでお化け屋敷だ。やっぱり建て直したほうがいいか。」
「綺麗な方がうれしいですわ。」
「だな。」
そんなことを話しながら城に近づく。
すると・・城の手前の上に誰かが浮いていた。
その前にシャーミリアとアナミスが浮かび俺が到着するのを待っていた。
「ご主人様。どうやらデモンの親玉らしいですわ。」
「あれがそうか・・」
「リッチのようにも見えます。」
そこに浮かんでいるのは、ものすごく豪華な魔法の衣装を着たガイコツだった。まるで派手な死神のような奴で、指輪もたくさんしててネックレスもじゃらじゃらしている。
派手―!
俺達がガイコツの前に勢ぞろいした。
「どうも。この街を返してもらうよ。」
俺がガイコツに話しかける。
「お!おまえたち!魔人風情が・・どういうことだ!なぜ我から支配を奪えるのだ?」
豪華な服のガイコツが俺に聞いてくる。
「おいおい。ガイコツ!挨拶もなしか?」
「無礼な!おまえは・・人間の子?いや・・何だお前は?」
「俺の名前はラウル・フォレストだ。お前も名前くらい名乗っとけ。」
「・・くだらん・・人間もどきになど・・・」
屍人とスケルトン、進化型グールは全てそのガイコツに矛先を向けている・・
「あのー?この状況分かる?」
「なにを・・今のいままで魔人達は風前の灯!壊滅寸前だったのだ!・・そそ・・それが・・。」
「それが?」
「お、お前たち!早く!この者たちをこ・・殺せ!!!」
しかし俺とシャーミリアの配下となった屍人や進化型グールは既に動かない。
「だから・・俺の配下になったんだって。」
「・・ふ・・ふはははは、ならば仕方がない・・更に新しい仲間を呼び出してやるわ!」
そのガイコツが手をかざすとその空間からまたドバドバと屍人やグールが大量に出てきた。水揚げされる漁師の投網から出る魚のようだ・・
ズララララ
ザササササ
ザララララ
どんどんどんどん出てくる。
しかし出た直後から・・豪華な服装のガイコツに向かって矛先を向ける。
「あのー、どんどんこちらの味方を呼んでいるのと同じだと思うけど・・」
「くっ・・なんだ!なんなんだ!!!我はデモンのネビロス!ネクロマンサーの王ぞ!」
「しらんけど、とりあえず邪魔なんだよね。」
コイツはネクロマンサーと言うやつなんだ。デモンの何らかの地位を持っているやつとみていいのかな?
「・・人間もどきよ・・お前は勝ったつもりでおるのか?」
「どうみても・・」
「くっはーっはっはっはっはっ!!!!」
「なんだなんだ?」
「片腹痛いわ!」
ガイコツでも片腹痛くなるのかね?
「ならばこれならどうだ!」
ガイコツの側の空間に開いた二つの穴が更に巨大になった。
そこから出てきたものは・・
巨大なガイコツの龍だった。ひとつの穴から1体ずつ・・2体が空に浮かんでいた。
「カースドラゴン・・」
カララがつぶやく。
「いまさら気づいても遅いわ!死ね!」
ネビロスが俺達に向けてガイコツ龍をけしかけて来たのだった。