第203話 嘲笑う対の悪魔
おびただしい数のゾンビやスケルトンが止めどなく王都正門から湧き出てくる。さらに驚異の再生能力を持った進化型グールの攻撃は目を見張るものがあった。
ゾンビやスケルトンなどはミノス、ラーズ、ドラン、そしてセイラとゴブリンチームの敵ではなく、20人の魔人兵達だけでも十分対応できていた。そのため最初はそれほど脅威を感じる事はなかったのだ。
しかしこれほどの数の屍人が出てくる事は想定外だった。
そしてグールの進化・・
ミノスとラーズとドランは1度都市内に潜入した折にデモンを目撃した。奴が何かを発動してそこから急にあちこちから屍人があふれ出てきたのだ。
「間違いなく先ほどのデモンの仕業だ」
「やつを仕留めれば止まるのではないか?」
「しかし・・これを突破するのは至難の業だぞ。」
・・・戦闘開始直後はラウル様の銃火器で処理で来ていたが・・まさかこれほどの数が出てくるとは・・
ミノスは考える。
「ドランよ!先ほどのデモンを飛んで探し抑止する事はできぬか?」
ミノスがドランに言う。
「わかった!やってみるがデモンには銃火器は効かなんだ。俺の攻撃でどこまで抑えられるかやってみよう!」
銃を発砲したが都市内にいたデモンには効かなかったのだ。それもそのはずラウルのデータベース連結LV2が開いていない。ラウルがミノスと念話しデモンの存在を聞いた時には、すでにミノス側で兵器を使い果たしていた。その二つの事が今の状況を生み出してしまった。
デモン偵察のためドランが空中に飛ぶと信じられない事がおきた。
進化型グールに羽が生えて空を飛んだのだ。
「くっ!」
ドランに襲い掛かるグールの触手をかわし空中戦に入る。
「グールが飛ぶのか・・!」
更に数体の進化型グールが飛んで阻止してきた。どうやらこちらの戦闘隊形に合わせて変化してくるようだった。
「うむ・・どうやらドランはデモンにたどり着けんな。」
ミノスが言う。
「すまん!」
そして作戦の変更を即座に考えて指示をする。
戦闘中の味方には距離がある為、念話で全員に伝えた。
《聞け!この状況では退却は難しく、背を向けて逃げていては死人が出るやもしれん。退却の指示を変更する!ここは魔闘気を最大発動し反撃に出る。しかし魔力を消費し尽くせば俺達はやがて動けなくなり全員死ぬだろう。しかし!我らが主は必ず来てくださる!ラウル様に叱られるかもしれないが総員死ぬ気でかかれ!出し惜しみをするな!持ちこたえろ!》
《おう!》
《わかった!》
《わかりましたわ。》
《はい。》
《しかたないなぁ・・》
《やるしかないね。》
ラーズ、ドラン、セイラ、ティラ、マカ、ナタが続けて返事をした。そして残りの20の魔人兵達も続く。
《おおおおおおおお》
魔人達は一気に全力の魔闘気をまとい反撃に出た。
ズバゥー
ミノスの一振りで数百体の屍人とスケルトンが吹き飛ぶ。
ズッガーン
ドン!ズババババ
ラーズの上段から振り下ろされた斧が地面に当たると50メートルほどの広さで地面が陥没しそこに屍人たちが落ちた。ラーズがそこに飛び込み屍人たちを粉砕していく。
ゴォォォォォォ
ドランが火を噴いて空中を飛んでいた進化型グールが蚊の様に落ちていく、また進化型グールが飛んでくるが次々と焼き尽くす。
シュバッ
ズガッ
ドバアー
セイラとゴブリンチームが暴風の様に戦場を駆け巡ると、バタバタと屍人が倒れあっというまに屍の山が積み上げられた。
バシュ
ビシャ
ドシャ
20人の魔人達も魔闘気最大出力で反撃をすると、瞬く間に屍人たちを蹴散らし始めた。怪我をしていたものも目覚ましいほどの動きで戦い始めたのだ。
一気に屍人の群れを押し返し始める。
《いけぇぇぇぇ!!!》
《うおおおおおお!!》
《どりゃぁぁぁぁぁ!》
瞬く間に都市の前の屍人たちは消去されていく。進化型グールも超回復の隙も与えられず再び戦線に戻る事が出来ない。
魔闘気全発動の魔人達に押され始めた。
ミノスから指示が出る。
《しかし!都市内には入るな!とにかく正門付近で戦うんだ!》
《えい!えい!》
《そりゃあぁぁぁぁ!!》
《それそれ!!》
ゴブリン隊も凄まじい力で屍人を退けている。
あっというまに都市の外側に屍人はいなくなってしまった。しかし相手はそれを見越したのか・・門の中から城壁の上からさらに倍になり滝のように屍人たちがあふれ出てくる。
「まだまだぁ!」
「うわぁはっはっはっ!」
「そりゃ!」
ミノスとラーズとドランは楽しそうに戦っていた。彼らは魔闘気の全力を出す事でテンションがぶちあがっているようだった。
魔人達のあまりもの力で城壁が崩れ始め門が吹き飛び、魔人の周りには何も近づくことが出来なかった。恐ろしいほどの破壊力で屍人や進化型グールを粉砕し、それが地形にも影響を与え始める。爆撃を受けたような穴が大地のあちこちに出来はじめ、巨大な岩が吹き飛び敵の上に落ちて屍人がぺちゃんこになった。
ドガガガガ!
ボグゥン!
ドン!
ズバッ!
ズシャ!
反撃の隙も与えず敵を粉砕する。
しかしその時だった。
門をはさんだ城壁の上に明らかに屍人ではないものが現れた。
「くっくっくっくっくっ。見てよヘール凄いよぉ!物凄い奴らがいるよぉ!」
「本当だ・・あれは魔人なのか?魔人とはあんなに強いものだったか?」
「ネビロス様からは、だいぶ消耗させたからぁ。そろそろ良いだろうって言われたし大丈夫だよぉ!」
「ほっほぉサーキュラスよ!おいしそうに仕上がっているようだぞ!」
「凄いねぇ。偉いねぇ。」
「そうだなぁ仕留め甲斐がある。」
そしてその2人は飛んで都市外の地面に降り立った。
「全軍!最大速度で後方に引け!」
考える隙も無いほどにミノスが叫んだ!ミノス以下全ての魔人がその2人の異様に気が付き、必然的に退却をせねばならない事を知る。
ザザザザザザザ
魔人達が全速力で退却しようとするが、サーキュラスと呼ばれた者が魔人の退路に瞬時に降りたつ。
「逃がさないけどぉ。」
青い髪のサーキュラスと呼ばれた者は少女の様にも見える。長めの青い髪に露出度の高い皮の服・・ちょっとサキュバスにも似ていたが、羽も生えていないし角もない。可愛らしい少女のようだが中身はバケモノだった。
「デモンか・・」
「ああ2体も・・」
ミノスとラーズが困惑した顔で言う。
「しかも・・先ほど見たデモンとはまた違うぞ。」
ドランが言った。
「そうだな。」
そしてもう一体のデモンが、青い髪のデモン側に降りたった。ヘールと呼ばれたその者は、顔色が悪い・・純白と言った感じの顔色をした紳士風のおとこだった。タキシードのようなものを着ているが間違いなくバケモノだった。
後方からは雪崩のように屍人や進化型グールが押し寄せてきており、逃げ場がなくなってしまった。
「ミノス!ドラン!屍人の大軍は俺とセイラ、そしてゴブリン隊と魔人兵で抑える!デモンを片付けてくれ!」
ラーズがミノスとドランに叫んだ。
「くっくっくっくっくっ。あたいらを片付けるだってさぁヘール」
「ほほぉー!やってもらいましょう。」
都市内から湧き出てくる屍人やスケルトンそして進化型グールを後方部隊が抑える中、ミノスとドランがデモンと戦い始める。
ミノスが対峙しているのは青い髪の少女に見えるデモン。自分を見てヘラヘラと笑っている、おそらく余裕だと思っているのだろう。
3メートル近いミノスと小柄の青い髪の少女、普通に見れば勝負になどなるはずもないのだが対等にそこに立っていた。
ミノスが呼吸を整え魔闘気の流れを正す。
「なになにぃ?やる気なのぉ?たかが魔人じゃん!魔人風情があたいらに勝てると思ってるのぉ?」
ミノスがそれに答える事はない。
「しゃべりなよぉ。クソ面白くもない。」
その瞬間!
ギィィィィィン
サーキュラスの手が剣に変わりミノスに肉薄していた。振りかざした手剣はミノスの斧で止められている。シャーミリア並みの移動速度だった。
「ふーん・・止めるんだぁ」
ボッ!と下からつきあがってきたサーキュラスの蹴りを、ミノスはスウェイバックの姿勢でかわしざま、斧を前に突き出してサーキュラスに当てに行く。サーキュラスの足先も剣の様に尖っていた。
斧を避けたサーキュラスが後方に飛んですぐに前に飛びフェイントをかけながら、スウェイバックで姿勢を崩したミノスの喉元に剣の腕を突き入れる。それを握りこぶしでミノスは右にそらし、神速の斧を中段から上段に跳ね上げる。
サーキュラスはそれを易々と躱し距離を取って立った。
「やるねぇ・・おかしいなぁ・・お前ただの魔人だろう?」
「お前と話す気はない。」
そう言っているミノスの左腕からは血が滴っていた。どうやらサーキュラスの手の剣を右にそらした時に斬られたようだった。
「痛いんだよ!クソが!」
サーキュラスの右腕があり得ない方向に向いている。どうやらミノスが拳で右にそらした時にバキバキに折れたらしい。
ゴキッゴキゴキ
・・・しかしその腕はあっというまに再生してしまうのだった。
再生した瞬間・・
フッとサーキュラスが消えた。
しかしミノスが何もないところに斧を振り下ろす。
「くそぉ!行動を予測するんじゃねぇよ!」
サーキュラスは斧の数ミリ前で急停止し、左手を剣に替えてミノスに突き入れてくる。ミノスは斧の柄の部分を扇風機の様にぐるりと回してその剣をはじくが、剣はそれに逆らわず斧と一緒に回転して右側からミノスの首を薙ぎに来た。
「スゥ」
ミノスは息を吸い込んでサーキュラスに向かい突進する。するとサーキュラスの剣になっていない二の腕の部分で首を叩きつけられた。ミノスはその勢いを殺さずにサーキュラスに向けて体をぶつけた。
サーキュラスはミノスの体当たりを受けて地面に転び、地を引きずられるように相当な距離を飛ばされる。
「くっそいてぇんだけどぉ・・」
ミノスから離れたところにサーキュラスは立ち上がる。あちこち怪我をしたように見えるが超回復で治っていく。
ミノスは首に重い衝撃を受けたが、首を押さえてコキコキと鳴らした。
「ふむ・・」
どうやらミノスは相手の力量を把握したようだった。おそらく強さは自分の方が上・・しかしそれは魔闘気を全開にしているからだ。
相手はデモンで超再生がある。殺す事が出来ない以上、分が悪いと感じ取っていた。
《このままではいずれ我の魔力が切れるか・・》
ミノスが不利をどう覆すか・・考える暇もなかった。
再びサーキュラスは目にも止まらないスピードでミノスに突進してきた。
ミノスは思った。ラウル様の言いつけを守る事は出来ず、自分の命を捧げる必要があるかもしれないと。
ジャキィィィィン
サーキュラスの剣とミノスの斧が激しく火花を散らすのだった。