第202話 地獄の軍団
俺はヘリの中でユークリット攻略中のミノスと念話を終えた。
「そうか・・バルギウスにはいなかったけど、どうやらユークリット王都にデモンがいたようだ。」
「そのようでございます。」
シャーミリアもカララもアナミスもすでに念話で共有しているので話は通じている。しかしエミルとケイナ、グレースには念話は通じていないので説明しなくてはならない。デモンと言う存在を知らない彼らにその脅威も伝えておく必要があった。
「エミル、グレース、ケイナ、これから行くユークリット王都にはデモンと言うバケモノがいる。まあ・・悪魔みたいなもんだがな、それが王都攻略の邪魔をしているようなんだよ。魔獣とかとは違ってちょっと厄介なやつでさ・・兵器が効かないんだ。」
「ちょ・・ちょっと待ってラウルさん。兵器が効かない奴なんているんですか?」
カラフルヘアーの少女グレース(林田)が驚いて聞いてくる。
「ああ、どうやらこの世のものじゃないらしくて・・なんでそんなものが人間と手を組んでるのか分かんないんだけど、今まで2体ほど処分してきたんだ。なあシャーミリア。」
「左様でございます。全てラウル様のお力で葬る事ができました。」
「ラウル。という事はどうにかデモンは殺せるという事なのか?」
「ああ。俺の力を使えばね。」
「なるほど、端的に言えばラウルがいないと倒せないと?」
「という事になる。」
デモンについて詳細を説明した。
「今までの状況を考えると、ルタン町、ラシュタル王国、ユークリット公国にデモンが居た。敵は俺達の進軍に備えて、グラドラムからバルギウスに至るルートに罠をはっていたという事になる。」
俺が言う。
「ある程度敵は、ラウル軍の行動を読んでいるって事だな。俺達がヘリでユークリットを飛び越えて、二カルス大森林やバルギウスに行くという事は想定外だったという事かね?」
エミルの言うとおりだろう。やはり戦闘や魔法陣の発動は相手にある程度情報が流れて読まれるようだ。しかし俺達がその上を行き想定外の動きを取ったという事だろう。こちらの作戦は成功したという事になる。
「バルギウスにも二カルス大森林にもデモンはいなかった。俺達のバルギウスへの陸上の進軍を阻止するために、グラドラムからの各地点へデモンを設置しておいたんだろうな。敵は俺たちが空を飛んでくる事なんて想定していなかったらしい。まあ・・ヘリコプターなんて想像もつかないだろうけど。」
「あのラウルさん。という事は・・バルギウスに入る前のユークリットには強力なデモンとやらが居るのでは?」
グレースが指摘してくる。
「そうだなグレース。可能性は大だ。」
そしてヘリは一度荒野に着陸する。燃料が足りなくなるためだった。
《うーむ・・どうにか燃料だけ召喚出来ない物かな?俺のイメージの問題なのか、そもそも燃料だけ召喚なんてそもそも無理なのか分からないけど、いまだデータベースにも乗らず成功した事も無い・・》
一旦チヌーク輸送ヘリをカララにばらしてもらう。
「あああ!!もったいないです!なんてことを!!」
グレースが叫ぶ。
「いやあ・・俺もね、燃料だけ召喚とか出来たらいいと思うんだけどさあ、出来ないんだよ。」
「便利なようで不便なんですね・・」
「そうなんだよ。」
俺はまた手をかざしてCH-47Fチヌーク輸送ヘリを召喚する。
ドン
「えっ?そんなに簡単に召喚できちゃうものなんですか?」
「これまでかなりの人間の魂を吸収した結果、俺の内面の魔人側の魔力が尋常じゃないんだよ。」
「高田・・ラウルさん凄い人に転生しちゃいましたね。」
「俺も最初は普通の人間で貴族の子供だと思ってたんだがな・・」
「えー!奇遇です!実は俺も自分を人間だと思ってたんですよ。普通の女の子だなと!ところが初めて鏡を見た時に違うなって思いました。手鏡に映ったカラフルな髪の毛と・・手鏡に映った股間のつるっつる!よく考えたら俺生まれてから排泄って行為したっけ?って事に気が付いて・・」
「え?排泄しないの!?」
「そうなんですよ!不思議ですよね!どこに消えるんでしょう?」
「それにしばらく気が付かないのも凄いけどな。」
「たなっ・・エミルさんの言うとおり。まったくです!バカでした。」
ちょいちょいまだ相手の名前を言いなれないらしく、前世の名前呼びをしてしまうらしい。
「でもグレースは奴隷だったんだろ?相当つらかったんじゃないのか?」
「いやいや!全然辛くなかったですよ!犬のエサやりとか草むしりとかトイレ掃除とか虫の駆除とか・・なんか人があまりやりたくないような事ばかりでしたけど、酷い思いや辛い事はなかったです!IT会社の頃の、長時間鮨詰めブラック労働の社畜時代に比べたら天国でした。ご飯もきちんと食べれてましたし。」
凄いな・・IT会社で鍛えられたメンタルがこんなところで生きてくるとは。
「それよりエミルさん!エルフじゃないですか!驚いちゃいましたよ!エルフは本当に居たんだ!って思ったらまさかの知り合いとか、すげーって思っちゃいました。」
「うん。俺もまさかエルフになるとは思ってなかったよ。こんなに身長あって見た目も良くて・・これが前世だったなら・・」
「そう考えるとエミル、グレースが前世に行ったらアメリカのアーティストみたいに見えないか?」
「あーこういうシンガー居たような気がする。」
「そして可愛いよな。」
「やめて下さいよ!ラウルさん・・かわいいとかって!気持ち悪い。」
「すまんすまん!」
「あの・・こんなところで立ち話なんかしていていいんですか?王都にデモンとやらがいるのでは?」
グレースが話を切る。
「ああ大丈夫だよ俺の配下達はそんなにやわじゃない。でもそろそろ行こうかね。」
俺達はぞろぞろとチヌークに乗り込んで出発するのだった。
ミノス隊はユークリット王都内に入る事が出来なくなっていた。一度潜入したのだが物凄い数の敵に押し返されてしまったのだ。
敵は人間ではなく屍人の群れだった、倒しても倒しても延々と出てくる。スケルトンやゾンビも混ざってはいるがそれらは彼ら魔人の敵ではなかった。しかし・・数十体に1体の割合で厄介なのがいた。
「きりがないな。」
「そのようだ。」
「どうしたものかな。」
ミノスとラーズとドランが戦いながら話をしている。
余裕に見えるが・・
彼らの周りには数十万の屍人の群れがいたのだ。
ミノスとラーズ、ドランは手こずっているのだった。セイラとティラ、マカ、ナタは4人一チームで戦っている。残りの20の魔人はゾンビやスケルトンなどのザコの駆除に追われていた。
魔人達は数十体に一体出現するグールに手を焼いているのだった。三日三晩きりなく戦い続けているが屍人たちもいつまでも切れる事はない。
「あのグールはファントムとは比較にならんほど弱いが、倒した屍人やスケルトンを吸収して強化してくるな・・」
「そうだな・・数もさらに増えてきた。」
「ラウル様の兵器が底を突いてそれぞれの武器で戦い始めてから、更に押され始めた気がする。」
進化したミノスやラーズそしてドランやセイラとゴブリンたちが、ハイグールと強い個体のスケルトンなどを始末し、屍人のザコを20人の兵達がさばいているのだが増殖する方が早いのだった。
ミノスやラーズやドランの戦いぶりは恐ろしいものだった。剣や斧の一振りで数十体の屍人やスケルトンが粉々になり、グールもほぼ一撃で行動不能にしていた。しかしグールだけはしばらくすると、周りの死骸をエサにさらに強化されて戦闘に参加してくるのだった。
「トラックの中の武器ももう終わってしまったな。」
「まあよい!我らにはこれがある!」
ミノスが斧をふりあげた。
ミノスとラーズは巨大な斧、ドランは三又に分かれた槍を使って戦っている。
《セイラ!大丈夫か?》
ミノスがセイラに念話を繋げる。
《ええ、ティラ、マカ、ナタの連携はすさまじいものですわ。私も彼らの連携について行くのがやっとなくらい。》
《だが・・数が凄まじいな。こんなに城内に人間が居たのだろうか?》
《おそらく・・ここにいた人間たちだけではこんな数にならないわ。》
《だな。すでに数十万の屍人を壊している。》
《ええ・・きりがないわね。》
そんな会話をして戦っているうちにも、どんどんユークリット市内から屍人やグールが溢れてくる。
《それよりも心配なのは進化を遂げていない20名の魔人達だな・・》
《ええ、そろそろ限界が来ている者もいるわ。怪我をする者もでてきたし・・》
ミノスはここで決断をすることにした。
「さて・・」
ミノスが大きな声を張り上げた。魔人の恐ろしい怒号のような声が戦場に走る。
「よし!!この戦場は一時撤退だ!ラウル様は無理をするなと言われた!我とラーズ、ドランがしんがりとなる!全員撤退しろ!」
「しかし!ミノス様!この数を3人でですか?」
「ふははは!どうという事はない。お前たちが逃げる間だけ持ちこたえればいい事だ。」
「そうだ!とにかく1人も欠けたとあってはラウル様に顔向けが出来ん!ここは潔く引くがよい!」
「俺達を信じろ!」
3人は屍人たちの群れの中で暴風の様に暴れながら笑って言う。
「わかりました!それではお前たち!撤退だ!」
「はい!」
「わかりました!」
20名の兵達は撤退の体制に入る。
「セイラ!ゴブリンたち!みんなを頼むぞ!」
「ええ退路は私たちが確保するわ。」
「まかせてください!」
「それ!」
「じゃまじゃま!」
セイラとティラ、マカ、ナタが後退する為に屍人たちを蹴散らしていく。その隙を狙って20の魔人達が敵を攻撃しながら少しずつ王都から離れていく。
「急げよ!」
ミノスが言う。焦っているようだが・・どうやらおかしな奴が出てきたようだった。
グールがグールを食い進化し始めたのだ。進化をして触手のようなものを伸ばして攻撃し始めた。手や足が槍のように伸びて突いてくるのだった!
「なんだ!?変化したぞ!とにかく急げ!俺達は問題ない!」
更に進化したグールを潰してラーズが叫ぶ。
「かぁぁぁぁぁぁぁ」
ボワァァァァァァァァ
ドランが竜人のスキルで炎を振りまいてザコたちを焼き払う。
「くっ!数が多い!捌くので手いっぱいだ!」
それは・・ファントムよりは弱い個体だったが、進化して攻撃特化になったグール達だった。共食いを始めたグールが進化し・・1体また1体と増えてきたのだった。その数が多すぎる・・ここまで増える事は想定できないでいた。
進化グールは、ミノス、ラーズ、ドランの敵ではなかったが、その攻撃の手が撤退中の兵に伸び始めた。
それをセイラやティラ、マカ、ナタが捌くが処理しきれず、傷つけられるものも出てきた。
「ぐっ!」
「うがっ!」
魔人の兵が傷つき始めた。
魔人の皆が作戦の失敗を感じ取り始めたのだった・・