第193話 爆撃の雨が降り注ぐ
俺は120mm迫撃砲を、中世風のフルプレートを着ている数千の騎士の頭上に落ちるように向ける。
2つのタイヤがついた台の上に砲身が乗っている単純な兵器だが、歩兵が扱える火力としては十分な破壊力を持つ。
上に向いた数門の迫撃砲の砲塔を手早く調整した。
全ての迫撃砲を撃針を突出させて墜発式に切り替えてあるため、筒に榴弾を砲口から入れるとすぐに発射するようになっている。
「じゃあカララ!ジャンジャン景気よく放り込んでくれ!」
「かしこまりました!」
俺が地面に召喚して並べていく120㎜榴弾を、糸でポンポンと迫撃砲に放り込んでいくカララ。
「入りました!」
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
数門の120㎜迫撃砲からどんどん射出されていく榴弾。あたりに煙が充満する。
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
敵兵たちの真ん中でどんどん炸裂していく120㎜榴弾に、なすすべもなく吹き飛び体をバラバラにさせて四散させて飛び散っていく兵士達。いきなり上空から降ってきて爆発した榴弾になすすべもなく逃げようもない。
「うがぁぁぁぁぁぁ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ」
体に破片を大量にもらってかろうじて生き残った者が、その場に倒れこんでもだえ苦しんでいる。しかし少し経つと動かなくなってしまう。榴弾が近距離で爆発した者や直撃したものは体も残らなかった。腕がもげ足がもげ体が引きちぎれる猛威に兵士の突進力が鈍って来た。
なんとかその爆撃の嵐を突破しても、ファントムのM61バルカンの掃射を受けてしまう。上空からは相変わらずシャーミリアのM134ミニガンと、アナミスのM240中機関銃の絨毯が雨あられの様に降り注ぎ命を削いでいった。俺も手が空いたらすぐ12.7mm重機関銃を撃つ。
そして俺は迫撃砲の位置を更に調整して着弾位置を変える。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
「ウッぎぇぇぇぇ」
「グギャァァァァ」
「突っこめェーげぇっ」
どんどん爆散していく兵士。どうあがいてもこちら迄たどり着くことは不可能のようだ。
さすがに敵部隊の突進力がどんどん弱ってくる。いくら玉砕覚悟でも物理的に人の足で、この爆撃の雨と銃弾の嵐の中を、剣と槍と盾だけで突き進んでくる事は出来ないようだ。たまに突破してくる騎馬がいるが人間は乗っていなかった。
俺はさらに120㎜迫撃砲の砲身をずらすように微調整して動かす。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
「カララ。相手の足が止まるまで撃ち続けてくれ。」
俺は敵の進軍状況を見ながら榴弾をどんどん召喚して並べていく。
それをやりながらも。
アナミスが俺の側に降りてきたのでバックパックを交換してやる。シャーミリアが補給しに来てバックパックを交換してやる。ファントムの弾丸がきれるのでバックパックを交換してやる。そして12.7mm重機関銃を撃つ。
俺も意外とてんやわんやだった。
「うむ・・忙しくていい感じだ。」
《戦っている!俺は戦っているんだ!》
実感がわいてくる。気持ちがどんどん高まってくるのが分かる。
《こりゃあ・・たまらん!》
カララは淡々と俺が出す榴弾を120㎜迫撃砲に入れていく。
・・俺の体にどんどん魔力が流れ込む
・・暴れたい。
そんな欲求に駆られるがここは冷静に・・
俺は淡々と榴弾を出して、彼らのバックパックを交換して、120㎜の砲身の調整を行う。
すると・・徐々に敵兵の後続が続かなくなってきた。
「ひっ・・ひけぇぇぇぇ!」
「だ、だめだぁぁぁぁ!」
「もどれぇぇぇぇ!」
人々があちこちに叫び逃げまどうが、俺はかまわず榴弾を召喚し微調整を行う。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズドン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
バッガッーン!
「ダメだぁっぁぁ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「くっそぉぉぉぉ!」
爆散して吹き飛ぶ者、何とか動けて突進してくる者、足が無くなり腕で這う者、隣の兵が頭を無くして怖気づいて止まったところを撃ち抜かれる者、逃げていこうとするところに榴弾が着弾する者。
間違いなく・・ここは戦場だと思う。
しかしながら相手は銃も持たず剣と槍と魔法で戦う者達だった。
現代兵器の暴威になすすべもない。しかも敵である俺達は現代兵器など使わなくても国を滅ぼせるほどの魔人が3人いる。
《いや・・すでに俺も含めると4人かな・・》
俺は自分のしでかしている事に驚きながらも冷静に受け止めていた。
「あっついな・・」
とにかく人を殺す事による魔力の流れ込みが、俺の召喚魔法の魔力消費量の何千倍もあるようだった。俺はなんとなく自分がはちきれそうになっているように感じてくる。
だが気力で抑え込み淡々と作業を続ける。
「長いな・・よく諦めないな・・なんでかな?」
《ご主人様。そろそろ敵兵の後続が切れると思います。》
シャーミリアからの念話だった。
《本当か!もうすぐか!この面倒な作業が終わるのも。》
《そのようです。》
シャーミリアが言うように徐々に敵兵が切れてきた。
後方部隊が逃げるように退散していく。
《城壁内の敵も逃げていきます。》
《分かった。》
「ふう・・まるで総攻撃のようだったな・・」
「お疲れ様です。」
カララに声をかけられる。戦場は一気に静かになった。
えっと・・
俺はおもむろに腕時計を見る。18:17を表示していた。
「戦い始めてから3時間も経過しているのか。カララ今の玉砕戦も2時間くらいやってたってことかね。」
「はいラウル様。そのくらいの時間がたったようです。」
「その間・・弾丸を召喚しまくったんだけど、魔力がさ・・はち切れそうなんだが。」
「魔力がはちきれるという事があるのでしょうか?」
「分かんないけど・・暴れたい気分をおさえるのが辛いというかなんというか。」
「戦い始めた時より魔力も体力も増えたという事でしょうか?」
「そのようだ。何人殺したんだろう・・」
カララと話をしている時にシャーミリアとアナミスが降りてきた。ファントムは近くに突っ立って遠くを見ている。
こいつはM61バルカンが重くないんだろうか?いや・・みんなか・・
「シャーミリア。俺は何人殺したんだろうな。」
「およそ15万の兵が死にました。」
「じゅ・・15万・・!そんなにやってた?」
「はい、相手は決死の覚悟で仕留めようと思ったのでしょうが、こちらの戦力がはるかに上回ったという事かと。」
「そうか・・」
城壁外の東の荒野には煙が幾本もたちこめ、膨大な数の人間と人間の部位が転がっていた。
日が落ちてきて薄暗くなってきている。
「なるほど・・敵兵は暗くなるから攻撃をやめたのか・・まだまだ来る予定だったのかもしれないな。」
「そのように思います。」
「サラリーマンみたいだな。」
「さらりぃ?」
「いや・・こっちの話だ。」
「ただ・・相手の動きはまだあるようです。おそらくは夜戦に向けて防衛の準備を進めているのではないかと思われます。」
「そうか・・」
夜戦かぁ。まだ続くのか・・まあミノスからユークリット王都の陥落の連絡が来るまでは仕方がない。とにかくどれだけバルギウスの主力をひきつけておけるのかが肝心だ。
「よし!ファントムかたずけろ!」
すると俺の前に3人の美女が立った。
「あの・・ご主人様・・」
「ラウル様・・」
「あの・・」
3人の魔女が目を潤ませて俺を見ている。
ああ・・そういう事か?
「確かに逃げ遅れた生きてる人間がだいぶいるみたいだけど。」
「お恥ずかしながらほしいです。」
「・・ファントムばかりが・・」
「私もよろしいですか?」
「わかったよ。セルマとファントムと一緒にここで待ってるから行っておいで。」
「あ・ありがたき幸せ」
「感謝いたします。」
「ありがとうございます。」
暗闇が深くなってきたところで3人の魔女は暗がりに消えていった。
「セルマもごめんな。食べたい? 」
ふるふるふる
セルマ熊は首を振った。
「だよなあ・・人間なんか食いたくねえよなあ。」
コクコク
セルマは元メイドの記憶がまだ残っているため人間を食う事に抵抗があるらしい。
ファントムは護衛の為、俺から離れずただ遠くを見つめていた。
俺はセルマの背中によじ登り無線機を取った。
「エミル。」
「ラウル待ちくたびれたぞ!」
「いやごめん。出番が無くて。」
「俺達はどうすればいい?」
「こっちきて一緒に飯でも食おうぜ」
「分かった・・位置は?」
「1時間後、バルギウス帝都の東に約2キロ地点に集合しよう。」
「分かった。」
暫くすると3人の魔女が戻って来た。
「ご主人様ありがとうございました。」
「久しぶりに満足いたしましたわ。」
「いい精を持った屈強な男たちがたくさんおりました。」
「そうか・・」
俺はミイラになった男達と、カララに消化されているだろう男たちを想い心で合掌する。
「よしファントム!あとはお前が片づけろ!終わったら俺のところに来い!」
15万もの人間の死体をファントム一人に預けて俺達は東に向かった。セルマ熊が120mm自走砲6門を引っ張る。1門582kgあるから3トン以上になると思うが軽々と引っ張っていく。
1時間の後に暗い上空をヘリが飛んできたので、下からライトを照らして待ち合わせ場所の位置を示した。
キュルキュルキュルキュルキュルキュル
ヴァイパー戦闘ヘリが上空から降りてくる。
エミルとケイナがヘリから降りて俺達のもとに来た。
「ラウル!どうだった?」
「ん?戦闘か?一方的だった。」
「どうなったんだ?」
「15万人のバルギウス兵が死んだよ。」
「じゅ・・じゅうごまん!」
「ああ。」
「5人でか?」
「ああ。」
「そうか・・バケモノだな。」
「エミル。綺麗な女性を捕まえてバケモノなんて言わないでくれよ。バケモノはファントムだけ!彼女らは俺の可愛い仲間でセルマは可愛いペットなんだから。」
「そういう意味じゃないよ。お前がだよ。」
「俺か・・まあそうだな。俺が一番のバケモンなのかもな・・」
「まあ俺とケイナにしてみれば心強いばかりだよ。」
「お前たちは飯を食って休んだ方がいい。」
「そうさせてもらうよ。こんなに強力な護衛はいないだろうからな。」
俺は軍用のテントを召喚した。それを俺と魔人たちエミルで組み立てる。
「じゃあ二人でどうぞ。」
「えっ?二人でか?」
「ああ。安全のためだ。」
エミルは二人でテントに入る事に抵抗があるようだった。
「そうね!エミル!安全のためだって!じゃあ休ませてもらいましょう!」
「あ・・わかった、わかったよ!」
エミルはケイナに引きずられるようにテントの中に入っていくのだった。
すると15万の死体の処理を終えたファントムが帰って来た。
「ご苦労さん。」
「・・・・・・・・・・」
「いったいお前のどこに15万人がはいっていくんだろうな?」
「・・・・・・・・・・」
「シャーミリア。いったいどうなっているんだ?」
「はいご主人様。ご主人様の魔力だまりとファントムの胃袋が同じになっております。」
「魔力だまりって?同じ??」
「魔力を溜めている中・・にございます。私奴もそのように認識しておりますが・・実際には見た事はございません。」
「それがファントムの内燃機関・・と言うか結局俺に溜まってんのか!」
15万の死体。
すこし吐き気がした。