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第187話 精霊の儀

「ルカル!おまえは何を考えとるんだ!」


シャーミリアが取り押さえた長老の息子ルカルがそこに座り、長老のラッシュがルカルに尋ねている。


「なんでもない。」


「なんでもないわけなかろう!」


なんか・・息子が親に反発しているようだが・・下を向いて座ったままだ。


「・・・できる・・」


「ん?なんだと?」


「俺も外に出て行ってなんでもやれるって言っているんだ。」


「外は危険だ。今は結界も働かずまた魔獣を使役した人間に攻め入られるかもしれん。今はここに居るのが得策なんだ。」


「臆病者達がこんな異空間にいつまでも閉じこもって何をするというんだ。」


「おまえは・・またそんなことを。」


「俺は親父殿はいつまでここに居るつもりなんだと聞いているんだ!」


「我々は寿命が長い!過ぎ去ればもとに戻るやもしれん。待ったおかげで早くもこうやってエルフの光が訪れたであろうが!」


「エミルがエルフの光なんて笑わせる。まだまだハンパ物の子供じゃないか。」


190センチ弱あるけどな。その子供。


「伝承どおりに先の大戦も、この度のエルフの光も間違いなく来たではないか。」


「だからなんだ?俺は絶対に認めない。」


「あの・・」


エミルが話に割って入る。


「なんだ?ハンパ者が!」


「ルカル様。私は特にエルフの光だなどと思っておりません。そしてそれが何を意味するのかも分かっておりません。私はこの友と新しい世界を作り出す・・ただその事だけに興味があります。」


「新しい世界を作り出す?」


「はい。エルフと人間、獣人と魔人が共に暮らす世界。友がやるというのです!私はそれに力を貸しているだけにすぎません。」


「笑わせる。そんなことが可能だとでも思っているのか?」


「分かりません。ですがこの男は私にとってとても信じられる男なのです。いざという時は必ずやる男なんです!血が!私の血がそれを確信しているのです。」


エミルが上手く前世の事をしゃべらないようにしているな。この若さでもいろんなことが出来るのは前世で30オーバーのおっさんだったからだ。そして日本人の血が流れているからな俺もエミルも!


「世迷言を。まあいい!それでもケイナを連れていくのだけは許さん。」


「ルカル。私は私の意志でついて行くといったのですよ。」


ケイナがルカルに物申している。


「お前は騙されているんだ。エミルはエルフの光なんかじゃない!ハンパ者だ。」


「私は騙されてなど・・そもそもエミルとは何も話をしていません。」


「なに?」


すると長老が何かを察したのか話をはさむ。


「そうだぞエミルとケイナは会話もしておらん。挨拶を交わしただけだ。話をしたのは私たちとここに居るラウルさんだぞ。」


「お前が長老をたぶらかしたのか?」


するとシャーミリアが動いた。ルカルの後ろに立って彼を立たせている。


ギリギリギリ


「うっくっ!」


「魔人の王子に対して無礼千万!」


あまりに痛すぎてルカルは声も上げられない。シャーミリアがルカルの手首を握りしめて絞り上げる。


「シャーミリアやめろ!」


「申し訳ございません。ご主人様。」


シャーミリアがルカルの腕を放す。


「俺の部下が失礼なことをした。お詫びする。」


「痛ててて・・・なんて力だ・・。配下のしつけがなっていないようだな。」


ルカルが苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「ああ申し訳ない。俺の不徳の致すところだ。」


「まあいい。お前たちはエルフの里に何をしに来たんだ。」


「ああ、仲間になって欲しいと伝えに来た。そして薬学を教えてほしいと。」


「そんなことのために来たのか?」


「もう一つは二カルス大森林に基地を作る約束をしに来た。」


「そんなものは二カルスの主とすべき事だろう?」


「そういう話になった。」


「・・・・・・・・」


ルカルは黙り込んでしまった。


「わかった。だが・・なぜケイナなんだ?」


「俺達は指定していない。自分の意志だ。」


「そうなのか?」


するとたまらずケイナが口をはさむ。


「だからそう言っているじゃない?なぜわからないの?」


「なぜだ?」


「エミルの役に立ちたいからよ。」


「こんな小童のか?」


「ええそうよ。」


ルカルは何かを考え始めた・・


「・・・どうしても連れていくというのなら、エミル・・俺と勝負していけ。」


「なんでそうなるのよ?」


「なんでもいい。俺をねじ伏せたらケイナを連れていけ。」


「いや・・ルカル様。私は別に勝負などしたくありません。そしてケイナじゃなくても薬学に精通する物はおりますゆえ是が非でも彼女にというわけでは・・」


「エミル!ひどいじゃない!私は絶対について行きますからね!」


「なんでだ!なんで俺じゃなくてエミルなんだぁ!」


シーン・・・・・・・・


ああ・・そういう事か・・


「ルカル!お前!そんな私的な事で!」


長老が呆れたように言う。


「・・い・・いや違う!俺はエミルでは実力不足だといっているんだ!」


なんか論点をすり替えようとしているぞ・・


「あの・・すみません。俺達魔人にとってはエミルは実力不足などではなく、かけがえのない存在なんです。」


だってやっと会えた元日本人の友達だし!

ヘリコプター操縦できんのエミルだけだし!


「エミルが何だというのだ。魔人になぜエミルが必要なのだ!」


ルカルがまだ突っかかってくる。


「エミルにしかできない特殊能力があるんです。そして俺とエミルが合わさらないとそれは絶対に不可能な技なのです。」


「そんな技があるのか?」


「はい。おそらくこの世界を変えるであろう事が出来ます。」


世界旅行サービスとか山岳薬草コースサービスとか海上遊覧飛行とか。


「・・・しかし・・ケイナ・・いいのか?」


「良いもなにも私がエミルについて行きたいんだもの。」


「・・・そうか・・エミルに・・」


なんかかわいそうになって来たな。


「ですので・・ルカルさん。ここはケイナさんの意志を尊重して・・」


俺がルカルを促そうとすると・・・


「ぜーったい嫌だ!ケイナは俺のものだ!誰にも連れて行かせない!」


「いつ私があなたのものになったのよ!馬鹿じゃないの!ねえ!エミル。」


「い・・いや。しらないけど・・」


「あなたもなによ!知らないけどって!私は絶対について行くんだから!」



ああ・・堂々巡りだ。そう思っている時だった。



「馬鹿モーン!!!!!!!」


グラグラグラグラ

ビューーーーー

ピカピカ


ゴロゴロゴロゴロ


ドーン


いきなり長老の顔が空にデカく飛び出てきた。どうやら雲で顔が出来ているらしく・・モクモクと雲が広がっていく。風が吹き荒れ雷が鳴っていた。


比喩ではない。


本当にそうなっていた。


こ・・怖い!


「お前は何を考えておるのだ―!!」


ピカ!

ゴロゴロゴロゴロ


ドーン!


空のデカい顔が怒ってる。


「ひ、ひいぃぃ」


「ちょ・・長老様!どうか!私に免じて怒りを収めてください!」


俺は空のデカい顔に向けて大声で叫ぶ。



ヒョ



いきなり空の雲も雷もきれいさっぱり無くなって晴れ渡った空が出てきた。


「ああ・・ラウル殿!申し訳ない!つい怒りに任せて・・大人げない。」


「いえいえ!怒るのも無理はないです。やはり父親と言うものはそういうものですよね!」


そんな怖すぎる親父いないけどね!怖いからもう怒らないでね!


「すみません。ルカル!どうなんだ?おまえ!」


長老がルカルに話しかけると観念したように言う。


「はい・・申し訳ございませんでした。私的な感情でうろたえてしまいました。」


「客人の前で二度と恥ずかしい真似をするでない!」


「は、はい!二度としません。」


ガクガクと震えながらルカルは謝った。いや・・ガクガク震えてるのはルカルだけではない、エミルもケイナも二人の長老もだ。かくいう俺もだった・・セルマ熊は耳をおさえてうずくまっている。


シャーミリアとアナミスだけはどこ吹く風で何とも思っていないようだった。


もちろんファントムはただ立って遠くを見ている。


「とにかく仕切り直しとしましょう。精霊の儀をとりおこなう準備をしなければなりません。」


「はは・・そうでしたね。精霊の儀でしたね!エミルもケイナさんもやってもらいましょうね。」


「はい・・」

「わかりました・・」


と言うわけで俺達は一旦長老についてその場を離れる。


「このまま行きますのでついてきてください。」


「はい。さあみんな!行くぞ!」


俺はガクガクする膝を奮い立たせ皆を鼓舞するように言った。


「わかりました。」

「はい。」


返事をしたのはシャーミリアとアナミスだけだった。



俺達が長老たちについて行くと、森の奥深くに湖のような場所が見えてきた。


「ここです。」


「はい。私たちはいてもいいのですか?」


「かまいません。そして選ばれたものにしか・・強い精霊を降臨させることなどないので、精霊の儀を見れるいい機会だと思いますよ。」


「はあ。」


そしてエルフの長老たちはバッグから杖や薬品のようなものなどを取りだして、湖のほとりに置き始める。


俺達は離れて見ていることにした。こんな貴重な経験は無いというのならじっくり見物するだけだ。


「これより精霊の儀をとりおこなう!」


長老のラッシュが大声をあげる。3人の長老が湖に手をかざし何やら唱え始めた。すると天から光の粒のようなものが現れる。


「ケイナよ。前にでて湖に足を付けなさい。」


「はい。」


ケイナが裸足になって湖に足を浸す。するとケイナの体が淡く光を帯びているようだった。


「受け入れの準備が整いました。精霊様よぜひそのお姿を現してください。」


すると光の粒が集まりだして結晶になりそれがさらに固まって形作ってきた。


すると1メートルにも満たない人間が出てきた。人間と言っても眉毛で目がかくれ髭で顔が覆われており鼻しか見えるところが無い小人だった。羽衣みたいなものと帽子で妖精の様にも見える。


「おお!ノーム様!お姿をお現しいただき感謝いたします!なにとぞそのお力をこのケイナに!」


するとその小人が・・


スーッとケイナに降りてきて彼女に重なるようにして消えた。


少しずつ光が消えてケイナもすっかり元通りになった。ケイナは手や髪を触ったり見たりしているが特に変わった様子はなかった。


「すばらしい!なんとノーム様がおいでくださった!地の精霊様であるぞ!ケイナよその御心に感謝をして存分に力をふるうがよい。」


「はい・・ありがとうございます。」


ケイナはその場を下がる。


そして長老たちは薬草や杖のようなものを新しく出して並べ始める。


先ほどと同じくまた何かを唱えると天からまた光の粒のようなものが現れる。


「エミルよ前に!そして湖に足を付けなさい。」


「はい。」


エミルが言われるとおりに湖に膝までつかる。エミルの体も淡く光っているようだ。


「受け入れの準備が整いました。精霊様よぜひそのお姿を現してください。」


するとまた、光の粒が集まりだして結晶になって固まって形を作っている。


すると羽の生えた可愛らしい天女の衣をまとったような裸の小人が出てきた。これぞ妖精と言った雰囲気だがちょっと透けているのが神秘的だった。軽く風がふき始める。


「これはこれは!シルフ様!お姿をお現しいただき感謝いたします!なにとぞそのお力をこのエミルに!」


するとその妖精は降りてきてスッとエミルと重なって消える。


次第にエミルを取り巻く光が消えていき元に戻る。


「エミルよ。今まで宿していた光の精霊とシルフ様とは格が違う。高い人格を持った精霊様である。お前の力となってくれるであろう。感謝をしてその力を存分にふるうがよい。」


「はい。ありがとうございます。」



長老のラッシュが俺に振り向いて言う。


「さて・・ラウル殿いかがでしたかな?これが精霊の儀となります。」


「ええ・・とても美しい・・神秘的な光景でした。見せていただけるとは光栄です。」


「そうですか!喜んで頂けて良かった。」


「彼らは何かの力を得たという事でしょうか?」


「ええ、数日もすれば顕現化してくるでしょう。数時間は定着のため彼らも身動きは獲れますまい。」


するとケイナとエミルがへたへたとその場にへたりこむ。


「ファントム!二人を家まで運んでやれ!」


ファントムは答えることなく二人を担ぐのだった。


なるほど・・すぐに動けないというのはこういう事だったのか。


二人の体力が回復するまで待つことになった。

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― 新着の感想 ―
ルカルのゴネが足らないもう少しごねさせたら良い。
[一言] 「エミルが何だというのだ。魔人になぜエミルが必要なのだ!」ルカルがまだ突っかかってくる。 精神薄弱者に対して、いちいち説明しても意味ないでしょう。
[一言] 冒頭のルカル君 …一言で言うなら、こういうキャラで『あるある』でしょうか? 『俺だったら~』『俺の方が~』 …と、いうような感じで… ちなみにエミルの事を『ハンパ者の子供』扱いしてますが、…
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