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第185話 エルフの里

光の輪が完全に閉じた。


するとそこは今までいた二カルス大森林ではなかった。


のどかな田園風景が広がる美しい土地。


エルフの里。


「さて。」


エミルが左手を上にかざす。


ポッ


天に向かって光が昇り高いところで光り輝く。


「エミル、いま何したの?」


「ああ、帰ってきましたって合図。」


エミルが歩き出すので全員が付いて行く。


「しかし・・長閑だな。」


「精霊の住む場所だからな。人間も魔獣もいないんだ。」


「精霊?」


「ああ俺の魔法は厳密には精霊の力らしい。」


《そうだったんだ・・新しい事実。と言うか魔法と精霊の力との差が分からん。》


少し先に二カルス大森林とは違う30メートル程度の木が生えている森が見える。


「あそこが俺の生まれたところだ。」


「そうなんだ。エルフの里ってやっぱ森なんだな。」


「ああ森の中に村がある。」


すると森から数名の人が出てきた。エルフ達だった。


「おお!エミルではないか!生きておったのか!」


「これは長老自らお出迎えをありがとうございます。」


「よく・・よく無事で戻った!外にいたエルフはあの時の戦いで散り散りになってしまったのでな・・」


「友達のおかげです。」


「こんにちは。」


俺達が頭を下げるとファントム以外は全員頭を下げる。


《なるほど全員美形だ!やはりエルフってそうなんだな、イメージを裏切らないな・・》


「こちらはどなたかな?」


「俺の友人のラウルです。二カルス大森林の主から認められてきました。」


「そうか・・エミルが選ばれしエルフの光であったか。」


「エルフの光?」


エミルが長老に聞いている。どうやらエミルも何のことか分からなかったようだ。


「とにかく立ち話もなんだ。村に来なさい。」


「はい。」


「ご友人もぜひ、おもてなしをさせていただきます。ケイナ!」


「はい、お連れ様もどうぞこちらへ。」


ケイナと呼ばれたこれも美形の優しそうな女性エルフが俺達を誘導すると、他の数人いるエルフのうち一人の目つきの鋭いやつが話をしてくる。


「長老・・こんなエルフもどきがエルフの光?そんな馬鹿な。」


「ルカル!お前は客人の前で失礼であろう!」


「俺は認めません。」


そしてルカルと呼ばれた目つきの鋭い緑色の服を着たエルフが、踵を返して森に走って行った。


「不肖の息子が申し訳ない。」


「いえ。」


《なるほど長老の子か・・選ばれたのが人とエルフのハーフでは反発が出るのもわかる。》


「長老・・私よりルカル様の方が光のエルフにふさわしいかと思うのです。」


「エミルよ伝承によれば、外部のものが二カルスの主によりエルフの里に導かれるのがその証だ。それは人ならざる者と獣が1匹とされておる。この方たちで間違いないであろう。」


「そうですか・・」


「とにかく気分を害するような真似をしてすまなかった。では里にまいりましょう。」


「じゃあラウル。行こう。」


「わかった。」


全員でエルフの森に入るのだった。



エルフの森は想像通りの作りになっていた。


木の上にはつり橋が張めぐさせられ木の上の住居を繋いでいる。森を進んでいくと奥の方にひときわ巨大な切り株がみえてきた。切り株には窓やドアが設けてありどうやら住居になっているようだった。


「本当に木の上に住んでるんだな。」


「ああ、エルフの森って感じだろ?」


「そうだな。エミルも本当にエルフとして生まれたんだなって実感するよ。」


「転生したのが虫とかじゃなくてよかったよ。」


「それは俺も同感だ。ミミズとかやだよな。」


「虫とかに転生したら前世の記憶なんてあるんだろうか?」


「わからん。」


二人はどうでもいいこそこそ話をしながら長老とケイナについて行く。


「木の上に住居があるけどこの地にも魔獣がいるのか?」


「いないよ。」


「え?だって木の上に住むって外敵から守るためとかじゃないの?」


「ちがう。なんか最近のトレンドらしいんだ。」


「え?エルフにも流行があるの?」


「最近のって言ってもエルフは長命で1000年以上生きるものもいるからな・・ここ百年はこんな感じらしい。」


「きっとこれがおしゃれって感じなんだろうな。」


「ああ。」


そして俺達は切り株の家の前に到着した。


「セルマとファントムはここにいてくれ。」


くぉぉん


「・・・・・・・・・・・・」


ファントムは立ったまま目も合わせてくれない。



切り株の家に入ると中はそこそこの広さがあった。テーブルが中心に置いてあり椅子が周りにある。切り株の中をくりぬいて空洞にした室内はとてもおしゃれに装飾されていた。もっと質素な感じを想像していたのだが意外にもいろんな飾りが施してあった。


「議事堂です。」


俺がきょろきょろしているとケイナが教えてくれた。


「どうぞお座りください。お飲み物をご用意いたします。」


「ありがとうございます。」


全員が椅子に座る。長老がテーブルをはさみ目の前に来て深くお辞儀をした。


「ラッシュと申します。長老長をさせてもらっております。」


「あ・・これはご丁寧に。私は魔人国の王子で人間の貴族の子のラウルです。」


「なんと?あなたも人間とのあいの子であったか・・そして・・魔人国と?」


「はい。」


「魔人がまだ生きていたとは。人間に敗れほとんど残るものは無いと思っておりました。」


「魔人は多数生きており、俺は魔人と人間や獣人が共存できる世界を作りたいと思って戦っています。」


「とてつもない思いですな。そしてエルフと人間のあいの子であるエミルと知り合う・・なんと数奇な運命でありましょう。」


「そう思います。」


そして長老が椅子に座ると一緒に歩いて来た二人のエルフも一緒に座る。


「この3名が長老としてここを管理しております。」


「これはどうも。」


「よろしくお願いします。」


二人の長老も頭を下げる。


長老と言っても・・年を取っているようには見えない。40歳くらいの美形のおっさんだ。それでもきっとものすごく年を重ねているんだろう。


「失礼します。」


ケイナと呼ばれた女性が部屋に入ってくる。


俺達の前に彼女が杯を置いていき、そこにポットのような容器から飲み物が注がれた。


「それでは皆様どうぞお飲みください。」


長老が俺達に飲み物を勧める。


「ありがとうございます。」


「ラウル。これうまいんだぞ!飲んでみろ。」


ゴクゴクゴクゴク


「う・・・・っまい!なんですか!?これは!?」


「おお、喜んでくれて何よりですな。これはネクターです。」


「ほのかにお酒のような・・」


「はい。神々の飲む不老長寿の酒ともよばれておりますので。」


「ご主人様。私奴はこれは飲めないように思います。」


シャーミリアがこれを飲めないという。


「おおそうでしたか?お酒は苦手かな。それならば果物の飲み物を用意させましょう。」


おそらくシャーミリアが飲めない理由はそれではない・・本能的に飲まない方がいいと判断しているようだ。


「いえいえ、この配下は飲みものや食べ物を必要としておりません。お気遣いなくお願いいたします。」


「なんと!そうでしたか。わかりました。」


他のカララとアナミスはそのまま飲みほした。ポッと顔を赤らめた。


「おいしいですわ。」

「本当に・・何と言い表せばいいのか分かりません。」


「それは良かった。」


そして長老は本題に入った。


「この度はエルフの里に来ていただいてありがとうございます。数日はゆっくりされていくのでありましょう?」


長老のラッシュが俺に聞いてくるがここは・・礼儀としてどうすればいいか?急ぎたいのだが答えに迷う。すると隣のエミルが話し始めた。


「あの・・長老。おそらく気遣いは無用かと。ラウルは自由を奪われた世界中の魔人やエルフ、そして獣人や人間の尊厳を取り戻すための戦いをしております。今はその真っただ中です。各地で仲間達が敵との戦いを繰り広げているのです。作戦行動中により火急となります。」


「魔人達がそのような戦いを?」


「魔人だけではありません。賛同してくれた獣人や人間も協力してくれています。」


「獣人も人間も・・」


エミルがある程度、長老との話を取り持ってくれたので俺が話に入りやすくなった。


「はい。それで・・獣人の仲間のためにも獣人の里がどうなっているのか?それも調査しに来ました。」


「そう・・ですか・・」


「どうしたのです?」


「二カルス大森林の獣人の結界は破られ里は滅びました。」


「・・・そうですか・・残念です。」


《テッカやニケに朗報を持って帰れないのが残念だ。きっとがっかりするだろうな・・》


二カルス大森林にはいま獣人やエルフはいないという事が確定した。


「しかし・・人間がこの森の魔獣を使役するなど考えも及びませんでした。」


長老が当時の話をする。


「やはりここでも・・」


「北でもですか?人間が魔獣を使役した事など無かったはず。魔人様達であれば魔獣を使役する事はあるでしょうが・・」


「確かに私も使役した魔獣を連れてきました。」


「あのレッドベアーですな。しかし・・あのレッドベアーはただ事ではありませんな。二カルス大森林にもあれほどの物は数体でしょう。レッドベアーなどはこの二カルスでは弱い魔獣に属しますのでな。」


《へぇ・・結構セルマ熊は凄いんだ・・》


「森の魔獣を使役して獣人やエルフを殺したという事ですか。」


「あとは・・地獄の炎でしょうか?あっというまにエルフや獣人が焼かれていきました。」


《なるほど。同じ敵で間違いないな。インフェルノが使われたんだ・・それはひとたまりもなかっただろう。》


「その焼かれた土地が?」


「ええ、獣人の里でございますな。」


「そういう事ですか。」


「エミルの母親もその時残念ながら・・」


「聞いております。」


長老やエミルがその時の事を思い出して塞ぐような表情になった。かなりの惨劇だったのだろう。


《その気持ちは俺にも十分にわかる。》


「そしてエルフの里に来たのは他でもありません。ぜひエルフの方々にもご協力いただけないかと。」


「もちろんその気持ちはございますが、エルフの里にはすでに戦力と呼べるものはありません。お力添えが出来る事など僅かでしょう。」


以前の戦いで兵士はあらかた殺されたと聞く・・もちろん戦力などないだろう。しかし俺の目的はそこには無かった。


「あの・・エミルが以前、薬湯を調合してくれて俺を癒してくれたんです。」


「そうですか。それがなにか?」


「はい、わが国には薬品研究所なるものがございます。そこには多数の薬品の開発をしている部署があるのですが、出来ましたら・・エルフの薬品に精通されている方をお一人派遣いただけませんか?もちろん無償でとは申しません。」


「研究所はどちらに?」


「おそらくエルフの里と同様の治安の良さを持つ場所です。」


「魔人国ですかな?」


「いえ。グラドラムと言う国にございます。」


ラッシュ長老が考え込む。するとエミルが言う。


「長老様。そのグラドラムと言う国には万の魔人がおります。それらが国の護衛をしているのです。そして魔獣や人間の兵など全く寄せつけません。地上ではエルフの里に次ぐ平和な土地だと思います。」


「万の魔人!?そこへはエミルも行ったのか?」


「はい。それは美しい都市でした。」


「私も行ってみたいな。だが私はここを動くわけにはいかない。」


すると横から声を発するものがいた。


「あの!私が行きます!」


案内役のケイナが思いのほか大きな声で言ってしまい、恥ずかしいと思ったのか顔を赤らめる。


「だめでしょうか・・」


「ケイナか・・お前ならかなり薬草に精通しておるな・・」


「確かに適役かと。」


長老の一人が言うのだった。


「ふむ。わかった・・ではケイナ!お前に命じよう。エミルについてグラドラムへ行くがよい。」


「ありがとうございます。」


ケイナは深々と長老にお辞儀をするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「するとそこは今までいた二カルス大森林ではなかった。 のどかな田園風景が広がる美しい土地。」 のどかな土地にエルフだけで住んでいればいいやん。敢えて多民族と関わり合いになって生活する意味は…
[一言] エルフのトレンド 最近、でっかい木の話をしてたから『トレント』…と、読んでしまった。 本筋とはなんら関わりがないところで、こういう話を持ってこられると、細かいところに設定を考えていられるの…
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