表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/951

第184話 驚異の超巨大トレント

大きな影が俺たちを覆った。


「ぐえっ!」


シャーミリアから首根っこを掴まれる。


ズウウウウン


直下型地震のような大きな揺れとともに、直径20メートルはある大木が地面にめり込んだ。


木の足だ・・


ゴウゴウと土煙を巻き上げる。


シャーミリアが俺の首根っこを掴んで後方に高速で飛び、ファントムがエミルを抱えて直進して逃げ、カララがセルマ熊を糸で絡めてその影から離脱する。アナミスはたまたまその影の外側付近にいたので上空に回避できた。


「ラウル様!」


アナミスの叫び声が追いかけてきた。


木の足はそれほどまでに敏速に振り下ろされたのだった。太さ20メートル長さ50メートルの根っこの足が出せるスピードではない。


「速い!」


次の瞬間!


ズドドド


上から何かが降ってくる。


ドッ

ドッ

ドッ

ドッ


木の槍が地面に突き刺さった!それは1本1メートルもの太さがあった。10本以上突き刺さっている・・槍だと思ったのは木の枝だった。


「ぐぎっ!」


シャーミリアも俺の掴む部分を持ち替えている余裕がないらしく、乱暴に首根っこを掴んで槍を回避した。皆もそれぞれに回避していた。


ズボッ


ブウウウン


突き刺さった枝が地面から抜けた瞬間、俺たちがいる空間を横薙ぎにして枝が走る。1メートルもある木の枝が鞭のようにしなって何本も襲いかかってきた。


ファントムはエミルを抱え、シャーミリアは俺を掴んだまま空中に飛ぶ。カララもセルマ熊をぶら下げたまま回避した。


全員が空中にいた。


飛んでくる枝を足掛かりにして、飛猿のようにかわしている。


その時。



俺は念話で部下の皆に叫ぶ。


《まて!》


ファントム、シャーミリア、カララが戦闘行動に入ろうとしたからだった。


《しかし・・ラウル様!》


カララが叫ぶ。


ブン


枝の鞭が返ってきた。


「ぐげ」


俺はまたシャーミリアに引っ張られる。


「ご主人様!倒さねばエミル様とセルマを守り切れないかもしれません!」


《すまん!みんな!3分・・いや2分だけ耐えてくれ!攻撃が止まない時は反撃を許可する!》


《わかりました!》

《はい!》


「シャーミリア上空へ飛べ。こいつの顔を探す!」


「かしこまりました。」


俺を掴んだシャーミリアが上に飛ぶ。その上から木の枝の槍が襲ってくる。


シュッ

シュッ

シュッ


シャーミリアがヒラヒラと回避した。


「見つけた!止まれ!」


「はい!」


急ブレーキで空中に止まる。


230メートル付近に顔があった。


「木の爺さん!まってくれ!敵じゃない!」


俺は顔に向かって叫んだ。


「うそじゃ!すっごく痛かったんじゃぞ!敵じゃないのにあんなに強く叩く人いる?」


「木なんだから痛くないだろ!」


「木って言うな!トレントじゃ!1万年も生きとるんじゃぞ!えらいんじゃぞ!そしてあんなに強く叩かれたらワシでも痛いんじゃ!」


「えらいなら俺の話しを聞いてくれ!攻撃を止めてくれ!」


「攻撃などしとらん!蚊を振り払っとるのじゃ!」


「だからそれを止めてくれ!そんなに素晴らしい偉人のような顔をしてやることか!」


ピタ


止まった。


《カララ、セルマをしっかり押さえていてくれよ。》


《はい。》


「素晴らしい偉人とはわしのことか?」


「ああそうだよ!あと他にいないだろ!」


「ふむ。」


トレントは徐に考えこむような顔をした。流石は1万年も生きているトレント・・神さまみたいな顔をしている。


《そりゃいきなりぶっ叩かれれば賢者でも怒るよな。》


「わし、そんなに偉人っぽいかの?」


「ああ、神様かと思うくらいに。」


「ふむ。」


なんたか嬉しそうな顔をしている気もする。


「いきなり俺のペットが粗相をしてすまなかった。」


「なんじゃあれはペットか?」


「そうだ。」


「ん?お主らはどうやら人間ではないな?」


「そうだ。」


「なんでこんなところにいるのじゃ?」


「俺たちはただエルフを訪ねてきただけだ。」


「なぜエルフを訪ねるだけで、わしがあんなに強くぶたれなければならんのじゃ?」


少し怒りがぶり返してきたようだ。



まずい。でも本当の事を言おう。


「癖で」


「なんじゃ!あの熊は癖でトレントをぶっ叩くのか?あんなに強い調子で!」


「なんか少し邪魔に感じるらしいんだ。イラッとするって言うか・・」


「邪魔とはなんだ邪魔とは!お主達が勝手に森にきたのであろう?邪魔なのはそっちの方じゃ!」


「そのとおり!道理を欠いたのは俺たちだ!だから謝罪する!」


「なんじゃわかっておるのか。なんかワシが大人げなかったみたいじゃな。」


「いきなり叩かれれば誰でも怒る。」


「ふむ。」


トレントは黙って俺たちを見つめた。


「お前は道理は通じるようじゃのう・・」


「なら見過ごしてくれないか?」


「嫌じゃ。」


「謝るからさ。」



すると・・後ろで黙っていたシャーミリアが口を開いた。


「さっきからぬけぬけと木の分際で!ご主人様が自ら許しを乞うなどあるわけが無かろう!身の程を知れ!」


「は?」


いやいやいやいや、ミリアちゃん?もう少しで話がまとまりかけていたでしょ?


「ご主人様が謝る事は少しもございません。」


「なに?叩いて来たのはそっちなのに謝らないとな?」


「ええ。木がご主人様に盾突くなど10万年早いのよ。」


「じゅっ10万年て」


「いえ未来永劫かしら?」


あらあ・・シャーミリアがなぜかキレッキレだ。


「なんじゃ!なんじゃ!蚊トンボの分際で!おかしいじゃろ!普通は悪い人が謝るんじゃぞ!道理じゃろが!」


「木がご主人様にひれ伏すのが道理よ。」


「木って言うな!差別じゃ!」


「ちょっ!ちょっとストーップ?待って待って!」


「嫌じゃ!もうワシ待たんもん!ばーかばーか。」


《ヤバいか?》



「・・・・・・・・・」



なぜだろう・・何故か急に場がシーンとなった。トレントは動かない、シャーミリアは身構えているがトレントが攻撃してこない。



「な、なんじゃ?なんじゃ?ワシの体が動かないんじゃが・・」


トレントが狼狽えている。


《ラウル様が時間稼ぎして頂いたおかげで、トレントの全身を拘束できました。》


《でかしたカララ!》


《容易い事です。》


カララが念話で伝えてくる。


《そしてシャーミリア・・ラウル様が待てと言っているのですよ。待ちなさい。》


《は・・ごっ!ご主人様!大変な無礼を働いてしまいました!申し訳ございません。》


シャーミリアが我にかえった。


《ま・・まあいいよ。》


「お前たち!ワシに何をした!」


トレントが激オコだ。


「ちょっとだけ押さえさせてもらっただけだよ。」


「ちょっとだけって・・このワシを押さえる力があると言うのか?」


「まあそんなところかな。」


「ひどい!叩かれて縛られて!ワシが何をしたと言うのじゃ!」


「だから謝りたい。部下の暴言も謝る。でないと部下たちが暴れる事になる。森を壊したくはない。」


トレントは暫く考えて口を開いた。


「お前たち蚊トンボがいくら暴れたところで何ができる?この森には仲間が沢山いるのじゃぞ?押さえるのが関の山ではないか?」


参ったな・・なんかまた後ろからシャーミリアのイライラが伝わってきた。いつまで押さえられるだろう。


「爺さんを押さえられると言う事は、爺さんより俺たちの方が強いと言うことにならないか?」


「はっはっはっはっ!ワシらにはお前たちには使えない膨大な時間があるわ、このまま何百年押さえつけていられるかのう?」


なるほどいつまでもこのまま待つと言う事か・・厄介だな。


「あの。悪いけど俺たち急いでるんだ。」


「知ったことか!」


「俺らに暴れたら困ると思うんだけど。」


「ぷぷぅー!痛いは痛かったが、ちょっとばっかし強いレッドベアーがいるからなんだと言うんじゃ?」


「彼女は弱い方だよ。」


「ぷっ?わーっはっはっはっは。つくならもっとマシな嘘をつけ!」


「いや、ほんと。」


「うそだねー。そんなわけなかろうが。」


「あの・・そのとなりのそれ」


俺は幹の直径が20メートルはある大木を指差した。


「ああ、ただの木じゃが。なんじゃ?」


「倒していい?」


「笑わせるわい!この辺りの木の幹は普通の木とは違うのだぞ、すごーくすごーく硬いんじゃ!」


俺はすうっと息を吸い込みわざとらしく叫んだ。


「ファントーム!その木を倒せ!10秒以上かけるな!」


「ぷぷっー!そんな・・10秒とか馬鹿み・・」


グラッ ギギギギ


バサー


直径20メートルの木は直ぐに倒れ始め、数本の木にもたれかかるようにして止まった。


「!」


ファントムが何をしたのか?


それはラリアットのように腕を振るい木の幹をえぐりとり、反対側の少し上をメガトン級のキックで蹴り飛ばしたのだ。


3秒ほどかけて。


「ね。」


「・・・・」


「暴れさせたくないんだ。」


「・・・・」


「それでも許してもらえないものかな?」


「・・・・」


「じゃあもう一本。ファントーム!」


「まあ、待って待って!待って!」


慌ててトレントの爺さんが止める。


「えっと、なに?」


「いやあー冗談に決まってるじゃないですかぁー、ふふっ!人が悪いですねえー!最初っから怒ってなんていませんよぉー」


めちゃくちゃ低姿勢になった。


「よく見れば利発そうなお坊ちゃんでしたね。へへ、わしもなんでそんな冗談を言ってしまったのか、馬鹿ですよねー。」


「いや、悪いことをしたのは俺たちですから、すみませんでした。」


「いやそんなご丁寧に、ちょっとぶつかったぐらいで私ったら大人げなかったです。」


「じゃあ許してくれると?」


「許すも何も!謝るのはこちらの方じゃないですかね?このとおりです。申し訳ございませんでした。」


ズズズズ


トレントの体がぐにゃりと、折れ曲がる。


「いや・・頭を上げて。俺たちは本当にあなたがたと仲良くなりたいだけなんです。」


「そう?」


「はい。」


「折ったりしない?」


「もちろん。」


「ほんとの本当に?」


「はい。」


「なんじゃ・・わしびっくりしすぎて木になってしまうところじゃったわい!」


木に・・って・・


「じゃあ仕切り直しで!」


「で、なんじゃったか?」


やっと普通に話をしてくれそうだ。


「エルフの里に行きたいんだ。」


「その訳はなんじゃ?」


「里帰り。」


俺のとなりにアナミスに吊るされてエミルが上がってくる。


「あの・・主様・・うちの友達がとんだ粗相をしました。」


「おや?主はエルフの息子の・・えっと・・ほら・・なんだっけ?」


「エミルです。」


「ああそうそう!帰ってきたのか!そうかそうか!無事でよかったわい!」


さっきはもろとも殺そうとしてたじゃないか・・


「里に入れますか?」


「もちろんじゃが・・仲間もか?」


「ええまた暴れたら困りますので。」


「うーむ・・」


「はい?」


「いっいや!用件はそれだけ?」


「世界に散ったエルフと獣人を悪しきものから救うためにございます。」


するとトレントは、ぱぁぁぁぁっと輝いた。


「エミルよ。お主が救う者であったか・・2000年ものあいだ待ちわびたぞ!」


トレントの口調が変わり、次の瞬間空間が輝きだす。


パァーッ


黄金に輝く空間が円形に広がって行く。



「さあ入るがよい!救う者と仲間たちよ!」


「えっ入って良いのかな?」


「いいらしい。行こう。」


「あの!うちのが叩いてすいませんでした!」


「痛かったぞい!早く行かんか!」


「ありがとう!」


俺たちはトレントが開けてくれた光のホールに入って行く。


そこからは別の空間が広がっていた。


森ではなく、のどかな田園風景が広がっていたのだった。


後ろをみると光の輪が閉じるところだった。


その後ろに、どこまでも続く畑が目に入ってきた。


「ようこそラウル!ここが俺の生まれたところだよ。」


エミルが笑顔で言うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「だからそれを止めてくれ!そんなに素晴らしい偉人のような顔をしてやることか!」 (略) 「素晴らしい偉人とはわしのことか?」 …ちょろいな…ラウル君、扱い方慣れてるな… 「さっきからぬ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ