第179話 最前線へ、さらなる前進
俺達は巨大ヘリコプターヘイローで各拠点を周りサナリアに戻って来た。
拠点を巡った結果。
《想像通りというか想定外というか・・》
「だよね。」
3拠点とも素晴らしい進化を遂げていた。すでにドワーフが各拠点に配置されていて、その指示のもとに魔人達が働いたせいだ。シナ村は街ごと巨大な基地となりルタン町は近代都市と化していたのだ。
《まあ・・ミゼッタがいないのでグレーの殺伐とした街並みではあったが・・》
どちらも田舎町と呼ぶには無理があるほど発展していた。そしてラシュタル基地・・森の中にかなり立派な航空基地が出来ていた。
ゴブリンのクレとの念話が俺とつながっているため、俺の意志情報がある程度伝わっており・・なんとヘリコプターの発着所まで出来上がっていたのだ。どう考えても異世界の森の隠れ家の域を大きく逸脱していた。
「大陸の北は・・ものすごく近代的になってしまったぞ・・」
「ああエミル。俺も想定外だよ。」
「なんであんなに前世の建造物に似てるんだ?」
「俺の系譜に連なっているからだろうな。記憶が共有されてしまっているのかもしれない。武器に関しての知識もしかり、魔人が進化すれば人間の容姿に近づいてくるしな・・」
「ラウル起点に進化。建造物もそうなったっておかしくはないか・・」
「推測だけどな。」
《間違いなく各拠点が俺の記憶に影響を受けたものになっている。まあそうか・・俺をトップに意識が連なっているんだし、俺の影響を大きく受けるのは仕方のない事なのかもしれない。》
とにかく魔人とドワーフに任せれば街が近代化する事が分かった。かつラシュタルやルタンが落とされる心配は無いと考えていいだろう。それだけデモンとの戦闘で配下の能力が驚異的に向上している。
そしてサナリアでは当初の予定通り、バルギウスの兵士をアナミスが洗脳して本国に送り返した後だった。
しかしすでにラシュタル王国やラタン町での魔人との戦闘で魔法陣が発動したため、こちらの動きはおおむね相手に伝わっているだろう。おそらくはサナリアに派遣されたバルギウス兵士が持ち帰る嘘の情報がバレるのもそう長くないはずだ。
《さてと・・ここからだ・・》
魔人達へのユークリット王都及びバルギウスに対する侵攻作戦の詳細を伝えるため、テント村に集まってもらっていた。
「では。本格的な侵攻作戦を開始する!」
はい!!!!
「サナリアに来る前にラシュタル基地には増員として15名の魔人を置いて来た。さらにはライカンのマーグ率いる魔人20名の1個中隊を編成し、すでに北西の元シュラーデン王国へと侵攻させている。彼らにはかなりの兵装を召喚して装備させた。」
はい!!!!
「現在ラシュタル防衛基地には22名の魔人と20名の獣人そしてドワーフを5名配置している。」
シナ村やルタン町などにはすでに、グラドラムから来たドワーフが数名ずつと50名単位で魔人が移り住んでいた。人間の敵兵や魔獣などはもはや脅威ではない、おそらくはこの世界でも有数の治安のよい地域となった。
「ラシュタル基地からは5名のドワーフをサナリアに連れてきている。彼らにはサナリアの街の再構築を依頼してある。グラドラムから来た15名の魔人達はその協力をしてほしい。」
はい!!!!
「まずはフラスリア領の攻略についてだ。元のユークリット公国フラスリア領には、すでに竜人長のドラグ率いる20名の部隊をルタン町から南下させている。合わせてここサナリアからはマキーナとルピアを中心とした、ハルピュイア5名を率いる航空部隊を編成し東へと進軍させる。彼らと敵を挟み撃ちにしてくれ。」
「かしこまりました。」
サナリアの東にあるフラスリアは北と西から挟撃させる予定だ。
「西に点在するユークリットの小さい領跡地には、マリア、カトリーヌ、ルフラ、ギレザム、ガザム、ゴーグ、スラガの7名で捜索隊を編成して向かってもらう事にする。マリアとカトリーヌの警護には十分注意してくれ。」
「もちろんでございます。我らにお任せください!」
「問題ございませんわ。」
ギレザムとルフラから返事をもらう、他のメンバーも全員うなづく。
「ユークリット王都に進軍する部隊はミノス、ラーズ、ドラン、セイラ、ティラ、マカ、ナタ、及びグラドラムから来たタロス以下20名の魔人1個中隊だ。」
「はい!」
「王都の近くの村まで進んで俺からの連絡を待て。ユークリット王都に近づくほど敵は多くなると予想される。十分気を付けるように!いざという時は撤退してくれ。」
「いや問題ございません。蹴散らしてみせましょう。」
「ミノス・・暴れすぎるなよ。」
「ええ自重します。」
野太い笑みで俺に答える。このチーム・・ミノス、ラーズ、ドラン・・強面チームとなってしまった。セイラとティラ達がいなければ、誰もが震え上がる傭兵スター部隊のようだ。
「そして俺はエミルに先導してもらい、ヘリで二カルス大森林のエルフの森へ向かう。俺とファントム、シャーミリア、カララ、アナミスの部隊でエルフの生き残りを探し、獣人の里の生き残りがいないか周辺の探索をすることとなる。」
エルフの森はバルギウス帝国の南にあった。3つの隊とはバルギウス帝国及びファートリア神聖国をはさんで分断されてしまうため、戦力の高い者達で部隊を構成し潜入する事にしたのだった。
「それが終わり次第、南から北上しバルギウス帝国を襲撃する。俺達が陽動すればバルギウスはこちらに戦力を向けるだろう。すぐに本体のミノス部隊がユークリット王都に進軍してくれ。」
東方攻撃部隊、西方捜索部隊、南方ユークリット攻略部隊、二カルス大森林の陽動部隊の4つの部隊に分かれそれぞれ出発の準備をする。
東方部隊
空を飛ぶため乗り物の召喚はしなかった。全員にM240中機関銃とバックパックを装備させており、AK47自動小銃を予備兵装として腰に下げさせている。ほかの予備兵装は全てドラグ率いるルタン町からの部隊が持ってくる。
西方部隊
ウラルタイフーン装甲トラックを2台召喚、全員が乗り込んでさらに兵器も十分に積載できる。M134ミニガンとバックパックを8基、12.7mm重機関銃を4基、M240中機関銃とバックパックを8基、弾丸を数十万発。TAC50スナイパーライフルを3丁と弾丸を1万発、デザートイーグルを10丁とマガジンを100本、P320ハンドガンとベレッタ92ハンドガンを2丁ずつとマガジンを20本、VP9ハンドガンを2丁とマガジンを10本、手榴弾を100個、野外入浴セット2型を2セット。戦闘糧食を100㎏を持たせた。
南方部隊
ウラルタイフーン装甲トラックを5台、M61バルカン砲を2基、M134ミニガンとバックパックを20基、12.7mm重機関銃を10基、M240中機関銃とバックパックを20基、デザートイーグル40丁とマガジンを100本、VP9ハンドガンを10丁とマガジンを50本、手榴弾を1000個、炎榴弾を50個全部、野外入浴セット2型を4セット、戦闘糧食1トンを持たせた。
後は全て現地調達とし、風呂などは沢などで済ます事もお願いした。
そして出発前に全軍のリーダーと俺に話のあるやつが集まってくる。
「あの・・ラウル様!お気を付けて!無事に帰って来てください!」
「ああマリア。心配するな・・むしろそちらの隊にマリアとカトリーヌを残すのが心苦しい。しかしサナリアの民と、モーリス先生やケルジュ枢機卿の消息を探すのは君たちでなければできない。」
「わかっております。必ず探します。」
「カトリーヌも気をつけてな。ルフラ・・カトリーヌを頼むぞ。」
「承知しました。」
「ラウル様。必ず・・必ず帰って来てください!私いつまでもお待ちしております!」
「大丈夫だよ。カトリーヌ。たぶんすぐに帰ってくるって。」
「はい・・」
カトリーヌが俺の心配をしてポロリと涙を流す。俺がその涙を指ですくってやった。
「マリア、カトリーヌをよろしく頼む。」
「はい。心得ております。」
人間のマリアとカトリーヌと離れるのは不安もあったが、彼女らの護衛に付くのが2次進化したルフラ、ギレザム、ガザム、ゴーグ、スラガだ。今までの旅路で見てきた状況からすると過剰戦力と言えない事もない。問題ないだろう。
「マキーナ。ご主人様の命令を必ず遂行しなさい。」
「はいシャーミリア様。ラウル様の命令は絶対でございます。必ず成功させて見せます。」
「そしてルピアやハルピュイア部隊を守ってあげなさい。それもお前の役目です。」
「かしこまりました。必ず」
《まあ・・マキーナはシャーミリアが俺の側にいる限り、消滅することは無い不死の兵士だからな。やはりハルピュイア達の命を優先で守ってもらうのが一番だろう。シャーミリアはそれを分かって指示を出してるんだな。》
「ラウル様!我々は必ずラウル様の第二の祖国を奪還してご覧に入れますぞ!」
「ああ頼むよ。ミノスそしてドランにラーズ。」
「はい!!!」
いやあ・・間違いなく大丈夫だと思う・・だって顔がおっかないもん。
そして俺はドワーフ達に向かって話す。
「かなりの建設重機やトラックを置いて行くが好きに使っていい。あとあのでっかい・・ヘリコプターって言うんだがあれを解体して研究する事を許す。自由にやってくれ!」
「はい!やったー!」
ドワーフ達は巨大ヘリコプターを分解していいと許可をもらって大喜びしている。
《さてと・・行くか!》
「では!作戦終了は兵器の期限が切れる30日後。俺の直属は必ず奪還したユークリット王都に集合する事!全軍の健闘を祈る!」
「はっ!!!!!!!」
そして話が終わり全員がそれぞれの車に乗り込み、それぞれの方角へと向かって出発していった。
「じゃあ、エミル。お前の父ちゃんに挨拶したいんだが。」
「大丈夫だそろそろ来る頃だ。ほら。」
エミルの父ちゃんハリスと商人のマーカスが近づいて来た。
「これはラウル様・・ものすごい軍勢ですな・・民が皆震え上がっておりました。」
「ハリスさんすみません怖がらせてしまって。しかし凄く心根の良い奴らなんです。安心して町を任せてください。」
「ええ、それではバルギウスに残された民の家族達をお願いいたします。」
「わかりました。」
「私からも・・これを。」
マーカスからは一袋の麻袋を渡される。
「これは?」
「これほどの装備をお持ちの方に差し出がましいとは思いましたが、バルギウスより南で流通している金貨です。バルギウス兵が駐屯していた兵舎から回収しました。500枚ほどご用意出来ましたのでお納めいただけましたらと思います。」
「良いのですか?皆が使ってくれたほうが・・」
「家族の命がかかっているのです。金を欲しがるものなどおりませんよ。」
「わかりました。ありがたくいただいておきます。」
「よろしくお願いいたします。」
マーカスから深々と頭を下げられる。こちらも深く頭を下げると俺の配下も礼をする。
「じゃあエミル行こうか。」
「ああ。」
俺は広場に向けて手を差し出す。
「ほっ!」
ドン!
AW101ヘリコプターを召喚した。
「ラウル。これならかなりうまく使いこなせるよ。俺。」
「そうかエミルなら安心だな。じゃいこうか。」
「ああ。それじゃあ父さん行って来るよ。」
「気をつけてな!ラウル様!どうか息子をよろしくお願いします!」
「絶対に生きて帰ってきますよ。」
「はい。」
俺達はAW101に乗り込んでいくのだった。