第178話 補給物資召喚
出立の日の朝、俺は第一壁と第二壁の間にある開発都市にいた。
ドワーフやミノタウロス、オーガやオークに竜人そしてダークエルフやゴブリンまで、すべての魔人の代表者を集め必要な機材について話し合いを終えている。魔人達の多くがここに集まっていた。
「よし!じゃあ召喚するから離れて見ていてくれ!」
わかりました!!!!
魔人達が遠ざかって遠巻きに眺めている。
「よっ!」
ズズゥウウウウン
おおおおおお!!!!
魔人達が歓喜している。なんとなくドワーフの声がうるさい。
手始めに召喚したのは自衛隊仕様の諸岡キャリアダンプ10台。これを使えばゴブリンたちでも土砂や木材を運ぶことができる。キャタピラなので悪路でもガンガン走る事が出来るだろう。
「ほっ!」
ズズーーーン
次に召喚したのは土砂の除去用に75式ドーザというブルドーザ5台と73式大型トラック10台。
《しかしなんだ・・魔力が全然減った気がしないんだがどういうことだ。》
3歳の頃は弾丸1発で気を失っていた。それが今ではこんな大量の重機を数十台召喚してもなんともない。
「シャーミリア。」
「はいご主人様。」
シャーミリアが俺の隣に瞬時に出てきた。
「これだけ魔力を消化しても全然減らないんだが・・なんでかな?」
「これだけ魔人がおりますゆえ、ご主人様は彼らの魔力の恩恵も受けていると思われます。ルゼミア王が全権をご主人様に渡したという事は、ここに居る魔人全てが系譜に連なったとも考えられますが。」
「そういう事か。」
「はい。」
えーっと・・という事は魔人達は魔力を少しずつ俺に分けているような状態か。
《なら。みんなの魔力をオラに少しずつ分けてくれ!》
《ご主人様。言わなくても大丈夫かと。》
《あ、はい。》
ドスンドスン
ドスンドスン
野外炊具1号 22改を4基
ドサドサドサドサ
野外入浴セット2型を4セット。
ドンドン
無線搬送装置1号JMRC-C17を搭載したトラックを2台。
ドンドン
電源車2.5t発電機トレーラー5基。
これらを続けざまに召喚した。
まったく魔力が減らない。
これで30日間は離れた場所や森でも炊事が出来るだろうし、離れた場所でも入浴が可能になる。さらに無線搬送装置1号JMRC-C17を置けば、シナ村やルタン町くらいまでなら俺がいなくても通信が出来るようになる。
《そうだ!サナリアに帰る途中に、シナ村とルタン町ラシュタル基地にもこれらすべての装備を召喚して設置する事にしようっと。》
次は・・
「よっ!」
更に12.7㎜重機関銃を50基、M61バルカンを10基、TAC50スナイパーライフル10丁、M240中機関銃とバックパック10セット、M134ミニガン10基、を次々召喚する。
《うん・・調子がいい。全然魔力を消費した感が無い。じゃあやれるだけやっちゃおうか》
「えーっと、よっとっはっふっ」
AK47を3000丁、デザートイーグル3000丁と弾倉9000個、P320ハンドガン5000丁、手榴弾3000個を召喚していく。
「ご主人様。魔人達の魔力が少し減ったようです。」
「これだけ召喚して”少し”って魔人って凄いな・・」
俺がこれだけ大量の兵器を召喚するのには意味があった。
俺の目論見はドワーフだ。彼らはどうやら俺の兵器を分析調査して技術を吸収しているようなのだ。これだけのものを残しておけば、またこの世界の物との融合がなされるかもしれない。以前はドワーフの技術力が分かっていなかったのでそこまで頭がまわらなかった。
なぜそれに気が付いたのかは簡単な事。
ドワーフが作った冷榴弾やミーシャやミゼッタが見せたイメージを形にする能力。この世界の人は俺の武器からの情報であんなことができるのだ。与えるだけ与えてみようと考えたのだった。
「よし!みんな!召喚が終わったので集まってくれ!」
わー!!!!
魔人達が興奮しながら俺の周辺に寄って来た。
「それじゃあ、車や重機関係はオーク隊長ガンプの指示の下で取り扱ってくれ。炊具と風呂はタピが全て使い方を知っている!タピがグラドラムに残るのでみなも習って使えるようにしてほしい。無線機と発電機の操作に関しては俺がこれからドワーフのバルムスに伝えていく!みんなトラックの扱いは出来ると思うからそれぞれの部隊で必要に応じて使ってくれ。」
はい!!!
「銃火器についてはスプリガンの隊長であるニスラに全権をゆだねる!全て彼の指示の下で武器の設置場所や携帯する者などを決めて防衛に役立てるように!」
はい!!!
「そして今回の作戦では最高戦力の一人であるミノタウロスの隊長タロスを連れていく。副隊長のブロスがミノタウロスの責任者となる。」
はい!!!
「最後に攻撃や戦闘の要としてタロスに代わり、オーガ隊長のザラムに戦闘に関する指揮系統の全権をゆだねる。」
はい!!!
「異論は?」
ありません!!!!
「さてと。」
「じゃあタピ。よろしくな。」
「はい。」
一応すべての魔人の隊長や副隊には申し送り事項は通達してはいるが、いざという時はタピが俺との念話の通信役となる。なにかあればタピから俺に連絡が来ることになるので、それを含めタピに念を押していく。
「では、それぞれの任務に励んでくれ!以上だ!」
はっ!!!!!!!!!!!!
魔人達の返事を聞いて俺は踵を返して街の中に歩いて行く。
そして最奥の街グラドラムの深部に戻り自宅についた。
門をくぐりそのまま俺は納屋に向かう。
「シロ!」
くぉぉぉん
シロが俺のところに来て頬をスリスリとしてくる。もっふもふで気持ちいいー!!
「また行って来るよ。母さんとミーシャ、ミゼッタを守ってくれよ!」
うぉん!!
「頼もしいな。助かるよ。」
べろべろと俺を舐めてきた。
「よし!おりこうさんだ。」
そして俺はさらに中にいるイチローニローサンローシローゴローに会いに行く。5頭とも俺が来たのを分かっていたようですでに待ち構えていた。近づくと頭をハムハム顔をぺロペロ体に頬ずりとみんなでぎゅうぎゅうしてくる。
「お前たちも凄く役に立っているみたいじゃないか!どうだ?俺のところに来てよかったろ?」
クヮクェ
カッカッ
クケェ
「うんうん。そうだな。」
俺はみんなの頭をなでて話(気持ち)を聞いてやる。
「じゃあイオナ母さんのいう事をよく聞いて頑張ってくれよ。」
みなバサバサと羽を広げている。どうやら俺が行ってしまうのが寂しいようだった。
「ごめんな連れていけないんだ。でも必ず帰ってくるからその時また背中に乗せて飛んでくれよ。」
ガークッ
ゲッギャッギャッ
クァクァ
俺が声をかけると皆がおとなしくなった。
「じゃあね。」
俺は納屋を後にして家に入っていく。
玄関を開けるとすぐに大きな声で出迎えられる。
「にいちゃん!」
「アウロラぁ〜ごめんよごめんよ。兄ちゃんはまたお仕事なんだよ〜。大事なだーいじな仕事なんだぁ〜また帰ってきたらいーっぱい遊ぼうなぁ。」
「うん・・うん。ぐすっ」
俺はアウロラをぎゅっとして頬をスリスリとしていた。これじゃあ・・魔獣たちが俺にすることと同じじゃないか・・
「さあ、アウロラ。お兄ちゃんを困らせてはだめよ。」
「あー!にいちゃーん!!」
スッとイオナに抱っこされて俺から引きはがされる。
「アウロラぁ・・」
「大丈夫よアウロラ。ラウルお兄ちゃんはすぐに帰ってくるから。」
「そ、そうだね母さん。それじゃあ行って来るよ。」
「気を付けてね。」
イオナが俺をしっかりと抱きしめて耳元でささやいた。
ミーシャとミゼッタが横でウルウルと来ていた。
「ミーシャ!凄い研究だった、すぐに部下がデイジーさんという薬師の婆さんをここに連れてくる。彼女が来たらいろいろと聞くといい。あと今回作った冷榴弾と炎榴弾は50個ずつもらっていく。」
「十分にお役立てください。」
「ああ!ありがとう。それと竜人化薬は全部持って行っていいのか?」
「ええもちろんです。100本くらいにしかなりませんでしたがお役に立てたら幸いです。」
「冷榴弾と炎榴弾を入れる鉄の箱をドワーフが作ってくれていて助かった。竜人化薬もその箱に入れて厳重に保管して持っていくよ。」
「はい。」
「ミーシャはあまり徹夜とかしないできちんと休むようにな。そして薬品の実験をするときは誰かに頼め・・試作品をいつも自分で試してたとか・・正直焦ったぞ。」
「あ・・はい。すみません。」
《ほんとそうしてほしい。人形のような可愛い顔にクマを作って自分で人体実験なんてありえない・・マッドすぎる。俺に喜んでほしいにもほどがある・・まあうれしいけどね。》
「薬物試験に関してはゴブリン隊と他の隊にも協力の了承を得ている。気兼ねなく手伝ってもらえ。」
「わかりました。」
その隣でミゼッタがすでに泣いていた。
「ミゼッタなに泣いてんだよ。俺はすぐに帰ってくるから!ミーシャが作った薬や武器を、定期的に試験する為に取にくるからそんなに悲しまないでくれ。」
「はい。そして・・私が元気にしていたと・・」
「当然だよ。ゴーグに伝える!」
「じゃあミーシャ新薬や兵器の開発に成功したらタピに伝えてくれ。すぐに俺に連絡が届くだろう。」
「わかりました。」
「じゃあ行こうかね。」
俺が言うとシャーミリアがイオナを安心させるように話しかける。
「イオナ様もお元気で。ご主人様には私が付いておりますゆえご安心を。」
「ええシャーミリア。あなたが付いていれば怖くないわ。」
「ありがとうございます。」
イオナがシャーミリアの手を握ってお願いするようにしている。イオナもアウロラやミーシャたちの前では気丈にふるまっているが不安なのだろう。それを見抜いてシャーミリアはイオナに声をかけたのだった。
すると俺の隣にいたエミルがイオナに言う。
「あ、あのイオナ様!俺も一緒に帰ってきます・・その時までお元気で。」
「はい。ラウルをお願いしますね。」
「はい。」
うん。
本当にそのうちすぐ帰るんだから、いつまでも別れの挨拶を続けていたらきりがない。
「ちょっとドワーフのバルムスにも用があるんだ。エミルも一緒に行こう。」
「あ、ああわかったよ。」
ちょっとそっけないようだったが俺はエミルを連れて家を出たのだった。
そしてそのままバルムスのところに行く。
「おおラウル様!例のあれですな?」
「そうだ。」
バルムスの前に通信機と発電機を召喚して取り扱い方法を説明した。さすがはドワーフの長だった・・スーパー飲みこみが早くて助かる。
早速、第一壁の所に置いた通信機とやり取りをしてみるそうだ。
「ラウル様の召喚する物はどれも凄いですな!これも研究してよろしいでしょうか?」
「ああ、全部ばらしていいよ。」
「ありがとうございます。」
「ここに出したのは予備だから、好きにばらして中を見てみてくれ。」
「わかりました!そうさせていただくのじゃ!」
「武器も大量に召喚したからな。好きに研究してくれていいぞ。」
「はっ!」
俺とエミルはバルムスの所をあとにした。
「すごいなドワーフって。」
「エミルもそう思うか。あんなずんぐりむっくりの体から想像できないよな。」
「まったくだ。」
「前世のドワーフのイメージをはるかに超えてないか?」
「そうだな・・いや・・そもそもさ!ラウルんとこの魔人は全員が想像を超えてるよ・・なんで魔人が銃を扱えたり車に乗れたりするんだよ。」
「魔人の国で精鋭たちにきっちり教え込んだんだけど、いつの間にかその意識が伝播していてな・・。あとは訓練をくりかえして出来るようになったらしい。」
「そもそも、あんな強すぎる魔人に重機や兵器が必要あるのか?」
「そう言われるとそうなんだが、きっとあったら便利だろ。」
「まあ便利だけどな。」
広場につくとすでに一緒に旅立つ50人の魔人がそろっていた。ミノタウロス長のタロスが一番前に立って待っていたようだ。
「ラウル様!お待ちしておりました!」
「おう!タロス!じゃあ行こうかね。」
「待ちに待ったこの日。我は本当に楽しみでしたぞ!」
その横にはイオナとミーシャ、ミゼッタもいた。ポール王が従者と共に立っている。
「じゃあ行って来るよ!」
「ラウル殿!朗報をお待ち申し上げます。」
「はい!」
「気を付けて。」
「無事に帰って来てください!」
「お元気でいてください!」
「ああ。みんなありがとう。」
さてと・・・
広場の誰もいないところに向いて手をかざす。
「ほっ!!」
ズズゥゥゥン
おおおおおおお!!!!!
俺達の目の前に超大型ヘリコプターが出現した。
Mi-26コードネームヘイローを召喚したのだった。ヘイローは14000馬力のエンジンを2基搭載した大型ヘリで最大積載量は20トン、兵員90名を輸送できる。最大速度295km/hで飛ぶモンスターヘリだ。
「うはぁ・・すげえなあ・・ヘイローじゃんかよ。これ俺が操縦していいんだよな?」
「エミルしかこの世界にこれを飛ばせる人いないって。」
「ありがとうな。こんな能力を持って生まれて来てくれて。」
「よせよせ。褒めても何も出ない。」
「だってよぉラウル・・オスプレイの次はヘイローだぜ・・これ以上何を望むんだ俺は。」
「まだまだこれからだよ。よろしく頼むよエースパイロット。」
「はは。これからもラウル様のお役に立てるよう頑張りますよ。」
「よろしく頼むよ。」
二人で敬礼し合っている。
「全員乗り込め!物資もすべて忘れるなよ!」
「はい!!!!!」
そして俺とエミル、ティラとファントム、シャーミリアとマキーナが先に乗り込んでいく。その後からタロスを含む50人の魔人達が中に乗り込んだ。
今回の魔人には各種族5名ずつが含まれていた。
タロスとミノタウロス4名
ライカン5名
スプリガン副隊長マズルとスプリガン4名
竜人5名
オーガ5名
オーク5名
ダークエルフ5名
ハルピュイア5名
サキュバス5名
ゴブリン5名
これからシナ村とルタン町とラシュタル基地を経由してサン村に立ち寄り、終点のサナリアに向かう予定だった。
主翼が回りだすと周りに風が巻き起こった。
イオナ、ミーシャ、ミゼッタがスカートをおさえて手を振っていた。
俺は窓から彼女らに手を振る。
「さてと。サナリアでのサキュバスの敵兵催眠作戦もそれほど長くはもたない。急ごうか。」
「了解キャプテン。」
ヘイローがグラドラムを飛び立った。