第176話 超魔法とマッドサイエンティスト
ポール王と話し合った結果、グラドラムの名産になりそうなものはだいたい分かった。
真珠
海産物 干物
薬草
ドワーフの農機具
ドワーフの武器
ミーシャの塗料 ペンキのようなもの
ミーシャの薬用石鹸
ミーシャの香油
干物と薬草は庶民にも売る事が出来そうだ。塗料もいろいろと使い道がありそうなので売れるだろう。農機具も今のラシュタルになら需要があるはずだった。それらはある程度取引しやすい価格で出す事になった。
問題はもっとも売りたい真珠やドワーフの武器、ミーシャの石鹸と香油だ。
「ポール王。真珠や石鹸と香油は贅沢品だから、もっと市場が安定してから売ったほうがよさそうですね。」
「そのようですな。今は戦時ですから武器はある程度高額でも取引できるでしょうが・・」
「点在する村も取引の対象となりますから、そのあたりも視野に入れて商売をしていきましょう。えっと、ルタン町やラシュタルの前の村・・」
「ラウル様。それはサン村ですね。」
「サン村と言うのですねクルス神父。そのサン村とも取引していきたいですね。」
「なるほど。」
「あとはサナリアにもある程度、商品を流していきます。」
「小麦・・ですかな?」
「はいポール王。よくご存じですね。」
「有名ですよ。」
「あそこにいるバルギウスから徴用された民は、いままで兵のために小麦を作っていました。兵に食べさせる分が不要になったため、こちらに流せるようになるはずです。農地も拡大するように指示をしてありますので、こちらの物資と交換で輸入しましょう。」
「貨幣で取引したいと言われればもちろん行いますが、物資での取引といたしましょう。」
「はい。しばらくは物資の交換になりそうです。貨幣はどちらの国や村もさほど保持していませんから。」
「わかりました。して気になるのが・・私がその取引の一切を?」
「ええ。ポール王に一任いたしたいと思います。」
「よろしいのですかな?」
「ポール王にしか頼めません。何卒よろしくおねがいします。」
「わかりました。もちろんどちらの国にも利が出るようにいたしたいと思います。」
取引の全てはグラドラムの王であるポールに全て任せることにしたのだった。それが一番うまくいく気がしたのだ。
商業関係の話し合いが終わり、今度はある目的のため全員で外に出て広場に向かう。
「やっと私の魔法をラウル様に見ていただけるんですね!」
「ああ楽しみだよ。」
俺とイオナ、ミーシャ、エミル、シャーミリア、マキーナが外に出てミゼッタの光魔法を見ることになっていた。
全員が広場についてミゼッタを囲んで見ていた。クルス神父は先生なので横で静かに見守っていてくれている。ポール王も一緒に見ていた。
「攻撃系の光魔法?」
ミゼッタが攻撃系の光魔法を取得したと聞いて驚いた。
「私も初めて見るわね。」
「母さんは今まで攻撃の光魔法を見た事は?」
「ないわね。」
「シャーミリアはどうだい?」
「私奴も見た事はございません。」
一体どういう魔法なんだろう?光魔法は結界などに用いられることが多いが、攻撃となるとどういうものになるんだ?
「ラウル様が召喚した武器を見て、私がいろいろ考えた結果生まれた魔法です。」
「俺が召喚した武器?」
「はい。」
ミゼッタは静かに気を落ち着かせて武器をイメージしているようだ。
「ラウル様。大変恐れ入りますが壊してもいいような車など出せますか?」
いきなりミゼッタから凄い発言をされて一瞬驚いた。
「ん?車?じゃあ昨日乗ったピンツガウアーで良いか?」
「あれはよろしいのですか?」
「いいよ。じゃあエミルあれを広場まで回してほしい。」
「わかった。」
しばらくするとエミルが6輪のピンツガウアーを広場に停めた。
《しかし、装甲車を壊す?そんなことが出来るのか?》
「お待たせ。」
「ありがとうエミル。」
「あの・・ラウル様これを壊してもいいのですね?」
「ああ。いくらでも呼び出せるからな。」
「わかりました。」
ミゼッタが集中している。するとクルス神父が俺に耳打ちする。
「ラウル様。きっと驚きますよ。」
「本当ですか?楽しみです。」
「では。」
ミゼッタが空に手をかざして集中している。空には太陽が燦燦と輝いてまぶしかった。
シンとなった。
皆が集中して何が起きるのかを見ていた。
「シュッ」
ミゼッタが息を吐いた瞬間!
ボボボボボボボ
音を立てながら一瞬ピンツガウアーが揺れた気がした。
遅れて音がした。
クファン!
しかし・・特に何もおきない・・・
すると6輪のピンツガウアーの車中から煙が出てきた。
「何が起きたんだ?」
火がだんだんと強くなっていく。
ゴオオオオオオ
「車が燃えてるけど・・どうしたんだ?」
「あの・・天から光の槍を落としました。」
「光の槍?」
「ラウルは見えたか?」
「いや、全然。」
車がどんどん焼けていく。どうやら軽油に引火して燃えているようだった。
「あの・・母さん。水魔法であの火を消せますか?」
「ええ。私も魔力が増えたからあのくらいなら。」
イオナは車に向けて手をかざした。
ザブ―ン
上空や周辺から一気に車を水が包み込んで留まる。地面に落ちないで車を水の玉が車を包みこんでいるのだ・・
すぐに酸素を取り入れられなくなった炎が消える。
「凄い・・」
「凄いな・・」
俺とエミルはイオナの魔法の精度に驚いた。
火が完全に消えたのを確認して、俺達は車に近づいて中をぐるりと見てみた。
天井から床にかけて5センチくらいの穴が空いている。
「シャーミリア!車をどけてくれ」
「かしこまりました。」
シャーミリアが車に近づいて掌底を繰り出す。
ボゴン
車が5メートルほど横にずれた。
車が止まっていた場所を見てみると地面にも複数の穴が空いていた。上空から屋根を貫通して地面にまで潜ってしまったらしい。
「ミゼッタ!凄い!凄い魔法だ!」
「うれしいです!ラウル様に褒めていただいた!」
「ミゼッタ、よかったわね!!」
「ミーシャ!ありがとう。」
「すばらしいわ。」
「イオナ様もありがとうございます。」
ミゼッタは嬉しそうだった。
しかし・・こんな強烈な攻撃魔法を放つことが出来るとは・・
シャーミリアが俺につぶやくように言う。
「ご主人様・・恐ろしい魔法ですね。以前の私奴でしたらかなりの損傷をしたでしょう。」
「ということは・・ミゼッタ。これは太陽と何か関係しているのか?」
「はい。天気の良い日中だけしか使う事が出来ません。」
《なるほどな・・太陽光を収束したレーザーのガトリングみたいなものか。これは喰らったら魔人でもただでは済まないだろうな。ただし天気のいい日中しか使えないというのが弱点だな。》
「俺の兵器でもこんな破壊力を持つのは、大量破壊兵器系くらいのもんだ。本当に凄いものを編み出したなミゼッタ。」
「ありがとうございます。」
やはりな・・魔人達の中にいると人間もだいぶ強化されるのではないかと思っていたが、これはほぼ確定じゃないだろうか?人間の能力が増幅される何かがあるのかもしれない。
エミルを見ると、こちらを向いてアイコンタクトでうなずいた。エミルもそう思ったらしかった。
しかし、その横でミゼッタがふらりとふらついた。俺はミゼッタの肩を支える。
「おい。大丈夫か?」
「あの・・だいぶ魔力が欠乏しました。立っているのがやっとです。」
「無理させたな・・ほら。」
俺が背中を貸してやるとミゼッタがおぶさってくる。
「すみません。」
「じゃあいったん家に戻ろう。」
「この後の事もあるかと思うから私がミゼッタを診ているわ。」
「ああ母さんすまない。」
「イオナ様。申し訳ございません。」
「謝る事なんてないのよ。ミゼッタは凄いんだから胸を張って。」
「はい。」
するとクルス神父が話してくる。
「私もそろそろ託児所に行って引継ぎをしませんと。」
「すみません半日しかありませんが、よろしくお願いします。」
「いえ。ミゼッタの努力の成果を見ていただいて何よりです。」
「ミゼッタのご指導ありがとうございました。」
「彼女は素晴らしい力をお持ちのようです。必ずラウル様のお役に立つでしょう。」
「ええ。」
俺達はクルス神父と分かれ、そのままいったん家にミゼッタとイオナを送り届けた。
残った者全員で次の場所に移動するのだった。
次の場所は薬品研究所と共同のドワーフの工場だった。ドワーフが数名中で製造作業をしているようだ。中からひとりのドワーフが小走りに近づいてくる。
「ラウル様。ようこそドワーフの工場にお越しくださいました。」
「バルムス!元気だった?」
「ええ。毎日酒がうまいですわ!」
「それはよかったよ。」
ドワーフの長のバルムスが俺が来るのを待っていたようだった。するとミーシャがバルムスに声をかけた。
「それで、バルムスさん頼んでおいたものは?」
「おお出来てるよ。」
そして俺達はバルムスに連れられるように工場内部に進んでいく。
すると作業台の上に見かけないものが並んでいた。
「ラウル様の武器を参考に試行錯誤して作ったものですじゃ!」
「俺の武器?」
「はい。あの手榴弾とか言う小さい球の武器がありましたじゃろ。」
「ああ。」
「あれを参考にしたんですわい。」
作業台の上に並んでいるのは上下が鉄でできていて、円筒のガラス状の物が組まれた街灯のようなものだった。20センチくらいの大きさがある。ガラス状の中では青く光る液体と、赤く光る液体の物があった。
「これはなんだい?」
「じゃあ実際に試されてはいかがじゃろか?」
俺達はそれをもって森に歩いて行くことになった。
その街灯のような青と赤の瓶のようなものを吊り下げてみるが、それほど重さは無いようで女の子のミーシャが片手でも十分持てるものだった。
森について皆が足を止める。
「この辺でいいと思われます。」
バルムスに言われて皆がその瓶を地面に置いた。
「ラウル様の手榴弾と同じ扱いになるので十分注意してくだされ。」
「わかった。」
「ではラウル様、その瓶を一つ持って。」
「こうか?」
「はい。そしてその上についてる鉄の針金を外してください。」
「まるで手榴弾だな。」
「3つ数えると破裂しますので、出来るだけ遠くに投げてください。」
「分かった。」
ピン!
シュッ
森の方に向かって青く光る瓶を投げた。すると地面に落ちる前にその瓶が破裂したのだった。
ボシュゥッ
ササササササ、ピキピキピキ!
その瓶が割れた瞬間、周辺が一気に煙で見えなくなった。
「どうしたんだ?」
「ぜひあそこ迄行って見てみてくだされ!」
俺達がその瓶が落下したあたりに確認しに行くと驚くべき事がおきていた。
一面がカチコチに凍り付いていたのだった。
「どうじゃろか?」
「すごい・・凍り付いている。」
「本当だ、カチカチだ。」
地面や木の根っこ部分、そして周りに生えた草や昆虫に至るまで凍っている。
「ラウル様!木を蹴っ飛ばしてみてくだされ!」
「えっ?」
俺が木の根っこ部分を足でカツンと蹴った。
バリン!
シャラシャラシャラシャラ
「うそだろ・・」
木の根っこがえぐれるように砕けたのだった。
「ラウル・・中まで完全に凍ってるぞ。」
「液体窒素なんてもんじゃないぞ。」
「ああ。」
するとミーシャが話し始める。
「これも配合して作り出した液体なんです。」
「これも薬品なのか?」
「はい。ある木からとれる樹液とペンタの唾液、そしてフローズンバイバーの毒液を調合して作ったものです。」
「・・・・・よく・・見つけ出したな・・」
「閃いたんです。」
「閃いた・・って。」
「ラウル・・こんな武器・・見た事ないぞ俺。」
「はは・・俺もだよ。」
「絶対に人体に試してはいけないよな・・これ。」
「だな・・ははは・・」
そして俺達はもう一つの方を試そうとしたところ、バルムスに止められた。
「お待ちください!ラウル様!そちらは海でお試しになってくだされ!」
「わかった。」
それからしばらくの後・・
海の上が焼けているのを俺達は見ることになるのだった。
「これはどういう事だ・・」
「はい。水でも消えない火を作りました。」
ミーシャがこともなげに言っている。
「水でも消えない火を・・作った!?」
「ラウル・・これナパームじゃないのか?」
「ああそれもかなりの粘度のある可燃性液体たぞこれ。ナパーム以上かもしれん。」
「あのな・・俺は今・・鳥肌が立っているよ。」
「大丈夫だエミル。俺もだ。」
「軍隊に対してどんな効果が出るのかも知りたいです。」
「・・・・・ 」
「・・・・・」
俺達二人は可愛いマッドサイエンティストに恐れをなすのだった。