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第174話 ミーシャのリラクゼーションタイム

俺達がグラドラムに帰ってから1日の間に衝撃的な物をたくさん見た。


魔人のパワフル建設現場に洞窟の怪しい薬品工場。そしてオレンジのメルヘンな実家。


ここを旅立った時には全く想像がつかなかったものばかりだ。しかも建設現場や薬品工場は全て交代制で24時間稼働するのだと言う。休日も有給休暇もない。


《確かに俺もサナリアを追われてからこのかた、怪我以外でゆっくり休んだ記憶がないかも。》


「なんか・・ブラックだなぁ。」


そんなことを風呂に入ってしみじみ考える。エミルが作ってくれたエルフの薬湯がめちゃくちゃいい香りで落ち着く。木のさわやかな香りに甘い香りがまざっているようだ。


「エミルのこれいいな。売れないかな?」


なんてことを考えてみる。流石にミーシャの竜人化薬は売り物にならないだろう。


《あれは軍事機密だ。》



コンコン!



風呂のドアがノックされる。


「はい。」


「ラウル様。お召し物はこちらに置きます。」


「ああ!ミーシャありがとう!」


「では失礼いたします。」


「ああ。」


カラカラカラカラ


ん?


横開きの風呂の戸が開く音がする。


!?


失礼します。って言うから出て行く挨拶だと思ったら・・入ってくる挨拶だったのね!?


そこで一瞬脳裏をよぎったのは・・


まさかミーシャは


全裸!?



・・しかし予想に反して、ミーシャは湯浴み用の服を着ていた。


俺は少しホッとした。


「あの・・」


「ミーシャ!どっどうした?なに?」


すこし焦る。湯浴み着一枚でミーシャが近づいて来たからだ。


「あのラウル様・・ラウル様はさきほどエミル様から教えていただいた入浴剤に、大変ご興味を示されておいででした。ですので私が開発したいろいろなお風呂用の石鹸や香油などにも、ご興味があるかと思って持ってきました。」


「あるある、興味あるよ!それも・・研究の副産物かい?」


「はい。」


ミーシャは風呂グッズを持ってきた。


「これは・・ちゃんとした石鹸だな!」


ひとつを手に取ってみると、適度に硬くていい香りのする固形石鹸だった。


「はい。この石鹸を使い続けると体臭が消えたり、肌のただれなどが消えたりするんです。ゴブリンなどに協力してもらって実験したんですよ。」


ということは・・なんだ、殺菌効果も備えながら肌に優しい石鹸って事かな?


「なるほど。きっと難しい配合で作られているんだろうな。」


「いろいろと試した結果これが出来上がりました。」


「使ってもいいか?」


「はい。では私がラウル様のお体をお洗いします。」


「いや・・自分で・・」


ミーシャの顔を見ると、うるうるっとした目でじっと俺を見つめている。


「じゃ、じゃあ!頼もうかな。」


「マリアがしていた事だと思うのですが、今回は一緒に帰って来ておりませんので、私が務めさせていただきます。」


「そういえばミーシャ・・遠征先で風呂に入るとな・・マリアだけじゃなく配下の女魔人全員が入ってくるんだよ!そして全員で俺の体を洗うんだ・・」


「ええ!そうなんですか!?」


「ああ。それでさ・・ミーシャだから言うけどな。正直なところ毎日落ち着かないんだよ。」


俺とミーシャは年齢が近いからとても話しやすかった。普通に友達に話すように話せる。


「くすっ。ラウル様はみんなに気をお遣いになられるから、きっと黙ってされるがままなんですよね?」


「だってさぁ。ルゼミア母さんが魔人の王子は、それが務めだなんていうから。」


「あ・・・・」


あっ・・・・ってなんだ?なんかミーシャも心当たりがあるのか?


「なに?」


「いえ・・ほんの少しある事を思い出しただけです。なんでもございません。」


「そ・・そうか。」


そしてミーシャは布を桶のお湯に浸してから石鹸をこすりつけて、両手で揉んで泡立て始める。


もくもくもくもく 


「えっ!?滅茶苦茶、泡がふわふわじゃない?クリームみたいだ。」


「はい。試行錯誤してここまでたどり着きました。」


ミーシャが俺の肩から背中にスッと泡のクリームを塗る。石鹸のほのかな香りがした。ミーシャは布を使って優しく俺の背中を洗い始めた。


「なんていうか凄くなめらかな感じだな。」


「はい。いかがですか?」


「スルスルと滑っていくみたいだ。」


「どうぞ手に取ってみてください。」


ミーシャが泡を俺の手に乗せる。泡が細かくて密度が・・すごい。


「これが泡なのかって感じだよ。」


「はい。」


「弾力も感じる。」


「そうなんです。きちんと汚れが取れますし顔も洗えます。」


「ひょっとしたらこれは?」


「はい。イオナ様のためにお作りしました。」


なるほどね。お客様はお目が高いイオナってことか。


「母さんは、ずいぶんな要求してくるんじゃないの?」


「いえ、それがさっぱり・・いつも何も言わずに使ってくれます。ただイオナ様が使ってみてあわないと私がすぐにわかるので、さらに微調整するような感じなんです。」


「それでこんなクオリティになったのか。」


「そうなんです。ではラウル様お手を。」


「ああ、はいはい。」


俺は手を軽く浮かせるとスルスルとミーシャが脇を洗ってくれた。


《なんだか・・女魔人に洗われている時と違って・・眠くなってくる。》


「ミーシャ・・なんだか眠たくなってきたよ。」


「あっ!はい。それでは急ぎます。手で失礼します。」


ミーシャは布で洗うのをやめて、布から泡を手に映して俺の足や体に塗りたくった。


《いや・・手で洗われると・・あの・・》


俺がつい身震いをしてしまった。


「あ!すみません!痛かったですか?もっと優しくします!」


《いやいやいやいや・・優しくされると・・逆に・・》


それでも優しく俺の体をミーシャの柔らかい手が撫でまわす。


《んん?なんかヤバいぞ!!》



スクッ!



「よしミーシャ!キレイになった!ありがとう!」


俺は思わずその場に立ち上がってしまった。ミーシャはきっと俺のケツをみていることだろう。


「あ!もうよろしかったですか?それでは、お流しします。」


ザザー


桶に組んだお湯で優しく俺の泡を洗い流してくれた。


「ふう。」


「すみません。マリアのように慣れていないものですから・・」


「いやいやいやいや。すっごく気持ちが落ち着いたよ!最高だ。」


「それで・・いかがです?」


俺は自分の体を触ってみた。


「おお!めっちゃスベスベする!」


「そうですよね!よかった!」


「それと・・・怪我の痣とかも無くなってる!なんだこれ?」


「はい、おそらくミゼッタの光魔法の効果だと思います。」


間違いない。


これは・・売れる!


「これっていっぱい作れるの?」


「はい。もう作ってありまして倉庫に入れてあります。」


「そうなんだ!ミーシャ!今はまだ売れないかもしれないけど、ラシュタルとの国交が始まったらこれを高値で売ろうぜ。」


「え!?これでよろしいんですか?」


「ああミーシャ。こんな凄い石鹸!世界のどこを探してもないよ。」


「そう・・なのでしょうか?私が作ったものが売れるんですか?」


「間違いなく。」


俺が振り向いて彼女を見ると、ミーシャはどことなく嬉しそうにしていた。きっとイオナ以外に褒められたのは俺が初めてなんだろう。自分の作った石鹸を両手の上に乗せて眺めていた。


大きな目がキラキラしている。


《か・・かわいい。》


「ラウル様?」


ミーシャは石鹸から俺に目を移してのぞいてくる。


《は!いかんいかん!》


「ああ、その石鹸は間違いなく売れるぞ。」


「良かったです!」


ミーシャが小さな顔に不釣り合いなくらい大きな目でニッコリ笑った。


彼女の笑顔がまぶしくて俺はつい目線を下に向ける。



すると・・


湯浴み着がお湯をかぶっているために体にぴったりと張り付いていた。ミーシャの小ぶりながらもしっかりと主張している胸と華奢な腰のラインがはっきりわかる。


俺は慌てて目をそらして振り向き風呂場を後にするのだった。するとミーシャもちょこちょことついてきて脱衣所に続くドアを一緒にくぐった。


「では。ラウル様こちらに。」


俺の体を大きいタオルで包んで水気を取っていく。


「ありがとう。」


そして俺に寝間着を羽織らせた。するすると肌触りの良い寝間着だった。


「これって?」


「ドワーフの作った着物です。とても柔らかくて着心地がいいんです。」


「へぇ・・」


一度消滅した都市とは思えないほど文明が栄えてしまったように思える。


「ドワーフってすごいな・・」


「でもドワーフ達は、ラウル様のおかげだって言ってますよ。」


「俺のおかげ?どういうことだ?」


「ラウル様が残していった車やテント、武器や食べ物に至るまで徹底的に分析して、それらを自分たちの技術に落とし込んで行ったみたいです。その結果いろんな新しいものが出来たと言っていました。」


「なるほど・・・」


《どこがどうなってそんなことになるのか?俺には想像もつかない。俺が残して行った現代兵器や物資から、どうやってこの肌触りのいい寝間着になるんだろう?》


「魔人って本当に凄いんだなと思うんです。」


「だな。」


「では、ラウル様のお部屋にご案内しますね。」


「悪いね。」


階段を二階に上がっていく。


「エミル様はこちらのお部屋です。」


ミーシャが部屋を指さす。俺はエミルの部屋のドアに向かって話しかける。


「エミル―!風呂あがったぞ!入っていいよ。」


「・・・・・・・」


「ん?」


返事がなかった。


コンコン


「・・・・・・・」


返事が無い。


スッとドアを開けてみた。


スーッ スーッ


寝息が聞こえる。エミルは眠っていた。


「ラウル様。いかがなさいましょう?」


「今日はいろいろあったからな。疲れているんだよ寝かせておこう。」


「はい。」


俺が部屋に行くためそのままミーシャについて行くと、イオナが部屋から出てきたところだった。


「あら?お風呂はすんだのかしら?」


「はい。」


「どうだった?」


「最高だったよ。」


「よかったわ。ドワーフ達に感謝ね。」


「ホントだね母さん。もうアウロラは寝たのかい?」


「ええぐっすり。私もついウトウトしてしまったわ。」


「お風呂にしたら?」


「そうさせてもらうわ。」


「エミルがいい香りのお風呂にしてくれたよ。」


「あら。それは楽しみね。ラウルも疲れてると思うから先に寝てね。」


「ありがとう母さん。」


イオナは1階に降りて行った。


「母さんもエルフの薬湯は気に入るかな?」


「ええ、イオナ様のお好きな香りかと思います。」


「ならよかった。エミルも喜ぶだろうな。」


廊下の奥についた。


「こちらがラウル様のお部屋にございます。」


ガチャ


ミーシャが俺の部屋のドアを開けてくれた。


おお!なんだ!


俺はビックリしてしまった。そこはまるでホテルのスイートルームのようだった。俺の部屋はだいぶ豪華な作りとなっていたのだ。


「ずいぶん、おしゃれな部屋だな。」


「ドワーフ達が腕によりをかけて作ったのです。」


壁は全体的にクリーム色と白が基調だが、木目調の調度品が置かれている。


「ミーシャ・・この本棚も?テーブルもか?」


「ええドワーフの作にございます。」


「ドワーフってこんなに手先が器用なのか?あんなにずんぐりむっくりしてるのにな。」


「くすっ。ドワーフが聞いたら怒りますよ。」


「そうか。でも意外だったよ。」


部屋に入っていくと天蓋のついたベッドがドーンと置いてあった。


《相当でかい!キングサイズよりでかいんじゃないのか?》


「あの・・ではベッドに横になってください。その寝間着を脱いでいただけますか?」



!?!?



《ちょっちょっとまってどういうこと?》


「えっとミーシャ?これ着て寝るんだよね?」


「あ・・あの・・」


いやまさかあの・・


ドキドキドキ


「まだ香油を見てもらってません。」


「ああ!香油ね!そうだ!それがあったね!」


「はい!」


ミーシャが嬉しそうにしている。


「では寝間着を脱いで腹ばいに寝そべってください!」


ミーシャが香油を手に取って温め始める。


スー


背中に香油がたらされるが手で温めているので冷たくない。


「冷たくないですか?」


「丁度いいよ。」


「では私がゆっくり手で香味をしみこませてい行きますので、眠くなったらそのままお眠りくださいね。」


肩の方からゆったりと背中に香油を付けた手が滑り落ちてくる。少し強めにマッサージをするようにゆっくりと・・


《き・・・気持ちいい。なんだ・・よだれが出そうになる・・》


静かな声でミーシャが言う。


「これにもいろんな薬草や材料が含まれているんですよ。」


「ほっ・・」


「気持ちいいですか?」


「はひっ。」


ミーシャの手に優しくマッサージをされながらまどろみの中に落ちていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 入浴剤…これは売れますが…竜人化薬…これも『売れますが…売れない品物』…ですね… これが出まわったら、余計な面倒事も抱え込むことになりそう お風呂回 今回はマリアさんが同行してないのでミ…
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