第173話 エルフの湯
ミーシャの開発した竜人化薬は凄いものだった。
人間の女の子が飲んでも大丈夫なのだから、魔人なら誰でも問題ないだろうと飲ませてみた。
ハルピュイア、ダークエルフ、オーク、オーガ、スプリガン、ライカン、ミノタウロスが全て竜人化した。魔人達はそれぞれの特徴を持って竜人化してしまったのだった。
ただ・・一つもっとも凄い反応がおきてしまったのが・・竜人だ。
「ご主人様・・」
「ああ、シャーミリアこれが?」
「はい龍です。」
「にしては小さい気がするが・・」
「私奴が見た事のある龍とは違いますが形は間違いなく龍です。ただ小型ではあります。」
竜人が竜人化薬を飲んだところ、4メートルくらいの龍のような姿になってしまったのだ。
「我らも驚いております。いままで龍になる竜人などおりませんでした。」
龍化した竜人が言う。
「そうなのか・・ミーシャ・・なんて薬をつくったんだ。」
ミーシャは俺の隣で話を聞いていた。
「いえそれほどでも・・なぜか薬を調合したりしていると閃くことがあるのです。それを実際にやってみると面白い反応が出たりするのです。あとは何回もやり直したり数種類の薬品を調合してみたりして、いろんな薬を生み出す事が出来ました。」
「凄い・・」
「もちろん。クルス神父から教えてもらう数式の基礎があるからできたのです。」
いやぁ・・基礎があると出来るものじゃないだろうな・・これ。
「それにしても凄いよ。」
「今回の薬は全くの予想外です。本当は・・肌荒れの薬を作るつもりだったのです。」
「えっ!肌荒れ?」
「イオナ様のためにお作りしていたんですが・・こうなってしまいました。」
「肌荒れ・・・」
ミーシャは魔力が全くない普通の人間だった。しかし魔人達との暮らしの中で何か特殊な才能に目覚めてしまったのだろうか?もしかしたら普通の人間でも何らかの影響を受けるのかもしれなかった。
「でさ。ラウル・・どうする?」
「うんエミル。これはここでみんなの竜人化がとけるまで1刻ほど待つしかないだろうな。」
「だよな。」
結局俺は夜までこの洞窟内でみんなの竜人化がとけるのを待つのだった。
・・・・・・・・・
全員の竜人化がとけて洞窟から出てきたときすでに薄暗くなっていた。イオナはアウロラを託児所に迎えに行くので先に帰っている。ミーシャはまだまだ面白い研究をしているのだと言うが、俺達は竜人化の薬だけでも頭がパニック状態になったので、また明日という事になった。
今は俺達のために魔人達が作ってくれたという住まいに戻ってきている。
というか・・現在はイオナとミーシャ、ミゼッタの3人と、日中は通いのメイドたちが住んでいる家なのだそうだが・・めっちゃ広い。3人しかいないのに3階建てで敷地面積が広かった、何万平方メートルあるんだか・・
しかも・・建物の色はオレンジ色で形はどう考えても城だ。
正直派手派手だ。
「広いね。」
「ええ、あなたとマリア、カトリーヌが帰って来ても困らないようにと建ててくれたのよ。」
イオナが直々に俺達を出迎えてくれた。
「サナリアのフォレスト邸より広い気がする。」
「そうね、広いわね。」
「俺達が全員揃っても広いよね。」
「あと配下の皆さんにも護衛のために、住んでもらうようにしたらしいわよ。」
「ああなるほどね、なら分かるけど。じゃあシャーミリアとマキーナの部屋もあるのかい?」
「ええ。もちろんよ。」
急にシャーミリアとマキーナがうろたえるように言う。
「私奴どもが・・ご主人様と同じ屋根の下で?」
「俺にとってはお前たちも家族同然なんだからいいだろう。」
「か・・家族だなどど!恐れ多い!私奴は僕でございます。」
「なんだよ・・シャーミリア嫌なのか?」
「め!!!滅相もございませぬ!!もちろんありがたく住まわせていただきたく!!」
「シャーミリア様だけならいざ知らず私までも・・」
「とにかく二人の部屋はどこ?」
「では私が案内します。」
玄関を開けてミーシャがヴァンパイア二人を連れて行った。シャーミリアとマキーナは終始恐縮したまま歩いてついて行った。
すると開いたドアの中からアウロラが走って来た!
「にいちゃん!!!」
「おお!!!!アウロラ!いい子にしてたか!?」
「してた!にいちゃんはいい子にしてた?」
「もちろん頑張ったぞ!」
俺はアウロラを抱き上げてほっぺをつけてギュッとしていた。
「なんかにいちゃんの髪白いね。」
「なんかなこうなっちゃった。どうかな?」
「キレイ」
「そうか、よかった。そんでこっちが俺の友達のエミル。」
「エミルさん!こんばんわ!」
「あらら、アウロラちゃんこんばんわー。」
「お兄ちゃんおっきいね!」
「そうだろ。これでもにいちゃんと同じ年なんだぞ!」
「よろしくね。」
エミルの目じりが滅茶苦茶下がっている。それはそうだ・・俺とエミルは前世の年齢をプラスしたら40歳を超えている。アウロラが可愛くて仕方がないのだ。頭をなでなでしていた。
アウロラは俺の首に腕を回して離れなくなったので、俺もそのままアウロラを抱っこして家の中に入る。なるほど・・ラシュタルの城のような装飾はなかった。でもシンプルながらも凄くセンスのある作りになっていた。
「母さん。中もキレイなんだね。」
「そうなのよ。」
壁は下が薄い桃色であとは純白になっていた。城のような豪華さはないがおしゃれな室内となっていた。これはたぶんミーシャとミゼッタの趣味なんだろうな。
「母さんは気に入ってる?」
「ええ可愛らしいわね。私も幼少の頃はこんな部屋に住んでいたのよ。」
「ナスタリアの家にもそういう部屋があったんですか?」
「ふふ、私は溺愛されていたからね。かわいい部屋がいいって言ったらお父様が作ってくれたのよ。」
「ははは。母さんはワガママ娘だったんですね」
「そうともいうわね。」
「ママ、ワガママムスメ?」
「あ、ごめん。アウロラに余計なことを。」
「いいのよ。だってアウロラにも好き放題させてるもの・・」
「はは・・そうかそうか。」
そうか。やっぱりお嬢様の娘はお嬢様に育っていくんだろうな。
「じゃあラウルこっちでお夜食までお茶しましょ。エミルさんもこちらへ」
「はい!」
「ああ、アウロラもおいで。」
「うん!」
俺は久しぶりのアウロラにもう・・メロメロだった。俺とエミルが床に座ってアウロラと遊んでいた。
「にいちゃん、いろんなところ行ってるの?」
「ああ、にいちゃんが育った街に行ってきたんだ。」
「そだったまち?」
「イオナ母さんと暮らしていた街だよ。」
「いきたい!」
「ああ、もうすぐ行けるようになるからな。楽しみにしてていいぞ。」
「わーい。」
「アウロラちゃん。お兄ちゃんの生まれたところは森のなかなんだよー。お兄ちゃんと一緒に招待しちゃおうかなー。」
「わーい。いきたーい!」
《アウロラは、かわいい。妹ってこんなに可愛かったんだなぁ・・》
しばらく遊んでいると、ミーシャが呼びに来た。
「お料理の準備が出来ました。」
「おっ!それじゃみんなでいただこう。」
「楽しみだよ。」
「おうエミル!ミーシャの料理はうまいんだぞ」
「ラウル様そんなに持ち上げられては・・」
「本当の事だ。」
やはりミーシャの料理はやはりおいしかった。セルマ仕込みのパイが絶品だ。これが食いたくて仕方がなかった。やっぱり子供の頃に慣れ親しんだ味というのはうまいと感じるのだろうか?
「ご馳走様!うまかったよミーシャさん!」
エミルがめっちゃ喜んでいた。
「だろ?本当に上手いんだ。」
「ああ、ラウルに聞いてはいたがこれほどのものだとは。」
「そんなに褒められるとは思いませんでした。ありがとうございます!」
ミーシャも久しぶりに俺に飯をふるまって嬉しそうだった。
「ミーシャはね・・ずっとラウルに食べてもらいたくて腕を磨いていたのよね。」
「はい・・」
「ミゼッタもミーシャについてだいぶ料理がうまくなったのよ。」
「いえ私はまだまだミーシャに及びません。」
「いつかはゴーグにうまいっていってもらうのよね。ミゼッタ。」
「いいぇ・・そういうわけでは・・」
ミゼッタは顔を赤くして恥ずかしがっていた。早くゴーグを連れて帰ってやろう。
「ミーシャはね・・ラウルが・・」
「コホン!イオナ様!」
「ああ・・なんでもないわ。」
ミーシャが何なんだろう?でもミーシャが言ってほしくない様子なので聞かない事にする。アウロラはいつの間にか眠ってしまっていた。イオナの腕の中で夢の中だ。
「あとね、我が家はお風呂が凄いのよ。」
「そうなんだ!」
「お!それならちょっと俺に任せてほしいな。」
「エミル?なにかあるのか?」
「まあな。ちょっとミーシャさんいいですか?」
ミーシャとエミルが話し出した。
「わかりました。全部私の部屋にありますよ。」
「よかった!ついでに教えてあげようか?」
「良いんですか?」
「もちろんだよ。ラウルも来いよ。」
「じゃあラウル。私はアウロラを寝かせてくるわ。」
「ああ母さん。」
ミーシャが自分の部屋へと何かを取りに行って戻って来た。
「お待たせいたしました。」
「じゃ行こうか。」
俺とエミル、ミーシャとミゼッタがお風呂に向かう。
お風呂にはすでにお湯が入れてあった。ドアを開けると湯気が漂ってきた。
4人が湯船の側にすわる。エミルがミーシャから受け取った材料を並べていく。
《なにをするんだろう?》
「この薬草と、この花弁、ビッグホーンディアの角の粉、オオキスの苔。をこのぐらい。っと。」
桶の中にお湯をいれて今出した薬草や花びらなどを少しずつ入れていく。そしてエミルは桶に手のひらをかざして集中し始めた。
「うー・・・・はっ!」
桶の中に溜めたお湯に手のひらから光が注いでいく。光が止まると・・たちまちいい香りがたちこめてきた。
「うわ!いい匂い!これって・・・」
「ああ、わかる?」
「入浴剤だよ。」
「すごいな!」
「すごいです!!」
「いい香り!」
俺とミーシャ、ミゼッタが感想を述べる。
「確かミーシャちゃんは薬剤に詳しいよね?今の調合は気持ちを安定させる入浴剤なのさ。そしてミゼッタちゃんは光魔法が使えるんだよね?魔法を放つんじゃなく当てるだけでいいんだ。やってみる?」
「はい!」
「やります!」
ミーシャがエミルと同じように風呂桶にお湯を入れて、同じ分量の材料を同じ順番で入れて行く。それが整ったらミゼッタが光魔法を当てる。
「出来た!」
「本当だ!!」
「えっと・・・一回で出来ちゃうんだ・・・俺の立場が無いな。」
エミルが困ったような顔で言う。
「ありがとうございます。これを湯船に入れればいいんですね?」
「ご名答。」
サブーン
するとお湯が薄紫色に染まっていく。
「血行も良くなるし体にいいんだよ。」
「これってエルフの教えかなにかか?」
「そう。俺の母親から教わったんだ。いい匂いだろ!」
「ああ。俺、入っていいかな?」
「ああ入りなよ。俺も後でもらうからさ。」
「いいのか?」
「どうぞどうぞ!」
「ではラウル様、お着替えもご用意していますからお先にお入りください。」
ミーシャが俺の着替えを持ってきてくれるという。
「エミルさんはこちらへ。お客様のお部屋をご案内します。」
ミゼッタはエミルを宿泊客用の部屋へと連れて行ってしまった。
エルフの湯か・・
気持ちよさそうだ。