第171話 究極の復興現場
ポール王たちとの会食を終えて魔人達の工事現場に向かう予定だった。
ポール王の話では、旧グラドラム市内から防壁第4層までの市街地は既にほぼ完成しているようだ。今は第5層付近の住宅地に着手しているらしい。
「母さん・・復興がずいぶん早すぎないかい?」
「そうよね・・ほとんど休まずに建設が続いているのよ。」
「それにしても早い。」
「これでもまだ途中らしいわ。」
「これでか・・」
「魔人が大量に渡ってきちゃったから。」
「なるほどね。」
俺はイオナ、シャーミリア、マキーナの4人で街の中を見物していた。
俺達を見かけると市民が足を止めて皆深々と礼をしてくるので、俺は手を上げてそれを制していた。しかし歩けば歩くほど皆が頭をさげるので・・途中から気にしないで通り過ぎる事にしていた。俺達が通り過ぎてしばらくすると頭を下げていたものは再び歩き出す。
「ご主人様。この街はとても美しいですわ。魔人達の感覚にこのようなものがあるなどと思えませんわ。」
「シャーミリア様のおっしゃる通りです。無骨な彼らにこのような美的感覚があるとは・・」
シャーミリアとマキーナが感想を述べている。
「やっぱそうだよな。」
そこへ・・
「ラウル様!」
エミルに街を案内していたミーシャが声をかけてくる。3人の後ろをシロがのそのそついてきていた。
「ミーシャすまない。お昼はポール王の所ですませてきた。」
「こちらこそすみません。ラウル様たちの昼食はポール王の所でと思っていましたので、エミル様にもお店で食べていただきました。」
「うまかったぞラウル!この街の店は魚系が出るんだな。」
「えっ?もう店とかあるのか? 」
「はい。ドワーフがあちこちに酒場を作って、ゴブリンやオーク達が料理をふるまっているんです。」
「すごいな。俺も行ってみたい。」
「では明日にでも行きましょう」
「そうだな。」
街の中を歩いているのはほとんどが魔人だった。人間も混ざってはいるが圧倒的に魔人の数が勝っている。
「ミーシャ。魔人と人間は共存出来ているのか?」
「はい。問題ないと思います。」
「魔人にはラウル様の嫌がるような事をする者は一人もおりませんから。」
「ならよかった。」
「人間たちにも救世主のラウルやポール王に仇なす者は一人もいないわよ。」
「そうなんだ。魔人が怖くてそうしているって事は?」
「大丈夫よ。皆楽しそうにしているわ。」
「そうか。まあ母さんの目は確かだから本当にそうなんだろうな。」
そこら中に人間がいたが怯えることなく堂々と歩いている。どうやらうまく共存できているらしかった。ただ・・ここの人間は全て俺のやった事を知っている。それを知らない大陸の人間がここと同じようにはならない。
「人間がオークやゴブリンの店を利用するなんて当たり前ですしね。」
「そうか。ミゼッタもよく利用しているのかい?」
「ついお腹が減ってクルス神父の授業の後・・立ち食いをしたり・・えへへ。」
「成長期だもんな、いいと思う。」
「うらやましいわぁ。彼女らは食べても全然太らないのよね・・」
「母さんも太ったようには見えないけど?」
「食生活には気を付けてるのよ。」
まあ・・十代と二十代後半では新陳代謝が違うよな。
「ティラとタピもすでに正門付近に到着しているようだ。」
繋がりがあるため3人が今どこにいるのかが分かった。先にパラシュートで降下させ魔人達に接触させて俺の事を報告させている。時間の無駄を省くためだ。
「しかし・・母さん。ずいぶん街がカラフルですね。」
「それは、ミーシャの仕業よ。」
「はいラウル様。薬品研究の過程でいろんな塗料を作る事が出来たんですよ。それをタロスやガンプとニスラにも伝えて、ラウル様が喜ぶように可愛く仕上げてねってお願いしたのです。」
タロスはミノタウロス族の隊長、ガンプはオーク族長、ニスラはスプリガン族長だ。彼らが工事の陣頭指揮を執っている。
「ミーシャいいよ!観光名所になりそうだ。」
「ありがとうございます。ただ配色の監督はミゼッタです。」
「凄い綺麗だよミゼッタ。俺は戻ってきた時に違う町に来てしまったかと思った。」
「ほんとですか!うれしいです!」
なるほど・・どうりで街がめっちゃ可愛くなっちゃったと思った。グラウス魔人国はもっと素朴な感じだったから最初ここを見た時はびっくりした。魔人達にこのセンスがあるわけがない。この二人のセンスならこうなって当然だ。水色、青、ピンク、黄色、緑、ペパーミントグリーン、赤、オレンジ、と本当に綺麗な街並みとなってしまった。
「ラウル様・・なんか南イタリアって感じがしないか?」
「そう、俺もそう思った。イタリアの島にこういうのありそうだよな。」
「ああ・・ただ、規模が凄すぎる。こんなに広大な街が全部こんな感じというのが・・」
「本当だよな。」
二人でこそこそと話していると、イオナが不思議そうな顔で言う。
「あら?どうしたの?なにか秘密のお話かしら?」
するどい!
この世界の人間に異世界の事は知られたくなかった。エミルも同じようで二人で焦ってしまう。
「いや、なんでもないよ。」
「ええ、イオナ様。大したことではありません。」
「ふふ。お友達同士の秘密なのかしら。べつに焦らなくても深く聞いたりしないわよ。」
「ははは。」
「ははっ・・」
なんとなく微妙な雰囲気になってしまう。
シャーミリア達には俺の意識がはっきり伝わっている。彼女にも見た事の無い風景なのだろうが、特にそれについて何も言わなかった。
「さて・・グラドラムはかなり広がったみたいだから車で移動しよう。」
「そうね。歩いて正門まで行くと1日かかると思うわ。」
「だよね。上空から見たら凄く広がっていたから。」
「イチローやニロー、サンロー達が馬車をひいて、人間の移動を手伝ってくれているわ。魔人は走っていくみたいだけど。」
イチローニローとは俺が使役したグリフォン達だ。
俺は早速、車を召喚する。
ドン!
すると・・エミルがでっかい声で叫ぶ!
「おい!6輪のピンツガウアーベクトルじゃねえか!!うはぁ・・かっこいいなぁ。これ年式何年製だ?迷彩とかさマジか。」
「おう。運転するか?」
「する!」
エミルが早々に運転席に乗り込んでしまった。エミルの前世あっちゃんは軍の乗り物系マニアで滅茶苦茶詳しかった。軍系の乗り物なら何でも乗りたい乗りたいといつも言っていた。俺はエミルの趣味を満たすためにただのビーグルを呼ぶのをやめ、軍用車使用のピンツガウアーベクトルを召喚してやったのだ。
「じゃあラウル様!私はシロに乗ってついて行きますね。」
「ああミゼッタ。シロをよろしくな。」
「もちろん。ね!シロいこう!」
くぅーん
どうやらシロはミゼッタにも懐いているようだった。というか・・ミゼッタの素性の話を思い出した・・彼女の母親はどんな人だったんだろう。光魔法を使えて魔獣をペットの様にしたがえている。イオナと似たような雰囲気だな。
俺はみんなを後部座席に誘導してから助手席に乗り込んだ。
「いい?走らせていい?」
「ああエミル。存分にやってくれ」
「ありがとうラウル。一生ついて行くわ俺。」
「大袈裟だろ。」
「では、出発!」
ピンズガウアーベクトルはディーゼルエンジンの音を響かせて走り出す。
「おおお!ラウル!いいなこれ!パワーあるわ!すげえいい!」
「喜んでくれてよかったよ。」
「こりゃたまらん。」
エミルがめっちゃテンション高く運転してくれている。そして・・やはり運転がうまい。くぼみなどを上手によけて振動があまりないように走ってくれている。魔人の運転にこんな繊細な扱いはない。壊れるんじゃないか?という走り方もする。それとは正反対でエミルは本当に大事に乗ってくれていた。
ピンズガウアーベクトルは1時間もかからずに第5層の建設地にたどり着いた。
そこで・・俺とエミルは腰を抜かすほど驚いたのだ。
そこに重機などなかった・・全部手作業で家をガンガン積み上げていた。
50メートルはあろうかという大木をオーガ達が剣でスパスパ切っている。あっという間に角材となったそれをドワーフの指示でオーク達が削り加工している。そのスピードもやたらと速い。さらに細かい修正をゴブリンたちが行っていた。
「ラウル・・なんかさ。早送りでも見ているのか俺達は。」
「なんか・・そう見えるな。」
「お前の配下ってみんなこんななのか?」
「直属はもっとすごいんだ・・」
「・・・・・・・」
エミルは絶句してしまった。
俺達はその凄まじい建設現場をみていたが、俺達のもとにタロス、ガンプ、ニスラが歩み寄ってくる。すると全員がいきなり手を止めてその後ろにぞろぞろと着いて来た。
「いや・・タロス。みんなに手を止めないで続けてくれるように言ってくれるか?」
「は!みな!そのまま作業を続けるようにとのラウル様からのお達しである!」
は!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ズズズズズズズズズ
魔人達の返事が地響きになって届く。
「すげぇな・・」
「ああ・・」
「ラウル様!なかなか思うように都市の拡大が進まず申し訳ございません!」
「えっ?いや・・タロス。思うようにいかないって・・俺の想像をはるかに超えた早さで広がっているけど?」
「またまたラウル様は!いつもそう言って我々配下にまでお気遣いをなさる。率直に言っていただいてよろしいのですよ!」
「いや・・本当に。」
「タロス、ご主人様は本当に喜んでいますよ。」
「そうかシャーミリア!我々はラウル様のお気持ちが全てだからな!そのお気持ち痛み入ります!」
豪快にお礼を言うタロス。
「あの、俺の友達のエミルが気を失いそうだ。お前たちの魔闘気を収めてくれると助かるんだが。」
「ああ!それは失礼をしました。ラウル様の朋友でございますか!ご無礼をお許しください。」
3人の族長が深々と頭を下げてくる
「い、いえっ!!いえいえ!!良いんです!俺の修行が足りないだけです。少し驚いただけです!」
チラッとタロスが俺を見る。
「うん、いいと思う。エミルも気にしてないみたいだし。」
「よかったです!」
「じゃあタロス、ガンプ、ニスラも作業に戻ってくれ。俺達は適当に現場を見ていくよ」
「は!何かご要望がございましたらいつでもお呼びください!」
「わかった。」
3魔人は現場の方に戻っていく。
「ラウル。あの3人は?」
「ああかなりのもんだろ。彼らは別格なんだよ。」
「とんでもないな・・」
「やはり分かるのか?」
「おそらくエルフの血だろうな、恐ろしいほどの魔力を感じたよ。」
普通のオークやオーガが10メートルほどに加工された角材を両手に持ち運んでいる。建物の上に立っているオークやオーガに木材の端を掴んで片手で渡している。
それをドワーフの指示で組んでいくのだった。
「あの木材40センチくらいの太さあるよな・・」
「ああ。」
「10メートルはあるのに・・端っこを掴んで片手で渡してたぞ。」
「ああ。」
「重機いらねーわ。」
「ああ。」
俺たち二人は唖然としてその建設現場を眺めている。
更に3階付近の壁に昇っている魔人が下の者に声をかけている。
「おーい!投げてくれ!」
「あいよ!」
俺達が見ている目のまえで10メートルはあろうかという巨大な角材が・・
ビュン!
と飛んでいく。しかも槍投げのように片手で投げている。
上の魔人がそれを片手でキャッチして木材をはめ込む。宮大工のように木材を正確に組み込んでいくのだった。
俺とエミルはただただ唖然としてそれを眺めていた。建物の壁の周りにはハルピュイアとサキュバス、竜人が飛んで何かを塗っていた。
「あれは?」
するとミーシャが答える。
「あれは固まると岩より強くなる泥です。私たちが研究して開発した泥なんですよ。」
「ラウル・・それって・・」
「コンクリート・・か?」
「じゃないのか?」
すでに出来上がっている建物には、ハルピュイアやサキュバスによってカラフルな塗料が塗られていた。
俺達が呆けて現場を眺めていると、正門の方から大きい足音が聞こえてきた。
ズゥゥゥンズゥゥゥンズゥゥゥン
ミノタウロスや巨人化したスプリガンが両脇に50メートル、直径1メートルくらいの巨木を2本ずつ抱えて歩いてくるのだった。
「はは・・もうなんだかな。」
「そうだな・・」
ただ唖然とするしかなかった。