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第170話 最高幹部会議

ポール王との話し合いのため執務室に集まった。


部屋にいるのは、俺、イオナ、ポール王、クルス神父の4人だ。


目の前のテーブルにはお茶が湯気を立てていた。新しいメイドが紅茶を入れてくれたのだった。


「はやくも!サナリアを奪還したと?」


ポール王が目を剥いて驚いている。


「ええ、当初は偵察と調査目的で出発したはずなんですが、そんな結果になりました。」


「先に我がラシュタル王国の首都も奪還とは・・一報を聞いた時には信じられませんでした。」


「はい。」


「見事な手際ですな・・」


「それが・・ポール王。実は魔人が進化して、戦力がかなり増強された結果なのです。」


「進化ですか?たしかにシャーミリア殿とマキーナ殿は変わられましたが、なんというか・・可憐になられたと言えば語弊があるやもしれませんが・・」


「ご主人様のお力によるものです。」


シャーミリアがぽつりと言う。


「きっとお強くなられたのでしょうな。やはりこれも原始魔人の系譜とやらの関係ですか?」


「そのようです。」


おっさん2人は眩しい物でもみるように、美しいヴァンパイアをみていた。あんまりみたら可愛すぎて目が離せなくなるよ・・


「シャーミリア達は昼間も動けるようになったのよね。」


「はいイオナ様!おかげさまでラウル様を常に護衛する事ができるようになりました。」


「頼もしいこと。」


スッとシャーミリアとマキーナが頭を下げる。


そして俺は話を戻した。


「それとクルス神父。ルブレスト・キスクをご存知ですか?」


「もちろんですとも。辺境で1番の剣士です。」


「彼は、まだ生きていました。」


「おお!そうなのですね!それは頼もしい!」


「はい、そしてティファラ王女殿下も救う事ができました。」


「はい・・伝令にて聞き及んでおりました・・まさかティファラ様が生きて・・」


クルス神父が涙ぐむ。


「今は、ティファラ様は女王としてラシュタルを統治されております。ルブレストさんは官房を務めておりまして、ですので当初のクルス神父に王になっていただくという予定を変え、宰相としてティファラ女王を支えていただきたいのです。」


「私が・・?」


「はい。」


「わかりました。私などでその任が果たせるのかは分かりませんが、誠心誠意努めさせていただきたく思います。」


クルス神父が深々と頭を下げる。


「よろしくお願いします。今後の研究所の運営はミーシャが引き受けます。引継ぎはミーシャにお願いしたいです。」


「わかりました。彼女はとても勤勉で優秀です。きっと優秀な薬師になりますよ。」


ミーシャは昔から真面目だった。サナリアの民でいま生きているのがわかっているのは彼女だけだ。ミーシャのためにも必ずサナリアの民を見つけてやる。


少し考えこんでしまった俺の顔を皆がのぞきこんでいる。


「そうそう、ミーシャのため薬師の師匠も連れてくる予定です。」


「薬師の師匠?」


「デイジー・リューという老婆なんですが・・」


「!?」

「!?」


ポール王とクルス神父が同時に驚いている。


「どうしました?」


「リュー薬師・・あの・・伝説の薬師ですか?」


「伝説なんですか?あの婆さん。」


「はい。あの方が来てくれると?」


「はい。研究所の事を話したら目をキラキラさせていました。」


「なんと心強い。」


「それは・・よかった。」


どうやらデイジーは有名人らしかった。


そしてクルス神父が俺に聞いてきた。


「あと、ラウル様。ミゼッタの素性はわかっておられますか。」


「サナリアからの逃亡の旅の道すがら、一緒になったので詳しくは・・」


「では、その肉親の方はいま何処に?」


「それが・・クルス神父。実はこの侵攻作戦の間に2人の遺骨を見つけまして、ひとりは恐らくミゼッタの祖父のもの。父親は死んでしまい、祖父と二人暮らしでしたから、素性を知る者はいないと思います。」


「そうですか。ミゼッタも母親の事は覚えていないのです。」


「俺たちもそう聞いています。」


「その・・彼女の光魔法はたいした物です。魔力量は私にはわかりかねるのですが、私の教えをどんどん吸収しておりまして。」


「それほどですか?」


「はい。まだ技は未熟なれど、かなりのものかと。」


「そうですか。ミゼッタは田舎騎士の娘・・母親は誰なのか検討もつきません。」


「私にも見当がつかないわね。」


「そうですか。」


ミゼッタに光魔法が備わっているのは、結界をはれることからも知っていたが、血筋までは考えたことは無かった。もう手がかりになるものは何もない。


「クルス神父。後に2人を弔ってほしい。」


「わかりました。」



俺は話を変えた。


「あとポール王。ラシュタルの話なのですか、ラシュタルをティファラ様が統治するにあたって、今の兵力ではラシュタルが心もとない。そこで魔人軍の基地をラシュタルに置いております。」


「聞いておりますぞ。」


「これからは防衛のための我が国の兵力を世界各地に置いて行く予定です。サナリアにも軍事基地を設置します。」


「なるほど。」


ポール王がうなずく。なんとなく俺が考えている展望がつかめたらしい。


「これからの戦略は基地の設置が要となります。」


「その最大拠点がグラドラムという事ですか?」


「そうなります。」


「それでこれほどの魔人を?」


「いえポール王・・なんだかルゼミア王が勝手に国民を移住させちゃったみたいですみません。」


そう・・俺が頼んだわけじゃない。


「わずかに残ったグラドラムの民を守るにはとてもありがたいです。私が王としてこの場所を統治していいのか迷っていますが・・」


「俺はポール王にしかお願いしようと思いません。」


「私はラウル様にそれほど買っていただけるような人物ではないのですがな。」


ポール王は太鼓腹をポン!と叩いた。


「いえポール王だけです。」


「わかりました。身命をかけて務めましょう。」


「同盟国として、隣国ラシュタルのティファラ王女とも会っていただかないといけないですね。」


「わかりました。」



するとイオナが言う。


「ラウル。ティファラ様なら私もお会いしたことがあるのよ。」


「そうなんですか?母さんも・・」


「ええ、カトリーヌのお友達だったの。」


「その様ですね。」


「そしてね。ルブレストさんというのはお父様のお師匠なのよ。」


「はい。ルブレストさんからも聞きました。」


「私もルブレストさんには何度もお会いしたことがあるわ。よくグラムのような堅物の奥さんが務まるなとからかわれていたの。」


「なんとなくそんなことも聞いています。ティファラと会えて、凄く喜んでいましたよ。」


「さぞ喜んだでしょうね・・」


イオナも軽く涙ぐんでいる。


「そのようでした。もちろん母さんにも会ってもらいますよ。」


コクコク頷いている。


「そして・・とうとうサナリアを取り戻してくれたのね。」


「はい母さん。ただ・・サナリアの民が一人もおりませんでした。」


「そう・・・」


「遺骨のもう一人は恐らくレナードのものです。」


「・・・・・」


イオナが美しい顔を歪めて沈んでしまう。


「でも母さん。あの時ジヌアスとスティーブンが民を逃がしてくれてました。今回サナリアに民はおりませんでしたが、きっとどこかにいるはずです。俺達は必ず探し出して連れ戻します。」


「そうね。北だけじゃなく東西に逃げていた民もいたはず、きっとどこかでひっそり生きてるはずだわ。」


「東には大きい領があるんですよね。」


「グラドラムから南サナリアの東にあるのが、フラスリア領でハルムート辺境伯が統治していたはず。西側には小さな男爵領が点在しているわ。」


ユークリットは広いからな・・かなりの領があるはずだが・・


「でも、おそらく貴族は皆殺しにあっているでしょうね。」


「ええ・・」


「ただ、ラシュタルに民が残っていたように、民の命までは取っていない可能性もあります。サナリアがなぜあそこまで徹底してやられたのか分かりませんが、おそらくシュラーデン王国も民は生きてるでしょう。」


・・・・・・


皆が黙って考え込む。口を開いたのはポール王だった。


「そうでしょうな。民がいなければ税も取れぬ、商いがなされなければ占領しても意味がありません。ラシュタルやルタン町の事を考えるとユークリット内の民もどこかで生きていると思いますぞ。」


「私もそう思います。イオナ様!きっとサナリアの民は生き伸びていると思いますよ。」


「クルス神父・・ポール王。ありがとうございます。」


イオナにお礼をされてポール王とクルス神父は優しく微笑む。


「イオナ様、あなたはサナリアの民の光となる方です。ユークリットの女神といわれたあなたは国民の希望となるでしょう。」


「わかりましたポール王。ありがとうございます。」


「そして母さん。カトリーヌの父親はナスタリア伯爵家に婿に来た第5王子だったよね?姓はナスタリアでも立派な王の血筋。母さんはカトリーヌを支えていかなきゃね。」


「そうね。頑張らなくちゃね。」


イオナの目にかすかに火が灯ったように感じた。


「そしてラウル殿、サナリアはいまどのように?」


「ああ、サナリアにはバルギウスの民を匿っている。」


「敵国の民を?」


ポール王が険しい顔になる。


「追い出すのではなく、匿っておられるのですか?」


「ああそのとおりです。」


「人質ですか?」


「俺にその意図はないです。逆に家族を人質に取られているもの達を、庇おうと思っています。」


「危険はないのですか?」


「敵国に強制的に招集されて連れてこられたようです。」


「誠ですか?」


「はい、アナミスの催眠能力で確証を得ています。」


「なるほど尋問や拷問などより確かな方法ですな。」


「ええ。」


「ラウル様の考えはわかりました。話をまとめさせていただくと、ここにいる魔人達を世界に派兵なさるおつもりですな?」


「そのとおりです。」


「恐ろしいです。ラウル殿のお考えになっている事が

・・」


俺は思わずにやりと笑ってしまった。ポール王とクルス神父がひきつっている。


イオナは何食わぬ顔をしている。さすがは俺のお母ちゃんだ。


「いつグラドラムを出立されるのですか?」


「3日後です。その時にクルス神父も一緒にラシュタルへ。」


「かしこまりました。」


「機動力がかなり上がりました。おそらくラシュタルには半日で着くでしょう。」


「半日!!いや・・もう驚きますまい。ラウル殿なら当然の事なのでしょう。」


「ポール王もグラドラムの統治が急激に難しくなったと思います。心労が絶えないと思いますが・・」


「そんなことはございません。」


ポール王がイオナを見て言う。


「イオナ様の采配が見事で、私の出る幕などありません。」


「ポール王のお人柄があっての事ですよ。」


イオナが笑顔でいう。


どうやらイオナはサナリアを出てからの苦難によって、だいぶ成長したようだった。


《サナリアでは臣下達の言いなりだったから・・変わったな。いや・・やはり高位の貴族、血筋は争えないのだろうな。》


話が終わったのを見計らいポール王が呼び鈴をならす。


チリーン


メイドが来たので食事の準備をするよう伝えた。


「ぜひ一緒に昼食を。少し遅くなりましたが。」


「ありがとうございます。」


皆で部屋をでて食堂へと向かう。


ミーシャの飯は夕方だな・・


どうせすぐに腹が減るし美味しくいただくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「リュー薬師・・あの・・伝説の薬師ですか?」 「伝説なんですか?あの婆さん。」 まぁ、この界隈では有名人らしいので、もう驚きはしませんが…どこまで有名なんだよ、あの婆さん ミゼッタち…
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