第168話 異世界をオスプレイが飛ぶ
俺達の機動力が格段に向上した。
今、俺はMV-22オスプレイで空を飛んでいる。
隣の操縦席にはエミルが生き生きした表情で操縦桿を握って座っていた。
「まさか、オスプレイを操縦できる日が来るとは思わなかったよ・・です。」
「俺もこれに乗れるとは・・あっちゃ・・エミルのおかげだよ。」
「ラウル様の凄い能力のおかげさ・・です。」
エミルは俺に敬語を使うのを忘れてしまう。俺も友達だから敬語を使われると違和感がある。
「しかしこれすっげえよな・・」
「ああ・・ですね。」
オスプレイに乗っているのは俺とエミル、シャーミリアとマキーナ、ファントム、ティラとタピの7人だ。ファントム以外のみんながエミルの指示に従い座っている。
オスプレイは巡航速度490㎞/hでグラドラムに向かっていた。この機体の航続距離は3900kmもある。輸送できる兵員数は24名となり、かなりの物資を運ぶ事が出来る。
俺とエミルは数あるヘリの中から、巡航速度の速いオスプレイを選んで飛んでいたのだった。早急に事を運ばねばならないからだ。
「サナリアに残した魔人達はラウル様がいなくても大丈夫なの・・ですか?」
「ああ、俺と彼らは念話ができるんだ。」
「こんなに離れても・・ですか?」
「そうなんだよ。だから一緒に居るのと同じなんだよね。」
「魔人っておもしろいな・・ですね。」
「だろ。」
俺達はサナリアに残った魔人にすべての指示を言い渡してある。カトリーヌとカララの指揮の下で動く手筈になっている。人間の判断と魔人の判断が必要だと思ったからだ。派兵されて来た兵士に対する対応も全て任せている。いざというときには念話で連絡してくるだろう。
「オスプレイはニュースでしか見た事ないよ。俺。」
「俺もですよ。いやあ・・カッコいいわぁ・・」
俺とあっちゃんは上機嫌だった。なにせあのオスプレイに乗っているのだから。
「なあ、シャーミリアかっこいいよな!」
「はい!ご主人様、このような素晴らしいものをご召喚されるとは、私奴は感動いたしております。」
つい浮かれてシャーミリアに同意を求めてしまった。まあ・・シャーミリアは俺の事なら何でもうれしいだろうからな。最高速度で言えばシャーミリアが上だろうが、なにせこの巨体でこのスピードで飛ぶことが出来る乗り物なんてこの世界には無い。
かっこいい。
「ご主人様、まるで竜に乗っているようでございます。」
「竜か・・シャーミリアは乗った事あるのか?」
「いえ・・もちろんございません。たとえでございます。」
「でもきっとその表現がぴったりなんだろうな。」
「はい。そう思います。」
いままで、こうやって上空からこの世界をのんびり眺めるなんてしたことなかった。前世にはない雄大な自然が広がっている。北東から東にかけてどこまでも続く遥かな山脈。南には森が延々と広がっていた。北を見れば白く高い山々がそびえ荘厳な雰囲気を醸し出している。
「まさかこの世界の空をオスプレイで飛ぶことが出来るなんてなぁ。エミルのおかげだよ本当に。」
「ラウルは他の機体もだせるのか・・ですか?」
「もちろんデータベースにある物なら何でも。」
「すげえな・・たださ・・俺、これの離陸は出来たけど着陸が不安。」
「ああ、別に墜落させて壊してもいいよ。いくらでも呼び出せるから。」
「凄いな!日本はオスプレイを確か1機100億円で買ったんだぞ・・ですよ。」
「そんなに高いんだっけ?」
「確かそうですよ。」
「もっと大事にしないといけないのかもしれないけど、30日したら消えるんだよ。」
「そうか・・じゃ壊しても問題ないか。」
「そうなんだよ。」
「使い捨てオスプレイとか聞いた事ねーわ・・ないです。」
「確かに、前世の大富豪でもそんな奴いないだろうな・・」
「まったくだ・・です。」
うーむ。敬語を使われると話しづらい。一緒にサバゲをやってきた友達だからとにかく微妙だ。
「あっちゃん、ここにいる配下は気を使わなくて大丈夫だから。敬語使わなくてもいいんだけど。」
「でも普段から慣れておかないとさ・・」
「まあそうだけど。いいよ・・おかしな口調になってるから」
「わかったよ。」
このまま行けばグラドラムまで1日もかかんないだろう。オスプレイは何事もなく順調に飛んでいる。時折、飛行系の魔獣を見かける事もあるが、どうやら魔獣のほうから避けているようだ。
「ご主人様。魔獣たちはまるで・・これを本物の竜だとでも思っているようですわ。」
「竜か・・確かにこの世界にこんなデカイ飛ぶ奴は竜くらいなんだろうな。」
「はい。」
「ところでシャーミリア。竜ってどこにいるの?」
「魔人国の奥地で、山脈をいくつも越えねばなりません。」
「魔人国の更に北か。厳しそうだな。」
「私奴魔人ならば問題はないですが、竜族は強力だと聞き及んでおりますので、わざわざ会いに行くものもおりません。」
「山ひとつだけでも死にそうになったからな、あの山脈を越えるのは無理そうだ。」
あのときは本当にヤバかった。あの馬鹿でかい化け物もいるから、もう一回チャレンジしようとか思わないし。
「はい、しかしご主人様・・これであれば行く事も可能かもしれません。」
・・んっと。
「いや、わざわざ危険に近づかなくてもいいや。」
「はい。」
自分の国を取り返すのに精いっぱいだから、余計なところを突っつかなくてもいい。別に竜を見たいわけじゃないからな。
「ラウル、しかしこの機体は速いな。」
「やっぱりそうなのか?」
「ヘリと違ってこの状態だと飛行機みたいなもんだしな。航続距離も長そうだ。」
「やっぱカッコいいな。」
「だな。ただなぁ浮かせるのは浮かせたが本当に着陸は自信がない。」
「じゃあグラドラムの先は海だし落としちゃても良いよ」
「それマジでやる?」
「マジだよ。グラドラム付近でファントムとティラ、タピを降下させて、俺たちは海まで行ってシャーミリアとマキーナと共に脱出すれば良い。」
そんな話をしているうちに俺達の視界の先に見えてきたものがある・・なんかずいぶん巨大な都市が・・
《あれ?グラドラム?》
出てきた時となんか違う。
「まちがって違う国にきちゃったかな?」
「いえご主人様。あれがグラドラムにて間違いございません。」
「そうなのか?」
「魔人の気配が多数あります。」
「そうか・・」
どう考えても大都市になっているんだが。
「じゃあ、ファントムとティラ、タピ、このリュックを背負ってここから降りてくれ。さっきも説明したがもう一度言う。これを飛び降りたらこの紐をひいてくれ、パラシュートと言ってなゆっくりと落ちるから大丈夫だ。」
「わかりました!」
「やってみます!」
いきなりのスカイダイビングをさせようとしていた、だが保険をかけている。
「万が一の時はマキーナが助けに行く。念話で伝えろ。」
「大丈夫ですよ!ラウル様!すっごく楽しみです。」
「ティラは本当に冒険心が強いよなあ・・」
「僕もやりたくてうずうずしてますけど。」
「タピ、お前もか!本当に凄いなお前たちは。」
エミルがこちらを見ている。
「え?配下にいきなりスカイダイビングさせんの?」
「そうだけどなにか?」
エミルが驚いた様子で聞いてきた。
「大丈夫なのかよ?」
「ああ、俺の配下を舐めんなよ。こいつらほんっとうに凄いんだぞ。」
「そ・・そうか。まあそうなんだろうな。」
そしてハッチを開けた。
「じゃあラウル様!お先にしつれいしまーす!」
バッ
ティラが躊躇なく出て行った・・
《マジか、もう少し躊躇するもんじゃないのか?》
「じゃあ僕も・・」
バッ
タピも落ちていってしまった。
ファントムが黙ってそれについて飛び降りる。コイツは大丈夫だ俺がほぼリモートで操作する事も出来るからな。ホント俺にとっては未来から来た便利ロボだ。
バッ
「よし!それじゃあ、さっき言った通りコイツ海に沈めてしまおうぜ。」
「いや・・俺何とかしてみようか?だってもったいないじゃないか? 」
「リスクを負うのはやめよう!自信がないならべつにチャレンジする必要なんてないよ!」
「わ・・わかった。それじゃあ通過する。」
俺達4人を乗せたオスプレイは華麗にグラドラム上空を通過していく。
「はあ!?なんか巨大な都市になってるんだけど・・どうなってんだ。」
「こんな辺境の地なのに凄い都市だな。」
「魔人国なんてものすごく質素なんだが・・」
眼下には信じられない光景が広がっていた。俺達がここを発って数万の魔人が移住してきたというのは聞いていたが・・こんな短期間にこんなになるものなのか。
城壁は5重層になっていた。その城壁の間にびっしりと建築物が建っているのだった・・南北にそびえたつ山腹の崖が削られて都市が広がっていた。
すぐに海に到達した。
「さてそろそろ俺達も降りるか。」
「あ、ああ。」
俺とエミルは後部ハッチに行く。後ろにはシャーミリアとマキーナが待っていた。
「ご主人様。それではまいりましょう。」
「ああ、じゃあエミル先にどうぞ!」
「え?いや・・パラシュートは?」
「大丈夫だ!」
「大丈夫ってどういう事?」
「えい!」
俺はエミルを空に突き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、人殺しぃぃぃぃぃぃぃ」
エミルの声が遠のいていく。
「さてと・・俺もそろそろ行こうかね。」
スッと空に躍り出る。
ブワッ
っと空気が俺の体を包み下に落下していく。下の方に落ちていくエミルが見えた。ちょうどマキーナがエミルを抱きかかえグラドラムに向かって飛ぶところだった。
ボオオオオオオ。耳には凄い風の音がなっている。
「気んもちいいぃぃ!」
凄く気分がよかった。ゴーゴーと落ちてゆく俺をシャーミリアがそっと抱きかかえる。
「あれが・・落ちていきます。」
後ろを振り向くとオスプレイが海に落下していくところだった。
「ああ・・確かにもったいない気もするな。海を汚しちゃうかな・・」
「いえ、ご主人様、あれであれば海の魚や魔獣などの住みかになりそうです。」
「そうか・・快適に過ごしてくれるといいんだがね。」
「きっとそうなりますでしょう。」
俺とシャーミリアはエミルたちを追ってグラドラムに向かって飛ぶのだった。