第164話 悲しみの帰還
サナリアの街が見えてきた。
どうやら・・街は残っているようだが・・領民はいるのだろうか?
《全隊!速度を殺さずそのまま街に突入ぞ!》
俺達がセネターAPCとタイフーントラックに乗ったまま進んでいくと・・街の関所のようなところから、ぞろぞろと兵士たちが出てくる。
「おお、兵士がキタキタ!あいつらなんか砦みたいなもんを作ったのか?」
「以前はあのようなものはありませんでしたね・・」
すると向こうから何か飛んでくるものがある。
矢だった。
敵はいきなり矢を放ってきたのだった。
ガコン
ガン
スコン
ゴン
セネターAPCとタイフーントラックの装甲に矢が刺さる事などなかった。セルマの鋼のような毛皮にも全く刺さる気配はない。セルマも2台と一緒にそのまま突進を続けている。
「ラウル様。前方に敵兵がいますが、いかがなさいましょう?」
「ああ、そのまま進んでいいよ。」
2台の装甲車両はスピードを殺さず兵士の群れに突っこんでいく。敵兵はひるまず剣や槍を構えてセネターAPCに斬りかかってきた。
魔獣だと思ってないか?
ドン!
ドカッ!
前に居た騎士をそのまま轢いて行く、後ろのタイフーントラックもそうしているようだった。フロントガラスに血が飛び散るのでワイパーを動かした。
ドン!
ズカッ!
ベキョ!
メシッ!
トラックはそのまま車輪で人を乗り越えていく。
横によけた兵士が剣や槍で切りつけるが車体に穴が空くわけでもない。しかし・・多少傷がついたかもしれなかった。
「あとで弁償してもらおうかな。」
なんてつぶやきながらさらに突き進んで行くと、街の奥からも兵士がわいて来た。
「ワー!」
「魔獣だ!」
「魔術師隊攻撃しろ!」
すると火の玉や、氷のつぶて、土の槍が大量に飛んでくる。
ガン!
ボオ!
ズゴ!
ガガン!
どれも2台の装甲を貫くことは出来なかった。
「やっぱ頑丈だなあ・・全く効かないや。」
魔術師の一番奥に立っている偉そうな法衣を着ているやつから、さらに一発岩弾が飛んでくる。
ゴゴン!!
「うわ!いまのはだいぶ凹んだぞ!」
「どうします?」
「そのまま魔法師団に突っ込んじゃえ。」
「は!」
ブロオオオオオ
そのままスピードを殺さずに魔法師団に車が突っこんでいく。
バリン!
どうやら魔法師団の前面に光系の防御結界が張ってあったらしいが・・かまわず割って突っこんだ。
ドン!
ドガ!
ダゴン!
魔法使いたちも派手にひかれて、かろうじて逃げた魔導士が道の左右に分かれる。
逃げ残った魔法使いがさらに魔法を放ってくる。
《えーっと、全車バックしろ!》
《は!》
《わかりました!》
ブオオオオオオ
後ろについてきていた騎士団の先頭グループの数名が轢かれる。左右に分かれてまた剣や槍でガンガンと斬って来た。すると何かの合図でもなされたのか、騎士たちがサッと左右に分かれたところに、さっきの高そうな法衣を着ているやつから大火魔法が放たれた。
ゴオオオオ
ボウッと一瞬トラックが炎に包まれるが、そのままバックしていくと炎は地面に燃え広がるだけだった。タイフーントラックには全く被害が及ぶことは無いようだ。
「マリア」
「はい。」
マリアはマクミランTAC-50スナイパーライフルを担いで、天板から上半身を出す。
揺れる車体から高位の法衣をまとったやつを狙う。
ズドン!
魔法使いは一瞬で額に穴が空き崩れ落ちた。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
出た!マリアの手動ボルトアクション方式なのに、連射並みの弾込めをする技。しかも揺れる車の上でバックしているのにだ・・
魔法師団は全員きっちり額から血を拭きだして、操り人形の糸がきれたように崩れる。
《マリアの精密射撃の腕前は・・ほんと異常だよな。前世にはこんな人間いるはずがない。》
20メートル級のセルマベアーが敵兵の中で暴れ始めると・・兵士たちはひとたまりもなく殺され始める。手を一振りしただけで兵士数人の上半身がごっそり取れてしまう。踏めばビシャっと血を飛び散らせて潰れてしまう。
「バケモノだ!に・・にげろ!弓兵!援護しろ!」
「刺さるはず無いのにな・・」
でも・・めんどうだ。
《ルピア!シャーミリア!マキーナ!アナミス!ちょっと弓兵をかたずけてくれ。万が一、領民ががいたら当てるなよ。》
《問題ございません。》
M240中機関銃とバックパックを背負って、トラック後方からバッと4人の人影が空に飛び立つ。
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ
弓兵がいる屋根に降り注ぐ銃弾。兵たちがポロポロと屋根から転げ落ちていく。
敵の攻撃が止んだ。
《よし!車を停めろ!》
ズササー。
2台の装甲車が止まった。
《ティラ、タピ、マカ、クレ!逃げた兵を仕留めろ!》
《はい!!!!》
トラックからまた人影が4人飛び出して、逃げた兵たちを追っていく。
パラララ!
パラララ!
パラララ!
パラララ!
ゴブリン隊はAPC9-Kサブマシンガン、ホルスターにはVP9ハンドガンとフルのマガジンを3本装備させていた。
ゴブリン隊は兵を追い詰めて撃ち殺していく。
そしてセルマベアーは周りにいる騎士をあらかた殺してしまったらしい・・。そりゃ20メートル超えの魔力強化されたレッドベアーだ、人間などあっというまに殺されてしまうのだった。
《じゃあ、みんなで街に潜入し民家に入り込んだ敵を殲滅していこう。二人ずつチームを組んで街に潜む敵兵を掃除していくぞ。》
《は!!!!!!!》
魔人達はパラパラと車を降りて武器を構え都市の中に走っていった。
地上部隊にも建物の中に入り込んでも小回りが利くように、APC9-Kサブマシンガンを持たせていた。すべての魔人のホルスターにはデザートイーグルと、フルのマガジンを3本ずつ装備させている。
「じゃあ俺とマリアとカトリーヌは車で進むか。」
《後方の運転はセイラに任せていいか?》
《大丈夫です。》
全員が訓練により運転できるようになっているため、セイラも問題なく運転できる。
《セイラ!俺の家に行くからついてきてくれ。》
《かしこまりました。》
2台の装甲車とセルマベアーがサナリアの街の中を進んでいく。
装甲車はあっというまに、フォレスト邸にたどり着いてしまった。
サナリアよ!私は戻って来た!
が・・しかし・・
「やっとたどり着いた・・」
「はい・・ラウル様・・」
そう・・
フォレスト邸は・・焼き払われてしまっていたのだった。
ここには・・レナードの亡骸を放置して逃げてしまったが・・。きちんと葬ってもらえたのだろうか?おそらくはそんなことは無いだろう。
奥の歯がギリっとなる。
すると街の中の敵兵を片付け終わった魔人達が、俺の元へ念話を送ってくる。
《ラウル様!逃げた敵兵は全て片付けました!》
《ティラ!ご苦労!》
すると他の魔人達からも念話が入る。
《領民はほとんどおりませんでした。聞けばバルギウスからの移住者だそうです。》
《ラウル様!ここにいるのはおそらくバルギウスかファートリアの者と思われます。》
《ご主人様・・こちらも非武装の者がわずかにおりました。》
《わかった!非武装の者にはかまうな。全員俺のもとに集え。》
《了解!!!!!!!!!!》
魔人全員へ俺がいるフォレスト邸跡地に集まるように指示を出した。
俺とマリア、カトリーヌ、セイラが車を降りて、先にフォレスト邸敷地内に入っていく。
「・・サナリアの民は一人も残っていないのか・・」
俺がつぶやくと、少しの沈黙が流れた後でマリアが言う。
「ラウル様、逃げ延びた者もいるのではないでしょうか?」
「そう・・だな。まだわからないな、サナリアの民もフォレストの使用人たちも逃げ延びたかもしれない。」
「諦めずにいれば必ず見つけられるはず!」
マリアが目に怒気をはらませて強い口調で言うのだった。
「ああそうだな。必ず。」
恐らくは絶望かもしれなかった。だがマリアが信じている・・ならば俺も信じようと思う。
遥かな時間が流れたがまだ領民達は何処かにいるかもしれない。
「ラウル様・・」
カトリーヌが声をかけてくる。ただ優しく俺の手を握る。
「これから・・です。」
「そうだな。」
”これから”の意味を深く噛みしめて俺は沈黙した。
後方からドスドスと音を立ててセルマベアーがやって来た。
フォレスト邸前に来ると・・
ドサッ
座り込んでしまうのだった。
おおおおおおおおおおお
どうやら・・セルマベアーが泣いているようだ。セルマが長くお勤めした主の家が無くなっているのだ、悔しさが伝わってくる。
「マリア。どうやら俺が・・セルマを呼び出してしまったらしいんだ・・。そのまま眠っていれば、こんな悲しい思いをさせずに済んだはずなのにな。」
マリアがセルマの手の甲に自分の手を置いた。
「セルマ。みんなで仲間を見つけましょう。この世界はどこに行っても敵だらけかもしれない、でもきっとどこかに逃げ延びた民はいるはず。」
セルマは声をかけるマリアを一度見つめると、のっそりと四つん這いになって屋敷の焼け跡に近づいて行く。
「どうしたの?セルマ?」
ズボッ!
セルマが廃墟に腕を突っ込んで引き抜いた。
セルマは俺達の前に残骸と土を置いた。
「ん?これは・・・」
人間の骨だ・・。
土の中から頭蓋骨が見えたのだった。
セルマが手を差し入れた屋敷の位置的に言うと・・レナードが最後に眠った場所だった。
「レナード・・なのか?」
セルマ熊がただ黙って優しそうな目で俺を見つめている。
「そうか・・まだここに居たんだ。」
俺とマリア、カトリーヌが残骸に近づいて行き、木や土を取り除いていくとある程度の骨が出てきた。
「マリア・・レナードが・・」
「はい。きっと待ちくたびれたでしょうね。」
「そうだな。ホント待たせてしまってごめんな。レナード。」
「さわやかな笑顔を今でも思い出します。」
「ああ。」
俺はリュックを召喚しバンスの時と同じようにリュックに詰め込んだ。
いつの間にか魔人達がポツリポツリと俺の周りに集まってくる。
俺の心の悲しみを深く感じ取って、神妙な面持ちで立っていた。
「シャーミリア・・セルマが俺の父さんの部下を見つけてくれたんだ。」
「はいご主人様。死者は・・死者を感じることができますので。」
「そうか・・引き寄せられたんだな。」
「そのようです。」
使用人だったメイドたち、代官のジヌアス、執事のスティーブン、俺の身の回りの世話担当の獣人ファミル・・・みんなまだ生きているのだろうか?
逃げ果せたのだろうか?
俺はこの地に着くまで絶望だと思っていた。
そして・・この地にはすでにサナリアの民はいなかった。
生きているのであれば、どこかで迫害を受けているかもしれない。
放っておくわけにはいかない。
「グラム父さんの意志を継ぐ者として使命を果たさねばならない。」
「はい、ラウル様。どこまでもお供いたします。」
「わたくしも、いつまでもラウル様と一緒に・・」
「ありがとう。マリア、カトリーヌ。」
気が付けば俺の周りの魔人達は、俺のもとに膝をつき頭を垂れていた。
「我の命尽きるまでお供いたします。」
ギレザムが言うと皆が言う。
「我々もお供いたします!」
「よし!復讐だな。徹底的にやってやる。」
オオオオオオオオオオ!!!
魔人達の雄たけびが声高らかにサナリアに響くのだった。




