第163話 サナリアの黄金畑
サナリアから少し離れた森に小隊を駐屯させていた。
ここはかつて幼少の頃にマリアと射撃訓練を行った森だ。
「マリア。ファングラビットはやっぱりうまいな。」
「そうですね。懐かしいです。」
キャンプではみんなでファングラビットのスープと、直火焼きを堪能していた。俺が召喚した戦闘糧食のパンと合わせて食べている。魔人は肉だけでも十分な様子だ。ルタンやラシュタルで入手した調味料と鍋や皿もあり、以前の旅路とはくらべものにならないほど充実した食事となっている。
「セルマはそれでいいのか?」
セルマ熊が棲んでいた森で捕ったグレートボアの肉を食べている。
「くぉん。」
どうやらいいらしい。
「みんな・・ここまでついてきてくれて本当にありがとう。」
「なにをおっしゃいますか。ラウル様をお守りするのが我らの役目です。」
「ギル。そういえばお前は一番最初に出会った魔人だったね。」
「そうなりますね。」
「あれからだいぶ経つな。」
「ええ。」
「魔人達がこんなに心根の良い、素晴らしい奴らばかりだなんて思ってなかったよ。」
「そのような過分な誉め言葉もったいないです。」
「本当だよ。」
「身に余る光栄です。」
最初はハッキリ言うとビビってた。だって鬼なんだもん・・正直喰われるんじゃないかと思った。今は進化して見た目がイケメンのアイドルみたいだから怖くないけど。最初は絶対ヤバイと思った・・こんなアイドルみたいになっちゃうなんてなあ。
おそらくグループ組めば絶対、全米1位になれるよ。
「飯を食ったら早速出発だ。いよいよ俺の第二の故郷をみんなに見てもらう事になる。」
「わたくし楽しみですわ。」
「はは。カトリーヌは王都出身だから、田舎すぎてビックリするよ。」
「いえラウル様、幼少の頃ラシュタルに行くときに、サナリアの黄金に輝く小麦畑を見ました。どこまでも広がる美しい光景でした。」
「サナリアの小麦畑か・・・懐かしいな。」
「楽しみです。」
カトリーヌは昔を思い出すように目を細める。その横顔はものすごく可愛い・・、なんでこんなに容姿も性格も良い子が俺を慕ってくれるのか分からない。金色の髪を揺らし微笑みかけてくる。
・・思わずドキっとしてしまう。
シャーミリアもニコニコしながら俺を見つめて言う。
「ご主人様。大陸の内地を知る魔人は私奴とマキーナ、カララ、ルフラだけ、みなラウル様が育った国に行けるのをずっと楽しみにしていたのです。ご主人様がうれしいのは皆の喜びなのです。」
「そうか。それならよかったよ。」
「俺達オーガ3人もラウル様を探しに大陸に入ったときは、ビックリし通しでしたからね。」
「ゴーグよ。お前は食い物に驚いたのだろう。」
「だってガザム!こんなに美味いものがたくさんあるんだぜ。すげえよ。」
「ふはは!ゴーグらしいよな。」
「ラウル様が褒めてくれた!」
「ゴーグよ、我はラウル様が褒めたように見えないが?」
「まったく、ゴーグは天然じゃなあ。」
「スラガまで!」
ワハハハハハハハハハハハ
皆が大笑いした。ゴーグは子供だから本当に食べ物の事になるとイキイキとしてくる。
食事が終わり全員が身支度を整える。
さてと・・。
「みんな!ここまでついてきてくれた事に感謝する!俺達はこれから俺の第二の故郷であるサナリアを奪還する。昨日の夜間にティラ達ゴブリン隊とシャーミリア、マキーナがサナリア周辺の魔法陣罠の確認作業を終えている。どうやら罠は確認できなかったらしい。」
「はい。半径30キロに魔法陣はございませんでした。」
「サナリアは拠点として意味のない場所だ。敵さんはこんな田舎に兵力を割かないという事らしい。敵兵の数も今までよりも少ない。デモンも確認されていない。」
「はい、不穏な気配はございませんでした。人間にしては強い者もいるようですが、問題にならぬ程度でございます。」
「よし、だが油断はするな!」
は!!!!!!!!!!!!!!!
「今回の作戦は今日の昼間に堂々と行う。相手が不利な夜間の戦闘を行う必要はない、まあ皆には腹ごなしにもならないかもしれないがな・・」
はははははははは。みな不敵に笑う。
「じゃあ出発だ!」
はい!!!!!!!!!!!!!!
魔人を乗せたセネターAPC装甲車と、タイフーントラック兵員輸送車が走り出す。
ブロオオオ
装甲車は無人の野を南下していく。サナリアは東西に広い国でさらに平野のため、装甲車はおそらく遠くからでも確認できるだろうが、俺達は隠れる事もなくお構いなしに走り続けていた。
その後ろでドサドサと足音を響かせているのはセルマだった。20メートルを超える巨大グマは普通に車についてきている。俺の魔力共有がなされているのか魔力が尽きる事はないようだ。
「セルマはファントムと同じような原理なのかね?」
「さて・・我にはわかりかねます。」
運転しているギレザムが答えた。60キロで走る続ける車にずっと同じスピードでついてくるのだ、おそらく常に俺の魔力が微量に出る感覚からも、セルマに魔力が供給されていると推測される。ファントムと似た現象だ。
それからしばらくは何事もなく2台の車と一匹はサナリアの地を走っていくのだった。
このあたりは俺とマリアが射撃訓練のために何年も通った道だ。
「畑には何もないようですね。」
「そうだなマリア。」
農地はもう何年も手入れされていないようだった。豊かな畑は見るかげもない。
「ラウル様・・畑は全て荒れ地になっているようです。」
「ああ、もしかするとサナリアには農民もいなくなってしまったのかもしれない・・・」
「・・・・・」
マリアは黙り込んでしまった。かなり落ち込んでいるようだった。カトリーヌも寂しそうな顔をしてうつむいている。
しかし街道だけは人が使うらしくそこそこ整備されていたため、車はそれほど揺れることなく進むことができるようだ。
街道を60キロの巡航速度でそのまま進んでいくと、サナリア方面から馬が5頭走って近づいて来るのが分かった。。
俺が召喚した双眼鏡で覗いてみる。
どうやら鎧兜を身に着けた騎馬隊のようだった。立派なミスリルのプレートアーマーの騎馬隊で、馬も馬鎧を身に着けている。えらい重装備の騎馬隊だ。
俺達は車を停めてそいつらをじっと見る。
「なんだ鉄の箱?あれはなんだ?う・・レッドベアぁー?」
「魔、魔獣だ!里に下りてきたぞ!!」
「魔獣の襲来だ!あんなデカイの初めて見るぞ・・」
「街に戻って援軍を!!」
ブルルルブルルル
ヒヒーン
ハアハァ
遠方に見る騎士たちは慌てふためいており、馬も滅茶苦茶怯えて後ずさる・・馬には落ち着きがないようで兵士たちは抑えるのに必死のようだった。
ぐるるるるるる
セルマが怒ってるみたいだ。
ガチャ
俺が後部ハッチから外に出てセルマに声をかける。
「セルマ。落ち着いて。」
「くぉん」
俺が車から降りてセネターAPCの前に立つと、それを確認したのか騎馬隊がこっちに近づいて来た。近くに近づいて騎馬隊の隊長らしき男が声をかけてくる。
「今どこから・・これは乗り物か?」
どうやらセネターAPC装甲車を魔獣だと思っていたのか、俺が降りたことで乗り物だと気が付いたようだった。
「まあそんなところだ。」
「その巨大なレッドベアーはなんだ!」
「ペット。」
「ぺっと?」
「そうだ。俺が使役している魔獣だ。」
「人間が魔獣を使役しているだと?お前なにものだ!?」
うーむ。いちいちなんだよ面倒くさいな。とにかくどいてもらうとするか・・
「とりあえず通り道の邪魔だからどけ。」
「き・・きさま!我らはバルギウスの騎馬隊であるぞ!分かっているのか!」
「俺は自分の家に帰るだけだ。」
「なに!逆らえばただではすまんからな!」
「・・・邪魔をするな。どけ。」
と次の瞬間、ミノスとドラグが後方トラックから出てきて俺の横に立つ。
「う・・なんだ・・おまえたち・・いきなり。」
「俺の右腕と左腕だ、死にたく無ければどけ。」
いきなり世紀末の覇者みたいなすんごい形相の男と、スキンヘッドのヤ〇ザが俺の横に立ったので少し怯えた表情で引いている。
「この!」
怯えた騎士は馬上から槍を構え俺を突いてくる。俺は一歩も動くことは無かった。
スキンヘッドのヤ〇ザおじさんのドラグが右手でその槍をつかんだ。
ブン!
すると槍の先端を中心にして男がもちあげられ、地面にたたきつけられる。
ガシャ!!
男は動かなくなってしまった。それもそのはず即死だったからだ。
「隊長!!」
「おのれ!」
すると後ろの兵士たちも槍を突いてくる。
キンッ
槍は途中から折れて無くなっていた。2本の槍の先がミノスの手に握られている。ものすごい速度でふりきったため槍が途中からすっぱり切れたように無くなった。レーザーでカットしたようだ。
「まずは!ひくぞ!援軍を・・」
「カァァァァァ!!!」
ドサドサドサドサドサ!
5頭の馬が気を失い地面に転がった。人間も意識を刈られたらしい・・というか二人死んでる。
何をしたわけでもない・・ビビらせるためにミノスが魔闘気を放ったのだ。
・・・いやあ・・俺も気を失いそうだった・・
おっかないおじさん二人が特に何をしたわけでもないが、5人の重装備の騎馬隊は全滅してしまった。
「すみません。ラウル様・・手加減して微弱な力でやったのですが・・」
「人間を相手にするのは我々の力ではあまりあるかもしれません。
「ほんとだ・・ちょっと考えよう。」
とりあえず、気を失ってる人間と馬、死んでしまった人間をどうするか・・
「このままにしてゾンビになったりしたら旅人の迷惑になっちゃうな。ファントム!」
すると、ファントムが瞬間的に俺の前に来る。
「これ片づけちゃって。馬もイケる?」
するとシャーミリアがやってきて俺に説明する。
「ご主人様・・申し訳ございません。ファントムは人間でなければ吸収は・・」
「そうか・・じゃあ、セルマ!さっきのでご飯足りなかったろ!馬を食っちゃっていいぞ!」
「ガウゥッ!!」
おお、喜んでる。喜んでる。
俺達はここで二人の食事をしばらく待つことにする。ちょっと休憩するのにちょうどよかった。
マリアとカトリーヌ、魔人達にレーションのキャラメルやチョコレートとジュースを配った。
ファントムとセルマが残虐に食べている脇で、俺達はお菓子でティータイムをするのだった。
「しかし、この畑は残念だ。取り返したら必ず復活させような。」
「ええ、そうですね。あの美しい光景を取り戻すまでは諦められません。」
マリアの目に火がともる。
「ラウル様の美しい故郷を取り戻すため、わたくしたちも全力で従事いたしますわ」
「ありがとうカララ、あの美しい国を取り戻したらもっとおいしい料理が食べられるぞ!」
「ラウル様!俺も全力で協力しますよ!」
「わかったゴーグ頼むな。」
「お前は・・また・・」
「ガザム!そういうな。ゴーグは育ちざかりなんだ。食べたいものは食べたい。それでいいじゃないか?」
「は!ラウル様。優しいお心遣い痛み入ります。ならゴーグ、懸命に働かなきゃな。」
「もちろんだよ。」
ははははははははは。
荒れ地の荒野に魔人達の笑い声が響くのだった。
ゲプッ
セルマの豪快なゲップと共に。