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第161話 手負いの獣

惨殺されたメイドたちが屍人にならなかったことを聞いた。


《よかった。惨殺されて死んでまで屍人になどなったら、うかばれないからな。》


そして・・トレントが語り始めた。


「あのう、お主たちが追い払ったレッドベアーじゃがの。」


「あれ、まだ生きてんだ!」


「そうじゃ、じゃからお前さんの仲間のメイドの事も思い出したのじゃ。」


なるほど・・印象的な出来事だもんな。


「あれ。あのレッドベアーじゃがの、最近・・急に、恐ろしい魔獣になってしもた。いきなり進化したのか全く違うものになってしまったのじゃ。」


「まったく違うもの?」


「そうじゃ!突然、力が強くなってのう、ワシらでは抑えきれんようになってしもた。」


「わしらってことは、じいさんには仲間がいるんだ?」


「まあそうじゃな。仲間が数体あいつにやられてしもたんじゃ。」


「木なんかに熊が戦いを挑むっていうのか?」


「木なんか!っていうな!立派なトレントなんじゃぞ!」


「ああ、ごめん。熊がトレントに戦いを?」


木って言っちゃダメなんかな?


「そうじゃ。森を管理しているワシらが気に入らんとばかりに、見つけてはぽっきり折りよるのじゃ。」


「そりゃあ、たまったもんじゃないな。」


「そうじゃろ!じゃから、わしらはあいつが近寄ると完全に気配を消して、木になりきっているのじゃ。」


やっぱ!木なんじゃん!なにが立派なトレントだよ。


「じゃあずっとそうしていれば助かるんじゃないの?」


「なんで怯えて暮らさねばいかんのじゃ!わしらは森の管理者じゃぞ!!」


「ああ、ごめん。」


「普通のレッドベアーなどは簡単に抑え込むことが出来たんじゃが・・やつは根本が何か違うのじゃ。」


「ああ・・そうなんだ。大変だね。」


「大変だね。じゃないわい!なんじゃ!シラーっと!他人事みたいに!そもそもがお前たちが変な魔法を使ったせいじゃないのか?」


「そんな、勝手に人のせいにしないでくれる?」


「だってそれくらいしか考えられないんじゃもん。」


なるほど。確かにトレントのじいさんが言うのにも一理ある。


俺の弾丸を体内に残した強力な魔獣がどうなってしまうのかなんて、考えた事もないからな。そういえばアンドロアルフスを倒して、連結LV2が遠くまで飛ぶようになってしまったのも関係しているのかもしれない。


《これは・・きちんと検証しなきゃいけない事かもしれないが、1体くらいじゃ分からないな。》


「それで、俺にどうしろと。」


「なんとか、やっつけてほしいんじゃが。」


「俺がか?」


「おぬし、相当なものじゃろ。魔力がものすごい事になっとるし。」


「じいさんにはわかるのか?」


「伊達に2000年以上も生きとらんわい。」


「長生きなんだな。」


「木じゃからの。」


「やっぱ木なんじゃんか。」


「トレントじゃ!」


「もうこのくだりはいいよ。」


「なんじゃ!その言い草は!」


自分で言っといて、なんで怒ってるんだろうこのじいさんは。


「あの、それでそいつはどこにいるのかな?」


「こことは反対側の森のおくじゃな。」


「反対側という事は西側か?」


「そうじゃ、わしらは怖くて反対側に逃げてきたのじゃ。」


「え?動けるの?」


「もちろんじゃ。よいしょ。」


ズズズウ


地面から根っこが抜けてきて数本の足のようになった。それでむっくと立ち上がり歩き出したのだった。ちょっとびっくりした。


「すごい・・」


「な!な!凄いじゃろ!木なのに動けるんだ!って思ったじゃろ?」


木って自分で言ってるじゃん。


「思った。」


「ふふん。」


あら、偉そう。


「で、あのレッドベアーの所に案内してくれるのか?」


「いやじゃ。」


「なんでだよ。」


「こわいもん。」


ズズズズズズ


また地面に埋まってしまった。


「頼んだぞ。」


そして眠るように木になってしまった。すでにトレントの形跡はない。



「おい。」


「・・・・・・」


「寝たのか。じゃいいや、別にあんなレッドベアーなんて俺には関係ない。」


「おい!!!頼んだと言うたであろうが!!!」


「起きてんじゃん!わかったよ、なんか俺も思い当たるふしがあるし約束するよ。」


「頼んだぞ・・・」


スゥ


また木になった。


「やめようかな。」


「おま・・」


「嘘だよ!やるよ。」


「・・・・・」


トレントとのショートコントを終えて味方の野営地点に向けて歩き出す。



《さてと急遽やる事が出来た。メイドたちが成仏した事も分かったし急ぐとするか。》



再び俺は漆黒の森を疾走し始める。今度は直線的に走り始めた。来た道でだいたい覚えているのでかなりの速度で走る事が出来た。



ズボッ


「あれ?」


あっというまに森から街道に出た。やはり俺のスピードは尋常じゃない・・今なら最速のシャーミリアにも追いつくかも?


それは・・無理か・・。



「おお、ラウル様ご無事で!」


ギレザムは意識の範囲外から、急に俺が飛び出してきたので少し驚いていた。


「ああギル。皆は?」


彼は装甲車の前で見張りをしていたらしい。


「食料を食べてそれぞれに休んでおります。」


するとスッと俺の隣にシャーミリアとマキーナが現れて立つ。


「ご主人様、御用事はお済みでございますか?」


「それがな・・また出かけることになったよ。」


「はい。それでは今度こそ我々もお供に。」


「いや・・また一人で良い。個人的な問題なんだ。」


「左様でございますか。ご主人様がそうおっしゃれば従うのみです。」


「悪いな。」


「いえ滅相もございません。」


ギルとシャーミリアがただ俺を見つめていた。


「ギル、マリアとカトリーヌは?」


「アナミスが眠らせました。」


「よかった。とにかく彼女らには体を休めてほしいな、出来れば魔人達も寝てくれると助かる。ファントムに任せれば全員が眠れるだろう?まあシャーミリアとマキーナ、ルフラも睡眠はいらんだろうけど。」


「お気遣い感謝いたします。それでは交代で休ませる事に致しましょう。」


「頼んだぞ。」


「は!」



俺は今度は逆側の西の森に入っていくのだった。


森に入ってすぐ感覚で分かった。巨大なものが奥に棲む感覚が・・。だがこの感覚は魔人や魔獣とも少し違うような気がする。俺は一直線にその気配のもとに暗闇の森を疾走するのだった。



いた。



あっというまにたどり着く。


そいつは・・俺に背を向けて魔獣を喰らっていた。食っているのは・・レッドベアー?・・共食いじゃないか?


急に現れた俺の気配にそいつは振り向いた。


「うわあああ!」


いや、めっちゃおっかない顔だった。頭は銃痕のところから頭の上の方まで、毛がギザギザにはげている。血に濡れた牙がギラギラと光った。



しかしそいつは俺の顔を確認して・・?


・・・いま・・こいつは笑ったか?


のっそりと立ち上がり俺の方を振り向く。


「はあ?デカすぎないか?」


20メートルくらいありそうだ。巨大なレッドベアーの倍くらいの大きさがある。そして・・爪が長い・・頭の部分が傷だらけになっており毛が抜け、目がさらに赤く深くなにかに取りつかれたような顔をしている。


「おい!よくも仲間を殺してくれたな。熊鍋にしてやるから黙って殺られとけ!」


俺はそいつを前にして怒気をはらみ睨みつけているが、そいつは俺に何もしてこなかった。


「どうした?その傷をつけた張本人だぞ!かかってこないのか?」


ズゥウウウウン


一歩こちらに足を出すと地響きがなる。


「うん・・とんでもねえな。」


おっかねえ・・


一歩一歩ゆっくりと近づいてきて、あきらかにそいつの射程圏内に入った。


入った・・というのに・・攻撃してこない?


「どうした?俺の仲間を喰ったんだ。攻撃してもらわないと復讐出来やしないじゃないか。」


しかしそいつは全く攻撃する気配などなく、こともあろうに俺の前に腹ばいになってしまった。


「?????」


訳が分からない。


クゥーン


「くぅーん?」


なんだ?甘えているのか?この反応は・・シロと似ているが少し違うはずだ・・。


「おい!やめろ!殺すぞ!」


すると3メートルはある頭が俺にズズズと近づいて来た。


ベロン


足元から頭にかけて巨大すぎるベロに舐められてしまった。


「ばかやろう!お前になんか・・」


ん?


「おわっ!くっせえ!やめろ!」


するとそいつは何もしなくなった。


・・・・。ホワイトベアーのシロやグリフォンのイチロージローなどと同じ反応だ。


完全服従している。


「お前、森の木を倒してるんだってな?それやめろ!」


グオゥ


「ん?どっちだ?やめるのか?」


グオゥ


「やめないのか?」


グモモ


「わからんが、やめてやれ。」


さて・・どうしようか?


「とりあえず立て。」


グググ


それは俺の前に仁王立ちになった。


「座れ。」


グググ


座った。


「お手。」


お手をする。


困ったぞ、コイツはセルマの仇だが、どうやら使役してしまったようだ。だが20メートルもあるし顔が怖すぎてどうしようもない。


まあ・・あの時だって、こいつらの縄張りに夜に来て騒いだ人間が悪い気もする。自然には自然のルールがあるのにそれを破ったのは俺達だ。でも気が収まらないが・・


どうする?


《よし、いったんトレントのじいさんの所に連れて行こう。》


「こい!」


すると俺の後をついてノソノソと歩いてくる。少し走ってみると4つ足になって走ってくるようだった。もう少しスピードをあげるとついてくる・・もう少し・・


熊はある程度のところまではついてきたのだが、スピードは徐々に落ちてきた。


という事は、だいたい森林ではマックス100キロくらいで走れるのか?すげえ・・これが平野だったらどんなスピードで走るんだ?ただ・・車と違ってマックスをキープする事は出来ないらしいが。


俺は速度を落として熊にスピードを合わせる。



《これだと少し時間がかかるかな・・》



ズボッ!


また街道に出た。


すると魔人達が勢ぞろいで武器を構えて待ち構えていた。


「お?」


いまにも攻撃を開始しようとしていた。


「止めろー!撃つな!!追われてるんじゃない!命令してつれてきたんだ!!」


魔人達は銃をおろし、ついてきたレッドベアーを眺める。


「ラウル様・・これは何です?」


「ああ、なんかこの森を困らせている熊なんだとか。」


「レッドベアー・・しかし大きさが・・顔も・・」


マリアとカトリーヌも起こしてしまったらしい。


「ああごめん寝てるところ。起こしちゃった?」


「この大きなレッドベアー・・でもどこかで・・まさか・・」


マリアが気が付きそうになっているが、分かったらきっと殺してほしいと思うだろうな・・



「いや・・とりあえず知り合いの所に連れていく事になったんだ。」


「そうですか・・」


「とにかく!みんな!騒がせて済まなかった!こいつは問題ない!俺が使役している!」



「はい。」

「ラウル様・・凄い。」

「少し・・ラウル様の魔力を感じます。」



あれ?気が付かれた?誰だ?



「よし!みんな!ラウル様の御用事を邪魔してはならない。休んでくれ!」


ギレザムが何かを察してみんなに声をかけてくれる。



「わかりました。」

「なんか・・ラウル様の魔力の気配が・・」



俺はレッドベアーを引き連れて早々にその場所を立ち去った。


ううむ。


やはり・・俺の魔力がこいつに作用してしまったらしい。


トレントに何と言って誤魔化すか悩むのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラウル様ごまかしてばっかだなあ
[気になる点] トレント この木なんの木、木になる木(トレント)~♪ ↓に書き込むつもりでしたが、何となくこちらに… [一言] 今まで出会った魔獣とかは全部討伐してたような気がしていたので、あのと…
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