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第159話 弔いの涙

2台の装甲車が南下していた。


車は俺の育った故郷であるサナリア領地跡に向かっていた。



「カトリーヌ。ティファラとはもう一度会わなくてもよかったのかい?」


「はい。ティファラも分かってくれていると思います。」


「そうか、そうだな。」


俺は車内でカトリーヌとティファラの事を話ている。マリアも一緒だった。



南下してきた隊は俺を含めて22名の小隊。


メンバーは、

ラウル マリア カトリーヌ

ファントム シャーミリア マキーナ

ギレザム ガザム ゴーグ

ミノス ラーズ ドラン スラガ

カララ セイラ ルピア アナミス ルフラ

ティラ タピ クレ マカ


以上の乗員が、セネターAPC装甲車とタイフーン兵員装甲車に乗っていた。


これから旅路は敵の本丸に近づいて行くため、防御力重視の装甲車にしたのだった。


ルタン町から来た部下たちがやっていたように、常にタイフーンの天井の上に2人が乗り四方を警戒しながら進むことにしている。


《いいアイデアはすぐに取り入れてやってみるのだ!》


セネターAPC装甲車の搭乗員数は8人、CBRNという防護システムを持ち、化学兵器、放射線、細菌兵器、そしてなんと核にも耐えうるという究極の装甲車だった。


タイフーンはロシア製の歩兵用の機動車で航続距離も長い。装甲は14.5 mm徹甲弾の直撃にも耐え、なんと8kgのTNTの爆発にも耐える強度を持っている。


どちらの車も、巨大魔法の直撃くらいでは全く問題の無い防御性能を持っていた。


この高すぎる防御力はこの異世界じゃあ宝の持ち腐れかもしれないが、痛いのは嫌なので防御力が高いものを選んだ。


《しかしだ・・こんなに警戒してものすごい防御力の装甲車に乗っているが、むしろ中に乗っている魔人達の方が耐久力が高い気がする。もし装甲車が破られるようなことがあったとしても、怪我をしそうなのはマリアとカトリーヌだけだな・・》


《ご主人様。マリアとカトリーヌには傷ひとつ負わせません。》


あ・・念話で聞かれていた。


《ああシャーミリア。よろしく頼む。》


《シャーミリアだけではなく私もルフラもいるのですよ。問題ありません。》


《ああカララその通りだな。》


魔人と念話で話した結果・・



やはり・・怪我をしそうなやつなんて一人もいねえや・・



しかしようやく魔人達との念話と、俺一人の思考を分けることが出来るようになってきたというのに、つい思念が駄々洩れしてしまうのは・・まだまだ訓練が足りない証拠だ。



「それにしても・・やっと戻ってきたのですね。」


「ああマリア、俺達はこんなに頼もしい味方を連れて戻ってこれた。」


マリアが話しかけてくる。セネターAPC装甲車の後ろ座席に乗っているのは、俺とマリア、カトリーヌ、ファントムの4人だ。運転しているのはギレザムで、助手席にはルフラが座っていた。


俺とマリア、カトリーヌの3人だけで話をしているのだった。


後方を走るタイフーントラックの上部で見張りをしているのは、ルピアとドランだった。トラック上部の天板の上で見張る役割は、飛べる奴が交代でする事になっている。万が一の時は飛んで上空から部隊が外に出るのを援護する。


ルピアの兵装は使い慣れたM240中機関銃と弾倉バックパックを背負い、ドランはM134ミニガンと弾倉バックパックを背負っている。


いざとなれば上空からの掃射で一掃できる。



「それにしてもラウル様・・ユークリットの大地をまた踏むことが出来るとは思っていませんでした。」


「そうだな。カトリーヌは大変な思いをしてグラドラムにたどり着いたんだもんな。」


「はい、バルギウスの使用人に紛れて・・」


「本当によく死ななかった。生きていてくれてありがとうな。」


「いえ、私こそ助けていただいて本当にありがとうございました。」


決死の思いでグラドラムにたどり着いたのに、あの時は俺が毒見をさせて殺してしまうところだった。


《俺は本当に酷い従弟だよ。偶然にも助けられて良かった。間違って殺していれば立ち直れなかった・・いや従妹を殺していたことにすら気が付かなかっただろうな・・》


《いえ・・ラウル様。魂の引き寄せだと私は思います。結果は必ず今のようになったと私は思うのです。》


《ありがとうルフラ。そうだと信じたいな。》


《間違いなくそうです。》


前方の助手席で聞いていたルフラが念話で俺に伝えてきた。少しだけ気持ちが楽になる。



「カトリーヌ。君には必ずユークリットを取り戻すと誓うよ。」


「ありがとうございます。ただ・・私にはそんな大それた気持ちは無く、この地に踏み入れられただけでも十分なくらいです。」


「そうか・・まあ俺自身が取り戻したいんだけどな。」


「ラウル様がそうしたいのなら私はお手伝いするだけです。ラウル様について行けるのでしたらそれで満足です。」


俺はニッコリと笑ってカトリーヌの肩に手を乗せる。


「大丈夫。ずっと一緒にいるから。」


「はい。」


カトリーヌは少し涙をためてホッとしたような顔をした。



そんな話をしていると長旅で見慣れた荒れ地の風景のなかに、既視感のようなものを感じた。


「マリア・・このあたりは・・」


「ミゼッタの家のあたりですね。」


車はミゼッタとバンスが暮らしていた小屋のあたりに差し掛かる。


「ラウル様、小屋が・・」


「ああ・・無くなってるな。」


街道からは小屋が見えなかった。建物の残骸も見当たらず草が生い茂る荒地になっていた。


「ギル!停めてくれ。」


キッ


とセネターAPCが停まる。同時に後方のタイフーン装甲車も止まった。意識が連結しているため指示は全ての魔人につながっている。


俺たちが車から降りると魔人達も全員降りようとするので、念話で全員に車で待機をするよう伝える。



俺とマリアとカトリーヌが降りて草むらに向かう。ファントムが後ろにピッタリと着いてきた。


《ううむ・・草がボーボーで何がどこにあるのかわからんな・・》


俺はマチェットを2本召喚してファントムに渡す。


「ファントム!草を刈れ。」


ファントムが両手にマチェットをもって草むらに入ると、まるで草刈り機のようにブンブン草を刈っていく。すると地面に焼けた跡や炭になった木らしきものが見つかった。


「焼かれたのか・・」


「そのようですね。」


俺達はファントムが綺麗にした後に荒れ地に入る。炭の中に土に埋まった食器や錆びた鎌などが落ちていた。


パフッ


俺がかがんで鎌の柄の部分を持ち上げようとするが、ぼろぼろと砕けて刃の部分が落ちてしまった。



「バンスは・・どこに。」


すると・・ファントムがノソノソと歩き出す。


ファントムが歩いて行って立ち止まるが・・どこか遠いところを見て立っているだけだった。


「そこになにかあるのか?」


するとファントムがその周りの草をブンブンと刈り取った。



そして・・俺は発見した。



白骨死体を。しかし・・首がない・・服がぼろぼろで誰のものか分からなかった。


「ファントム・・この頭はどこか分かるか?」


するとまたファントムがノソノソと歩き出す。また立ち止まってマチェットをブンブン振り回し草を刈る。またどこか遠くを見て立っていた。


俺はファントムについて行き足元を見る。


「ここだったか・・」


俺は足元に埋まった白い骨を手で掘り返して持ち上げる。


頭蓋骨だ。


「これは・・誰の骨かな・・」


「わかりません・・。が・・。いえ・・分かりません。」


マリアが口ごもるように言う。


ほとんど原型もなく誰のものかが分かるものではなかった。


俺は頭蓋骨を抱え胴体の所に持ってきた。



そしてリュックサックを召喚して、それに頭蓋骨と胴体の骨を全て詰め込んでいく。


冷たい風があたりの草を揺らす。


「誰かは知らないが・・持ち帰って弔ってやろう。」


「はい・・」


マリアが答える。俺もマリアも同じ人を想っているのだろう。マリアが悲しい目をしていた。


俺はそのリュックを背負い立ち上がる。


「ファントム・・ありがとうな。お前のおかげで遺体がみつかったよ。」


ファントムは答えることなく、ただ遠くを見つめて立ち尽くすだけだった。


「マリア、行こうか。」


「行きましょう。」



俺達は車に戻る。


「ラウル様・・・」


ギレザムが俺の何かを察して声をかけてくるが、特に言葉が見つからないらしく黙ってしまった。


「ギルは優しいな。」


「いえ・・」


ふう・・


《ゴーグ!来い!》


《はい!》


タイフーントラックから降りてきたゴーグが後部ハッチから顔をのぞかせた。


「すまないなゴーグ。これは大切な人の遺骨なんだ・・お前が大切にもっていてくれないか?」


「わかりました。責任をもって俺が持ち帰ります。」


「ああ、よろしくな。じゃあ・・戻れ。」


「はい。」



ゴーグがリュックを背負って走り去っていった。



「冷えてきたな。」


「ラウル様・・では私の火魔法で・・」


「いやマリアいいよ。あの遺骨は野ざらしでずっと俺の事を待っていたんだ。きっと寒かったろうな・・」


「はい・・」


「ラウル様・・雪が・・」


カトリーヌに言われ、車から出て空を見上げると雪が降って来ていた。ポツリポツリと俺の顔に雪が降り積もる。それが融けて水になり頬を伝って落ちていく。俺はそのまましばらく上を向いていた・・


皆が黙って見守ってくれていた。


「冷たいな・・。そろそろ行くか。」


車に乗り込んだ。



よし・・


《雪が積もれば走行しづらくなるかもしれない!急いで先に進むぞ!時間を取らせて済まなかった!全隊出発進行!》



セネターAPC装甲車とタイフーン兵員装甲車はまた音を立てて走り始める。



「ファントムは俺の探した人が分かるのか?」


車に乗った俺はファントムに語りかけてみる。


しかしファントムは俺を見てはいない。ただ前を見るだけだった返事をすることもない。表情も全く分からない。


俺にはコイツが分からない。


しかし俺は念じた。それを理解してくれたのかもしれない。ファントムに心があるとは思えないがこいつには人間の魂がごまんと入っているからな・・もしかすると分かるのかもしれない。


2台の車は南へとひた走る。


俺はうつむいて・・しばらく話をするのをやめてしまった。


ただ・・グラドラムで待つミゼッタの笑顔だけが目に浮かぶ。



彼女の淡い期待がもしかするとこれで潰えたのか・・



俺の両足の間の装甲車の床には、溶けた雪のしずくなのか水がポタポタと落ちるのだった。

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[一言] 《しかしだ・・こんなに警戒してものすごい防御力の装甲車に乗っているが、むしろ中に乗っている魔人達の方が耐久力が高い気がする。もし装甲車が破られるようなことがあったとしても、怪我をしそうなのは…
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