第156話 斜め上の進化
イケメン二人がいた。
こんなにカッコイイ人間が存在するのだろうか?
いや・・彼らは魔人だ。
しかし・・魔人の要素はどこに行ってしまったんだろう。髪の毛に隠れるほどの角があるからかろうじて名残りがある。坊主にすればオーガだとわかるだろうか?
いやオーガには見えない。
きっとダンスユニットを組んだら売れるんだろう。
俺は・・この二人の間に立つのは嫌だ。
絶対に見劣りするからだ。
断固として拒否する。
「ギルにガザム!どうだ?渡り廊下の補修は進んでるか?」
「は!ラウル様!我はそれほど器用ではない故、ある程度になりますが・・」
「いいんだよ。片づける程度で。」
「そうなのですか?」
「あとは人間にやってもらうから。」
「わかりました。ではそのように致します。」
《あーなんだろう。二人・・めっちゃキラキラしてる。まさか・・BLじゃないよな!ちがうよな!そんな趣味あるわけないもんな・・》
「ラウル様びぃーえるとは?」
ガザムが不思議そうに聞いてくる・・
念話が伝わってしまった!繋がりが強くなってる!気をつけないといけない。
「あー違う違うこっちの事だ。続けて作業をしてくれ!」
「は!」
イケメン二人は俺から指示を受けて楽しそうに片づけをしていた。もともと同族で仲がよかったし特に問題はない。
角を曲がり吹き抜けに面した部屋から音がするので開けてみる。
「おお!ラウル様お目覚めですか?」
「え・・っとドランか。」
「は!目覚めたらこんな姿に。」
そこにいたのはスキンヘッドの眉無し・・ヤ〇ザ
「あの・・片付けは順調ですか?」
「は?ラウル様どうして敬語など・・俺に敬語など不要です。」
あ・・つい。
「いや、間違った。そうだな片付けは進んでるかい?」
「はい順調です。ほかの者の手伝いにまわれそうです。」
「ああ・・そうですか。」
いかん!つい敬語になっちゃう。
「ラウル様どうされました?」
「いや・・いいんだ。とにかく片付けだけでいいから。」
「わかりました!」
早々に立ち去る。どう考えてもその筋のもんだ。まあ・・見た目の問題だと思うが、オーラもどこかオラオラ系の雰囲気が混ざっている。
廊下を歩いて行くと、床の血を磨いてる女子がいた。顔をあげるとショートボブの髪を揺らしながらニッコリ笑った。少し垂れ目の優しい顔をしている。あの・・羽が見当たらないのだが・・もしかして。
「あラウル様。」
「ルピア!」
「どうされました?」
「いやー今ね、そこに怖い人いたんだよー」
「ふふ、ドランですね。」
「あ、わかる!?」
「わかります。念話で伝わってました。」
ニコニコ笑うルピアは普通の少女のように見える。髪は銀髪だがそれが似合っていた・・妹系美少女ってやつだな。
「羽は?」
「ああそれは」
背中からヴァサーっと大きな白い羽が広がった。
・・・ああやっとわかった。これは天使だ・・天使様がいるんだ。
「ああ完全に隠せるようになったんだね。」
「はい、服を脱いでも羽はすっかり消せますよ。見ますか?」
「いや!いい!いい!」
「そうですか・・」
「とにかく後片付けが優先だ。」
「わかりました。」
にっこり笑う少女の傍から奥に進む。
ルピアの場所から吹き抜けになっている、先の通路でも誰かがふき掃除をしている。
近づいて行くと・・黒髪の少年?
あれ?
でも雰囲気は間違いない。
「スラガ!」
「ラウル様起きられましたか!」
「ああスッキリだよ。」
「何よりでございます。」
「ていうか・・一番変わったな。」
「ええ。こんなひよっこのような姿に、まあ私はスプリガンでも若いですからね。」
「いや・・なんというか、かっこいいな。」
「そうでしょうか?細くて頼りないように感じられそうです。」
「髪も黒いし目も黒い。」
「すっかり不思議な風体になってしまったのですよ。」
そう・・なんだかまるで日本人のようだった。俺の高校時代にこんな友達いたような気がする・・てか・・日本人だわ。どう見ても。
「巨人化はするのか?」
「ええ問題ないと思われます。」
「そうなんだ。とにかくその風体は作戦行動でとても有利に働きそうだ。期待してるよ!」
「は!」
まあこの世界じゃ日本人のような見た目なんて浮くだろうけど、もしかしたら世界のどこかには同じような種族がいるかもしれない。そしてこれなら間違いなく相手は油断するだろう。
いきなり巨人になるなんて恐怖でしかない。
階段を降りて1階に行こうとしたら・・階段に女神がいた。
イオナ・・悪いが、あなたはユークリットの女神と謳われたかもしれない。しかしここには間違いなく本物の女神がいる。女神と言ったら間違いなくこの目の前にいる人を言うのだろう。
心なしかフワフワと髪が揺れて衣装も揺れている。薄紫の髪は美しく輝き、たわわな胸が今にも零れ落ちそうだ。どこまでも癒されそうな優しい顔は・・ご尊顔というのにふさわしい。後光すら見える。
「セイラ」
「ラウル様。起きたのですね」
「拭き掃除なんてさせてすまないね。」
「ええ!?いえいえ皆でやっておりますので、なぜにお謝りになるのです?」
「なんでだろう・・とにかく何か申し訳ないような気になるよ。」
「出来るだけティファラたちが入るときに、楽にしてあげられるようにしたいものです。」
「ああ、その気持ちはとてもありがたいよ。」
「ふふ。よかったです。」
「というかセイラ・・どことなく後光がさしてないか?」
「そんなことは無いと思うのですが・・」
「たぶん俺の気のせいだ。」
「ラウル様は面白いですね。」
「じゃあ引き続き頼むよ。」
「はい。」
女神さまがニッコリ微笑む。ああ・・何だろう癒される。やっぱり後光がさしている・・セイラを教祖にして団体を造ったら凄く信者が集まりそうだな・・
階段を一階に降りると・・セクシーギャルがいた。
体のラインが滅茶苦茶なまめかしい。四つん這いになって床を拭いているが、その腰つきやおしりが・・なんとも言えない。セクシーすぎる。というか・・下着じゃないの?
「アナミスちゃん。やってる?」
「あ、ラウル様?ちゃん?どうしたのです?」
「いや・・なんとなく。捗ってる?」
「ええだいぶ綺麗になったみたいですわ。」
アナミスが立ちあがる。唇の赤がとても煽情的でまつげが長く鼻がツンと尖っている。目の色はピンクにみえ、細く整った眉がまたその表情に色気を与えている。長い髪が肩や首筋にまとわりついて妖艶な雰囲気を醸し出している。
ありていに言おう。色っぺえ!
「その格好どうしたの?」
「ああ、拭き掃除をするのに動きやすくてつい・・」
見た感じ・・下着だよね・・服は?
「まあ人が来ないからまだいいけど、人がいる時は服は着ていた方がいいよ。」
「はい。でもこれが本来の服なんです。」
「そうなの?その服・・面積が少ないように見えるけど。」
「そうでしょうか?」
そうだよ!どこからどう見ても水着ギャルだよ!
「ああそういうの前から着てたんだっけ。」
「まあラウル様の前ではお見せした事なかったかもしれませんね」
「服を着ている時と、全く着ていない時しか見た事なかったから。」
「本来はこんな服装なのですが、以前グラドラムに居た時にいろんな問題が起きまして、更に布の多い服を着ておりました。」
そりゃそうだ・・人間の社会をそんな恰好で歩いたらいろんな問題が起きる。そしてこの濃厚な脳髄を溶かしてしまいそうな色気。男は骨抜きになること間違いない。そしてボンキュッボン!この人に誘われて抗える人はいるのだろうか。
否!
いるわけがない。
俺はつい心の声がでてしまった・・
《やりてぇ・・》
「あら・・ラウル様。私はいつでもよろしいのですよ。」
しまった!つい念話で伝わってしまった!
「ち、違うんだ!アナミス!そういう意味じゃないんだ!」
どういう意味?
「アナミス!抜け駆けは許しませんよ!」
横で黙って聞いていたシャーミリアがクギをさす。俺の言葉をかき消してちょっと怒っているようだ。
それにしても抜け駆けって?
「シャーミリア、あなただってラウル様が好きなんでしょ。」
「不敬よ!尊敬の意味よ!確かにご主人様をお慕いはもうしあげておりますが・・」
チラッとシャーミリアが潤んだ瞳を俺に向けてくる。
ああ・・やめて・・可憐すぎるから。凄く可愛いというか綺麗というか・・どうしちゃったの?というかそのシャーミリアの後ろで、黒髪ロングのクールビューティー、マキーナの目も潤んでいるんですけど。
「コホン!」
「ああ失礼いたしましたご主人様!」
「あとは・・1階の玄関前だな。」
「ええ、まいりましょう。」
「じゃあアナミス引き続き頼む。ちょっと1階エントランスは広いから終わったものをさし向けるよ。」
「ありがとうございます。」
いやあ・・アナミスは人間に見えるが、こめかみの後ろにある角がかろうじて魔人の名残りとしてわかる。羽が隠れているが、おそらくルピアのように出し入れできるのだろう。一見するとミノスと同じ獣人のようにも見える。
俺とシャーミリアとマキーナは玄関から外に出る。
すると5人の少年少女がいた。
「ティラ!タピ!クレ!マカ!ナタ!」
「ラウル様!」「お目覚めですか!」
肌の色が緑じゃなくなった・・浅黒い。ちょっとダークエルフのようにも見えるが、どちらかというと南国の島の少年少女といった感じだ。
「外はだいぶ綺麗になったようだな。」
「ほとんど、ファントムが吸収したんですけどね。」
「そうか。という事は兵舎も片付いているのかな?」
「はい!私たちは鎧を回収したり、燃え残った鉄の武器をここに集めたりしてました。」
そっちを見ると武器の残骸が山積みされていた。
「使えるものはありそうか?」
「はい!あると思います。」
ティラが答える。ティラはもう・・かわいい。浅黒い肌にセミロングがめっちゃ似合ってる。麦わら帽子と白いワンピースを着せたら最高だろう。そのうちどこかで買ってやろう。耳に貝殻なんかあてたら間違いなく南国の少女だ。
「じゃあその武器の選定は人間たちにまかせるから、全部集めたら城の中を手伝ってくれ!」
「わかりました!」
あとの4人は浅黒い少年だった。タンクトップと半ズボンが似合いそうだ。
みんなでまた兵舎の方に向かって消えた。
能力はおそらく格段に上がっているように感じる。ただの少年少女なのに・・ただ魔力はほとんど感じない。一番人間に近い・・というか人間にしか見えない。
間違いなくこれならルブレストにも気づかれまい。
そして最後に俺は城を見上げる。
「ルフラ!」
どこにも見えないが、確かにそこにルフラはいる。
すると壁の一部から水滴のように何かが落ちてくる。俺の目の前にブルーの瞳をもつ、目がくりっとした女の子が降りてきた。髪もブルーで肌は透明感がある。めっちゃ透明感のある自然体の美少女だ。
「ラウル様お目覚めですね。」
「ああ。」
「素晴らしい力を感じます。」
「そうか?」
「はい!」
「外壁の煤はだいぶ取れたようだね。」
となりの兵舎にナパームを落として燃やしたため、城の外壁は半分黒く汚れていた。半分は白くなっている。
「広範囲にわたって汚れていますね。半分は落ちたのですが。」
「凄いよ!こんなに綺麗になるんだ。」
「汚れは分解して固めて捨てられるようにしています。」
「そんなことも出来るのか?」
「問題なく。」
「戦闘ではカトリーヌを守ってくれてありがとな。」
「まあ、体はそうですが、精神は彼女自身が魔法で防壁をはったようです。」
「カトリーヌ自身がか。」
「まあ無意識かもしれませんが、かなりの天才じゃないかと思います。」
「精神支配からも守れるのか。彼女の聖魔法はかなり万能みたいだな。」
「はい。私の能力と合わさるとかなりの物だと思います。」
「カトリーヌが前線で安全に動けるのが、今回の戦闘でわかった。これからもルフラに頼むと思うよ。」
「ええ問題ございません。彼女ならラウル様にまとわれた時のように変な気はおきませんから。」
あ、やっぱり俺にくっついてたとき、なんかやってたんだ・・どおりで・・
「あ、ああ。じゃあ引き続きたのむよ。」
「了解しました。」
魔人達の進化はアンドロマリウスの時が第一段階とすれば、今回はさしずめバージョン2というところだった。
体はダウンサイジングしたみたいだが。ミノス以外は。
まあ人間を脅すならドラン一択だかな。
俺は密かに身震いするのだった。