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第155話 魔人の人間化

俺に寄り添っているうちに、マリアとカトリーヌの二人は眠ってしまった。


二人は俺の容姿が少し変わってしまったので、本当に俺がラウルのままだったのかが心配だったらしい。俺が起きて話をしたことで安心したのだろう。疲れもピークだったらしく俺が安心させたらそのまま眠りに落ちてしまった。


傍で寝ている二人をベッドに寝かせ部屋を出る。


部屋の前の廊下にはファントムがいた。起きてすぐに扉の前にいるコイツの存在は分かっていた。


「お前は部屋の中に入って二人を警護してろ。」


「・・・・・」


ファントムはそのまま部屋のドアを開け、かがみこんで入っていく。思い切りドアをしめたりしない。


むやみに壊したりしないように教えた結果だ。



廊下は静かだった。


この城は魔人王ルゼミアの城とは違って、やたら豪華な作りになっているようだ。絨毯や出窓の飾りそして等間隔で並んでいるシャンデリアなど、すべてが洗練されたデザインの上品なものだ。


《ユークリットの城より小さいが、それでも中はこんなに立派なんだな・・》


窓から外を見ると庭が見える。しかし庭は既に手入れなどをされず、放置されていたようで荒れ放題だった。


《手入れなんかしないか・・占領地の城なんて。》


よく見ると出窓のあたりにホコリが溜まっているところもある。ベッドや部屋などは兵士たちが使っていたから、使用部分は多少綺麗にされているのだろうが、他は一人暮らしの男の部屋のように汚れている。


これからティファラとルブレスト以下の騎士たちが、時間をかけ使用人などを雇い入れて復旧させていくだろう。


俺は魔人の気配のする方に向かって歩いているが、どこに向かって歩いているのかはよく分かってない。しばらく歩くと片付けをしているような音が聞こえてくる。



音のする方に足を向けると、シャーミリアとマキーナが音もなく俺の両脇に現れる。


「ご主人様、お二人の様子はいかがですか?」


「ああシャーミリアのおかげでぐっすり寝ているよ。」


「安心したのでしょう。」


「魔人の皆は何を?」


「壊れてしまった城内の補修や掃除をしております。」


「眠りから覚めて早々か。いつもながら勤勉な奴らだ。」


「とにかく皆が破壊してしまった城を補強するのに大慌てです。」


「ある程度でいいよ。後は人間の彼らに任せよう。」


「かしこまりました。」


「ところでシャーミリア、なんか雰囲気変わった?」


「それが私も含めてなのですが・・とてつもない力を授かりまして。ご主人様との繋がりもさらに強くなったようです。」


「とてつもない力か・・」


シャーミリアもマキーナもよく見ると、綺麗の中に可愛さみたいなものが見え隠れする。ありていに言うと可憐だ。


「ご主人様は、なんと素敵なご容姿になられたのでしょう。」


「あ、ああ。なんか髪が真っ白だしびっくりだよ。」


「目が・・紅に。」


「俺もお前たちヴァンパイアみたいに見えるかな?」


「いえ・・ご主人様。気品をたたえたその美しさは、私奴の瞳とは違うもののように感じます。」


「お世辞か?」


「本心にてございます。」


まあ・・本心だろう。シャーミリアは俺に心酔している、心の共有をかければすぐにお世辞かどうかなんて分かる。


ふと・・俺はシャーミリア達、ヴァンパイアの瞳をよく見た事が無い気がした。


「シャーミリア。」


「はいご主人様。」


俺はシャーミリアの肩を掴んでグッと近くに顔をよせる。


金色の巻き髪が揺れていた。


「なっ!」


シャーミリアの頬が紅潮する。


「あ、あのご主人様!?どうされました?」


シャーミリアの瞳は赤だが、深いワインレッドが縁取りされていて中心部分は金色だった。俺が近距離からみてるからか目がだんだんと潤ってきた。


「シャーミリアの瞳も綺麗じゃないか!」


ラウルは単純に興味があって瞳を覗きこんだだけなのだが、シャーミリアの反応は違った。


「ああ・・」


シャーミリアは腰からストンと座り込んでしまった。


なんとなくだがトイレを我慢するようにスカートの上から、股を押さえ込んでいた。


「う、うう。」


「大丈夫か!?何か体に異変があったのか?」


「い、いえ。ふぅーふぅー!問題御座いません。」


「問題ないことあるか!治療が必要かもしれないぞ!」


「わっ私奴は不死です。問題はないのです。」


スッと立ち上がった。


「ご主人様。お見苦しいところをお見せしました。」


「大丈夫なのか?」


「はい、ちょっと取り乱しました。無礼をお許しください。」


「ぜんぜん無礼じゃないけど・・」


すると・・その横でマキーナももぞもぞとしている。主従関係があるから何かが反応しているのかもしれなかった。


「マキーナは大丈夫か?」


「もちろんでございます!ご主人様!何も問題などございません!」


クールビューティーの束ねた長い髪を揺らして慌てている。そのしぐさが分かりやすく言うと・・可憐だ。


「なんかすごく雰囲気が柔らかくなったみたいで良かった。これなら確実に人間社会に溶け込んでもばれないぞ。」


「そ・・そうですか。でも私奴はご主人様から離れるつもりなど・・」


「ああ、ずっと一緒に居てくれていいよ。俺が死んだ先も生きるんだろうし、その間だけでも傍に居てくれれば」


「そんな・・ご主人様がいなくなるのなら、私奴は消滅を願います。そ!そうだ!ルゼミア様にお願いしてそうしてもらいます。」


「そんなことはダメだ。」


「そんなぁ・・」


「ま、そんなことは遠い先に考えようぜ。」


「はい!かしこまりました。」


なんだか喜怒哀楽がはっきりしたような気がする。こいつはもう少しポーカーフェイスだったよな・・


「人間社会に溶け込んでもバレないというのは、俺達がこれから国を奪還した後に、他国との交渉などをお願いするかもしれないからだよ。そのためには傍に居てもらわねば困る。だって秘書だろ?」


「左様でございますか。そのようなお考えをお持ちだったのですね。」


「ああ、いきなり人外の者が交渉に行っても上手くいきそうにないからな。」


「さすがはご主人様。聡明でいらっしゃいますね。」


「成り行きでそうなるだろうって事だけさ。」


「とてもうれしく思います。」



どうやらシャーミリアが納得したようだった。


そう・・俺が思ったのは、シャーミリアとマキーナがより人間のように見えるようになったという事だ。雰囲気が人間に近いというか、あの冴えわたるような魔力の放出が止まっているように見える。


《ルブレストにはみんなが魔人だって一発でばれたからな。この状態ならある程度は誤魔化せるんじゃないのか?》


俺が気にしているのはそこだった。ルブレストのような強騎士には魔人達の正体がばれているようなのだ、並の騎士にはそれが見抜けないらしい。


「ここは何階なんだ?」


「はい3階にございます。」


「みんなは?」


「2階と1階に」




3人で階段を降りて廊下に出ると、左側からゴーグが手を振ってくる。


ていうか・・ゴーグ。めっちゃショタ。


可愛らしい男の子がいる。これは・・ミゼッタがメロメロになりそうだな。


「ラウル様!お目覚めになったんですか?」


「ああ、起きるのが遅くなってしまった。」


「寝坊ですかー。俺も起きたのは遅い方です。」


「元気そうでいいな!」


「なんだかめっちゃ動きたい気分なんですよね。今は俺が壊した部屋を片してました。」


「そうか!引き続き頼むよ。人間に全て任せたら大変だからな。」


「まかせてください!」


尻尾をブンブンと振っているような錯覚を覚える。おそらくオオカミスタイルになっていたら振っているのだろう。



その方向とは反対の廊下にまわってみる。


すると部屋から・・普通のおっさんが出てきた。いや・・普通じゃない!渋い・・いぶし銀だ。やはり魔力は抑えられているようだった。


「ああ・・ラーズか!何かずいぶん雰囲気が変わったな。」


「はい、目覚めたらこのような姿に。まあ我ながら気に入っておりますぞ!」


「うんいいと思う。何というか・・凄い思慮深さを感じるよ。」


「はは・・そうですかな。まあいろいろと考える事はございますが、私はただラウル様に従うだけですぞ!」


「うん。よろしく頼むよ。」


「お任せください。」


ラーズの笑顔はとても引き込まれる人間味の溢れる笑みだった。惚れ惚れする。体は太鼓っ腹のように見えるが全てが筋肉の塊だ。普通の人間の筋肉とは違うダンプ並みの力を発揮する筋肉だった。それがさらに強化されたのか?どちらかというと小さくなった気もするが・・


とにかく戦闘訓練の時に分かるだろう。



先に向かうと舞踏会場の入り口のような豪華な扉が開いている。


ふっとその部屋に入ると・・


は・・はわわわわわ。世紀末のあれだ・・あの・・覇王だ・・


俺は後ずさってしまった。頭の両脇にある角がものすごく迫力ある・・


「おお!ラウル様!起きられましたか!」


凄い風圧を感じる笑みで声をかけられる。


「ミノスも・・なんかものすごく人間っぽく・・いや人間というより・・凄いな!」


「いやはや、起きたらこの姿になっておりました。」


「で・・その格好は?」


「これはセイラが勧めてくれたのですぞ。どうやら人間は掃除をするときにはこのような物をつけるのだとか。」


覇王は純白のエプロンを着けていた。そして床を磨いていたのだった。


「おう!似合ってるぞ!」


「そうですか!我は少しおかしいかと思っていたのですが、ラウル様がおっしゃるのであれば間違いがないですな!」


しまった・・


間違って似合うなんて言っちゃった。


「そうだな。まああまり人前に出る時はそれは着ない物なんだ。掃除の時だけにしてくれよ!」


「そういうものなのですな。わかりもうした!そのように致しましょう。」


そしてミノスをそのままにして、俺はさらにエントランスの吹き抜けの先に進む。




「あっ!ラウル様」


うわぁぁぁぁぁぁ美人すぎる。もう・・この人にメロメロにならない人なんていないだろう。いきなりの美人の登場に・・目が潰れるかと思った。


「カララ!戦闘では連携うまくいってよかったよな!」


「ええ、またいろいろな改善点も見つけましたし、次はもっと面白い事をしてみたいですね。」


「おう!カッコイイの考えようぜ!でさ・・カララも見た目が変わったよな・・」


「ふふっ。いかがです?ラウル様のお好みですか?」


「ま、まあ・・そうだな。ホントいいよ!」


「あら。それほどでもなかった様子ですね。」


「そんなことは無い!いいよー凄く美人だ。」


「照れます。」


本当にキラキラと美しかった。髪の色がヴァイオレットになっている。凄く似合っていてこれは・・俺の配下であることがうれしい。



配下がどんどん変化していくが、見ると誰だかわかる。それはおそらく系譜のつながりによるものなのだろう。そして俺はさらに奥の部屋に進むのだった。


残りの魔人が楽しみだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファントムはそのまま部屋のドアを開け、かがみこんで入っていく。思い切りドアをしめたりしない。 むやみに壊したりしないように教えた結果だ。 ファントム君…ちゃんとモノを覚えられるんですね……
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