第153話 全方位有線攻撃
アンドロアルフスが呼び出した大量の孔雀の羽の先は、まるでダガーのようになっていた。
羽は部屋内を吹き荒れており、まるで回る洗濯機の中で凶器が暴れているような状態だった。普通の人間なら1秒と持たず、跡形も残ることなく血煙になって消えるだろう。
轟轟と音を立て孔雀の羽が部屋中を飛び交っている。
その中でも、アンドロアルフスが出した30体あまりの鳥人間には羽は当たらないようで、鳥人間たちからの攻撃も同時に繰り出されているのだった。
「この羽は自分の味方にだけ当たらないのか・・凄いな」
この波状攻撃ではグラドラム戦前・・俺と合流する前の魔人達なら苦戦した可能性はある。
飛び回る羽の数が多くてアンドロアルフスどころか、近くに居るだろうカララもほとんど見えない。孔雀の羽の吹雪の中に立っているようだった。かろうじて俺のそばで羽をさばいているドランの姿は分かる程度だ。
《大丈夫かシャーミリア。》
《攻撃が遅すぎて問題になりませんわ。》
《カララは大丈夫か?》
《ええ、一つとしてラウル様にもカトリーヌにも当てる事はありません。》
どうやらカララは俺だけじゃなくカトリーヌに飛ぶ前の羽もさばける余裕があるらしい。
《ドランは?》
《たまにかすりますが、俺のうろこには傷ひとつ付けられないようです。》
《ルフラ?》
《もちろんカトリーヌにはかすり傷ひとつ負わせてませんよ。》
ファントムは視認できないが俺の化身と言ってもいい存在なので、どうなっているのかはっきりわかる。ファントムは羽をブンブン振り払っているが、たまにドスドスと体に刺さっては抜いているようだ。ヤツにはまったく被害が及ぶ事はないが、どうやらこういう細かい攻撃が苦手なようだ。
とにかく配下達には問題なさそうな攻撃だった。
俺達がどうなっているのか確認する為なのか、やつの孔雀の羽攻撃が止まる。
視界がひらけこちらからアンドロアルフスが見えた。向こうからも俺達を睥睨していた。
俺は改めてアンドロアルフスをまじまじと眺める。
《あいつ普通の人間の貴族のように見えるな・・伯爵と言われても信じそうだ。》
人間となったアンドロアルフスはかなりの美男子だった。これは前世の腐女子ならば、うちのギレザムとの恋が始まりそうな雰囲気だ。
アンドロアルフスは俺達が死んでないのを見て、こめかみに青筋を立てているようだ。
「なぜ死んでない?死ね死ね!しねぇぇぇぇ!」
再び孔雀の羽が猛威を振るい始める。羽の嵐が始まり四方八方に羽が飛び始め俺達に襲い掛かる。
《なんか・・惜しい!イケメンなのに。》
攻撃は凄いのに脅し文句がどう考えてもザコキャラ的なのだ。
「あいつはデモンなのにヒステリックだな。人の話聞かないし。」
アンドロアルフスは、なかなか死なない俺の配下達にしびれを切らしたのか、焦っているようにも感じられた。
また確認するようにアンドロアルフスが孔雀の羽攻撃を止める。
「なんだ!なんなんだ!お前たちはぁ!なぜ死なないんだぁぁ」
とにかくヒステリックだな。俺も凄く不愉快になってきて叫んだ!
「うるさいな!おまえは!キャンキャン、キャンキャンって!デモンなんだろ?」
俺の方を向いたアンドロマリウスが思いっきり不快な顔をした。
そんなアンドロアルフスはおもむろに俺に手をかざしてきた。手の周りに黒い何かが出現したが、モワモワとしており、それが何なのかよくわからなかった。
黒っぽいオーラのようなものが向かって来る。
《あれ?余計に怒らせたかな?なんだあれ?》
それは霧のようなもので、カララが蜘蛛の糸で振り払おうとしても霧を通過してしまった。ドランが槍を風車のように回すとそこで左右に割れて、しかしそこからあふれた黒い霧は四方から俺に近寄って来た。
「どうするか・・俺が動けばカララとドランが敵の羽をさばきづらくなるな・・」
まあこの黒霧が何なのかを知りたいところだが・・
M9火炎放射器を召喚して、黒煙と羽に向かって炎を放射してみる。
すると羽は燃えてポトリと落ちるのだが、黒煙は消す事が出来ずに炎をかいくぐって近づいて来た。
「ラウル様!お逃げください!」
カララが焦った声をだした。
あれ?カララが焦ってる。これはまずいのか・・相手の能力を調べようと余裕をぶっこきすぎたか。
俺の体をカララの蜘蛛の糸がドーム状にくるんで繭のようにかばう。
アンドロアルフスの黒霧が繭を覆っていく。
「ラウル様!」
「主!」
カララとドランが叫んだ。
《大丈夫だ。カララの作ってくれた繭で少ししか浴びていない》
黒煙が四散して晴れたため、カララの防御繭がほどかれる。
《なんだ?なんにもならなかったぞ・・・》
そう思っていたのは俺だけだった。なんとなく顔の下側に見えるものがある。自分の意志でそれを動かす事が出来る。
《えっと・・これは・・くちばしだ!?》
びっくりして叫ぼうと思ったら口から出た言葉は意外な物だった。
「キィェェッェェ」
鳥の鳴き声のような金切声だ。
「ラウル様!」
心配したカララが近づいてきてくれる。
「クワックエクエックエッ」
「おまえぇぇぇぇ!!ご主人様に何という事をぉぉぉ!!」
シャーミリアが滅茶滅茶キレてアンドロアルフスに叫ぶ。
「万死に値しますわ!」
カララもキレた。
《まあまて!冷静になれ!》
《ご主人様!》
《ラウル様!》
どうやら念話は通じるようだった。口から声を出そうとするとおかしな声が出るからやめた。
《俺は特に大丈夫なようだ。精神支配も受けていない。》
《安心しました。》
《よかったです。》
すると・・アンドロアルフスは羽の攻撃を止めて、勝ち誇ったように笑う。
「はははは!お前!魔人達を私によこせ!」
「ギェクェクェゲェクェケェケケェ」(なんで負けてもいないのに大事な配下をお前にあげなきゃいけないんだ。)
だめだ。言葉を発する事が出来ない。
「ん?小僧・・なぜ私に従わない?」
それを無視して
ゴロン。俺はAT4ロケットランチャーを召喚した。アンドロアルフスに撃ちこんでみる。
バシュー
アンドロアルフスは俺とロケットランチャーの射線上に、飛ばしていた孔雀の羽を集めて扇のように広げロケットランチャーの弾頭を防いだ。アンドロアルフスに届く前にランチャーは爆発する。
「なんだ?なぜ私の支配下に入らないのだ!?」
鳥人間になるとどうやら、あいつに支配されてしまうらしいな。なんで俺は支配されないんだ?
「そして今の魔法はなんだ!危険すぎるな!」
「クェ・・」
いかん・・答えようとしても鳥語になる。
念話でルフラに指示を出す。
《ルフラ!魔人は鳥人間にはならん!カトリーヌにはこの黒い霧は吸わせるな。》
《ラウル様あの・・もう・・》
「クェクゥカアァ」
とっても可愛い声で鳴く鳥がいる。・・カトリーヌ。
《ラウル様!カトリーヌは私が抑えてます。大丈夫です。》
どうやらカトリーヌは精神支配を受けてしまったらしい。
《すまんルフラ。そのままカトリーヌを頼む!もしもとに戻らなかったら母さんに殺される!》
《おそらくまだ大丈夫です。カトリーヌの声は私に聞こえてますから。》
《わかった。みんな聞いての通りだ!相手の能力は大体分かったと思う!カトリーヌをこのままにしてはおけない。》
《かしこまりましたご主人様!》
《カララ!じゃああれを実戦で試す時がきた!》
《承知しましたわ。ではラウル様私の前に!》
アンドロアルフスが俺達の動きに警戒して、攻撃をやめたようだ。
こっちを睨んでいる・・
「何をするつもりだ小僧。またあの魔法か?」
アンドロアルフスが俺に聞いてくるが答えられない。
だって俺は鳥だから。
「あれは・・火魔法か岩弾であろう?何度でも防いでやるわ!」
まあ・・魔法で武器を出してはいるけど、攻撃自体は魔法じゃないんだけどね。
《カララ準備はいいかい?》
《ええラウル様いつでも。》
俺は鳥だけどカッコつけてカララの前にしゃがみ込み、両手を広げて一気に武器召喚をする。
瞬間でM134ガトリングを4基、AT4ロケットランチャー6台、12.7㎜機関銃を6基、M61バルカンを2基呼び出した。全て弾丸は装填完了の状態にある。そしてそれらの召喚した武器は・・
全部空中に浮いていた。
いや・・これやって見たかった。バーチャルな映画で見た事あったので・・
簡単なことだ。
全てカララの蜘蛛の糸で操っているからだった。カララは全ての兵器と弾倉やバッテリーまで1トンをはるかに超える兵器を、すべてアンドロアルフスに向けていた。
「な・・なんだ!これは!!」
《おお・・やっぱり驚くよね。これ最初に考えた時、超カッコイイと思ったもん。》
《ですよね。ラウル様・・私もとってもカッコイイと思いましたよ。》
カララが賛同してくれた。
そう・・現代兵器の有線で死角のない総攻撃を、俺とカララの二人だけで出来るのだった。
ジャッ
となった武器の数々がアンドロアルフスを囲うのだった!
《カララ合図をしたら撃て!》
《わかりました。》
するとアンドロアルフスは何かを感じ取ったように、自分のしもべに戻るように言い放つ。
「戻れぇぇぇぇ!守るのだ!私を守れえぇぇぇ!!」
鳥人間たちはアンドロアルフスの周りを取り囲む。そして孔雀の羽もその周りにさらに出して自分を繭のように囲った。
「カーーーー!」(うて)
ダダダダダダダダダダ
ズガガガガガガガガガ
ズゥウゥンズドォォォン!
ドガガガガガガガガガ
兵器が一斉に攻撃を開始する。羽がはじけ飛び鳥人間たちも血の破片になり飛び散る。しかしまた復活しようとくっつこうとするのだが、その暇も与えない!
しかし・・アンドロアルフスはしぶとかった。
羽が飛び散れば羽を再度だし、鳥人間も飛び散ってはくっつこうとするが、だんだんと追いつかなくなってきている。
「なんなんだ!この攻撃は!!なんなんだぁあ!」
まあアンドロアルフスの耐久力を知りたいのでそのまま撃ち続ける事にする。
「やめろ!やめろぉぉぉぉ!」
そろそろ鳥人間たちの回復が付いてこれなくなってきた。それでも鳥人間たちはけなげに元に戻ろうとしているようだった。
「お、おいつかぬ・・」
羽が少しずつ出遅れ始める。
弾がきれた物は再度召喚し再び戦線に戻る。
ダダダダダダダダダダ
ズガガガガガガガガガ
ズゥウゥンズドォォォン!
ドガガガガガガガガガ
防御が追い付かなくなり、アンドロアルフスの本体に被弾し始める。
「痛い!いだい!!」
ボッ
ズバッ
痛そうな音を立ててアンドロアルフスの頭に腹にに被弾していく。
しつこく体に銃弾がめり込むが、本体の命は全く減っていかない。
「ふは!ふははははははは!」
アンドロアルフスが笑い始める。
「このような攻撃!効かぬわ!しもべも死んではおらぬ!」
アンドロアルフスが防御するのをやめた。痛いは痛いらしいが自分が死なない事を確認すると一気に不敵な笑いを浮かべ始めた。
「いずれ・・お前のこの魔法も尽きるであろう!その時がお前の最後だ。」
「カー!カカカー!クェー!」(ぶきのしようにまりょくはつかってねぇんだよ)
《どれ、イケメンは防御もやめたみたいだし、そろそろ実戦の試験を終えようかね?》
《わかりました。》
「どうだ!小僧!これが私たちデモンの力なのだ!」
アンドロアルフスはもう完全に勝ち誇ってしまった。
《連結LV2》
次の瞬間アンドロアルフスは灰になった。