第152話 魔人vsアンドロアルフス
月夜に照らされ浮かび上がる王城は美しかった。
俺達はそんな美しい西洋城天守の壁外にへばりついている。レンガで作られた、円筒状の見張りが立つような塔の一番上にいた。
シャーミリアとドランは警戒のため俺達の周りを飛んでいた。
俺は通信機を取り出して電源を入れた。
「マリア!そこから見て王城周辺に何か変化があるか?」
「いえ特に動きはなさそうです。」
マキーナとルピアと共に、ストレッチャーに乗って飛んでいるマリアと通信機越しに話す。
「了解。俺達は天守にたどり着いた。」
「はい確認できております。」
「すでに援護射撃は不要だ。」
「そのようですね。」
「マリアは、マキーナとルピアと共にレヴィアサンが破壊した城壁まで行ってくれ。そろそろアジトから47人の騎士とルブレストが到着するころだ。」
「わかりました。」
「正門が塞がれているため分からない可能性がある、騎士たちを裂け目から都市に迎え入れてくれ!」
「はい」
「合流したらそのままマリアとマキーナとルピアは、ルブレストと騎士と共に都市の入り口を見張ってほしい。」
「はい。」
「ティファラだけは絶対に怪我をさせないように頼む。」
「心得ております。」
「では、行け。」
マキーナとルピアに連れられてマリアが王都の西側に飛んでいく。騎士たちと共にレヴィアサンに破壊してもらった壁の裂け目から魔獣が入り込むのを防がねばならない。
俺は次にゴブリン隊に念話を送る。
《そちらはどうだ?》
《この場所からでは特に何も見えないです。》
ティラが代表して答えてくる。
《わかった。俺達は王城天守に到達した。ここからは5人バラバラに動いて都市の市壁の上に眠る市民を守れ。》
《わかりました》
《夜に飛ぶ魔獣は来ないと思うが、どんなことがおきるか予測はつかない。十分注意するようにな。》
《承知しました。》
ゴブリン隊を市民たちの護衛に出す。王都の内部に魔獣などが入り込んでいないかも合わせて確認する必要がある。ゴブリン隊は5人バラバラになり町の闇に消えた。
《アナミス!そちらはどういう状態だ?》
《はい、何事もなく十数万の民を眠らせました・・》
《お疲れ様。それではお前も王都入り口のマリア達に合流してくれ。》
《仰せのままに。》
《騎士が到着したらストーリーに間違いのないように伝えてくれ。》
《はい。》
《半分の騎士を市壁の上にのぼらせるのを忘れるな。》
《はい。》
《重要な役どころで大変だけど頼りにしている。》
《あら・・ふふ。わかりました。》
アナミスに眠らされている都市内の住民は今頃、帰還したラシュタル兵から助けられている夢を見ているだろう。アナミスはその夢の詳細を兵士に伝える役目だ。
《ギル!今はどこに?》
《は!ラウル様。我々はいま2階を全て制圧したところです。2階で屡巌香が焚かれたようですが特に問題はございません。》
ギレザムがそれほど警戒した様子もなく屡巌香が焚かれた事を伝えてくる。グラドラムでガルドジンたちがやられた毒だけに俺は少し心配になるが、おそらく今の魔人達であれば全く問題はないであろう。
《敵はバカの一つ覚えだな・・念のためガスマスクを着用しろ》
《は!皆にも通達済みです。》
《町の中にもすでに敵はいないと思われるが、その場所で下から敵があがってこないように警戒態勢を布いてくれ》
《了解です。》
全員に指示を出し終えたところで天守の中から、鳴き声のようなものが聞こえてきた。
「騒いでるな・・」
矢を放つために用意されたと思われる壁の穴から中を覗き込むと・・
目があった。
孔雀かキジか?と人間があわさったようなものがいた。
「お前は何者だ。どうやってここまできたのだ?」
あれ?気づかれてたのか・・
隙間からのぞいているだけなのに声をかけられたので、全員で中に入ることにした。
「ファントム。」
するとファントムがグーで思いっきり壁を殴る。
岩が砕け散り物凄い破壊音と共に壁に大穴が空いた。部下たちが城を汚さないように慎重に戦っているのに、お構いなしに壊してしまった。
「ああ。下から登って来た。」
俺が答えると、孔雀だかキジ人間だかが言う。
「なんだ!その力は!魔法なのか?」
「いや・・拳で殴った。」
「・・・・レヴィアサンはどうしたのだ?」
「帰ったよ。」
「帰った?」
「ああ」
「馬鹿・・」
レヴィアサンを帰らせた話をしたら、孔雀人間の周りに30人くらいの人間がぞろぞろと人が出てきた。何もいなかったはずなのに急に出現したのだった。戦闘態勢に入ったのかもしれない。
しかし前のアンドロマリウスというデモンと違ってよくしゃべるな・・
「それで質問に答えよ。お前はどこから来たのだ?」
30人くらいの人間に囲まれ孔雀人間はただ淡々と俺に質問してくる。
「さてね。」
「答えよ!」
「それよりお前は何でこんなところにいるんだ?ここは人間の住むところだ」
「答えよ!」
《まったく・・うるさいな。馬鹿なのかな?》
「ユークリットだよ。俺が答えたんだからお前も答えろよ、お前は何者だ?」
「お前の周りに居るものは魔人だな?」
全く話がかみ合わない。
というか俺の質問には答える気はさらさらないんだな。俺が横を向いて仲間に聞くことにした。
「こいつが何者か知ってる?」
「はいご主人様。デモンの1人アンドロアルフスにございます。」
シャーミリアが答えてくれた。
「おまえ・・そこの魔人・・お前は、私をしっているのか?」
シャーミリアは答えない。デモン相手に怖気づいてしまったのだろうか?
「えっと、俺の大事な配下に勝手に声かけないでくれる。」
「配下・・?人間の小僧、魔人の配下だと?お前からなぜかアンドロマリウスの臭いがするのだが?」
「さてね・・誰それ?」
「人間の小僧がさきほどから・・口の利き方に気をつけよ!」
「それはすみませんでした。そんでお前なんでここいんの?」
だんだんと怒りを発してきているように感じるな。
「城に人間の気配がないのであるが、それもお前たちがやったのか?」
「さてね。見に行ったら?」
なんだか目が血走ってるを通り越して赤く輝いているのかな?
すると・・30人くらいの人間のうち二人がフッと消えた。確認のためしもべを送り出したらしい・・
「ふむ・・ふむ」
アンドロアルフスはおそらく念話で、送り出した二人のしもべと話し合っているようだ。
《ラウル様。我の前に人間が二人現れました。》
《ああギル。それは人間じゃないデモンのしもべだ。》
《・・そうですね。気配を感知しました。》
《みんなそこにいるのか?》
《はい。集まっております。》
《警戒しろ。》
《は!》
「なるほど・・」
アンドロアルフスが何かを納得したようにつぶやいた。
「あれらも・・お前の配下か?」
「そうだ。」
「なぜ・・魔人が人間の小僧に付き従うのだ?」
すると俺の脇から怒りに満ちた声が出される。
「あなた・・さっきからご主人様に対して無礼な!」
シャーミリアがキレてる。
「お前は・・お前のような魔人がなぜご主人様などと?」
「誰よりも敬服しているからよ」
「敬服だと。」
《ラウル様。》
アンドロアルフスとシャーミリアが揉めてる間にギレザムから念話が入る。
《2体の人間が裸の鳥のような怪物になりました。さらに騎士の死体になにかしてるようです。》
《どうなっている?》
《屍人化しました・・いや、強い騎士の頭が大口になりジャコジャコと他の兵士を食い始めました。》
まるでファントムの最初の頃のような・・
《たぶん・・グールになるな。》
《そのようですね。》
《大丈夫か?》
《ファントムとは魂を喰らった数が違います。我一人でも十分かと。》
《それでもデモンが直接かかわったグールだ、警戒したほうが良さそうだ。》
《わかりました。全員で対応します。》
念話を終わらせてる間もシャーミリアは激おこなようで、アンドロアルフスに噛みついていた。
「よし、もうそのくらいにしてやれ。」
「はいご主人様。」
シャーミリアがおとなしくなる。
「でどうする?アンドロアルフス君」
「ふはははは、人間如きが!私にかなうと思っているのか?」
はい出ました。倒されるものの鉄板のセリフが。
「やめておいた方がいいと思うな。」
「ふはははは、我は国をも亡ぼす力を持っておるのだぞ?」
「どうしてもやる?」
「かかれ!」
待ったなしだった。俺はやるっていってないのに。
人間たちが毛のない鳥人間になって牙をあらわに飛びかかって来た、30匹くらいいる・・それにしても気持ちが悪い。毛が生えてる方がまだいいな。
「ルフラはカトリーヌを下げて。」
「はい」
ルフラをまとっているためカトリーヌは安全なはずだが、カトリーヌ自身は目の前の毛のない恐ろしい顔をした鳥人間たちに怖気づいているようだ。
「シャーミリアとファントムはカトリーヌを守れ。」
「かしこまりました。」
「・・・・・・・」
もちろんファントムから返事があるわけない。
カトリーヌに群がる鳥人間をシャーミリアとファントムが叩き落す。しかし一瞬ドサっという音とともに床や壁にぶつかり滅茶苦茶につぶれたりするのだが、すぐに復活してまた襲い掛かってくる。
俺の方にも鳥人間が飛びかかってくるが、カララが一匹として近寄らせることは無かった。裸の鳥人間どもはカララの糸で斬られポトリと落ちるが、すぐにくっついてまた飛びかかって来た。俺のそばに来た者はドランが槍で突きさして振り払う。
するとギレザムから念話が届く。
《やはり・・このグール死にませんね。》
《やっぱりそうか。》
《まあ・・生きてた騎士の時よりは強くなった気もしますが、やはり我一人で十分なようです。》
《じゃあギルが抑えといて。》
《わかりました。》
「なぜだ!なぜ死なん?」
アンドロアルフスが困っている・・
「たぶん俺が原因かな。」
「小僧お前はなんだ?」
「まあ死ぬ前に教えておいてやるよ。アンドロマリウスは俺が吸収した。」
「何を言っておるのだ!?」
「お前はデモンだから、人間や魔人なんて余裕だと思っただろ?」
「だから!!何を言っておる。」
「鈍いな・・お前もたぶん同じ運命にあるんだよ。」
「馬鹿な!」
毛が無い鳥人間たちは配下達に攻撃されバタバタと落ちては生き返り、落ちては生き返りをくりかえしていた。
「さてと・・」
俺がつぶやくとアンドロアルフスが笑い始める。
「くっくっくっくっくっ。ほざくなよ人間の小僧が・・私の正体を見せてやろう・・」
ん?まさか・・そんな・・孔雀人間から恐ろしいラスボスになるのか・・ドカーンと天井を突き破ったりして?
アンドロアルフスの体が暗闇に覆われる。
「なんだかずいぶんおどろおどろしいな。大丈夫かな?」
そしてその暗闇が振り払われたときだった・・
なんと!人間が出てきた!
《えっ!意外!まさかの普通の人間が出てきたんだけど!》
そして次の瞬間、アンドロアルフスの周りに美しい孔雀の羽のようなものが浮かんでいる。
それが俺達めがけて飛んできた。
これは・・フィ〇ファン〇ル!
なんて・・ついつい言ってしまうのだった。だって元の世界では世代だったのだもの。
ファントムはそれを避けるように動くが、ダガーのようになった切っ先がファントムにドスドスと突き刺さっているようだ。シャーミリアはひらりひらりとかわしている。
《どちらかというとシャーミリアの方が〇ュータイ〇だな。》
カトリーヌにも羽がまとわりついているように見えるが、刺さってもルフラをまとっているため届かない。
俺に飛んでくるものは全てカララの蜘蛛の糸が叩き落す。
すると脇からドランが口を開いて火を噴いた。
ブオオオオオ
羽が焼け焦げてポトポト落ちる。
アンドロアルフスが不敵な顔で言う。
「ふふふ、まだだ!まだ終わらんぞ!」
またアンドロアルフスの周りに孔雀の羽が出てきた。今度はさっきの4倍くらいの羽の数だ。まるで孔雀が羽を広げたようになっている。
「よし!じゃあカトリーヌ、こいつに聖魔法を照射してみてくれるか?」
「はい!詠唱は済ませています!エヴィルイレース!」
カトリーヌからまばゆい光が発せられた。直接見ていられないような光だ。
光が消えると毛のない鳥人間たちは、目を覆い隠すように壁際によっていた。飛んでいるのは一匹もいない。しかも皮膚の表面が焼けただれたようになっている。相当痛いようで、ギャーギャーと泣き叫んでいる。
鳥の丸焼きだ。
だが見るそばからシュウシュウと修復されているようだ。
《お!効いてるみたいだが・・消えはしないか・・》
アンドロアルフスを見ると手を目の前にかざしていたが、すぐにその手をどけて話はじめる。
「うわっっはははは!それがお前たちの切り札か!?拙いのう!そんなもので私は殺せぬわ!」
いや・・試しにやってみただけなんだけどな。
「さて・・これからなぶり殺しにしてやろうかね。言葉も出ないようなら小僧、お前は後は死ぬだけだぞ。死んだあとは配下を全てもらってやろう。」
「いやー試しに聖魔法をやってみただけだ。やっぱりデモンてのは強いんだね、魔法は効かないの?」
「そのものとの格が違うわ!」
「なるほど、効く効かないには上下関係があるのな。」
「そうだ。とにかくお前たちはなぶり殺しにせねば気が済まぬ。」
「そう簡単にいくかな?」
そしてまた鳥人間たちは立ち上がり、ふたたび俺達に飛びかかろうとするのだった。
アンドロアルフスの周りには孔雀の羽が広がっていた。