第150話 王城攻略開始
王城の正門を開けると1階のエントランスホールにはゾンビがウロウロしていた。
ギレザム、ガザム、ゴーグ、ミノス、ラーズ、スラガが門をくぐり中に入る。
ゾンビはそれに気が付いてウロウロと寄って来た。元騎士が剣や槍を持って近づいてくるが既に精彩を欠いている。ゴブリンたちの手榴弾による攻撃で身体を破損している者も多かった。
「屍人か・・」
ギレザムがつぶやきミニガンを構えて掃射していくと、ゾンビは粉々になりながらバタバタと倒れた。
キュィィィィィィィ
ガガガガガガガガ
さらに吹き抜けになった2階の通路には、20人ほどのファートリアの魔法使いたちが待ち構えていた。エントランスを見下ろすようにしながら、すでに魔法の詠唱を終えていたようだった。
それぞれの手に火の玉、氷の槍、土弾、を浮かび上がらせている。
「さて・・」
スッと前に出たスラガがつぶやくが特に何をする気配もない。スラガは巨人化を解いたためラウルが召喚した迷彩戦闘服を着ていた。以前グラドラムの戦闘で同族のマズルがファートリアの魔術師から大けがをさせられている。
「撃て!」
敵の魔法師団長の声が轟く。
ボッボッボッボッ
シュパッシュパッ
ダッダッダッ
魔法使いたちが一斉に攻撃を開始する。
ドガガガガガガ
ゴワアアアアア
一気に魔人達が見えなくなった。それでも攻撃の手を緩めず次々に魔法を撃ち続ける。
「攻撃やめ!」
魔導士団長の声がかかり魔法攻撃がやんだ。
しばらくすると視界が開けてくる・・
魔人6人のうち5人はそのまま何もなかったように、元の場所に立ち尽くしていた。
「なに!効かんだと!?」
1人の小さな魔人が斧をもって5人の魔人達の前に立っていた。
魔導師団長には何が起きたのかがわからなかった・・他の20名の魔法使いにもまったく見えていない。
「いったい・・」
魔導師団長がつぶやく。
しかし魔人達には何が行われたのかが見えている。20人ほどの魔法使いが放った魔法を、小人のスラガがその斧ですべてを叩き落としてしまったのだった。
スラガとゴーグのミニガンが二階を向いていた。
キュィィィィィィィ
ガガガガガガガガ
手すりは砕け壁に穴を空けながら、魔法使いたちがバラバラになっていく。ミニガンの掃射にひとたまりもなく一掃されてしまった。
「すこし建物を壊してしまった・・」
ギレザムがつぶやくが・・皆が微妙な顔をしている。
「では・・上にあがるか。」
ミノスが言う。
ダン!
6人が100キロを超えるM134ミニガンとバックパック装備を背負いながら、軽々と2階の通路に跳躍した。
《それでは掃討作戦を開始する。》
ギレザムが念話で全員に伝える。
おう!
6人の魔人達はそれぞれ王城内をしらみつぶしにしていく。一つ一つ部屋を空けて兵士を見つけたら全てを排除していく事になっている。兵士がいない部屋をむやみに壊さないようにというラウルからの指示を守りながら、一部屋一部屋丁寧に確認していくのだった。
ゴーグが最初の部屋のドアを開ける。
「シュッ!」
ゴーグが部屋に侵入しようとすると、横なぎにロングソードが振るわれてきた。
しかし・・部屋に入る前に敵の気配を察知していたため、かぎ爪を出して左手一本でロングソードを叩き折り、下から上に軽く爪を走らせた。
バシュ
騎士は腹から頭にかけて裂け、バナナの皮のように4方向に広がってしまう。血が吹き出て倒れ込む・・
ドチャ
「うわ・・床を汚しちゃった!」
すると部屋にいた4人のプレートアーマーを着た騎士たちが剣を突っこんでくる。
ガキガキガキガキ
左手一本で剣を全て叩き折り、右のミニガンを発射しながら片手一本でグルンと振り回す。
キュィィィィィィィ
ガガガガガガガガ
体を上下にちぎれかけさせながら騎士たちは吹っ飛んでいく。
「やば!面倒で部屋を壊しちゃった・・」
ゴーグは部屋の内部に兵士の気配がない事を確認し、その部屋を後にするのだった。
ガザムが廊下を進んでいると少しの異変を感じ取った。
その廊下には何かがある。
しかしガザムはそのまま突き進んで行くのだった。すると両側の壁から矢が放たれてきた。どうやら壁に罠が仕込まれてらしかった。左右から20本の矢が放たれ至近距離ゆえに到達は一瞬だった。それに合わせ前方の廊下の曲がり角からプレートアーマーの兵士が10名ほど突撃して来た。
矢で負傷したところを一気にとどめを刺すつもりのようだったが・・
次の瞬間、20本の矢は既にガザムが全てつかみ取っていた。
「えっ・・」
一人の兵士がそれに気が付くが、突撃は止まらなかった。
するとガザムの手が振られる。
シュッ!
ガザムの手からはすでに20本の矢は消えていた。
その矢の行き先は・・
10名の騎士の鎧の無い部分、眉間と喉、目や、口に突きたっていた・・
ドサドサドサドサドサ
ズサササササー
兵士たちは突撃の勢いのまま頭からガザムの足元まで滑ってくる。
全て死んでいた。
「ラウル様はあまり部屋を傷つけたくないとおっしゃってたからな・・」
ガザムは部屋を壊さずに敵兵を排除するよう、注意をはらっているようだった。
兵士の死体からはほとんど血は出ていないようだった。
ラーズが進む部屋はどうやらキッチンのようだ。
ダン!とドアを開ける。
すると13人のフルメイルの騎士たちが剣を構えて待ち構えていた。しかし・・困ったことがおきた。その後ろには非戦闘員がいたのだ・・キッチンメイドや給仕人だった。
「ふむ。」
ラーズはミニガンをバックパックの横にぶら下げ、腰につけた斧を手にする。
「ラウル様に言われているからな・・」
ラウルに言われていたのは非戦闘員はラシュタルの民である可能性が高いから、一人も殺してはいけないという事だった。もしかするとファートリアバルギウスの一般人かもしれないが、それも殺さぬようにというお達しだ。
ラーズは決めた。この場から一歩も動かず攻撃してきたものを殺ると。
すると右にいた騎士が上段から斬りつけてきたのをきっかけに、全ての騎士が前進してくる。
ドンッ
ラーズが足を叩きつけると床が揺れる。騎士はバランスを崩し前のめりになりながら突っ込んでくる。
バグゥ
鎧兜の頭が中身をまき散らして飛び散る。
ジリっと・・兵士が後ずさる。
「ふっ、バルギウスの兵は腑抜けか・・」
わざと聞こえるように言うと、ギリッと歯を噛む音が聞こえた。
兵たちは後ずさるのをやめまたじりじりと前に出てくる。すると敵兵の隊長のような奴が言う。
「全員でかかるぞ!」
大声で兵たちに号令をかけると、ラーズが言う。
「馬鹿めが!作戦が筒抜けだぞ!」
「作戦などいらぬわ!」
敵の小隊長が叫ぶと、12人の騎士が一気にかかって来た。
部屋を血で汚すのを嫌ったラーズは、斧の刃を立てて腹の部分で右から左へと掃う。
めきょめきょめきょめきょ!!
12人の胴体部分がぺしゃんこになり左側に全てよってしまった。
ビシャァ
ボタボタボタボタボタ
壁に盛大に血が飛び散り、血がしたたる。12人ひとまとめになってしまった騎士たちはダンプにひかれたようになり即死だった。
「くっ・・脆いものだな。かなり手加減したのに血で、壁と床を汚してしまったではないか・・」
ラーズはキッチンの使用人の方に歩くが、皆真っ青な顔でラーズを見ている。
「あと・・我とやり合うものはおるか?」
誰も口を開かなかった。キッチンの中も確認するが兵士はもういないようだった。ラーズはそのままのしのしとキッチンを後にするのだった。
ミノスが豪華な絨毯が敷かれた階段を上がったすぐの部屋の前にいた。ひときわ大きな扉がある。
中にはかなりの数の気配を感じる。
「なるほど。」
ミノスがほんの少し考える。かなりの兵士がいるため部屋を壊してしまう可能性がある。しかし考えていても時間がすぎるだけだった。
バン!
豪奢な飾りのある大きな扉をあけ放つ。
するとその瞬間、奥から氷の槍が数十本飛んできた。魔術師が待ち構えていたようだった。
ミノスは左腕を一振りする。すべての氷槍を素手で振り払う。
バリンバリン
音を立てて氷槍が叩き落される。
ミノスが部屋を見渡すと、どうやら舞踏会場のようだった。豪華な舞踏会場には大きなシャンデリアが5カ所にあり、大きな絵画が壁に飾られていた。大きな窓枠に飾りがありこれも非常に高価そうだった。
「うむ・・」
ミニガンをバックパックの脇にぶら下げ、斧を持つ事もなくそこに立っていた。
敵の隊長らしき男が声をかけてくる。
「お前・・獣人だろう。これだけの兵に勝てると思っているのか?」
ミノスはそれに応えることなく、足元の絨毯を見る。これも高価そうだった・・
「おい!聞いているのか?」
「血で汚したくない。」
「はあ?ならば投降しろ!獣人!」
ミノスはそれにも答えることなく、足元にかがみこむ。そして・・考え始めるのだった。
「おい!聞いているのか!?ここには騎士が50人と魔導士が20人もいるのだぞ!」
ミノスは全く聞いている様子もなく、足元の絨毯をむんずとつかんだ。
「ふん!」
まるでテーブルクロス引きのように絨毯を引ききる。しかしテーブルクロスのようにうまくはいかず兵士たちの大半は転んでしまったようだ。舞踏会場は体育館の半分くらいはあるのに一気に絨毯が丸められた。
「ぐっ・・」
「いっつつ・・」
「な・・・」
騎士がそれぞれ起きあがった。
ミノスは武器を取ることなく、兵士たちのほうに進んでいく。
「やっ!!やれ!!」
魔法使いたちはフルプレートの騎士に光魔法と神聖魔法で身体強化魔法をかけていく。
「防御力向上」
「敏捷速度向上」
「魔力耐性」
「物理打撃耐性」
兵士たちは薄っすらと輝いて身体能力を上げていく。バルギウスの騎士たちはファートリアの魔術師たちの援護を受けて、人間としては恐ろしいほどの速度で突っこんで来た。
8人の騎士から剣を突き出される。
普通の人間ならばその突きは目に見えないほどだった。
ジャラリ
鉄が重なるような音がした。
8本の剣は全てミノスの手にあった。刃の部分を造作もなくつかんでいた。騎士たちは手に剣を持たずに、突いた勢いのまま前のめりにミノスの前に体をさらしてしまう。
ヴァ
8人の騎士はそのままミノスを通り過ぎて、とぼとぼ歩いている。ただ先ほどとは少し違っていた。
ブパァ
兵士たちの首が消えていた。そしてその消えた首の根元から血が吹き出たのだった。
ドサドサドサドサドサ
頭の無い兵士たちはそのまま倒れ込んだ。
「なっ・・・」
次の瞬間!
ミノスの体が消え兵士たちの中に出現する。巨体とは思えないスピードだった。
その場所に暴風が吹き荒れた。
「全部床に飛び散るように始末してくれるわ。壁や天井に飛び散ると厄介だからな。」
部屋の中の兵士は全て撲殺され、手でちぎられ、圧殺されていく。全て素手で処理されていくのだった。
ギレザムは3階に上る階段に向かう。2階の部屋は他の仲間が制圧しているころだった。
すると階段の前には数名の騎士と魔導士がいた。攻撃を仕掛けてくる事もなくこちらを睨んでいる。ギレザムは何事もないようにそちらに向かって歩みを進めていく。
「お前・・なんだ?獣人か?」
その中でも最も大きな気を放つものが、こちらを睨んで話しかけてくる。
「まあ・・そのようなものだ。」
ギレザムが答える。
「よくここまでたどり着いたな。2階にはたくさんの部下がいたはずだが・・ドロスも外に出て行ったきり帰ってこない。あの大洪水で巻き込まれるような奴ではないんだがな。」
「知らん。」
「まあいい・・ここを通れると思うなよ。」
どうやらこの男、他の人間とは違うようだった。
「うむ。以前お前のような人間に会ったことがある。」
ギレザムが言うとその騎士は少し考え込んだように黙る。
「グルイス・・か・・?」
「知らん。」
そう・・ギレザムが思い出しているのはファントムの原料になったあの騎士だった。しかしあの騎士の名前は知らなかった、とにかくあの戦いではすべての兵士を殺してしまったため、ファントムの元となった騎士の名前を聞くことが無かったからだ。
「グラドラムに行ったきり戻ってこなくなった・・」
「ならたぶんそいつだろう。」
「そいつはどうなった?」
敵の騎士が悠長に話をすすめる。面倒くさくなってきたギレザムだったが、何かの情報を得ることが出来るかもしれないと思い話をつづけた。
「我らの主が始末した。」
「なに・・グルイスが・・か」
「お前はあいつより強いのか?」
「ああ俺は3番大隊を任されているからな。」
「我の名はギレザム・ダールサム。お前は?」
「レギル・バルドーだ。お前を殺す者の名だ。」
レギルの周りにいる魔法使いたちがバフをかけ始める。
「防御力向上」
「敏捷速度向上」
「魔力耐性」
「物理打撃耐性」
レギルは更に自分の闘気を高めていく。
ギレザムはただ黙ってそれを待つのだった。