第149話 魔人の起源
レヴィアサンは王城の魔石を破壊し、魔法陣の向こうへ消えていった。
俺はセイラに質問する。
「レヴィアサンとセイラとは深い関係があるようだね。」
「はい、私達セイレーンが生誕したのは、レヴィアサンの臓腑からとも肉からとも言われております。私たちも何かは詳しく分からないのですが、つながりは感じ取る事が出来ました。」
「臓腑とか肉でか・・」
もっとこう・・涙とか心とか綺麗な物じゃないんだ‥。まあ涙なんかからなにかが出来るわけないし、心なんて実物がないからな・・臓腑か肉から出来ている方がリアルなところか。あんなバケモノが涙なんか流すわけないだろうしな。
「いや、でも凄く助かったよ。おかげで俺達は生きていられる。」
「祖はいきなり呼ばれて怒っていただけで、目の前にいるラウル様に反応したようです。」
「いきなり呼ばれて怒っただけで、都市を一つ滅ぼしかけるのか・・まさに神って感じだな。」
「申し訳ございません。」
「ははっ、そんなセイラが謝ることは無いよ。」
神様がやったことを謝っても仕方がないし、セイラには関係のない事だ。
「なぜ俺に反応したんだろう?」
「ラウル様を魔と言っておりましたのでそこが問題だったのかと。」
どんな問題なんだ?
なんとなく見えてきたような気もするが・・
「というと?」
「本来、神と魔は犬猿の仲でして。」
「犬猿の仲か・・よくレヴィアサンは俺を諦めて帰ってくれたもんだな。」
「神が作りたもうた人間が魔を御している・・それに興味を持ったようでした。」
「えっと・・それは・・どういうこと?」
「申し訳ございません。そこまでは私には・・」
俺は凄く気になる事があってセイラに聞こうとしたが、シャーミリアが横から話しかけてくる。
「ご主人様、とにかく今回はセイラのおかげで、我々はラウル様を守り通す事が出来ました。」
「ああそうだな・・おそらくセイラがいなければ俺達は全滅だった。」
するとまたセイラが感謝の言葉をのべる。
「私が少しでもお役に立てた事、とてもうれしく思います。」
まったくセイラは謙虚な人だ。というか魔人は全般的に、自分の強大な力を過信して驕るものは誰一人としていない。
俺は話をしながら街をながめる・・街から水はだいぶひいてきたが、そこら中に水が溜まっている。街が平坦でうまく水が流れていかないらしかった。後から水を流す作業は騎士たちと市民でやってもらうしかなさそうだ。
バシャバシャ
西から東に移動するのは水の流れが激しく移動がたいへんだったが、ようやく水の流れも落ち着いて来た。瓦礫が流れてきた時は魔人達が全てはじいてしまう。
建物もだいぶ被害を受けたようで窓は割れ、扉が流されたり軒下の柱が折れたりしている。家自体が流されたものもあり撤去するのには時間がかかりそうだ。しかし東に向かうにつれて無事な住居も出てきており、なんとか復興も出来そうな雰囲気だ。
「それでレヴィアサンが言っていた魔って、もしかしてデモンの事かな?」
俺は一番聞きたいことを聞く。
「はい、その通りです。」
セイラが答えてくれる。
「えっと、という事は・・俺にデモンを感じたという事か?俺の中にデモンがいるの?」
一瞬の魔人達の沈黙があった、移動しながらも何か皆きょとんとしている気がする。いや・・むしろ騒然としている?
「えっ!」
「あの・・」
「ラウル様・・」
「冗談ですか?」
シャーミリアとカララ、セイラにスラガまでが驚いた顔をしている。ミノスは特に表情を変えていない・・相変わらず寡黙なやつだ。
・・・というか俺、なんかへんな事を言ったのだろうか?
「えっと・・誰か説明してくれるか??」
するとシャーミリアが恐る恐ると言った感じで俺に教えてくれる。
「ご主人様は元始の魔人になります。」
「ああそれは知っているよ。さんざん皆に言われ続けてきたしな、でも元始の魔人とデモンと何か関係があるのか?」
するとシャーミリアが何かに気が付いたように雰囲気が変わった。どうやら何を説明すればいいのかが分かったようだった。
「わかりました。ご主人様の疑問はもっともでございます。そういう事なのですね。」
そういう事というのがどういう事なのかはよく分からないが、とにかくその先が聞きたい。
「そういう・・事なんだろうけど。どういう事?」
「我々の祖となるものは、全て神やデモンが生み出したものとなります。」
「ええ!?そうなの!?」
「ああ・・そこからご存知なかったのですね。人間や動物、亜人やドワーフなどは神に造られ、セイラのようなセイレーンはレヴィアサンなどが起源となり、ルピアなどのハルピュイアはジドが起源、ミノスたちミノタウロスはベヒモスが起源、私たち魔人は全てデモンに造られました。」
「そうだったのか。ああ創造主とか言うしな・・本当にそうなんだ。」
それぞれが起源をたどると神や悪魔になるって事か。
「魔人にセイレーンやハルピュイア、ミノタウロスが混ざっているのはどうしてだい?」
「レヴィアサン、ジド、ベヒモスから分けられた肉でデモンが造ったものだからです。」
そう言う仕組みになっているのか。この世界の原理などをしる手掛かりにもなりそうだが、俺の頭ではたぶん無理だろう。
「なるほど・・という事は生誕した手法などが種族を分けていると言ったところかな?」
「はいそういう事でございます。」
「人間の先生には教えてもらえなかったな・・」
「おそらく短命の人間には伝承という形でしか残っておらないと思います。」
「そういうことか。それが御伽噺や物語になっているという事なのかね。」
「はい人間界では御伽噺と言われている物には真実もございます。」
「なるほど。」
それならなんとなく子供の頃に本で読んだことがあるような気がする。御伽噺に隠された話には真実もあるという事なんだろうな。
「それでご主人様はその初めて作られた魔人か、もしかするとデモン様そのものである可能性があるのです。」
「俺は・・半分人間だけどな。」
「そのおかげで今のご主人様がおられるのだと思われます。」
そうか・・なんかわかったような分からないような・・。うん分からない。
「まあ、そうなんだな・・」
俺が曖昧な返事をするとシャーミリアが話をつづけた。
「はい。それでご主人様、アンドロマリウスを討伐した時を覚えておりますか?」
「もちろんだ。」
おっかないデモンだった。よくあれを倒す事が出来たもんだ・・現代兵器さまさまだなと思った。
「そのあとご主人様がアンドロマリウスを吸収なさいました。」
「どうやらそうらしいな。それが良く分からないけど・・」
「それには理由がございます。」
吸収したら配下がめっちゃレベルアップしたんだよな。そのおかげでグラドラムで戦った時と比べかなり高度なことが出来るようになっている。
「理由とは?」
「ご主人様の中におられるデモン様が高位という事です。」
「アンドロマリウスより上位のデモンという事か?」
「そのようです。」
「それはどのくらいのデモンになるのかな?」
「申し訳ございません・・そこまでは私奴、下々の者どもにはわかりかねます。」
そういうことらしいな・・。まあ高位魔人のシャーミリアやカララでも分からないんだったら、具体的には分からないか。俺の中にいるのはあのアンドロマリウスなどのデモンの上位版って事なのかね?
《えー!俺の中にあんなおっかないのが棲んでいるの?》
ふと思う。俺の半分はデモンだと言われても怖いだけだった。
「ですから、私奴は我々の創造主であるデモンかもしれない方を、御しているご主人様に敬服しているのです。」
そうだったのか!おかしいなと思ったんだよ・・カリスマがあるわけでもなく人徳もない魔人達にこうまで慕われるのは変だもん。恐怖で従っているわけもないし・・そういう理由があったのか。
《いやあ・・俺は意図して、デモンを御しているわけじゃないんだけどな。生まれながらにしてそうだったというだけで、たまたまだと思うんだけど。》
「そして・・それはルゼミア王に感じる元始魔人の威と比較しても強く感じるのです。」
「母様より・・」
「はい、ですからルゼミア王は、次期王にご主人様がふさわしいと考えておいでなのです。」
「なんだ・・ガルドジン父さんと二人きりになりたいからだと思ってた。」
「・・ご主人様・・それもあると思います。」
あるんかい!!!
もうすぐ王城前だ。まだ誰も動いていないようだ。俺の指示を待っているのだから当然だ・・王城は危険だと思い門の前で待機させているのだ。
王城の隣にあるファートリアバルギウスの兵舎は既に燃え尽き、水によって火は全て消え去っていた。あの大洪水ではおそらく一人として生き残っている物はいないと予測される。
「ラウル様!」
マリアがこちらを振り向き近寄ってくる。
「ご無事でしたか!」
「ああ・・何とか大丈夫だ。」
「水のせいで私は何の役にも立ちませんでした。」
「あの氷の槍はマリアなら絶対打ち落とせた、代わって欲しかったと思ったよ。俺には無理だった・・」
「このような事を想定して次回は対策を考えたいと思います。」
「だな。皆で考えよう。」
すると脇にいたカトリーヌが話しかける。
「もしお怪我をなさっているのならば私が回復いたします。どこか怪我はございませんか?」
「大丈夫だ。シャーミリアがひどかったが自己修復で治っているよ。」
「よかったです。それではこの戦いが終わったら、避難時に怪我をした住民たちを回復したいと思います。」
「よろしく頼む。」
すると上空からルピアが降りてくる。
「ラウル様、都市内13万の住民をアナミスが順次眠らせております。ラウル様がご指定した通り、騎士たちが救出した夢を見ている頃です。」
「よし!計画通りだな。」
王城前にすべての配下が集まった。そこで俺は指示を出し始める。
「よし!ティラ、タピ、クレ、マカ、ナタのゴブリン隊は高い建物の最上階に待機。都市内に変化が起きた場合俺に逐一報告してくれ!教会の鐘の塔が生きているな、あそこがいいだろう!」
「「「「「はい!」」」」」
ゴブリン隊が俺達の元から消え去る。
俺達は改めて王城を見上げた。
レヴィアサンが魔石を除去してくれたおかげで障壁が取り去られてしまったようだった。おかげでシャーミリアなら内部が透過出来るだろう。
「シャーミリア。内部はどうなっている?」
「はい・・人間がまだ内部に残っています。おそらく上階に逃げていたのでしょう。」
「他には?」
「最上階の部屋に人間ではないものがおります。おそらくは・・」
「デモンか?」
「はい。そのデモンのおかげで内部で死んだ兵士が屍人化しております。」
「わかった。」
ゾンビ化したか。
まあ配下の誰一人としてゾンビに後れを取るようなものはいなかった。低位の力しか持たないゾンビなら、どんなに居ても敵にはならないだろう。
俺はその状況を聞いてさらに隊を3つに分けることにする。
「マキーナとルピアはマリアをストレッチャーで王城の上空に運び、マリアが外側からの狙撃体制を取る。」
「「「はい!」」」
「ギル、ガザム、ゴーグ、ミノス、ラーズ、スラガは正門から突入して上まで順番に上がってこい。各階の兵士は全て殺してかまわない。」
は!
「シャーミリア、ファントム、ドラン、カララ、そしてルフラをまとうカトリーヌは最上階の外から侵入する。マリアは狙撃で援護をしてくれ。
かしこまりました!
俺達は王城の攻略を始めるのだった。