第146話 ナパーム攻撃
敵の兵舎が燃え盛っている。
シャーミリアとマキーナ、ルピアがナパーム弾を投下したからだ。
ナパームは1,300℃の炎であたりをすべて焼き尽くしていく。ナパームは残酷で非人道的だと批判が出たため、米軍では廃棄処分された兵器だ。
「早く火を消せ・・・」
叫んでいる兵士がすぐに倒れた。ナパームの炎が周りの空気を大量に消費して燃焼するため、酸素欠乏で窒息してしまったようだ。さらに火の直撃を免れたとしても、火のそばにいれば高熱の空気を吸い込み肺があっという間に焼けてしまう。
バタバタと兵士が死んでいっている様子が、シャーミリアからの視界の共有でハッキリわかった。
「に・・にげ・・」
パタン
人間が速攻でパタパタと倒れていくのは一酸化炭素中毒だ。高濃度の一酸化炭素が一瞬にして意識を奪っていく。意識が奪われて倒れた人間はそのまま炎に焼き尽くされていく。
「み・・水を・・」
やっと建物の外に出て、炎から遠ざかれた者が馬用の水飲み桶から水を汲み建物に走る。しかしそんなものは焼け石に水だった。あっという間に衣服に燃え移り焼けていく。
「う・うわ!火が!火がぁ!」
衣服についた火をはらおうとするが、そのうち倒れて動かなくなる。
密集していた建物に火が燃え移りどんどん炎は大きくなっていった。ここは壁に囲まれているため兵舎だけが綺麗に燃えていく。木造の建物は燃えやすく火が次々と燃え移っていくのだった。
「魔法で水を!」
2人の魔道士が水魔法で放水するが、一向に消える気配がない。ナパームは増粘剤が含有されており水では消火できず、炎は10分以上燃え続ける。いわばゲル状のガソリンのようなもので、水では消火できなかった。もちろんこの世界に界面活性剤や油用消火剤などないため消せるはずもなかった。
《排除します。》
シャーミリアが放水している魔導士二人を銃撃で殺す。
兵舎の中から火が付いた人間がのろのろと出てきた。全身火傷を負って焼けただれているため、意識は既に朦朧としており、自分がどこに歩いているのかすら分からない様子だった。
「みず・・水を・・」
「たすけて・・だれか・・」
「痛い・・くるしい・・」
ゾンビのようになり次々と焼けた建物から出てくるが、どんどんそのあたりに倒れこんだり座り込んだりしている。
「うわぁぁぁぁ」
「熱い・・あつぃぃぃ」
「焼けるぅぅ」
まだ普通に動ける兵士たちもいた。ナパームの直撃をうけず延焼で燃えた建物から出てきた人間たちだ。もちろんそのままにしておくわけがない。
もう数発。
ドゴーン
ゴオオオオオ
ナパームが炸裂し完全な地獄絵図と化した。人間が燃えもうもうと煙が立ちこめる。1300度の業火が這い回る。
しかしまだしぶとく生きている者がいた。
《シャーミリア、マキーナ、ルピア。可哀想だ・・楽にしてやれ。》
《《《かしこまりました。》》》
ガガガガガガガガ
ガガガガガガガガ
ガガガガガガガガ
「うわぁぁぁぁ」
「なっなんだ!」
「ぐばぁ」
上空にいる3人がM240中機関銃で出てきた兵士たちをバタバタと倒していく。まるで・・虫の駆除業者が巣から出てきた虫をしらみつぶしにしているかのようだった。
敵兵たちは炎と黒煙のため、どこからどんな攻撃をされているのか分からなかった。燃える兵舎から逃げ出てきた仲間や友がどんどん死んでいくのだ。すでに半数以上が死んだ。残っていても重傷を負っているものがほとんどだった。
それでもその中には小隊長クラスの兵士がいた。そいつは正面玄関に疾走していた。
ガガガガガガガ
それを狙ってルピアが撃ちこむが走る速度が早すぎて照準が定まらなかった。
《当たりません!》
ルピアが慌てて言う。
《ルピア問題ないよ。どうやら闘気をまとえる奴がいるようだな。》
《そのとおりですご主人様。問題ございません。》
シャーミリアが問題ないという。
《そうだな。》
俺がグラドラムで最初にバルギウスの小隊長クラスの動きを見た時は、心臓が止まるほど恐ろしかった。まあ・・その猛スピードで装甲車についてきた騎士は、最後にはゾンビになって挙句の果てにファントムを作るための材料になってしまったが。
小隊長クラスの騎士が表玄関を突破して兵舎の外に出た時、目の前に恐ろしいものがいた。
しかし・・その面影は見た事がある・・
「ペイントス様・・?」
ビシャッ!
次の瞬間、兵の中でも相当な強さを誇った小隊長はぺちゃんこに潰されていた。
すぐにファントムが吸収する。
ファントムの脇にはM61バルカン砲と巨大な鉄の箱(弾丸ボックスとバッテリーがセットになった物)が置いてあったが、ファントムはそれを使わず、拳をハンマーのようにしてドンと騎士を潰したのだった。
燃え盛る兵舎から逃げるすべなどなかった。
壁を乗り越えようと壁に向かって走る集団がいたが、それを見つけたマキーナが一掃する。一人も壁にたどり着くことが出来なかった。
しかし四方に散らばっていく兵を、全て潰せなくなってきたため少し逃がし始めた。
塀にたどり着き一人二人が兵舎の壁の上から頭を出す。
キュォオオオオオオオ
ダダダダダダダダダ
バボッ
兵士の頭が消える。
ゴーグが放つM134ミニガンから7.62x51mm弾が大量に放出され、頭を出した兵は一瞬で死んでいく。ミニガンは生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に死んでいる・・などといわれる事から、無痛ガンと呼ばれている。いま喰らった兵士は痛みを感じないで死ぬことができただろう。ついでに壁の上側が崩れて壊れてしまったようだ。
《よしファントムM61を担いで正門から入れ。動くものがいたらM61の引き金を引け。》
シャーミリアの視界からファントムの視界に切り替える。
シャーミリアの鮮明な視界とは違って、暗視スコープでものぞいているかのような視界だ。ファントムの視界でも十分すぎるほどだが、やはりシャーミリアの身体能力は文字通りバケモノなのだろう。X線みたいな能力もあるし・・。
まるでVRゲームのようだ。燃え盛る兵舎に向かって歩いて行くと動くものが見えた。敵兵が逃げまどっている様子の映像だ。
ドガガガガガガガガガガガ
M61バルカンを掃射すると10人はいた人間が跡形もなく飛び散ってしまう。
《まるでバーチャルゲームのようだな・・》
どんどん中に進んでいく。建物の陰に居ても容赦なくM61バルカンで黙らせていく。木造の建物など全く問題なく貫いて行くのだった。
倒れた遺体はすぐにファントムが吸収する・・
《まるでゲームで敵を倒したら出てくるアイテムを回収してるみたいだ・・》
しかしアイテムではなく敵兵の遺体だが。
敵兵の遺体を回収している時のファントムの感覚はグロテスクすぎて、俺にはきついものだった。精神を逆なでするような鳥肌の立つ感覚だ。
吐き気を催す。
ファントムを煙の中に進ませて、ある程度兵舎の中を確認して状況を見る。まだ兵はいるようだがそろそろ掃除を完了させなければならなかった。
《ギル!ガザム!ゴーグ!兵を飛び越えて兵舎内に入り敵を掃討しろ。》
《《《了解!》》》
ギレザムとガザム、ゴーグが100㎏以上あるM134装備を持ったまま、ジャンプして塀をやすやすと乗り越えた。魔人達の力は計り知れないほど向上しているようだった。
《シャーミリア、マキーナ、ルピアは俺のところに来てM240弾丸バックパックを交換しろ!》
《《《は!》》》
ファントムとオーガ部隊のギレザム、ガザム、ゴーグが四方から兵舎の建物に向かって機関銃を掃射する。
キュィィィィィィ
ガガガガガガガガ
キュィィィィィィ
ガガガガガガガガ
キュィィィィィィ
ガガガガガガガガ
建物が崩壊していき、動ける人間はほとんどいなくなっていく。あっという間に兵舎は静かになる。
《しばらくはナパームの黒煙で視界が悪いだろう。部隊の変更を行う、ティラ、タピ、クレ、ナタ、マカは兵舎に来れるか?》
《はい問題ありません。》
ティラが返事をくれた。
《ギレザム、ガザム、ゴーグはゴブリン隊が到着次第、王城の門へ集結しろ。》
《《《了解!》》》
王城の隣にある兵舎までは魔人の足ならあっという間だった。すぐにギレザム、ゴーグ、ガザムの元へそれぞれゴブリンが到着する。
《よし。ゴブリン隊はファントムと一緒にこの兵舎を見張れ。動くものがいたら黙らせろ。》
《《《《かしこまりました。》》》》
《処理はファントムに任せる。》
指示を出し終わると、シャーミリア達が俺のもとに来る。
「よし、弾丸の補給をする。バックパックを外せ!」
「「「かしこまりました。」」」
俺は3人のバックパックを交換し、次の指示を出す。
「お前たち3人は王城上空で待機だ。とにかく王城内部がどうなっているか分からないうちに、戦力を突入させるのは危険だ。」
「「「かしこまりました。」」」
3人は俺とルフラアーマーを着たカトリーヌのそばから飛び立っていく。
さてと・・次は王城だな・・
《ラウル様!》
カララから念話が入る。
《どうした?》
《王城の上が光っています。》
俺の所からもハッキリ分かった王城の天守から光が漏れ出している。まるで・・某東京の遊園地のように城がライトアップされているかのようだった。
《やっと罠のお出ましだ。シャーミリア視界を繋ぐぞ》
《はい》
シャーミリアの視界から王城を見ると、天守から青い光が漏れ始めていた。
《一体・・何の罠だ?都市内には魔法陣なんかどこにもなかったがな。作動する前に何とか止めたいのだが罠の正体が分からない。》
王城のてっぺんから何かが浮かび上がってくる。
《あれは・・魔石か・・》
青く輝く巨大な魔石が浮かび上がってきた。
《やはり罠が仕掛けてあったようだ。シャーミリア、マキーナ、ルピア!魔石に向かってM240を掃射しろ!》
《《《はい!》》》
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ
M240の掃射を受けても何かに守られているように魔石に攻撃が当たらない。そして魔石は何事も無かったようにそこに浮いて光り輝いている。
《ご主人様・・結界よりも強い何かが魔石を守っているようです。》
《結界じゃない?》
シャーミリアが結界ではないと結論づける。
《カララです。王城にも同じような障害があり中が分かりません。》
《そうか・・それは昨日シャーミリアとマキーナと俺が調査した時にもそうだった。それと同じもので魔石が守られているという事かな。》
《その可能性は大きいと思います。》
そうか・・だとすると魔法でもない、そして魔法陣も城周辺には無かった、城の中に入らないと分からないのだろうが・・シャーミリアでも城の中が透過出来ないという。シャーミリアやカララなどの高位の魔人達が分からないとなると俺のたどり着く結論は一つだった。
デモンだ。
《全員!念のため城から離れてくれ。早急に街を囲む城壁の上に退避!ギレザム、ガザム、ゴーグは南の城壁の上に待機!カララとアナミス、ルピアは東の城壁の上に待機!スラガとマキーナ、ゴブリン隊は西の城壁の上に待機!シャーミリアとセイラは俺の元へ来てくれ。ファントムは南門の仲間の元へ・・》
俺の指示が言い終わる前に、魔石から一点の方向に向けて魔力が照射される。それはミノスやマリア達がいる南の正門の壁面に当たっていた。
《ミノス!ドラン!ラーズ!マリアを連れすぐに城壁の上に登れ!ファントムは南のオーガ隊共に!!急げ!!!》
南門の上の壁に白い転移魔法陣が浮かび上がってくるのだった。