第144話 敵陣調査
シャーミリア、マキーナ、そしてルフラに全身を包まれた俺が鏡面薬で姿を隠し再度首都に潜入する。
灯りが付いている家屋はほとんどなく、都市内は真っ暗だった。
《おいおい、ルフラ変なところ触るんじゃない!》
《あ、あの・・故意にではありません。》
現在ルフラは俺を包み込んでいる。スライムの装甲を身に着けている状態だった。
シャーミリアとマキーナとルフラに匂いはない。ほかの魔人にはオスの臭いメスの臭いがあるらしく、敵に優れた嗅覚の者がいたら感づかれる恐れがあったのでこの3人と一緒に潜入したのだ。
俺は一応性別がオスの臭いを発する可能性があるため、ルフラが包んでいるというわけだ。
目だし帽の全身タイツを着ているような感じで、目と鼻しか出ていない。耳はルフラが振動で外の音を伝えてくるので問題なかった。
《ルフラ!訓練の成果がやっとでたな。》
《本当ですね!完璧にラウル様の臭いを消せていると思いますよ。》
《シャーミリア!どうだ?俺の臭いは消えているか?》
《はいご主人様。臭いどころか我々でも気配を感じるのが難しいほどです。鼓動も感じ取る事が出来ません。》
鼻の穴と目以外の穴という穴にちょっぴりだけルフラが侵入して完全に蓋をしているのだ。訓練で何度も研究した結果このような形になっている。そしてルフラ装甲をまとった時の身体能力は素晴らしいものがある。俺とルフラの身体のパワーが融合するのだった。
・・・言ってみればスライムパワードスーツといったところだな。
《すらいむぱわーどすーつ?》
ルフラが疑問に思う。
そうだった・・意識の遮蔽をしてもこの状態だとルフラに念じたことが筒抜けになるんだった。変なことは考えられないな。
《変な事?》
《ルフラ!のぞくな!》
《のぞくなと言われましても直接伝わるのです・・》
《すまん・・そうだったな・・》
南門についた。門の前に敵兵の見張りが4人と、門の詰め所の建物に4人の総員8人がいた。どうやら4人ずつ交代で見張りをしているらしい。俺は鏡面薬を取り出して門周辺の地面に振りかけるが光らなかった。
《シャーミリアどうやらここにはなさそうだな。》
《はいご主人様。私の目から見ても怪しい仕掛けを見つける事が出来ません。》
《ここの兵たちはどうだ?》
《捨て駒にもならないでしょう。》
《よし、次は王城近くの兵の詰め所に向かうぞ!》
《《《はい。》》》
俺の移動速度は凄いものがあった。なんとシャーミリア達について行く事が出来ている。目を凝らせば雨が一部はじけ飛んだように見えるかもしれない。しかし鏡面迷彩で身を隠した俺達を発見する事など出来るものはいないだろう。
雨の暗闇の中を飛ぶように移動し、あっというまに敵兵の兵舎前に着た。
《この周辺はゴブリン隊がすでに調査済みだ。あとは・・敷地内と建物だな、敵の魔導士やバルギウスの強騎士がいるかもしれない!慎重に調べよう。ではシャーミリア!上空に飛んで俺にこの敷地の見取り図を見せろ。》
《はい。》
シャッ
シャーミリアが消える。・・もともと鏡面薬で消えているが・・
俺の視界にシャーミリアからの共有視覚が入って来た。詰め所には平屋の学校のような建物が30棟、かなりの大部隊が駐屯しているらしかった。
《建物の中が見たい。》
《はい》
すると建物の屋根が透過するように透ける。ほとんどの者が寝ているようだが、起きているものが集まっている場所もある。おそらくは緊急時に召集をかけたり動くための兵員だろう。
《シャーミリア。一つの兵舎にどれくらいの人がいる?》
《95名から105名の間です。》
《総数約3000か・・強敵はいそうか?》
《まあ人間にしては・・ですが、我々の敵になるようなものを見つけられません。》
《分かった、降りてきてくれ。》
おそらくグラドラムで一番最初に戦った時のように殲滅すればあっというまだろう・・転移魔法陣もインフェルノも今のところは確認する事が出来ない。
《しかしシャーミリア・・グラドラムで会った敵は、そんな敵だったか?》
《ご主人様、何か他の罠なり対策があるとみて間違いないと思われます。》
《だよな。》
グラドラムであれだけ用意周到な罠を仕掛けたやつだ、絶対に何かを用意しているはずだった。しかしその肝心の罠がまだ見つかっていない。もしかするとラシュタルはそれほど重要な拠点ではないのかもしれないが。
《デモンの類も兵舎にはいないようだ・・》
《ええ、人間だけです。》
分からなかった。
《とりあえずこの敷地内を調べよう。》
鏡面薬を使って兵舎の敷地内を調べるが、結果魔法陣はどこにもなかった。俺達は兵に感づかれる事もなく調査を終えた。
《ここでもないか・・》
《はい、後は王城のみですね。》
《やはりあそこが怪しいってことかね。》
《はいご主人様。何かの阻害魔法がかけられているのか・・城は透過できません。障壁や結界などは確認できないのですが・・・》
《だからこそ、あそこだよなあ・・怪しいのは。まあ周辺には入れそうだし探してみよう。》
兵舎から王城まではすぐだ。ほぼ隣といってもいい距離なのですぐにたどり着く。
王城には10メートルほどの城壁があり、門番も立っている。小雨だが火が焚かれており警戒しているようだった。
《飛んで入るぞ。》
《かしこまりました。》
俺はシャーミリアにつかまれ王城内に入った。地面に降り立つと王城の敷地内には兵士がそこそこうろついていた。どうやら警備のために巡回しているらしかった。
《人間がいるな。シャーミリア、気配はどうだ?》
《人間にしては強い者がいるようです。我々からすれば問題はありませんが・・》
《魔導士もいるようだが。》
《それほど高位ではないでしょう。》
《よし!》
早速鏡面薬で魔法陣を探し始める。一通り王城の周りを探ってみたが・・まったく見つけられなかった。
《ないな。という事はいよいよ王城内か・・》
《いかがなさいましょう?壁を突破すれば阻害魔法に干渉するやもしれません。》
《そうだな。危険かもしれない・・兵が中に入るタイミングなどがあればいいんだが、入れば入ったで、出るに出られなくなりそうだな。》
《はい、そのように思います。》
《王城内にインフェルノがあったところで、戦闘時俺達だけなら逃げれるだろうし・・そもそも敵の本陣だ。あるとすれば転移魔法陣だろうな・・》
《ご主人様。カララの網は使えるのではないかと愚考します。》
《というと?》
《転移魔法陣が発動する前にカララが網を張り塞いでしまうのです。そうすれば出てくるときにみな絡めとられるのではないでしょうか?》
《いや!凄いよそれだよ!シャーミリア!》
《い・・いえ!ご主人様!差し出がましい考えをのべてしまい申し訳ございません。》
《いいんだよ!お前は一番長く生きてるんだ!俺の参謀として一番最善だと思える策を教えてくれれば俺が後は考えるから!》
《まあ・・ご主人様ったら参謀だなどと・・私奴が参謀でございますか?》
《そうだよ。俺の右腕じゃないか。》
《ああ・・そんな・・》
《コホン・・》
《も・・申し訳ございません。》
どうやら俺との念話でシャーミリアはジュン・・となってしまったようだった。
《こらこら!メスの臭いは発しないのかそれで?》
するとルフラが言う。
《シャーミリアからは全く匂いを感じ取る事は出来ません。》
《そうなんだ。》
シャーミリアは鏡面薬で全く見えないが、きっとものすごく妖艶な感じになっているんだろう。
《ルフラから王城を見て何か感じるものはあるか?》
《いえ、シャーミリアと同意見です。暗いなにかで中が見えません。》
《わからないってことか。》
《はい。》
《異様だな》
《城だけが・・》
二人の最高位の魔人が分からないのであればどうしようもない。王城には何かがあるという事だけは分かったという事だ。
《王城は要注意だな。危険か・・調査はここまでだ。》
《《かしこまりました。》》
俺達はジャンプして10メートルほどの城壁を越えて外に出た。ルフラをまとう事で俺は高位魔人のような動きが出来る。
雨が強くなってきた。雨が強くなると鏡面薬で隠れた俺達の体が逆にわかりやすくなる。
《これ以上、長居は無用だ行くぞ。》
《《《は!》》》
シャーミリアに掴まれた俺とルフラ、マキーナが夜の空へと舞い上がる。一気に仲間が待つアジトまで向かうのだった。
森のアジトで数人の魔人と人間全員が待機していた。
鏡面薬の効果がようやく切れて皆の目の前に姿を現す。
「おかえりなさいませ。ラウル様。」
マリアがメイド服姿で出迎えてくれる。この作戦中は町に潜入する事が多いためメイド服での作戦行動をしているのだった。
「それで・・いかがでした?」
「ああマリア、都市内に魔法陣を見つける事は出来なかった。王城内だけは侵入できずに確認していない。」
「となれば・・王城が怪しいと?」
「確かに異様だ。それ以上になにか解せない。王都の壁外になにかあるんだろうか?」
「王都の外にある場合、敵に不利ではないでしょうか?」
「そうなんだよなあ・・」
「敵の数はいかほどでした?」
「まあ三千数百といったところだ。」
「そうですか・・」
マリアがほんの少し青い顔になる。どうやらグラドラムでの阿鼻叫喚を思い出してしまったようだ。
「そろそろ夜が明けます。人間の皆さんはお休みになってもらった方がいいと思います。」
俺が言うとルブレストが聞いてくる。
「ラウル君。いつ動くのだ?」
「今日の夜に決行します。」
「我々もお供する。」
「いえ、危険ですので戦闘は我々の部隊でやります。」
「・・・・そうか・・しかし。」
「作戦は我々だけでやらせてください。」
「まあ・・そうか。我々など君たちの足手まといにしかならんだろうな。」
ルブレストは俺の配下を眺めてしみじみと言う。
「それよりもルブレストさん達には、やっていただきたいことがあります。」
「やってもらいたい事?」
「ええ・・」
俺はルブレストに、これからやるべき事の話し合いをするため2人きりになるお願いをする。
ルブレストと俺が二人で外に出る。
「話とは?」
「ルブレストさん。我々が王都を制圧しますので、奪還した暁にはティファラ王女を立て凱旋パレードを行ってほしいのです。」
「まず・・王都奪還が当たり前のように聞こえるが?」
「ええ、必ず奪還します。都市への被害も考えられますが、人々が残れば必ずラシュタルは復興できます。」
「ふむ・・まあ君たちなら奪還は造作もないかもしれん。それはそうだが・・」
「ルブレストさん。正体不明の軍勢が国を救ったというのはあまりよろしくないのでは?」
「まあ・・確かにそうだが、それは事実だ。」
「我々は王都奪還後に、すぐにこの地を去ります。」
「それではラウル君たちが戦うだけ戦って、賞賛も名誉も得られぬのではないか?」
「逆にルブレストさんは賞賛や名誉のために戦うような人ですか?」
「ふふっ・・まあ我は王女の命さえ守れれば特に何もいらぬがな・・」
笑いながら納得がいったようだ。どうやらルブレストには分かってもらえたようだった。
「我々も志があります。」
「そうか。」
「皆さんに実行していただくことは、ティファラ王女が47人の騎士と共に戻ってきて都市を奪還する。というストーリーになります。」
「ふ。まったく君はおもしろいな・・」
俺はさらにルブレストさんに、やってもらいたいことがあったので伝える。
「ティファラ王女から女王になっていただきます。その後カリスト・クルス神父を必ず連れてきますので宰相に置いて、ルブレストさんが防衛大臣なってください。エリックが近衛団長として役職に就きます。46名の兵がそれぞれの役割について、ラシュタルの再興に全力を尽くしてほしいのです。」
「いや・・俺は大臣って柄じゃないがね。」
「そこをなんとかお願いしたいのです。国を復興させるために。」
「まあ・・そうか・・やるしかないのかもしれんがな。」
「そのために金を撒きました。まずは協力者を募るために」
「あの金はそう言う事だったのか。」
「はい。まだまき足りないですが・・この非常時に派手には金をばらまけませんので・・特に下層の者に金が渡りにくいのは世の常ですしね。」
「なるほどな。」
「奪還した後は撒いた金は下層の人間の噂になりますよ。」
「あくまでも奪還するのが前提という事なのだな。」
「はい。」
ルブレストはいろいろと思案しているようだったが、俺はそのまま話を続ける。
「そしてさらに金をラシュタル新政府に渡します。」
「我々は援助されるがままではないか?」
「ですので・・我々が大陸に魔人国をおこした時は・・」
「魔人国?」
「ええ大陸に魔人国を築きます。」
「我々ラシュタルが新生魔人国の後ろ盾となるようにって算段か?」
「さすが!ルブレストさんは話が早い。」
「お前は本当に、イオナ嬢ちゃんの息子なのだな。」
どうやらルブレストは俺の母さんの策士ぶりを知っているようだった。