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第143話 化けの皮

部隊はローラー作戦で首都内に魔法陣が設置されていないか探った。


しかし・・ラータル内には転移魔法陣もインフェルノも確認出来なかった。


《あと探してないのは門番がいる門周辺と王城内、兵士の詰め所・・》


「シャーミリア。残りの箇所には鏡面薬を使って内部に潜入する。」


「かしこまりました。」


後ろにいるシャーミリアが答える。


全員が敵兵に接触する事もなく都市を通過し南側の壁面にたどり着いた。俺達が南側の壁面に到達する前に、カララやミノス達が南壁面上の敵兵士を全て制圧し、ファントムが処理した後に人間を引き上げて全員が待機している。


「風が出てきたな。」


「はい、そのようですね。」


マリアが俺を守るように立っている。一応敵地内なので警戒を怠っていない。


俺の隣にはルブレストが立っていた。二人でラータルの夜の街を見下ろしている。夜といってもあと数時間で朝が来る時間だ、町の灯りは既にほとんど消えていた。真っ暗な都市の街を見下ろしていたのだった。


「特に異変はなかったようだな。」


ルブレストが話しかけてくる。


「それが・・一つ気になったことがあります。」


俺が答えるとルブレストは俺の方を見る。


「なんだ?」


「門が1ヵ所しかありません。」


「ああ・・以前は東西南北に4ヵ所あったんだが、南門以外を全て塞いでしまったんだ。」


「そうなんですね。防衛の為でしょうか?他に理由はあるんですかね?」


「わからん。門も石で作り直されたようで警備もかなり厳重になった。数か月前からのことだ。」


「数か月前からこれほど高く城壁を積み上げたという事ですよね?」


「ああ。からくりは分からんが、おそらくはその転移魔法陣というやつのおかげなのだろう。」


《俺達がグラドラムで敵軍を追い払った時あたりからか・・魔人の襲撃を恐れている?意図がわからなかった。これでは敵兵も撤退する事が出来ない。》


「そうですか。」



そのままルブレストが続けて話す。


「それで、都市内には転移魔法陣はなかったんだな。」


「はいどこにも。」


ルブレストは兵たちが持っている小瓶に目をやる。


「あの薬もお前が用意したのか?」


「ルタンで入手しました。」


「そういえば・・ここらの商人が言っていたな。ルタンに凄い薬師がいると・・」


「ニクルスさんですか?」


「ああそうだ。そうか・・知っているのか。」


「ええ、命を助けられたことがあります。」


「ニクルスは・・残念だったな。」


「はい、いい人でしたから。」


ラシュタルの商人だったニクルスさんを知っているのか。俺はルブレストの横顔を見上げる。


ルブレストは表情を変えず何も言わずにラータルの街を見下ろしていた。


「ティファラ様を救ってくれた恩は必ず返す。」


「たまたまです。奴隷として売られていたのを助けたら、その中にたまたまティファラ様がおられただけです。」


《恩など特に返してもらわなくてもよかったが、特に断る理由もないのでそのままにしておくか・・》


「なにかの縁なのかもしれんな。」


「まるでそのように仕向けられているかのようですね。」


本当にそう思う。何かが手引きしているように俺達がそこに行き、そして巡り合うべき人に巡り合っているようだ。


《手引きしているのは、神なのか・・それとも・・》


分からない。



「だいぶ金を撒いたようだが・・」


ルブレストが聞いてくる。


「ええ配ったというより還元したのですがね。」


ローラー作戦中に孤児達や、考え得る協力者になりえるだろう者たちに金を撒いた。しかし協力者として確定しているのは、最初にルフラと会ったターフの知り合いの孤児の姉妹だけだった。


それでも協力してもらうために徹底して金貨を渡した。


「金を持ち逃げされるかもしれんぞ」


ルブレストが言うが俺は別に金など、どうでもよかった。


「それでもいいんです。それは裏切りだとは思いません。」


「そうか。」



今は合流地点の南側の城壁の上に俺の仲間と兵士全員がそろっていた。どうやらすこし風が強くなってきたようだった・・そろそろ作戦の第2段階に入ってもよさそうだ。


ルブレストが俺の配下を眺めてぐるりと見渡す。


「それにしても・・お前たち、よくこの者たちの前に平然と立っていられるな。」


ルブレストがラシュタル兵たちに話しかける。


「ええ。みな良い方達です!強いですし。」


エリックが答えると兵たちも次々と答える。


「こんなに強くてお美しい方々に出会えるなんて。」

「本当に凄い能力の持ち主ばかりで、どうしたらこんなに強くなれるのか・・」

「人間ではいられないほどの修練をつまねばならないとか。」

「我ら騎士が目指すところではないでしょうか?」


兵たちは俺の配下達に心酔してしまっているようだ。


「ふっ!お前たちはおめでたいな。人間ではいられない修練を積むどころの騒ぎではないぞ。絶対に人はこの領域に到達する事など出来ぬわ。」


ルブレストが兵士たちに苦笑している。


「見る限り獣人はいると思いますが、それほどなのですか?人間がそれほどの力を?」


兵士が言うとルブレストが豪快に笑う。


「わっはっは!こんな人間などいてたまるか!」


「人間じゃない?」


エリックにも配下達の正体は分からないようだった。


「獣人ですらないわ!」


ルブレストがきっぱりと言い切った。



「ラウル君・・君は一体何者なんだ。この者たちは・・人ではないよな・・」


《さすが俺のパパの師匠だなあ・・隠し通せるわけがないか。》


「さすがは父の師匠です。これ以上は隠し立て出来ないですね・・」


「この者たちは何者なんだ?」


「魔人です。」


「やはりな・・・」


ルブレストはすぐに理解を示したが、他の兵士たちはギョっとしたような顔をして固まった。


エリックだけはグラドラムで魔人を見たことがある。何度かニクルスの行商の護衛をして、グラドラムの自警団を組織している魔人達がいた。しかしこんなに人間っぽくなかった気がした。


「カララさんも魔人なのですか?」

「えぇ!アナミスさんが魔人!」

「そんなぁ・・シャーミリア様が魔人とか信じられない。」

「ルフラさんもですか?」

「という事は!マリアさんやカトリーヌさんも!?」


配下たちが魔人だと言う事に兵士たちはショックが隠せないようだ。


ざわざわしている・・


とうとう配下達の化けの皮がはがれてしまい、兵たちは信じられないような顔で彼女らを見ている。


「えっと・・マリアとカトリーヌは人間ですよ。」


俺が慌てて訂正する。だがマリアとカトリーヌは特に気にしていないようだった。


「でもマリアさんも相当な強さですよね?」


「それは本当に修練の賜物です。」


マリアが兵士に微笑んで言う。


「それを聞いてほんの少し安心しましたよ。」


エリックがマリアに微笑み返した。



ルブレストが兵に現実を言い渡す。


「ここにいるラウル君の配下で俺が五分で戦えるとしたら、緑色の肌をした少年少女たちかな。」


ティラ、マカ、ナタ、タピ、クレが兵たちに向かって微笑んだ。


「こんな・・少年少女にルブレストさんが・・・」


「ただし、5人全員を一回で相手しろと言われたら尻尾を撒いて逃げるさ。」


「・・・・・・」


ルブレストの実力を知っている兵たちは絶句していた。


《俺も初めてグラム父さんの剣技を見た時や、バルギウスの隊長格の戦闘力を見た時はバケモノだと思ったもんだ。その騎士が敵わないと言っているのだ・・驚くのも無理はない》


魔人達は俺の兵器を使った戦闘をくりかえし、アンドロマリウスを俺が取り込んでしまった事で、今では能力が格段に向上してしまったようだが・・


「俺の見立てでは、1人の大男と3人の女の魔人の桁が違う。」


「それは・・」


エリックがルブレストに聞くとルブレストはそのメンバーを示した。


ファントム、カララ、シャーミリア、ルフラを順番に見渡す。


「まあそれでも、俺はここの誰にも敵わんだろうがな・・」


ルブレストが付け足すように言う。


「そうなんですね・・」


エリックが心底驚いたようにつぶやいた。



「さて、そろそろ俺達は次の作戦に移ります。深夜すぎからの雲の流れから、天候がさらに崩れるのを待っていました。」


セイラの能力で雨を予知していたのだった。


「そうか。ならば我々は何をすべきかな?」


ルブレストが聞くので俺が答える。


「ここから先はかなり危険な任務となりますので、俺の部下が森のアジトまで送ります。そこで待機をお願いできたらと思います。」


「足手まといって事だろうな。」


「いえ・・そんなことは・・」


「いや、間違ってないだろう。」


「すみません。」



話を打ち切り俺は魔人達の方に振り向いた。


「今の話で分かったと思うが、侵入して調査する人選は既に決まっている。」


「「「「「「は!」」」」」」


「俺とシャーミリア、マキーナ、ルフラだ。後は全員でルブレストさんや兵士、ティファラ様とマイルスたちを護衛しつつ森のアジトまで先に行っててくれ。」


するとマリアが俺に質問してくる。


「ラウル様。人選の理由をお聞かせいただいても?」


「匂いだ。」


「ああ、なるほどわかりました。それでは皆で森まで下がります。」


そう、俺がシャーミリアとマキーナ、ルフラを選んだのは全く生き物の臭いがしないのと体温が無いからだ。俺だけが人間の臭いを発してしまうだろうが、ルフラをまとっていくことにした。獣人の鼻や魔法使いへの対応にも、完璧に気配を消せるメンバーを選んだ。


ファントムも全く匂いも温度もないのだが足音がうるさい。こいつは忍び足など出来ないのだ。


すると・・


ポツリ


雨が一粒降りてきた。


「さて、天候が俺達に味方しているようだ。」


雨は音を消してくれるのと臭いも微弱なものとなる。


「じゃあカララ、マリア、みんな。人間たちを安全にアジトまで送り届けてくれ。その後森周辺を警備し敵の侵入などがあれば防ぐように、痕跡を出来るだけ残すな。」


「「「「「「はい!」」」」」」


シュ

シュ

シュ

シュ

シュ

シュ

シュ

シュ

シュ

シュ


全員が城壁の上から消えた。


「じゃあルフラ頼む。」


「はい・・よろしいでしょうか?」


「遠慮しなくていいぞ」


ズ・ズズズズズズ


ルフラの人間の形が溶けていく。


バサッ


俺の頭から足の先まで覆いかぶさって来た。顔以外は透明なルフラに包まれている。


「ああ・・ラウル様・・暖かいですわ。何という光栄でしょう。」


ルフラの声が耳元から聞こえてくる。


「任務が優先だ。ルフラ・・冷静にな。」


「承知しております。」


「皆、鏡面薬を飲んで体にふりかけろ。」



シャーミリア、マキーナ、ルフラに包まれた俺が鏡面薬を飲み体に振りかけると、あっというまに3体が消えてしまった。


《完全に光学迷彩だな・・》


「ここからは全て念話のみで行く。」


「かしこまりました。」


俺達は再びラシュタル城壁内の暗闇へと降下していくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 侵入時も思いましたが、前話、今話と合わせて敵の警戒が半端に思いました。 壁を強化するほど警戒しているのに人の配置が適当であると。元の城壁を超えてくる想定をして上空警戒しているなら城壁上の人員…
[一言] 本当にそう思う。何かが手引きしているように俺達がそこに行き、そして巡り合うべき人に巡り合っているようだ。 《手引きしているのは、神なのか・・それとも・・》 …作者の思惑ですw(…とか思っ…
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