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第139話 残党軍との連携

潜入作戦は1週間後の夜に決行された。


俺とシャーミリアそしてラシュタル兵残党の47人が北の城壁の外にいた。


おあつらえ向きに曇り空のため真っ暗闇だった。


《みな冒険者風の格好をしているのだが、服装が一点だけおかしい・・》


ラシュタル47人には暗闇の中での行動は危険なので、アジトからここまでは、俺が召喚した暗視ゴーグルENVG-Bとヘルメットを全員に装着させていたからだ。


一応ホルスターにVP9ハンドガンを全員に携帯させているものの、1週間の付け焼刃で覚えた武器では戦闘もままならないと思い、使い慣れた剣を帯刀させていた。


結局、彼らは森で魔獣にも敵にも遭遇せずに壁面までたどり着く。もちろん俺の配下が魔獣を追い払ったからだが・・


「銃は音が目立つから使用は緊急時のみで願います。極力戦闘にならないように行動してほしいのですが、ファートリアバルギウスの兵に正体を感づかれた場合には、剣で対応してほしいです。今回の目的はあくまでも城壁内にある魔法陣を探す事です。鏡面薬を怪しいと思われる地面に数滴たらしてみてください。光る線が出たらそれが魔法陣です。しらみつぶしにかけていきます。」


「わかりました。」


「そしてこれ(ENVG-B暗視スコープ)は都市の内部に潜入するまえに目立つので外してください。」


「はい。しかしこれはすごい物ですね暗闇でも人がはっきり見える。魔道具ですか?」


「まあ、そんなところです。」


「これも遠くにいても声が聞こえるし、魔道具なのでしょう?」


通信機の事を言っているらしい。兵士たちは俺が召喚した機器にめっちゃ食いついていた。


「はい魔道具です。」


「やっぱりそうなんですね。」


「都市内で万が一敵を倒してしまったら、すぐにこの通信機と呼ばれる機械で俺に連絡をしてください。」


「みな理解しています。」


エリックが答えると全員が頷いた。


「連絡をもらえたら、すぐに配下が駆けつけて遺体を処分します。」


「どうやって?」


「それは俺達に任せてください。」


「わかりました。」


ラシュタル兵達には既にアジトで説明しているが、現地に来て改めて確認している。魔人達とは熟練度も身体能力も違うためいろいろ不安だった。


「それでは全員準備をしてください!城壁の上に登ります。」


「えっ、それはどうや・・」


シュッ

シュッ

シュッ

シュッ

シュッ

シュッ


エリックの質問を終える前に、ラシュタル残党兵47人が一気に猛スピードで城壁の上へ飛んでいく。


ブン!


と目の前で話をしていたエリックの残像が残る。


もちろん・・カララの仕業だった。


カララがアラクネの蜘蛛の糸で、全員を一気に城壁の上まで運んでしまったのだ。


カララの蜘蛛の糸はフワリと細いのに、タングステンのワイヤーよりはるかに丈夫で強力な物だった。髪の毛のようにしなやかにもなり、針のように鋭くもなる恐ろしい兵器だ。この糸を切れるのはシャーミリアの爪くらいだった。


既に北の城壁の上にいた敵衛兵は、すでに俺の配下たちが制圧していた。北側はそれほど警戒されておらず数名しかいなかったため一瞬で黙らせる事ができた。


すでに敵兵の遺体は消去してある。


《さてと、全員上にあがったか・・》


「シャーミリア。あとは俺たちだけだ、城壁の上まで飛んでくれ。」


「かしこまりました。」


俺はシャーミリアに掴まれて、あっというまに城壁の上に下りたつ。



仲間のラシュタル兵はカララのあまりの早業に驚き、城壁のうえで呆然としていた。


「よし!全員上がったな?」


俺が聞いてみると兵たちはうわの空だった。


「は!我々はどうやってここに来たんだ?」

「いきなり体が飛んでここまで来たぞ・・」

「えっとここは・・城壁の上だ。」


ラシュタル兵残党は、いま何が起きたか分からず混乱していた。


「安心してください俺の配下の仕業ですよ。そういう魔法だと思ってください。」


「魔法・・ですか?」


エリックがポツリと言った。


《俺はこの世界の魔法をほとんど知らないけどね。水魔法と火魔法、回復魔法なら身内のを見た事あるくらい。敵の魔法ならファイヤボールとアイスランス、光の結界、インフェルノと転移魔法はグラドラムで見た。ほかには何も見た事がないんだよな・・》


「魔法です。」


俺が念を押して言う。


「世の中は広いもんですね・・」


「そのようです・・」


今はまだ配下が魔人だという事を誰にも教えていなかった。むしろ教える必要性を感じず「そのままにしておこうかな?」なんて考えていた。


《まあ・・ゴブリン隊は・・人間の少年少女だが緑色なんだよな。兵士たちはどう思っているんだろうか・・気になるところだ。》



そして俺はエリックとの会話をきり上げ周りを見渡す。


「マリア!マイルスもリューズもいるかな?」


「はいラウル様。森に彼らを置いては来れませんので、マイルスもリューズも来ていますよ。」


「います!」「私も!」


マリアが暗視スコープをヘルメットの上に外しながら俺の問いに答えてきた。メイド服を着ているのでヘルメットに違和感がある・・。その後ろには緊張した面持ちでマイルスとリューズが立っていた。マイルスには相変わらずダボダボの迷彩戦闘服を着せている。


《マイルスにはそのうち子供用の服を調達してやろう。ラシュタルに潜入したら買えるだろうか。》


「ダボダボの服ですまない。それが一番小さいサイズなんだけど・・」


「いえ、十分です。」



そして、こんな荒事には慣れていないティファラが、その後ろで座り込み震えているようだった。


《そりゃそうだ、王女にとって戦闘なんて全く関わり合いのない、別世界のものだったはずだ。怖いはずだよな・・》


「ティファラ。大丈夫だよ俺の配下がそばにいれば、まったく危険が無いから。」


「わかりました・・」


か細い声でティファラが言うが、なんだか可哀想になって来た。


「カトリーヌはティファラとマイルスについていてくれるかい?カララが3人の護衛を頼む。誰一人として、傷ひとつ付けさせないでほしい。」


「かしこまりました。」


《カララは我らの隊の最高戦力の1人だ、必ず俺の命令を遂行してくれるだろうけどね。》


俺がティファラを安心させるように言うとカララが頷いた。カトリーヌも緊張しているようだった。あのグラドラムの悲劇を知っているだけに彼女も震えているようだった。


「犬の獣人であるリューズには一緒に来てもらおうと思っている。」


「役に立てればいいのだけれど・・」


「大丈夫だ。足と嗅覚がある・・敵兵を察知したら俺達が何とかするから。魔法陣が嗅覚でどうにかなるとも思えないが、何かの匂いなどに気が付くかもしれない。一緒に居てくれると助かる。」


「わかりました。」


「リューズは常に俺についてきてくれ。」


「はい。」


《獣人にはルタンでかなり助けられた。おそらく彼女の嗅覚は何かの役に立つかもしれない。役に立たなかったとしても、罠を探す作業を見て覚えてもらうだけでもありがたい。》


仲間達との話をやめ、俺は城壁の上からラシュタル都市内を眺めた。


夜景が見える。かなり能力が高まった今ではこのくらい夜の闇の中でも街並みがはっきり見える。自分自身すでに人間という感じはなかった。


《なかなかいい町だ。ただこんなに高い城壁で囲んだら大部分が日陰になっちゃうんじゃないのかな?奪還した時に防御がしやすいからいいかもしれないけど。》


街の明かりで薄っすらとお互いの姿が確認できるようになった。円状に城壁で囲まれた都市に人の営みがある。しかしラシュタルの民は、ファートリアバルギウスの圧政にあえいで暮らしているらしい。美しいこの夜景の光のひとつひとつにそんな暮らしがあると思うと、心が締め付けられる思いだった。


「おっきいな。敵はよくこんな大きな都市を数年で要塞化したもんだ。」


「もともとあった城壁を倍以上の高さにしたんですよ。どこからともなく資材を持ってきたんです。」


「間違いなく転移魔法を使っているんだろうな。」


「そうだと思います。」


エリックと俺がそう結論付けた。


「都市はだいぶ広いですね。」


「ユークリットほどではありませんが、首都ですからそこそこの人間がいます。」


「いきなり敵が来たと言っていましたね。」


「ええいきなりバルギウスの屈強な騎士やファートリアの魔法師団、そして魔獣迄が現れたんです。」


「もともと城壁に囲まれているのにいきなり敵が来たとなると、この城壁内に転移魔法陣が設置してあった可能性がありますね。」


「はい・・完全に寝首をかかれましたから。俺は冒険者だったので援軍として駆り出されましたが、すでに王城は陥落した後でした。ここから脱出するのも一般の民に紛れて出られたから出来たようなものです。」


「なるほど・・という事は、今残党として残っている兵の皆さんは城壁の外で戦った人間ですか?」


「そうです。それもほとんど狩られましたが・・。あまりにも相手は強大すぎました。」



《そして設置されているのは転移魔法陣だけとは限らないか。万が一インフェルノが設定してあった場合、魔力をそそいで発動させるわけにはいかない。戦いになれば人々の避難も念頭に入れて動かねばならないだろうな。グラドラムの二の舞だけは絶対に回避しなければ・・》


「魔法を使えるのは俺とカトリーヌとマリアだ。万が一にも魔法陣を誘発させないように気を付けてくれ。カトリーヌは魔法の使用をしないように。マリアは極力P320とベレッタ92の体術で応戦してくれ。魔石が仕込んであると厄介だ。」


「はい。かしこまりました。」


マリアが返事をするも、カトリーヌが質問してきた。


「誰かが怪我をした場合はいかがしましょう?」


「都市の外の森に避難させてそこで回復魔法をかけよう。」


「わかりました。」



「皆も都市に潜入した後は、全員すでに召喚してある今の武器のみしか使えないと思ってもらった方がいい。この中で俺は召喚魔法を使わない。」


「「「「了解しました!」」」」


「戦闘はなるべく回避するよう動いて欲しい。現状は大きい銃火器を使わないから、いったんここに置いて行こう。予想外の大規模戦闘に発展した場合のみ、機関銃とロケットランチャーを使用を許可する。」


「「「「「はい!」」」」」


「カララがここに残していく人間の護衛。スラガ、ミノス、ルピアが拠点移動要員としてここに残る。侵入部隊は明け方には南側まで到着すると思う、それまでに南側の城壁の上に移動していてくれ。俺達が街の半分に進むまではここから街中の情報を確認して報告してくれ。」


「「「「は!」」」」


魔法陣が都市内に仕掛けられているのか、仕掛けられているとすればどこにあるのか?確認しないとまともに戦う事は出来ない。北から南にかけて魔法陣の有無をしらみつぶしに確認していく。


「民間人や民家に被害を出す事の無いように徹底して動こう。必要な場合以外は敵兵を殺すな。まずは設置型魔法陣の発見が最優先だ。」



班は11班に分けた。


「ラシュタル兵の方達には申し訳ないのですが、俺の配下を隊長とさせていただきます。配下の力は最初の接触の時に森で戦った事で分かっていると思います。また魔法陣を探したこともあるので、皆様より練度が高いのですそれも含みでお願いします。」


森で魔人に制圧された兵士たちは、その時の事を思い出して頭をかいたり腹をさすったりしていいた。


「ええ、もちろん。仲間が手も足も出ずに制圧されたとか・・私も眠らせられましたから。」


エリックが気まずそうに言う。


「この1週間の訓練でも嫌というほど実力の差を知らされましたよ。」


兵士の1人が言うと、他の兵士もうんうんと頷いている。


「皆さんのような強さに鍛え上げるには、どうしたらいいものなのでしょうね?」


またほかの兵士が俺に聞いてきた。


「修練が必要ですかね、それこそ人間を捨てるほどの・・」


「人間を捨てるほどの修練ですか?納得です。本当に皆さん人間離れしていますよね、そんな領域に立てる人間は本当に一握りなのでしょうが。」


《どうでしょう?魔人国の皆さんは強いので、一握りではないと思いますけど・・》



「では班ごとに分かれてください!」


俺が号令をかけると、


ラウル ファントム マリア リューズ エリック ラシュタル兵2人

シャーミリア ティラ 兵4人

マキーナ タピ 兵4人

アナミス マカ 兵4人

セイラ ナタ 兵4人

ルフラ クレ 兵4人

ギレザム 兵5人

ドラン 兵5人

ガザム 兵5人

ゴーグ 兵5人

ラーズ 兵5人


に分かれた。


広いラシュタル都市内の魔法陣くまなく探すために人員を細分化して、魔人を長とした隊を構成したのだった。


人間の兵が窮地に立たされたときに、確実に魔人が人間を救うように命令している。


「とにかく今日欲しいのは罠の情報と敵兵の情報だ。すでに北の城壁の敵兵を数名消してるから、おかしいと思われるのは時間の問題だ。兵士が消えた情報が伝わるのが明日の朝、それが話し合われて異常だと気が付くまでどのくらいかかるだろう。空を飛ぶタラム鳥の仕業とも取れなくないが、夜にあの魔獣が来ることは無い。少なくても3日以内に事を済ませなくてはならないだろう」


「「「「「はい!」」」」」


俺が皆の前に立って命令を下す。


「エリックさん、兵士の皆さん、心の準備は大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。」

「俺達も自分の故郷を取り戻すために協力させてくれ!」

「他の国の戦力に頼らなければならないのが不甲斐ないが・・よろしく頼む!」

「よし!俺達が役に立つところをティファラ様に見てもらおうぜ!」


「「「「「おう!」」」」」


「じゃカトリーヌとマイルス。南の城壁の上で会おう。カララ、スラガ、ミノス、ルピア頼むぞ。」


「かしこまりました。」


「では兵の皆さん!町に降下します。作戦の途中経過と終了の合図は、俺の配下達が伝えますので指示に従ってください。」


「はい。で・・降下ですか?俺達はそ・・」


シュッ

シュッ

シュッ

シュッ

シュッ

シュッ


また全員がカララの蜘蛛の糸で引っ張られ地上に落とされる。ラシュタル兵たちは地面につく前に減速しソフトに足をつける事ができた。先ほど城壁に上がった時の事もあるので、皆少しは慣れたようだったが、それでも一瞬動揺するそぶりが見られた。


《普通の人間はそうなるよなあ。バンジー苦手な人は気を失っちゃうかもしれない・・》


「では、全員降りられたようなので作戦を開始します。散開!」


それぞれが決められた方に向かって歩いて行く。歩きながら数滴の鏡面薬をたらして魔法陣が無いかを探していくのだった。街中を進むのはおそらく建物の影をぬっていく為時間がかかるだろう。おそらく南側に到着するのは明け方になるかもしれない。


皆が町の中に消えていくのを確認して、俺の隊が一番最後に街の中に入っていくのだった。


「さてと、いい情報が取れるといいんだがな・・」

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― 新着の感想 ―
[一言] 殺人鬼の人働き者ですねえ。敵国に潜入して魔法陣描いて帰って兵を送り込んで。なんか空っぽの村跡にも魔法陣設置してたし ほぼ世界征服した2国同盟の事実上のトップなのに偉そうにふんぞり返ってるだけ…
[一言] とりあえず、ラシュタル兵残党の皆さんにはラウル君の配下の正体は知らされてないと…(ゴブリン隊長達の事を考えると、隠していても何となく何処かでナニかを察しそうですがw) カララの糸で上げ下…
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