第138話 異世界兵に現代武器
山賊達がスッキリ目覚めた。
ティファラが皆の前に立っていた。
「皆さん。この方たちは私を助けてくださいました。」
「おお・・なんとお礼を申し上げて良いのやら・・」
兵士のひとりが言った・・すると皆が口々に感謝の言葉をのべる。
ティファラが続けて言う。
「そして彼らはファートリアバルギウスから、世界を解放するためにこの地に仲間を探しに来たのだそうです。」
するとエリックが言う。
「世界を解放?そんなことが可能なのでしょうか?すでに王家は壊滅、軍も皆殺しに近い状態で戦力はほとんど残っていません。」
《なるほど・・兵士たちがこうして集まっているところを考えれば抵抗する意思はあれど、そのすべがないという事なのだろう。》
俺はラシュタルでのサイナス・ケルジュ枢機卿の捜索を含め、この人たちの本当にやりたい事に協力してみようかと考え始める。
そこで俺が話をはじめる。
「俺はサナリア領の男爵の息子でした。」
すると兵士のひとりが話をしてきた。
「えっ!あの・・ユークリットの女神のご子息・・」
「そうです。」
「あなたのお父上は、それは素晴らしいお方でした・・酷い討ち死にをされたと聞いております・・そしてサナリア兵も皆殺しにあったと・・無念です。」
その兵士はグラムを知っているようだった。
「はい。父は自分の兵士達を助けるつもりが、その場で首を刎ねられたそうです。」
「酷い・・」
兵士たちは沈痛な面持ちで聞いていた。
「しかし!私は生きています!そして母も!」
「えっ!ユークリットの女神が生きておられるのですか!?」
「そうです。ここにいるエリックのおかげで生き延びる事ができました。いま俺達が生きてここに立っているのはエリックのおかげなのです。」
「いえ・・俺は逆にあなた方に救われましたが。」
「お互いがお互いを助けたというわけです。」
「ラウルさん、俺はそれを知る事が出来ただけでもうれしいですよ。」
エリックは自分が一番助けたかった人間が生きている事を知り、涙を流している。
「エリックさん。ありがとう・・俺達もエリックさんが生きてくれた事を喜んでるんです。」
「ああ・・ああ・・」
エリックは言葉にならないようだった。
《おれもついついもらい泣きしそうになるな・・だって俺前世も合わせると40オーバーのおっさんだもんなあ・・涙腺も緩くなるよなあ・・》
いかん。俺は気を取り直して話す。
「そうです!このように俺達は助け合うことができます!」
「いや・・我々の力など・・」
兵士の1人が自分たちの非力を嘆く。
「それは違います。目の前にいるじゃないですか!希望が!皆さんの希望の光が!それを絶やしてしまうんですか?」
ティファラを指さして俺は元兵士たちに問う。
そう・・俺が考えたのは、ラシュタル兵残党とラシュタルの民の中に反抗の意志があるのであれば、ティファラの生存を希望の光として、その心に火をつけることが出来るのではないかということだ。ティファラを神輿にして担ぎ上げるのだ。
「いえ・・それは・・しかし。」
「俺は兵士を強化するすべを持っています。それをもってラシュタルを取り戻しましょう。」
「ラシュタルを・・取り戻す?」
「ええ・・」
兵士は皆黙り込んでしまった。無理もない仲間はほとんど皆殺しにあってしまったのだ、敵の強大さは痛いほど知っている。
「敵が襲ってきた日はどのような感じでしたか?」
俺から聞かれた兵士が答える。
「やつらは・・急に来たんです。それも南から来たのではなく、西から現れました。何の前触れもなくいきなり襲ってきたのです。」
「そうだと思います。そして俺達はそれがなぜかを知っています。」
「そうなのですか?やつらはどうやって来たのです?」
「転移魔法を使いました。」
「禁術を使ったというのですか!?」
「そうです。相手には転移魔法を使えるものがいるのです。」
元兵士たちがざわざわとしている。
「それならば、いきなり襲われた理由もわかりますが・・しかしまた転移魔法で襲って来るのではないでしょうか?」
「その転移魔法を破る方法を知っています。正確には発動させて消してしまう方法ですが。」
「そんな方法が?」
「これです!」
俺はデイジーさんの鏡面魔法薬が入っている瓶をみんなの前に出す。
「それは?」
「天才薬師が作った薬です。体に振りかければしばらくは姿を消す事が出来ます。」
「それが転移魔法となにか関係が?」
「禁術の魔法陣に振りかけると光って知らせてくれるのです。」
「そんなことが出来るんですか。」
「そうです。その薬で魔法陣を見つけて俺が魔力をそそげば魔法陣は発動して消えます。ただし敵に魔法陣を発動させた事が知れてしまいますが・・」
「しかし転移魔法陣を消せば、いきなり大量に敵が攻めてくる事は無いと」
「その通りです。」
「しかし・・この人数では。ラシュタル王城に巣くうファートリアの魔法師団やバルギウスの騎士団を制圧する事すら難しいですぞ」
そりゃそう思うよな。ここにいる俺の配下が伝説級の魔人の集まりだって知らないしな。ただそれだけでは国民を人質に取られたときに対処が難しいからな・・
「王城は我々が制圧します。皆さんには町に潜む敵を殲滅してほしいのです。」
「王城をあなた方だけで?」
「はいそうです。少し時間をかけねばなりませんが、まずはラシュタルの首都に潜入し、ティファラと一緒に味方になる可能性のある民を探していきます。」
するとエリックが言う。
「なるほどそういうことですか。しかしながらラウルさん、ラータルに潜入するのも難しいのです。奴らは城壁で囲み侵入を拒むように都市の形を変えてしまいました。門をくぐれば入れますが我々では怪しまれるでしょう。もちろん皆さんが入れる保証はなく、ティファラ王女は門番に捕まってしまうかと思われますが。」
「じゃあ門以外から入ったらいいのでは?」
「えっ?門以外から?なにを言っておられるのです?」
「えっと、城壁内には皆さんの隠れ家など無いのですか?」
「潜入しているものが隠れている場所があります。」
「俺達が門以外を通って全員をそこに連れていきます。」
「全員を連れていく?そんなことが出来るわけが・・ラータルに入り口は2ヵ所ありますが門番がおりますので難しいと思います。」
「ですから、門を通りません。」
「城壁は50メードも高さがあります。上る場所なんてありません。」
「大丈夫です我々が引き上げますから。」
「ひき・・あげるですか?」
「はい。」
俺の話に混乱した、兵士たちはいろいろと考え込んだり話したりし始めた。
《さてどうするか・・》
「私たちが行ってどうするのですか?」
エリックがもう一度訪ねてくる。
「街を奪還します。」
「この人数でですか・・」
「はい、町に入り込んでいるファートリアバルギウスの人間や、衛兵などを全て抑えます。」
「かなりの数になります。」
「ええ、ですからファートリアの民を仲間にしていくのです。協力者には金をばらまきましょう。」
「金ですか。」
「まあ命を懸けるのに何もなく無償でやる人はいないでしょうから。」
「金など・・」
「汚いですか?あの敵を前にしてきれいごとは通用しないのでは?」
「その金はどこから。」
「俺達が用意します。」
「わかりました・・しかしながら敵は強大です。普通の民では敵わぬでしょう。」
すると俺達の横からティファラが声をかけてくる。
「きっと皆はラウル様達の力を見ていないからだと思います。」
「ああ・・そういうことね。ティファラありがとうその通りだ。」
「ラウル様の力とは?」
エリックが不思議そうに聞いてくる。
「あの、ラウル様・・ロケットランチャーが分かりやすいかと。」
マリアが俺に助言してきた。
《そうだなあれが派手だし分かりやすいかもな。》
「オッケー!じゃあみんな外に出てくれ!俺の一発芸を見せてあげるよ。」
「いっぱつ・・げい・・?」
「さあ!行こう!」
俺はみんなを引き連れてアジトの外に出た。
《えっとなんかさ丁度いい岩とかないんだけど。じゃあいいか・・ファントム使って持ってくるか。》
「ファントム!」
ファントムの巨体が消える。
??????
47人の元兵士が目の前からファントムの巨体が消えたので驚いている。
「彼はものすごい騎士なのでは?」
兵士の1人から聞かれたので答える。
「ああ元騎士ですね。今は俺の付き人やってます。」
「つきびと?」
「ああ、身辺警護みたいなものです。」
「そうなんですか。」
すると直径2メートルくらいある岩を担いで走って来た。
ズゥゥウウゥン
石を離れたところに置く。
「すばらしい!これが一発芸ですか?付き人の力がこれほどとは・・」
「違います。これは準備です!ファントムにはあの石を持ってきてもらっただけです。」
兵士たちが勘違いをおこしそうだったので、いったん違う方向へ行きそうなのを止める。
「えっと!あの岩を吹き飛ばします!」
「魔法で・・ですか?」
「ちょっと違います。武器を使います。」
「武器ですか?」
とにかく元兵士たちから質問責めだ。
「とにかく見ててください。」
俺は彼らの目の前でAT4ロケットランチャーを召喚する。
ゴロン
「えっ!?いまどこから・・」
エリックが不思議そうに言う。兵士たちもざわざわとしてきた。
「これが俺の力です。武器を出す事が出来ます。」
「これが・・武器?そのような力を見た事がありません。」
「まずそれで終わりじゃないので見ててください。」
「それは何です?何かの筒ですか?」
「見てれば分かりますよ。」
俺が岩に向けてAT4ロケットランチャーを構え安全装置を外してスイッチを押す。
バシュウゥウウウ
ドゴォーーーン
!?!?!?!?!?!?!?!?
粉々になった岩を目の当たりにして、兵士たちの目玉が飛び出そうになっている。
「おおおおおおおおおお!!!」
皆が驚きと感動を隠せずに雄たけびを上げる。
「これは!魔法ではないのですか!!ファイヤボールでもこんなのは見た事がない!」
「いや・・これは武器の力です。」
「これが・・武器の力?」
なるほどやっぱり普通の人間にはこれは魔法に見えてしまうわけね。
「エリックさんこっちに来てください!」
「は・・はい!」
エリックが俺のもとに来る。
そしてまた俺はAT4ロケットランチャーを召喚する。
ゴロン
「おお!」
また兵士たちから歓声が上がる。
「じゃあエリックさん!これを構えてください、そう!そう持って肩に構えます。上にあるこの鉄の蝶番みたいなものを外します。そしてこことここを同時に押してください。」
俺に言われたとおりにエリックがAT4を構える。
「後ろに噴き出すものがあるので、必ず後方確認してから撃ってください。」
「わかりました・・」
「じゃあ合図しますね。」
俺はエリックから離れて兵士たちの元へと行く。
「構え!」
エリックが肩に担ぐ。
「安全確認」
エリックが後方を見る。
「てー!」
バシュウゥウウウ
ドゴォーーーン
「おおおおおおおお」
パチパチパチパチパチパチ
兵士たちから拍手が起きる。
「というわけですみなさん!俺の能力を使えばエリックでも簡単に同じことが出来るというわけです。」
「すばらしい・・恐ろしいほどの破壊力だ。」
「こんな武器は見た事が無い。」
「これを民が持てば・・」
兵士たちが口々に感嘆の言葉をのべている。
「みんな・・本当に簡単だった。俺はただあの筒の突起を押しただけなんだ・・」
当の本人のエリックが一番驚いていた。
「よしマリア!次だ!」
「かしこまりました。」
マリアが2丁拳銃を構え、木の下に移動する。
するとファントムがドゴン!と軽く木を揺らした。
バサバサバサバサ!と木の葉が落ちてくる。
パン!パン!パン!パン!
ヒラヒラと踊るように銃を撃ちながら木の葉を撃ち抜いて行く。
葉が落ち切ったので、兵士のみんなに告げる。
「マリアの周りに落ちた木の葉を手に取って見てみてください。」
兵士たちがぞろぞろと木の下に向かう。
「おお!穴が空いているぞ!」
「こっちの木の葉も全て穴が空いている!」
「これもさっきの武器とやらでやったものですか?」
「はいそうです!」
「おおおおおおお」
パチパチパチパチパチパチ
兵士たちが拍手をして感動している。
俺は目の前にVP9を召喚して一人の兵士に渡してやる。
「じゃあそこの方前に出て来てください。」
「はい・・」
「危ないのでこの先の穴は敵兵にしか向けないで下さいね。」
「は・・はい。」
「この安全装置という部分をカチッと動かします。」
「はい。」
「それじゃ構えはこうです。あの太い木の幹を狙ってください。」
「こうですか?」
銃を構えた兵士が木の幹に銃を向けた。
「はい。肩を落としてリラックスして、ここからのぞいて銃の先のここと一直線に結びます。その先にあの木の幹を入れます。」
「こうですか?」
「はいそうです。」
さすがは元兵士、見慣れない武器なのに飲みこみが早いな。
「では・・引き金をどうぞ!」
パン!
バシィッ
木の幹がはじけた。
「えっ!こんなに簡単に?」
「そうです。相手が人間なら当たり所によっては即死します。」
「す・・すごい。」
よし!みんながどうやら武器の凄さを分かってくれたようだった。
「エリックさん!どうかな?これなら敵を圧倒できそうなんじゃないかな?」
「敵を圧倒なんてもんじゃない、これは・・まるで神の御業だ。」
「いや。俺の技です。」
兵士たちもなぜか尊敬のまなざしで俺を見ている。そして早速撃ちたそうにしていた・・魔人達にはじめて武器を見せた時と同じ反応だった。
「というわけで!エリックさん!元兵士の皆さん!この近くに戦闘訓練が出来そうな所はありますか?」
「この先に岩肌がむき出しの渓谷がある。」
「では明日から7日間だけ俺達と武器の戦闘訓練を行いませんか?」
「是非もない!」
エリックも兵士もやる気満々になった。
たぶん・・新戦力が増えた瞬間だった。