第136話 鑑定眼
テントの外にはファントムが見張りとして立っている。
風呂のボイラーにはティラがついていた。
恐らくファントム一人で風呂も俺達の護衛も事足りる。
何かあればティラが俺達に知らせてくれるだろう。
俺と女魔人全員、人間の女全員、獣人の女1人が一つの大テントに集結している。
「とにかくみてみよう。」
俺が戦利品を並べると、ティファラから声が上がる。
「あっ!」
「どうした?ティファラ」
「この短剣は・・私が捕えられた時に取り上げられたものです。」
「そうなんだ!」
「ええ。」
すると脇からカトリーヌが話してくる。
「これは・・ラシュタル王家の紋章ではないですか?よく・・貴族と気がつかれませんでしたね!」
「その時、私はボロボロで病にも犯され酷い状態でしたから。どこで盗んできたんだ?と奴隷商に言われて、町で売っているのを盗んだとウソをついたんです。」
「そうか。ティファラ君は運が良いようだね。そして俺達が奴隷商から君を買いとった・・運命なのかもしれないよ。」
俺は素直にティファラの強運を褒めた。
「そうなのでしょうか・・」
「そう思う。とにかく!これは君のだ!返すよ。」
「いえ・・私は既に落ちぶれて・・」
「いやいや自分の物は自分の物さ。」
「わかりました。」
ティファラは俺から豪華な飾りがついた王家の短剣を受け取る。
「で、金がいっぱいあったよ。」
並べている麻袋をひっくり返して金貨と銀貨を床に出してみる。
ジャララララララ
シャララララララ
「すごい・・」
リューズがビックリしている。
「ティファラやカトリーヌにはそれほど驚くような金額じゃないかもしれないけどね。」
「いえ。お金をあまり見る事はありませんでしたから。」
「私もそうですね・・子供の頃はお金に触れたこともありませんでした。」
なるほど・・大金持ちの子供はそうか・・お金なんか見たことないか。そして女の魔人達はといえば・・まったく驚いてもいない、それどころか興味を1ミリも示していない。彼女らにとって大切なものはお金じゃないようだった。
「ルタンでもらったのが金貨100枚だから、この一袋で1000枚くらい入ってるんじゃないか?」
「ラウル様。もしかするとラシュタルからバルギウスに運ぶかその逆か、でもこれほどの大金だとするとかなりの貴族が売られたのかもしれませんね。」
「そうだな・・マリア。おそらくはファートリアが貴族を買い取った金だろう、バルギウスの商会本部に持っていくところだったのかもしれないな。」
「はい。ということはかなりの貴族がファートリアに送られてしまった可能性がありますね。」
「かもしれない・・」
ティファラとカトリーヌが青い顔で俺達の会話を聞いていた。
「もう大丈夫だよ。これ以上は好きにはさせないさ。」
「そうです。カトリーヌ様ティファラ様!私が必ずお守りいたします。」
「マリア・・ありがとう。」
カトリーヌがマリアの手に自分の手を重ねて言う。
「ところで・・こっちの宝石はどうしよう?欲しい人がいるならあげるけど。」
誰も何も言わなかった。魔人達はどうやら貴金属や宝石にもあまり興味が無いようだった。
「あの・・ラウル様。」
「どうしたんだいカトリーヌ。」
「指輪やペンダントには魔力を込めた物や魔力を増幅させる物などがございます。ラシュタルに付いたら鑑定をお願いするといいかもしれません。」
「だが・・宝石商や道具屋にこんなにもっていったら怪しまれるんじゃないか?」
「あ、そうですよね・・危険かもしれません。」
俺達が宝石の処分に困った時だった。ティファラが声をかけてくる。
「あのう・・ラウル様」
「なんだいティファラ」
「私・・鑑定眼を持っています。」
「かんていがん?」
「あの・・私は稀な血をもって生まれておりまして。」
「何ができるんだい?」
「様々な物の鑑定が出来ます。」
「宝石も見れるの?」
「はい」
ティファラの目が薄茶色から金色に変わる。
「えっと、このほとんどの宝石が魔力効果はありません。ですがこの指輪は魔力を溜める事が出来ます。そして・・こちらのペンダントは耐魔法の効果があるようです。」
半透明の緑色に光る石をはめ込んだ金色の指輪が魔力タンクの能力があり、綺麗な細工を施された銀細工の中に、透けない水色の玉をはめたペンダントが耐魔法の能力があるという。
「なるほど・・それはいいな。じゃあこの魔力を溜める指輪はマリアがつけた方がいい。ペンダントはティファラがつけろ。」
「わかりました。」
「は・・はい。なぜ私ですか?」
マリアは俺の指示を素直に受ける。ティファラがなぜ自分なのかを聞いてきた。
「その鑑定眼の能力はとにかく貴重だ。戦力としてティファラの防御力を向上させる必要がある。」
「わかりました。ありがたく頂戴いたします。」
ティファラは自分の首にそのペンダントをぶら下げる。
「あとの残りはどうしようか?」
俺が聞いてもだれも何も言わなかった。
「じゃあこれはラシュタルに行ったら売る事にするよ。」
「はい。それでよろしいかと思われます。」
シャーミリアが代表して答える。
俺は続けてティファラに質問する。
「ちなみにティファラその王家の短剣にも力が?」
「はい。こちらにも魔法耐性が施されております。そして魔除けとして代々もたらされたものです。」
心なしか女の魔人達が短剣から離れるように引いた気がした。
「あ、私に皆様を傷つける気など毛頭ございません。ただ・・おそらくはこれで斬りつけられれば皆様は傷を負ってしまうと思います。ですので私よりももっと安全な方に持っていただきたいのですが・・」
「ああそういうことか、じゃあ俺が持つことにするよ。」
「ありがとうございます。安心いたしました。」
ティファラがほっとしたようだった。心なしか女の魔人達もほっとしたように感じる。
さすがは王家に伝わる短剣だけあってかなりの物なのだろう。俺が手にすると魔力が吸い取られる感覚になる。短剣に埋め込んである赤い石が輝きだす。
「これは・・」
「ティファラ、何か光り出したけどなんでかな?」
「初めて見ましたが、魔力耐性が格段に上がりました。」
「そうか・・俺の何かに反応したんだろうな。」
「そのようです。」
光が収まってまた普通の豪華な短剣になった。しかしさっきとは違う存在感を感じる。
「それでティファラ、俺はこっちが気になっているんだ。」
8本の巻き紙をとりだす。
「ああ、これは魔法のスクロールです。」
「魔法のスクロール?」
「はい魔力を込めると燃えるように無くなりますが、スクロールに書かれた魔法を発する事が出来ます。」
「魔法の代わりって事かな?」
「はい。」
「中身はわかるかい?」
「わかります。4つは身体強化系のスクロールです。数時間は身体能力を向上させる力を持っています。1つは光源魔法ですね、暗闇などで太陽のように明るく照らしますが・・皆様には必要ないでしょう。」
「そうなんだ。後はどんな効果が?」
「ファイヤーボールとアイスランス、あとこれは・・回復魔法ですね。」
なるほど攻撃魔法2つと回復魔法ね・・
「じゃあ身体強化系は2本ずつマリアとカトリーヌが持とう。ファイヤーボールとアイスランスはカトリーヌが持って、回復魔法のスクロールをマリアが常備しよう。」
「わかりました。」
「はい。」
二人は何の疑問もなく俺の指示に従う。
「で、光のスクロールはさっきの宝石と一緒に売ってしまおう。」
皆だまってうなずいた。
「あとはこの紙の束だな。」
「それは私がみましょう。」
マリアが紙の束を眺め始める。
「これは帳簿ですね・・売買した奴隷の人数や人殺しの依頼、見つけた貴族の人数、依頼を受けた相手の名前などが記されているようです。」
マリアが1枚1枚めくっていくと、そのなかに1枚地図が出てきた。
「ラウル様!地図です!」
「本当だ!これは・・大陸の地図だな!やった!これが一番の収穫だ!」
「よかったですね!」
カトリーヌも嬉しそうに言う。
そう・・ルタンの街にも地図が無かった。今まではクルス神父の手書きの地図で旅をしていたが、やっと古そうではあるがきちんとした地図を入手したのだった。
するとティファラが言う。
「ディスポラス・ルーケンスとサインがしてあります。古い有名な冒険家のサインですよ。」
どうやら有名な冒険家のサインがなされているらしい。
「これも帳簿と一緒に本部に献上する予定だったんだろうな。」
「そのようですね。」
なんと地図には4大迷宮の場所も記してある。裏街道や国の首都や村の場所まで詳細に記されていた。
「これは・・大変貴重な物でございます。」
「ティファラ!それは鑑定眼で見たのか?」
「いえ、鑑定眼をつかわずとも私が王家でこれを見た事がございますので。」
「なるほど・・どこかの貴族からこれを奪ったんだな・・」
「ご主人様。いずれにせよこれからの動きが楽になりますね。」
シャーミリアも嬉しそうに俺に話しかけてくる。
「そうだな。この裏道や迷宮の場所・・これ・・すげえな。」
一通り見終わってかなりの収穫に俺は興奮していた。
そしてティファラに気になっていたことを聞いてみる。
「あの、ティファラ。疲れているところ悪いんだけど、その鑑定眼で俺達の事を見れたりするのか?」
「それが・・マリアさんとカトリーヌ、リューズの魔力は見えるのですが。」
「どうなってる?」
「凄いものです。マリアさんは中堅の魔法使いほどの魔力があります。カティはさすがは王宮魔導士見習いだけあって膨大な魔力を感じます。リューズには微量ですが魔力を感じます。」
「そうか・・私は微量か・・」
リューズの耳がパタンと閉じる。
「リューズの魔力はどうやら身体強化になっているようです。」
なるほど・・獣人は魔人に近い性質を持っているのかもしれないな。
「それで、俺達はどうなんだい?」
「それが・・魔力が強すぎて誰一人ハッキリ見えません。魔力があるのかもわからないほどで、底が無いというかそんな感じなのです。」
「そうか。やはり魔人達の能力は計り知れないものがあるのかもしれないな。」
「ただ・・」
「ただ?」
「二人だけ不思議な人がいます。」
「だれ?」
「ファントムさんとラウル様です。」
そこにいる全員が、あー。という顔をして見合わせる。
まあ・・俺もいつもの感じだし聞かなくても良いかと思った。
《でも一応聞いてみようかな。》
「ティファラ、俺達はどう不思議なんだい?」
「ファントムさんは魔力がありません。」
「まったく?」
「まったく。」
そうなんだ・・あの強さはどこから来るものなんだろう。とにかくあいつは不思議な事が多いな。
「それで俺は?」
「えっと二つの流れが見えまして、どちらも底が見えません。」
「二つの流れというと」
「金色の奔流と暗黒の奔流が別々に流れています。」
「そうか・・」
「金色の魔力の奔流を覗けば私の体が暖かくなるのを感じるのですが、暗黒の方は・・見たくありません。すぐに目をそらしました。」
「どうしてだい?」
「わかりませんが。おそらくそれを見続ければ私はすぐに死ぬと思います。」
「そんなものが俺の中に流れているのかい?」
「はい、間違いなく流れております。」
見ただけで死ぬようなものが俺の中に流れている・・
おっかないんだけど・・
ティファラの鑑定眼がめっちゃ使える事だけは分かったのだった。