第135話 約束の戦利品
「さて、悪党から聞いた通りだ。」
「はい。」
「奴隷商の屋敷に行って約束通り金をもらってくる事にする。」
「誰がご一緒いたしましょう?」
「カトリーヌ達が風呂に入っている間に早急に終わらせたい。シャーミリア、マキーナ、ルピアと俺で行こう」
森から村まで魔人達が移動すれば早いが、そっと村に侵入して事を終わらせたかった。上空から入るのが一番手っ取り早い。
ルピアにM240中機関銃と弾倉のバックパックを背負わせる。
「ルピア。村に危険はなかったがこれで上空から警戒態勢をとってくれ。」
「はい」
「ではシャーミリア行くぞ!」
「かしこまりました。」
俺はシャーミリアと手をつなぎ夜の空へと浮かび上がる。
「ではまいります。」
一気に村の上空まで飛んだ。
ほとんど時間はかからなかった。まずは上空から村を眺めてみる。
「もうほとんど灯りなどはついていないな。」
「ええ、そのようですね。」
「奴隷商の建物はあそこだ。マキーナが掌握しているから先行してくれ。」
「かしこまりました。」
「ルピアはここでM240を構えて待機。」
「はい。」
急降下して奴隷商の建物の屋根に降り立つ。
うん順調だ特に何も起きない。
建物に降り立ってシャーミリアが屋根の上から中を覗き見る。
「ご主人様。中に3人ほど人間がいるようですわ。」
「見張りがいたか。こちらも処分したいところだ。」
「かしこまりました。」
普通にヴァンパイアが夜の建物に忍び込んで人間を処分する・・ホラー映画だよな。仲間だからそう感じないが、前世の俺だったら震え上がるシチュエーションだ。
2階の窓の前に立ち、マキーナがスッと窓の両サイドに手をかける。
事もなく窓が外された。シャーミリアとマキーナだけなら窓など外さなくても侵入出来るらしいが、俺のために進入路を設けてくれたのだ。
「入ります。」
マキーナが先に入り込み、俺とシャーミリアが続けて侵入する。
室内は真っ暗だがシャーミリアもマキーナも昼間のように見えている。俺も薄暗さは感じるがほぼハッキリ見えるようになった。アンドロマリウスを吸収してからいろんなことが格段に向上している。
室内に入るとそこは何もない部屋だった。おそらく奴らの待機所かなにかだろう、テーブルと椅子が4脚置いてあるだけだ。普通ならここに強面のやつらが待機して何かあれば出ていくんだろう。
その強面3人はマキーナとアナミスが食べちゃったけど。
「敵は?」
「1階に。1人は寝ているようです。あとの2人は起きて話をしていますね。」
「なるほど・・じゃあ寝てるやつをマキーナが処分してきて。」
「かしこまりました。」
舌なめずりをするように返事をする。
「あとの二人はシャーミリアと俺で。」
「かしこまりました。」
最初の部屋を出て音もなく1階に下りていく。マキーナと俺達2人は二手に分かれた。
俺達は真っ暗な建物の中を迷わずに歩き、2人の人間がいるという部屋の前に来た。
「ここです。」
俺はその部屋のドアに聞き耳を立てる。男二人が話をしているようだった。
「出て行った奴ら遅いな。」
「フブドの旦那の事だから簡単に終わらせてくるかと思ったが、手こずってるのか?」
「そんなわけねえだろう。ガマラ商会でも1〜2を争う手練れだぞ。」
「ああ・・フブドの旦那は今まで数百人を殺してきたって言うぜ」
「殺し方は残忍で、棍棒で相手の脳髄が出るほどぶん殴るんだと」
「俺はその相手に同情するね。」
なるほど、こいつらはまだ自分らの仲間が俺の配下達に吸収されてしまった事を知らない訳だ。
「もしかしたら・・」
「なんだ?」
「ズーラが言ってたんだが、昨日奴隷を買いに来た女どもは相当な別嬪だったらしいぜ。」
「そうらしいな。」
「いまごろ楽しくやってんじゃねえのか?」
「!?そうだ・・ちがいねえ!あいつらいい思いしやがってんな。」
いやぁ・・昇天はしちゃったけど、いい思いはしてないと思うけどね。
「くそう!」
「まあ・・終わったら奴隷として連れ帰ってくるさ。そんとき俺達も楽しめばいい。」
「そ、そうだな。後でやらせてもらうか。」
男の話に聞き耳を立てていると・・
スゥ
俺達の後ろにマキーナが戻って来た。
「男を処分しました。」
「あ、そうなのか?俺が無駄にあいつらの会話を聞いているあいだに・・」
「では3人でまいりましょうか。」
「そうだね。」
ガチャ
ドアを開ける。
「やっと帰ってきた・・」
部屋の中で話してた男のひとりがつぶやく。
「ん?」
そして俺達の顔をみて気づいた。
「おい!てめえらどっから入って来た!」
「ここがガマラ商会のアジトだって知ってんのか?」
「いやあ、なんかさぁ!ここにある金目の物、全部持って行っていいんだってさ!」
「何言ってやがる!誰がそんなことを・・」
「目つきと顔色の悪いじいさんが」
「ズーラが?なんでそんなこと言うんだ?」
「逃がしてくれたら、金は全部やる!っていうんだ。」
「逃がして?仲間たちが10人行ったろ!ズーラだけそんな・・」
「いやぁ・・ほかの人間はもう帰ってこないんじゃないかな。」
「そんなわけあるか!?」
「まあめんどくさいから、とにかく金目のもの全部だしてよ。約束したんだからさ。」
「てめえ・・」
男たちの手にスラリと短剣が出てきた。
なるほど人間にしてはスムーズに荒事に対処できる奴らなんだろう。
「あら?剣なんか出して。危ないじゃないか。」
「この!」
一人が短剣を刺すように飛び込んで来たので、それを見切ってかわし相手の勢いのまま、相手のアゴのあたりに高速怪力掌底を繰り出してみる。
グリン!ボキィ!
ドサァサササッ
俺の脇を通り過ぎて床に倒れ込み、自分が走ってきた勢いのまま床を滑る。
「な!おまえ何をした!」
「いやいや、突っかかって来たそいつが俺の手にぶつかっただけじゃん。見てなかったの?」
「なんだとぉ!?」
「俺悪くないよ。だっていきなりかかってきたらさ、ワッて手をだすのは仕方ないよ。」
「ふざけやがって。」
とその男がこちらに突っかかってくる姿勢をとるが、身動きが出来ないようだった。
「ぐあ・・痛ででで」
「動くなよ。腕が折れるぞ。」
マキーナがそいつの後ろに立ち腕を捻り上げていた。
「おまえら!こんなことして!痛で!いででででで!」
「ほいほい。動かないほうが良いって。」
「ぐぁ・・わ・・分かったやめてくれ。」
すっとマキーナの力が緩められる。マキーナ自身には力を入れているという感覚は無いだろうが・・
「じゃあ、金がある所に案内してくれ。」
「いや・・それは・・」
「物分かりが悪いね。倒れてるやつを見て見ろよ・・マキーナ放してあげて。」
マキーナが男を離す。
「ふう・・いててて。」
男は自分の肩に手をやっている。
「ほら、そこに倒れてるやつが、どうなったか見るといいよ。」
「ん?おい!おまえ起きろよ!」
男が近づいて倒れた男をのぞき込むと、やっと異変に気が付いた。
「ひぃ!」
倒れている男は首がありえないほど後ろを見て死んでいた。腹ばいなのに首がほぼ後ろを向いている。
「なんかさ転んだ拍子に折れちゃったみたいよ。」
「そんな・・」
「まあありきたりな言いかたで申し訳ないけど、こうなりたくなかったらお金の場所を教えてよ。」
「わ・・わかった・・」
というわけで俺達が男に案内されて金庫のある部屋に通される。やたらバカでかい金庫だがこんなものいるのか?
「よし!じゃあこの金庫開けてくれ。」
「俺は開けられねえ!番号も知らなけりゃ鍵ももってねえ。」
「そうなんだ。」
「俺を殺しても金は持っていけねえよ・・」
「まあそうだよな。三下に鍵を渡すわけないか・・」
「ああそうだ・・」
「じゃあもういいや。」
「そ・・そうか?」
「シャーミリア処分して良いぞ」
「はい」
男の後ろにシャーミリアが立っていた。男が震えだし白目をむく。
「ああああああああ」
男の口からおかしな声が漏れ始める。
するとどんどん男がしぼんでいく・・干からびてミイラになった。
シャーミリアがスッと離れると、男は床に倒れ込みバサァと砂になって消えた。
「ありがとうございますご主人様。」
シャーミリアの顔が妖艶に笑っている。人間を吸い込むときはどうしても・・発情してしまうらしい。俺の事を狙う女豹のような目つきで見ている。
「コホン!とにかくこれを開けてもらっていこう。」
「では私奴が。」
マキーナがデカい鉄の金庫の扉に手をかけてグイっと手前に引く。重い金庫の扉はぐにゃりと曲がり開いた、半分開いたところでドアごと引きちぎって床に置く。
「おお。麻袋がいっぱいあるぞ!」
俺はその麻袋を手に取る。ずっしりと重い袋だった。
麻袋は合計で6袋あった。封を開いて中を見てみると金貨がびっしり入っていた。6袋のうち4袋は金貨でいっぱいだった。あとの2袋には銀貨がびっしり入っている。そして麻袋の他には・・書類のようなものと、紙を丸めてひもで結んだスクロールが8本、強奪したものであろう宝石類や貴金属類、豪華な飾りがついた短剣があった。
《どうやら奴隷制度が無い地域への商売拡大で、相当儲かっているらしいな・・》
俺はシャーミリアに話しかける。
「結構いろいろ入ってたな。」
「そのようですね。」
「全部持っていくよ」
「はい」
俺はリュックを3つ召喚した。そのリュックに金庫の中のものをすべて詰め込む。
《あー、大泥棒ってこんな感じなのかな。》
「ふふっ。ご主人様・・泥棒ではございませんよ。これは約束していただいたものではございませんか。」
「あ、そうだった。きちんと約束したからな・・泥棒じゃないや・・」
「では・・まいりましょうか?」
「それとマキーナ!一応ここからでもわかるんだろうが、念のため館内に人間がいるか見て来てくれ。」
「かしこまりました。」
スッ
マキーナが暗闇に消える。
すぐに戻ってくる。
「ご主人様、後は何もいませんでした。」
「よし。じゃあさっき俺にぶつかって死んだやつも拾っていこう。」
「かしこまりました?屍人にでもなさるおつもりで?」
「いや、ファントムに何も与えていないのを思い出したんだ。」
「はい。それでは拾ってまいりましょう。」
俺達は死体を一つ拾って2階の窓から空に飛んだ。
滝のそばの駐屯地に戻ると、人間の女子はみんなお風呂を終えて俺達を待っていた。
「ああ、お風呂はどうだった?」
俺がティファラとリューズに聞いてみる。
「こんな山奥であったかいお風呂に入れるなど夢のようでございます。」
「気んもちよかったぁー!」
「よかったよ。」
「今はポカポカで4人で涼んでおりました。」
「そうか、ならよかった。まあ冷える前にテントに入って眠ってくれ!」
「ありがとうございます。そうさせていただきます。」
「奴隷から解放されて夜まで起きてたんだ。おそらく体は疲れているだろうからゆっくり休んでくれ。」
「はい」
俺はその場を立ち去る。
《マキーナ死体は処分したか?》
《はいファントムが吸収いたしました。》
《よし!》
「それで・・なんで女の魔人が風呂に入っていないんだ?」
俺がカララに聞いてみる。
「なんでもなにも・・ラウル様を待っていたのでございます。」
「あ、それで男魔人達が先に風呂に入ってるのか?」
「ええ。左様でございます。」
「あのーカララ。ちょっと金庫からいろいろ持ってきたんだ中身を確認したいんだが・・」
「ええ。それでは一緒にご確認させてください。」
「そうしよう。」
俺と女魔人が大テントに入り込む。すると・・カトリーヌやティファラ、マリアにリューズまでついてきた。
大テントの中でみんなが固唾をのんで見守る中、リュックから中身を取り出して並べていく。
俺が気になるのは紙の方だった。
これはいったい何だろう?