第131話 薬草採取
道行く人に聞きながら元の冒険者ギルドにたどり着いた。
「武器屋のオヤジが言ってたところはここだな。」
「元のギルドというところですね。」
「とりあえず入ってみるか。」
ギィ
ドアを開けて中に入る。中に入ると奥にカウンターなどがあり、テーブルなども置いてあるのだが人はいなかった。それほど荒れ果てた様子もなく誰かが手入れをしているんだろう。
「誰かいますかー!」
奥に声をかけてみるが誰もいない。
「便利屋みたいな事をしているって聞いてきたんですが。誰かいませんか!」
再度声をかけてみるが誰も出てくる事はなかった。
すると後ろからティファラが話しかけてきた。
「あの・・この壁に貼ってある紙ですが・・」
「紙?」
「頼みごとが書いてあります。」
「頼みごと?」
掲示板にある紙を見てみると
・軒先が壊れたので直してほしい 角から3軒目
・薬草採取をしてほしい 薬師
・ネズミの駆除を求む ○○宿屋
・ペットの猫を探しています ハル婆
「本当だ・・暮らしの困りごとが書いてある。」
「もしかしたらですが、ここに貼っておけば誰かが善意で承るのではないでしょうか?」
「ああー!恐らくそれだね。報酬とかも書いてあるわけじゃないし。」
ティファラの推測通りだろう。ギルドとしては機能していないが、これを見た人がボランティアでやってくれるといったところか。
「さて・・どうするか?手詰まりかな?」
「はい、ロード様そのようで・・」
「いかがなさいますか?」
魔人の二人に相談する・・逆にアナミスが聞いてきた。
「とりあえずここを出るか」
するとティファラが俺に話してきた。
「あの・・」
「どうした?」
「この案件を受けてみてはいかがでしょう?」
「・・・ほう。なるほどね・・やってみようかな」
ティファラが案件を受けてみたらというので、名案だと思いそれに賛成する。
「しかしごしゅ・・ロード様、薬草など分かるのですか?」
「あ・・わからない。」
《カトリーヌかダークエルフ達ならわかるんだけどな。カトリーヌのところにいったん戻るか・・》
《その方が良さそうです。》
念話で魔人のみんなに戻る事を伝えようとした時だった。
「それなら僕が知ってます!ラシュタルでは仲間たちと薬草を採ってきて、薬師に売りに行ってましたから。」
マイルスが薬草の事が分かると言ってきた。
「森に採りに行ってか?」
「はい。」
「子供達だけでか?」
「はい。」
「ラシュタルでは子供たちがそんな危険な事をしているのか。」
「親を亡くしたみんなは生きるために何でもしました。」
マイルスはラシュタルで森に入って薬草を採って生きていたらしい。こんな小さい子供がファングラビットのような魔獣にあったらひとたまりもない・・
「よく無事でいたものだ・・」
「多くの仲間が魔獣に食われました。でも生きるにはそれしかありませんでしたから。」
俺はマイルスの頭をグッと抱き寄せて言葉をかける。
「これからはそんな危ない事しなくてもいいよ。俺達についてくればいい。」
「は、はい。」
するとティファラがたまらずに口を開いた。
「子供にそんな真似をさせてしまって、ラシュタルの貴族が皆殺しにあい、生き残った私のようなものが不甲斐ないばかりに・・」
「ティファラが一人で動いても何もできなかったさ、無駄死にしないで生きててくれてよかったよ。」
「ありがとうございます。私も帰る場所などないのです。お役に立てるか分かりませんが何なりとお申し付けください。」
「わかった。とにかく無理をしなくていい。」
俺とティファラが話をしているとリューズが元気に言った。
「ならマイルスが薬草を教えてくれれば、私の鼻で探すのは簡単なことだよ。」
「よし!そうと決まれば早速森に入るぞ。」
「かしこまりました。」
「はい!」
「よろしくお願いします!」
3人が自分のやる事を見つけて喜んでいた。
俺達6人は村の西側の、ファントムらが潜む森へと向かうことにする。
村の入り口には昨日入村した時にいた門番のオヤジがいた。
「あれ?あんちゃん!昨日より人数が増えたな。」
「ああ、奴隷を買ってしまいました。」
「そうか・・ありがとうな。」
「いえ・・人手も必要でしたし。」
「どこに行くんだい?」
「西の森に。」
「こんな時間からかい?迷ったり夜になったら危ないぞ!とりあえず朝からにしたらどうだい?」
「いえ、ちょっと急ぎの用事があるので。」
「そうかい。まあ、夜までには帰ってくるこったな。グレートボアやファングラビットの群れになんか遭遇したら危険だ。昼間もタラム鳥が襲って来るかもしれん・・気をつけてな。」
「気をつけます。」
俺達は正門から出て西の森に向かった。
念話で待機中のメンバーに伝達を飛ばす
《ファントム、セイラ、ティラ、タピ。これから西の森に入る!奥まで進むが3人の人間が一緒だ、1匹たりとも魔獣を近づかせないようにしてくれ。》
《かしこまりました。》
《はい!》
《はい!》
《・・・・》
まあ・・ファントムは俺が半自動操縦するんだけどな。
森の奥に入るとマイルスが薬草を見つける。
「これがポーションなどに使う薬草です。」
クンクンその薬草の匂いをリューズが覚える。
「こっちだ!」
リューズが言うところに行くと群生して生えていた。
「おお!全部採って行こう」
全員でその薬草を引っこ抜いてリュックに入れて行く。マキーナとアナミスの手がぶれるほどのスピードで薬草を抜いているが、彼らも一生懸命でその異常さには気づいていないらしい。
「あれ?もっと生えていたと思ったのですが・・」
マイルスが不思議そうにあたりを見る。
「ああ、とりあえずここはこんなもんだろ。」
「・・はい・・では次に行きます!」
マイルスが薬草を探し始めた。きょろきょろと探す事10分くらい。
「あ!これが滋養強壮に聞く薬草です。普段は地面に埋まっているのですが先端が出ていました!」
先端を掴んで引っ張る。スポッと抜けてしまった。
「短かったですね。」
マイルスが言う。
「もっと長いのかい?」
「根が地中深くはっている場合もあるようです。表面的なところしか取れないのです。」
マイルスが指さすのは前世で言うところのゴボウ?山芋?のような細い根っこだった。
クンカクンカ
リューズが鼻を鳴らして嗅ぎ進んでいく。
「この下だ!」
その場所に行って土を掘り起こしてみると、普通にその根っこみたいなのがはっていた。俺が力まかせに引っこ抜くと5メートルくらいの根っこがバリバリとついてきた。
「すごい・・」
「なんという・・」
「熊の獣人でもそんな力は・・」
3人が俺のパワーに驚いてしまった。
「ああ・・えっと・・身体強化の一種なんだ。闘気だよ闘気。」
と適当に嘘をつく。素で引っこ抜いただけだったが、人間じゃあり得ない力だったようだ。
俺は既に加減が分からなくなっているのかも。
「そうですか」
「そうなんですね」
「とにかく凄い」
次に行ったところにもポーションに使う薬草が群生していた。
「犬の獣人ってすごいね。鼻が・・」
「ああ・・このくらいどうって言う事ないよ。それよりもさ・・なんとなく魔獣のような匂いもするんだ。これ以上奥には進まない方がいいかもしれないよ。」
《魔獣のような匂いね・・それは魔獣じゃなくて魔人の匂いだよ。俺の配下の匂いだ・・》
「えっと・・じゃあ、俺とマイルスとティファラ、リューズは一休みしよう。」
「え・・まだ大丈夫ですよ。」
「いいんだ。それと・・あまり森を舐めない方がいい。」
「はい」
「わかりました。」
「では、休みます。」
3人を休ませる事にした。
「よし!ローラ!カー!いまの薬草を覚えてくれたかい?」
「ええもちろんです。」
「香りも。」
「人間が根っこの匂いをかぎ分けられるのかい?」
犬の獣人リューズが不思議そうに聞く。
「あ、ああ。近くによって手に取って嗅ぐってことだろ?そうだよなカー!」
「え・・ええ!そうでございますわ。当たり前じゃないですか。」
とにかくそのうち俺達の能力を嫌というほど見ることになると思うが、今はあまり驚かせるのは得策じゃない。適当に誤魔化しておこう。
「ローラとカーで薬草を集めて来てくれるかな。」
「ええ、どれだけ集められるか分かりませんが。」
「そうですね、とにかく少しでもリュックに詰めて帰ってきます。」
二人が消えて20分で戻って来た。
「あ、ローラとカー!どうだった?」
「まあまあ集められたと思いますが・・」
「十分かは分かりません。」
「よし!村に戻ろうか。」
とりあえず、中断して村に戻る事を提案する。
俺の判断を聞いてマイルスとティファラが言う。
「えっ?もういいんですか?」
「まだ出来ますよ。」
しかしリューズだけは違った。
「うん、ロードさんの言うとおりだ。なんか・・おかしな臭いがする。魔獣の匂いとは違う気がするんだ・・」
《お前たちの匂いじゃないのか?》
俺は念話でマキーナとアナミスに聞いてみる。
《ご主人様、私やシャーミリア様は臭いなどしませんよ。》
《私は術で良い香りを発する事ができますから、香水だと思われるはずですが・・》
《じゃあセイラとティラ、タピかな?》
《たと思われます。》《おそらくは》
《じゃあ気が付かれる前に帰ろう。》
念話で二人と確認をとり俺が話はじめる。
「そうだよな。リューズの言うとおりだ!もしかしたら魔獣に気が付かれたかもしれない、急いで村に戻るとしよう。」
「はい」
「わかりました。」
マイルスもティファラも賛成する。
《よーし!セイラ!ティラ!タピ!魔獣の撃退はあといいよ。村に戻るから元の位置で待機しててくれ!》
《かしこまりました!》
《《はい!》》
念話で待機組に警戒行動を終了して待機場所に戻るように伝える。
そしてすみやかに俺達は森を抜けて、村の入り口にたどり着くのだった。
もう夕方にさしかかっていた。
夕日が村を照らしている。
「あれ?もう帰ってきたのかい?」
門番のオヤジが声をかけてきた。
「はい。やはり夜になると危険ですから。」
「言わんこっちゃねえ。それじゃあまり量は採れなかっただろ。」
「まあそうですね。薬師の家はどっちですかね?」
「ああ、市場と宿屋とは違う方向だよ。西側の奥にある建物で匂いがするからすぐにわかるよ。」
「ありがとうございます。」
俺達6人は再び村に戻って薬師の家を目指した。
薬屋はすぐにわかった。佇まいは普通の建物だがとにかく匂いがする、少し強烈な匂いにリューズが眉をひそめていた。犬の獣人にはキツイ臭いらしい。
「じゃあ入ってみようかね。」
キィ
「いらっしゃい。」
《あれ?イメージと違う。若い・・30歳くらいかな・・色気のある女の人がいる・・というか薬師というより魔法使いのようだ・・》
「あの・・薬草を持ってきたんですが・・」
「掲示板を見てくれたんだ。買い取らせてもらいますよ。」
6人は店内に入って、カウンター前のテーブルに着く。
「とりあえず見てもらっていいですか?」
「じゃあそのテーブルに広げてください」
俺達がとってきたポーション用の薬草と、マイルスが言っていた根っこをどんどん取り出してテーブルの上に並べていく。
「ええ!こんなにですか!?何日もかかったんじゃないですか?」
俺とマキーナ、アナミス以外の3人は顔を見合わせてこそこそと話し出す。
「あの・・短時間で採ったんですか?」
「えっとほんのわずかの時間でしたよね?」
「私の鼻もそんなに使ってなかったと思うけど・・」
「そうですねぇ!大変でしたよ!」
俺が声高らかに言うと、3人は黙り込んだ。
「ただ・・こんなにとなると今はお金の持ち合わせがないかもね。一部精製した薬品との物々交換でもいいかい?」
「ええ、かまいません。」
「こんなに大量の伽藍主根は見つけるのが大変だったでしょう。」
「それはもう大変でした。」
女主人は貴重な薬草を目の前に嬉しそうだった。
《そうか・・この根っこ、金になるんだ。今度みんなで採ろうっと。》
《ええそうしましょう。》
《いいもの見つけましたね。》
俺達3人は念話で悪だくみをするのだった。




