第13話 こつぜんと消えた武器
賢者と魔獣の混在?
俺が?
先生から不吉な事を聞いて不安だった。
とにかく次の日の朝から俺はモーリスから学ぶことになった。
まずは文字かららしい。文字を午前に教えて午後に歴史や魔法の理についてだった。
やはり思った通り理とは前世でいうところの、算数と理科という感じだ。足し算と引き算、植物に太陽が必要なことや天気の話、弱肉強食などの食物連鎖など理科で学ぶような話しだ。4才に合わせた話になっていてすでに俺は前世でもっと詳しく学んでいるため、まったく難しい事はなかった。
むしろ、俺の飲み込みが良すぎるため、モーリスは驚いているようだった。
「やはりカエルの子はカエルかのう、イオナ嬢ちゃん譲りの飲み込みの良さじゃの。」
「先生の話はわかりやすいのです。」
「どんどん吸収するもんじゃから、つい4才ということを忘れてどんどん進めてしまうわい。」
「わからない時はわからないと言います。気にせず続けていただけますと助かります。」
「まったく大人のような賢い子じゃな、熱い教師の血がたぎるわい」
「引き続きよろしくお願いします。」
「そうじゃな」
モーリスのじいさんは嬉しそうだな。俺も貪欲に知識を吸収しようと思う。
夕方までずっと学び、モーリスは帰っていった。
基本的には文字の読み書きと、前世でいうところの算数と理科のとりわけ天候や生物のことについての話だった。魔法の理は理系って事かな?まだ初日だし俺は4才だ、そんな突っ込んだ話しはしないか。ただ、生物や天候についてやたら話していたぞ!魔法になにか関係が深いのだろうということは分かる。
弱肉強食というのが特に気になったな。
それから夜にかけてはずーっとデータベース作成に勤しんだ。ああ今日も残業だ。幸せな残業だけど。
夜飯はさっきイオナとマリアと3人で食べた。しかし今日一日頭を使ったせいか腹が減った。グゥーと腹が鳴る。
「乾パンなら袋だし、すぐに開けられるよな。」
そう思った俺は、自衛隊のミリメシ乾パンを呼び出すことにした。乾パンをイメージすると脳内のデータがスライドしてくる。
きたきた。
久しぶりに召喚する事になる。前回召喚したのはP320のサブコンパクトだったが、あれから1カ月以上になるな。
ぼとっ。
乾パンが出てきた。袋を開けて食べてみる。小腹が空いたときにはこれくらいでいいよな。ただ口の中の水分が全部持ってかれるぞ。良く噛んで唾液を出さないと飲み込みづらい。
とにかく!食品も問題なく出せたし食べれた。検証終了だ。
よく噛んだせいもあり2個でお腹が膨れてきた。4才だしそんなに食えない。余ってしまった。仕方がないので1カ月以上放置していた、武器の隠し場所に入れて置こうと思う。毎日出入りなんかしたらバレそうだし、なるべく必要な時しかクローゼットには行かないようにしてある。
そっと、部屋を抜け出しクローゼットに入る。
隠していた箱を取り出そうと手を伸ばす。スッと持ちあがった。俺は血の気がひいた…軽すぎる。何も入っていない感じがした。
箱には俺と一緒に転生してきた、弾頭がひとつ入っていた…
「えっ?」
思わず声をあげてしまった。入ってない…俺と一緒に来たこれだけ?ヤバイ、もしかしてマリアが掃除したとき見つかった?でも騒ぎになるよな。
…心拍数があがる。
と、とにかくだ、この乾パンの余りをしまっておこう。というかこれもみつかる?まずは箱を置いておく場所を変えてみる。
そっーと部屋に戻る。
えーーーーーっ!
武器無いんだけど。確かに召喚したよな、まてよ…俺はいつも部屋にいたぞ、なら気がつくはずだ。でも掃除のときにでも気がついた?わかりにくい場所に置いてたはずだぞ。
ぐるぐる思考が回った。
…。
まあその時はその時だ、俺の魔法はこれなんだと正直に言おう。人間開き直りが肝心だ。とりあえず明日の朝に聞いてみよう…
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朝になり早速リビングに向かう。
イオナがいた。花瓶に魔法で水を与えているところだった。
「母さん、おはようございます。」
「おはよう。早いのね。」
「目が覚めちゃいました。」
「昨日はたくさん勉強したみたいね。モーリス先生が褒めてたわよ」
「お話が上手で覚えやすいんです。」
「さすがは先生、衰えてないわね。」
「先生は素晴らしいです。」
イオナは満足そうな顔で微笑んだ。
で!マリアはどこだろう?とにかくマリアに会って問いたださねばならん。とってもまずい状況なのだから。
「あの…マリアはどこですか?」
「キッチンにいるわよ。」
「ありがとうございます。」
俺はすぐ隣の台所に向かった。マリアはオーブンで何かを焼いていた。まずはさりげなく挨拶を交わしておこう。
「マリアおはようございます。」
「おはようございます。」
さて…どう聞いたら良いものか…
「マリアは何を焼いているのですか?」
「昨日セルマが作っていたパイのマネをしようと思い、肉を刻んだものを入れて焼き上げてます。たぶんあんなに上手くはいきませんが、一度挑戦しておかないと聞いてもすぐ飲み込めませんから。」
マリアはやはり凄いな。予習をしてから学ぼうとする姿勢に脱帽だ。が、俺が聞きたい事はそうじゃない。
「あの…マリア…」
「なんでしょうか?」
「最近なにか気づいたことはありませんか?」
「気づいたことですか?」
「こう…なにか…小さい…なんていうか…」
なんて言ったらいいんだ??
「あの小さくて硬くて…」
するとマリアが、ハハァーンという顔をした。やっぱりだ!やっぱり知っているんだ!でもイオナが何も言ってこないところみると、マリアは秘密にしてくれているのかもしれない。
「あの、母さんには秘密にしてくれているんですか?」
「もちろんですよラウル様。隠したいことくらい分かります。」
やっぱりだ!確定だ!マリアは知っているんだ俺の秘密を。知ったうえで俺の武器を隠してくれているのか?
「あの、母さんには秘密にしたままにしてください。」
「承知しておりますよ。お気になさらないで下さい。」
いや!めっちゃ気になるって!どこにやったの?返してよ!あれは俺の武器なんだよ。
「それであの…あれは僕の武器なんです。」
「武器??そうでしょうね。男の子の1番大事な物ですね。」
意外に冷静だな。メイドの鑑だな。だから返してほしい。間違って引き金でもひいたら大変だ。
「あの…見てビックリしませんでしたか?」
「まったく驚きませんわ。だって当然のことですもの。」
当然?なにが?あ、でもピストルを武器だと認識した?
「あれは…危ないものなんです。変に暴発でもしちゃったら…」
俺が言うとマリアが、
「ラウル様そのようなことはございませんよ。」
遮るように、少し頬を赤らめて言った。
「男の子なら誰でもあると聞いています。まだラウル様は小さくていらっしゃいます。暴発などしないはずです。だからお気になさることはございませんよ。」
男の子には誰でも?だって召喚魔法なんてないんじゃないの?
「いえ、僕だけ特別だと思うんです。そうそういるとは思えません。」
「ラウル様は戸惑っておいでなのですね。可愛らしく思います。」
と、とびきりの笑顔で言われた。何?なにそれ!余裕すぎるでしょ!武器だよ!?あんな物騒なものないよ!焦ってきた…
「マリアには僕の気持ちがわからないのです!」
少し声を荒げてしまった。するとマリアが…
俺をぎゅっと抱きしめて言った。
「大丈夫ですよ何も心配はいりません。男の子は体を撫でられると大きくなってしまうものなのです。」
それはそれは優しい声でささやいてくれた。
・・・・
・・・・
・・・・
風呂か…
やっぱりお風呂で気がついていたのね。顔が赤くなるのがわかる。俺がマリアが言っていることを勘違いしていたのだ。マリアが言っているのは、毎回マリアにお風呂に入れてもらうとツノを出してしまう、俺のマイリトルモンスターのことを言っていたのだ。
《マリアよ。優しい気遣いをありがとう。童貞は傷つきやすいからね、そういう気遣いは大事だよ。うん…そして今は物騒じゃないけど将来物騒になるよ…うん。あとね…体を擦られるからツノを出すんじゃないんだよ。マリアのせいなんだよ。そう全ては君の体が悪いんだよ。悪いのは俺じゃない。》
「わかってもらえたらいいんだ…母さんには内緒にしていてください。」
「わかりました。2人の秘密です。」
満面の笑顔で俺は頭をなでられた。
マリアは優しい子だ。男の子を傷つけないようにしてくれているんだ。すまない!そんないい子を疑ってしまって…そして、マリアとばかり風呂に入るのは理由があるんだ。
イオナを避けてマリアとばかり風呂に入るのは、マリアなら他人だから反応しても致し方ないけど、実の母親に反応してしまったら嫌だからなんだ。俺の気持ち的にだけど。そんな複雑な気持ちを知ってか知らずか、マリアはいつも優しく洗ってくれる。
話しを本題に戻そう…とにかく武器が無いのだ。気をとりなおして、とりあえずイオナに聞きにいこう。
「母さん。その…最近なにか変わったことはないですか?」
「モーリス先生が来てくれたこと以外に?」
「なんか変なものを見たとか。」
「オバケでもみたの?ラウル。」
「い、いえいいんです。なんでもありません。」
イオナでもないらしい…どこいった?消えてしまった。もしかしたら夢でもみてた?いや!そんなことはない。昨日乾パン食ったし。
ちょっと夜に試してみよう。
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その夜、俺は自分のベッドにいた。弾が呼び出せるかやってみるためだ。思い浮かべるとかなりのデータがよびだせる。どの大きさまで呼び出せるか試したことはないが、かなり大きな兵器もデータベースにはある。
とにかく検証するためだ。弾丸をイメージして出してみると間違いなく、ポトリとでてきた。俺はこれを肌身離さず持ち続けることにする。消えるかどうか確かめるためだ。検証しないとわからない。
「せっかく出した銃が…」
無性に悲しくなってきた。
その夜は弾丸を抱いて枕を濡らした。マリアと銃の二重の意味で。
つぎの日の朝、俺の頭も昨日より冷静になっていた。整理がついて冷静になり気がついた事がある。それを確かめようと思う。
うろうろしながら待っていた。そうモーリス先生をだ。
「そんなにそわそわしちゃって、よっぽどお勉強が楽しいのね。」
「はは、まあ…そうですね。」
コンコン!
きた!ダダダーと猛スピードで玄関に向かい開けた。
「おお!元気がええのう。おはよう。」
「おはようございます!先生!ささ、こちらへどうぞ!」
「やる気があっていいことじゃ」
モーリス先生をとにかくリビングに連れていかねば!するとすこし遅れてマリアがきた。
「おはようございます先生。お帽子とマントをお預かりいたします。」
「すまんのう。」
そんなことはいいから!早く早く!
「先生どうぞ奥へ!」
「なんじゃラウル、随分と急いておるのう。」
「い、いえ、そんなことは…」
「わかったわかった、急ぐとしようかの」
とにかくリビングにお連れする。イオナがリビングの入り口を出てくるところだった。
「こら!ラウル!先生をそんなに急がせるものではありませんよ!」
怒られてしまった。
するとモーリス先生は穏やかにいう。
「わしゃ気にしとりやせんよ。ふぉふぉふぉ」
「先生おはようございます。すみません。」
「おはよう。」
さて、挨拶は済んだな!早速俺の部屋に!
部屋に着くとまもなく、マリアがお茶を持ってきた。マリアがお茶を淹れてくれているあいだが待ち遠しい。お茶を入れ終わりマリアが部屋を出ていった。
「先生今日もよろしくお願いします。」
「やる気十分じゃの」
先生はとてもうれしそうだった。
やっと授業が始まるのだった。
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