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第128話 奴隷買い

「宿屋はそこそこ安全に泊まれたな。」


「はい。養分までいただいて本当に良い夜でしたわ。」


《養分、3人分ペロッとね。》


「普通の人間の女だと危険かもしれないよ。」


「ご主人様、マリアならば結果は私たちと同じですわ。」


「マリアが普通の人間の女の枠に入るのかどうか分からないけどな。」


マキーナにとっては普通の人間の女の基準がマリアなのか・・そりゃ間違いだよ。


とにかく一晩生きて泊れたことに変わりはない。貴族なら危険だが一般人で男ならば何もなかっただろうし、女性でも命まで取られることは無いと思う。ただし人間の尊厳という意味では最低だが。


「試しに泊まってみて、ユークリット人がどういう扱いを受けるのかが分かったのは大きい。」


「そのようですね。」


「あのバルギウスのやつらはどこから来てたんかね。」


「すみません・・私たちのせいで。」


アナミスがすまなそうに言う。


そう・・夜にバルギウスの人間をマキーナとアナミスが食っちまったから、それ以上の情報を聞くことは出来なかった。アナミスの術で聞いてもよかったのだが・・なんかこの二人が少し怖くて。


「俺が二人の前でうまそうにシチュー食っちゃったもんな・・」


「ラウル様のせいではございません。」


「まっ最低のクズだったからどうでもよかったけどな。とりあえずっと。」



宿屋を出てすぐに隣の奴隷商の建物を見る。


入り口まで数本柱があり玄関は奥まっている。どことなく薄暗く普通の人間なら入るのをためらうような建物だった。


この世界に来て初めて見る奴隷市場だ。


「そこそこ大きいな。」


本来ユークリット公国やラシュタル王国に奴隷市場などなかった。サナリア領にいたころは普通に使用人として獣人が働いていたくらいだ。彼らはみな普通に生活していた。


奴隷制度をとっているのはバルギウス帝国だけで、獣人はもちろんのこと孤児なども奴隷として売られている。バルギウスがそういう文化なのだから仕方のない事だった。


「バルギウス帝国の風習がこっちの国まできているって事だな。バルギウス人が結構住んでるって事なんだろうか?」


「ご主人様どうしますか?」


「もちろん入るよ。」


「かしこまりました。」


俺とマキーナ、アナミスで奴隷市場に入っていく。


ギイ


音を立てて扉を開ける。


建物の中に入ると薄暗い。が取り立てて何かがあるわけでもない、ソファーが置いてあり待合所のようになっている。


「ごめんくださーい。」


俺が中の暗がりに声をかけてみるが、何の返事もない。


「とりあえず座ってようか。」


俺はずかずかと入り込み、ソファーにドカッと腰を下ろした。


するとマキーナとアナミスが両脇に立つ。


「ああ、そうしちゃうと俺が貴族に見えちゃうから一緒に座ろう。俺達は冒険者パーティーなんだからさ。」


「かしこまりました。」

「はい。」


《そして名乗る名前は今朝話した通りだ。俺がロード、マキーナがローラ、アナミスがカーだ。》

《心得ております。》

《はい。》


念話で確認をする。


すると奥の方からずいぶんと眼光の鋭く顔色の悪い老人がでてきた。


「いらっしゃい。」


「どうも。ちょっと見に来たんだがいいかい?」


「冷やかしなら出て行ってくれるか。」


まあそりゃそうだろうな。俺達を見たら奴隷を買いに来た感じはしなかっただろう。



俺は手に金貨を5枚ほど取り出して見せる。


「金はあるんだ。良いのがいたらもらおうかと思っている。」


「ああそうでしたか。それは失礼いたしましたね、どうぞどうぞ奥へ。」


態度が変わった。


俺達は老人について中に入っていく。


奥に行くとステージのようなものがある客席が並んだ部屋に出た。


「こちらは数日に1回奴隷オークションが開かれる場所でございます。上玉が入った時には盛況なんですよ。」


下卑た笑みを浮かべながら老人が言った。


「今日は奴隷はいないんですか?」


「品は地下にしまっています。ちょっと使用人がまだ来ていなくて、下に降りてもらってもよろしいでしょうか?」


「ああ、それなら俺達はそっちで見てもいいよ。」


「ではどうぞこちらへ。」


ステージの横の方にある扉からさらに奥に進むと地下室へ続く階段が現れる。石階段を下に下りていくと地下室が見えてきた。地下室は広く檻が数個置いてある。


「ちょっとまってください。」


老人が壁のロウソクに火をともす。うっすらと室内がろうそくの炎で照らし出される。


手前の檻には人がはいっていなかった。


「ささ、どうぞ奥へ」


檻の間を奥に入っていく。すると布がかけられている檻が3つほど出てきた。


「こちらでございます。」


バサッ


一つの布を開けると中には6歳ぐらいの男の子がいた。


「人間の子供です。どうです?今はまだ小さいですが仕込めば給仕くらいはするでしょう。しかしこれはどちらかというと愛玩用でしょうな。」


男の子は薄暗い怯えた目つきで俺達を見た。


「なるほど、あとの二つは?」


「まあお客様にはそちらのご趣味はないでしょうなあ。」


奥に進んでもう一つの檻の布を開く。


バサッ


「こちらはいかがでしょうか?」


「ゴホッゴホッ」


女だった。女だが・・病気か?咳をしていた。体中に痣が出ているが・・なんの病気なんだろう?


「こちらはオススメできませんな。14才くらいの人間の女ですが病に侵されております。買ってもそう日持ちはしますまい。」


「どんな人が買うんです?」


「殺しが趣味のお客さんもいるんですよ。」


「趣味が悪いですね・・」


「はは、全くです。」


女の目が俺を見た。しかし俺はそれを見ぬふりして次に移る。



「奥のは?」


バサッ


布をあげると普通の人間ではなかった。


「こちらは珍しい獣人でございます。」


「これはどこで?」


「秘密です。それはお教えする事などできませんな。」


まあ・・そりゃそうか。




「出して見せてもらう事はできますか?」


「いや・・それが・・暴れるといけませんのでね。今日は使用人がまだ来ておらんのです。」


「使用人ですか?」


「屈強な男が3人いるのですが隣の宿に昨日、酒を飲みにいってから帰ってこんのです。そのうち帰ってくるでしょうが、まもなくガマラ商会から人が来ますので売るのは本部が来てからでもいいですかね?」


《あーお前たちが食ったのってここの販売員だな。》


《そのようですね。》


《じゃあよかった。》


《はい》


念話でマキーナとアナミスにコンタクトをとる。



「ガマラ商会ですか?」


「ええ、バルギウス帝国でも大きめの奴隷商でございます。普通の商いもしておるのですがね・・こっちが本命というわけですわ。」


「なるほどね。」


「今やバルギウス帝国の奴隷商は世界中に広がっていますからな。」



《奴隷商が世界に広がってるのか・・放置したら嫌な世界になりそうだな。他の国の文化ではあるがどうせ敵対国だし、俺が掲げる魔人と獣人と人間が平等に暮らす世界の邪魔になりそうだ。》


《左様でございますね。ご主人様の目標にそぐわないようです。》


《人間というものはこうも醜い事が出来るものなのですね。》


《そうだマキーナ、アナミス。魔人には信じられないだろうな。》


《《はい》》



「ローラじゃあこの3人をもらうとするか。」


「そうですわね。ロード様本当に掘り出し物でございます。」


「カーそれじゃあ金を出してくれ。」



俺達が買う意思を見せる。


「えっ?3人ともでございますか?」


「ああ、いくらだ?」


「えっとちょっと待ってください今帳簿を・・」


奴隷商の老人は普通に帳簿を出してきた。


「獣人の女が金貨5枚、男の子供は金貨3枚、まとめて買っていただけたのでその病気の女はサービスでお付けいたします。」


「この男の子が金貨3枚?高いんじゃないの?もう少し負けてくれたら今即決で買うけどな。」


「ちょっとまってください!」


どうやら3人一緒に買うとは思っていなかったようで、目つきの悪い老人はちょっと考えた。


「では私の裁量で、まとめて金貨6枚ではいかがでしょう?」


《マキーナ。実際、相場なんてわからないから・・こんなもんなのかね?》


《申し訳ございません。奴隷の値段など存じ上げておりません・・》


《いいや・・とりあえず買う事にするよ。》


「じゃ、カー。金をだしてくれ。」


「はい。」


アナミスが金貨の入った袋から6枚の金貨を取り出す。


「じゃあこれで。」


「ありがとうございます。」


「こいつらを出してくれ。」


「えっ?今でございますか?」


老人は慌てたような顔になった。


「ああ、買ったんだから持って帰る。」


「手枷をかけるものがいませんよ。」


「あんたがかけてくれよ。」


「わ、私がですか?いや・・無理です。」


「いや金払ったんだから。すぐもってかえるよ。開けていいか?」


スッと檻の方に近づくと。


「あ・・あぶないよ。あんたその獣人は犬の獣人だぞ、噛まれでもしたら・・」


「ローラ、開けて。」


「お、おい!」


キンッ


一回の鉄の切れるような音がした。


キィィィィ


3つの鉄の扉が開いた。


「ひいぃぃぃぃ」


奴隷商の老人は部屋の外に逃げて行ってしまった。


「なんだよ。職場をほったらかして逃げちゃった。」


「まったくです。何を考えているんでしょうね。」


「どうします?」


「ほっとけ。」


扉が開いたのに誰も出てこない。


「あのー皆さん。どうぞ出てきていいですよ。きちんとお金も払いましたんで。」


「・・・・・」

「ひ・・ひっくひっく・・」

「ウーーー」


「大丈夫ですよ。俺はバルギウスでもファートリアの人間でもないです。」


すると最初に男の子が出てきた。ボロを着せてあってかわいそうな状態だった。


「これ・・食べる?」


戦闘糧食についているチョコレートを上げてみる。


「大丈夫だよ。毒じゃないから。」


子供が手を伸ばしてきた。


剥いて渡してやる。


「お・いし・い・・」


「もっとあげるよ。」


子供が食べながら手を伸ばしてくるのでチョコレートを渡してやる。


バッと奪い返された。


そして奥に進んで、病気の女が入っていた檻に近づくと中に座っていた。


「ゴホッ、ゴホッ」


「大丈夫ですか?」


「は、はい。あなたは?」


「奴隷商に金を払って買いました。」


「そ・・そうなんですね。」


「カー。あれをくれ」


「はい」



デイジーさんからもらったエリクサーを受け取って女に渡してやる。


「ゴホ、これは?」


「薬です。治ると思います。」


「そんな・・まさか・・」


「どうぞ飲んでみてください。毒じゃないです落ち着いてゆっくり。」


くぴくぴくぴ


パァァァァァァァと女が光った。


「あ・・・あれ?あの・・えっ!?」


朝が消えて咳をしなくなった。


「あの・・治っています。体が楽になりました・・えっ?」


「ああ、エリクサーっていう薬です。上級ポーションより回復力があります。」


「なぜそんな高価なものを私に?」


「いや・・具合が悪そうだったから・・」


「あ・・買っていただいてありがとうございます。ではついてまいります。」


「いや、自由だよ。どこにでも行っていいよ。」


「行くところがありません。」


「えっと・・・わかったじゃあ一緒に行こう。」


そしてさらに奥に行くと・・檻の中にいた獣人の女がいなかった。


「あれ?」


どこにもいない・・・


「ガアアアアアアアアアア」


「わっ!びっくりした!」


いきなり檻の上から飛びかかって来た。すると横にいたマキーナにスッと捕まえられた。


首を抑えられたまま俺に手をバタバタと振ってしがみつこうとする。


「落ち着いてくれるかな。」


「ガアアアアアアアア」


「えっと・・カ―たのむ。」


「はい。」


アナミスの術で落ち着かせる。


眠る寸前くらいまで意識を落とさせる。


「大丈夫だよ。助けに来たんだ・・聞こえてるかな?」


「ワタシ奴隷ならない・・奴隷じゃない・・」


「ああ違うよ、奴隷じゃない。自由だよ。」


「自由?なぜ?あなたお金払ったよ?」


「まあ一応売られてたからね、でも奴隷にするつもりはない。勝手にどこにでも行ってくれていい。けど・・その状態じゃ動けないよね。とりあえず俺達と一緒に行こうかね。」


「わかった・・」


そのまま地上に出て1回に行くと、カウンターの所に老人がおびえるようにいた。



「あ・・どうにか落ち着いたようなので連れていくよ。」


「は・・はぁ。またのご利用をお待ちしております。」



俺は、3人の奴隷として売られようとしていた、ボロを着ている人をつれて外に出ていくのだった。


《従業員を殺して奴隷もタダでとっていくわけにはいかないからな。金貨6枚が高いのか安いのか分からないがそれで手打ちにしてくれるといいな。》



そんなことを考えながら通りを歩いて行くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「従業員を殺して奴隷もタダでとっていくわけにはいかないからな」 どうして、いかないの?さんざん殺しまくっているのに、一貫性がないなー
[一言] マキーナにとっては普通の人間の女の基準がマリアなのか・・そりゃ間違いだよ。 …まぁ、ゴブリン隊長五人から総隊長言われるぐらいだからな…カトリーヌとかミーシャ辺りにしときなさい… 個人的…
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