第127話 魔王子の夜
夜になり部屋の窓から出て魔人が潜んでいる各場所に向かう。
最初にシャーミリア隊に合流し召喚したテントを渡す。
「すまない、待たせた。」
「いいえご主人様!問題ございません。」
「みんなでテントを設置してくれ」
俺はマリアに話しかける。マリアとは意識の共有がかけられない、魔人達からの又聞きでしか村への潜伏中の事が分からないので、直接教えてあげることにする。
「ラウル様、民はどのような感じでしたか?」
「ああマリア、ラシュタルの民はバルギウスの人間との溝がだいぶあるようだった。」
「そうですか・・」
「まあ朗報があるとすれば、ファートリアバルギウスを面白くないと思っている人間が多々いるということだな。」
「彼らに協力は願えそうですか?」
「そこまではまだわからない。彼らも生きるので精一杯だからな。」
「そうですか・・とにかく、反意を持っている人間がいるというだけでも有益な情報ですね。」
「ああ。」
「食料の調達はいかがでした?」
「野菜が買えた。とりあえずここに半分置いて行くよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあそろそろいくよ。」
「お気をつけて。」
マリアとの話を終わりシャーミリア隊の場所を離れ、カララ隊の所に飛んで来た。
「カララ、こちらはどうだ?」
「特に何も変化はございません。」
「じゃあテントを設置してくれ」
「はい」
カララとの会話を簡単に終えてカトリーヌのところに行く。
「カティ体は辛くないかい?」
「いえまったく!スラガは優しく運んでくれました。」
「よかった。」
「何らかの情報を掴めたようですね。」
「ああ、いい情報と悪い情報だ。」
「良い情報からお聞かせください。」
「ファートリアバルギウスに反意を持っている人間がたくさんいるということだ。」
「民は、まだ折れていないということですね。」
「そうだ。人間は逞しいよ。」
「悪い情報は?」
「ファートリアバルギウスは貴族狩りをしている。」
カトリーヌの顔色が悪くなった。それもそのはず貴族狩りを逃れてグラドラムまでたどり着いたのだ、嫌な思い出がたくさんあるだろう。
「やはり・・そうですか?」
「ああ、ここまでおよんでいるとはな」
「根絶やしにするつもりなんでしょうか?」
「おそらくはな。反撃を恐れているのかもしれない。」
「そうなのかもしれませんね・・」
「あと野菜が買えたよ、残り半分置いて行くから明日の料理にでも使ってくれ」
「ありがとうございます。」
「じゃあいくよ。」
「お気をつけて。」
最後にファントムとセイラ、ティラ、タピ、が待つ場所に戻る。
「おかえりなさいませご無事でなによりです。」
セイラが出迎えてくれた。
《なんだろう・・進化して聖母みたいになっちゃったな。セイレーンだから・・人も食うとは思えない。むしろ彼女の胸で寝たい。》
「よろしいのですよ。」
あ・・しまった。共有したまま考えちゃった。セイラの胸で寝ても良い許可をもらってしまった。
が、今はそれどころじゃない。
「あ・・今度、お願いします。」
つい敬語で返事してしまう。
「はい」
「じゃあみんなでテントを張ってくれ。」
「かしこまりました。」
俺をここまで連れてきたマキーナと俺、セイラとゴブリンの二人でテントを張る。
「お前たちには3人分の野菜を置いて行く。料理は・・」
「私出来ます。」
「じゃあティラ一緒にやりましょう。」
ティラが答え、セイラが手伝うと言う。
「よし任せる。ここは人里から近いから、いつ人が来るか分からない。強敵はすべてコイツにまかせろ。」
ファントムを指さしてみんなに伝える。
ファントムは相変わらずこっちを見ていない。あんたどこみてんのよ!
《コイツはいざという時に頼りになる。不死身というのはかなり頼もしい。あれ?よく考えると・・シャーミリアとマキーナはそれに近いのかな?》
「シャーミリア様はファントムよりはるかにお強いんですよ。」
「えっ!そうなの!」
「まあファントムの創造主ですので。さらにシャーミリア様がご主人様の僕になってからは、はるか雲の上の存在になってしまいました。私もそれにひかれてかなり力が向上しましたが。おそらくは凄まじいものがあると思います。」
「そういえばアンドロマリウスを吸収した後、なんていうか底が見えなくなってしまった感はあるな。」
「はい。」
しかしシャーミリアといい、ファントムといい、カララといい・・バケモノだらけのパーティーだな。みんなもかなりバージョンアップしてしまったようだし、どのくらい戦闘力が向上したのかが見ものだな。
セイラとティラ、タピをテントに、ファントムにはそのまま外で警備を頼んでその場を離れる。
再度自分たちがとった宿屋の部屋の窓に戻ると、アナミスが窓を開けて入れてくれた。
「よし!各隊の準備は整った。この街の状況は明朝より調べることにする。俺達はひとまずこの部屋で休むぞ。」
俺は二人の魔人に付き添われるように部屋の中心にきた。
「はい。では体をお拭きします。」
「ああ、今日はいいよ大丈夫だ!」
「しかし準備は出来ておりますゆえ」
「はっ?」
俺はおもむろに下を向く。
《えっと・・》
フル〇ンだ・・何も着ていない。
「えっ!いつのまに!」
「あの・・部屋の窓からここまでの間にでございます。」
アナミスが、えっ?気づかなかったの?みたいな顔で言う。
「え、あ・・そうなんだ。」
そういえば前世であったぞ・・こんなのが、オートジャイロで城についた城主が歩きながら執事に服を脱がされるというのがあったな。
たしか・・
あれだ・・
あれだが・・まったく気が付かなかったし、3メートルくらいの距離で下着も何もない状態に!?
そのまま俺が仁王立ちして考えていると、マキーナとアナミスが二人でたらいに汲んだお湯を手拭いに浸して、跪いて体を拭いてくれ始めていた。
「えっ!」
「はい?いけなかったでしょうか?」
アナミスが手を一瞬ひっこめる。
「いいや、せっかくだし。やってくれ。」
ふたりの洗い方がマリアと違う。マリアは本当に綺麗にしてくれるのが目的、という感じで拭いてくれるのだが・・なんかこの二人の洗体は、マッサージ的な感じが含まれている気がする。
「ふぅ・・」
あ・・間違って変な声を上げてしまった。
「どこかかゆいところはありましたか?」
「い・・いや大丈夫だ。」
俺はファントムのように遠くを見つめて適当に返事をした。
「先ほどのシチューで精力がついたのでしょうね。」
マキーナが俺をまじまじと見て話す。
「本当・・ラウル様は本当に素敵ですわ。」
アナミスがマキーナと同じところを凝視している。
「あのー、ちょっと恥ずかしいからさ・・あんまりジッと見ないように頼めたらうれしい。」
「はい失礼しました。」
「それでは・・」
ファサッ
なんと・・俺の一部分に、布がかけられたのだった。
「へっ?」
「ではお続けいたします。」
「お綺麗に致しますね。」
なんだろう。恥ずかしさが倍増した気がするんだが・・それに気が付かないのかな。まあいいか・・せっかく洗ってくれているんだ。
「あふぅ・・」
「痛かったですか?」
「いいや、手の甲の部分が当たったもんで。」
「ああ・・気をつけます。」
「では乾いた布でお拭きいたします。」
バサッっと体にかけられて押し付けるように優しく体の水分を取ってくれる。
「ではこちらをお召しになってください。」
ゆったりした柔らかい光沢のある布の服だった。
「あれ?この服は初めて見るけど?」
「はいルタン町長よりいただいたものです。マナス蝶の幼虫の繭より紡いだ高級部屋着とのことです。マリア様が私の荷物に入れてくださいました。」
アナミスが答える。
「袖をどうぞ。」
スルリと袖が入る。
《うわぁ・・やっさしい!優しい肌触りだあ。なんじゃこりゃ。》
「気に入っていただいてよかったです。」
「これだと急な場合に動けないんじゃ?」
「私たちがお守りいたしますので大丈夫です。」
マキーナが答えた。
「今日はごゆっくりお休みいただいてよろしいと思います。」
アナミスが答える。
「わかった。ではお言葉に甘えて寝るよ。」
俺がベッドに横になると、両方のベッドサイドにマキーナとアナミスが座る。アナミスが自分の黒い羽を出してウチワのようにそよ風を送ってくる。マキーナが俺の体をゆっくりとなでてくれる。
なんというか・・王様気分なんだけど。
あーいい気分だ・・
俺はストン!と眠りに落ちてしまった。
あっというまに朝が来た。
「えっ!」
昨日寝た時と同じようにアナミスが俺を扇ぎ、マキーナが俺をなでてくれていた。
ぐっっっっっすりねむったぁぁぁ
という感じがした。
「すんげえ疲れがとれた!」
「それは良かったです。」
「ていうか・・二人で夜通しそうしてくれていたのか?」
「はい。」
「もちろんです。」
「休まなくてもいいのか?」
「いえ・・かえってラウル様から力を分けていただいておりましたので、完全に回復していると思います。」
マキーナが言う。
「すみません。昨日の人間をいただいたというのにラウル様のお力まで分けていただきました。」
アナミスが合わせて言う。
「そうか!ならよかったよ!」
「なかなかご主人様を独占できる機会などございませんので、申し訳ないと思いつつふたりで面倒を見させていただいた次第です。」
「いや・・いいよ!いいよ!winwinだよ。俺も完全回復したみたいだし。」
「ウィゥィ?」
アナミスが不思議そうに聞き返す。
「ああいいんだ。お互いよかったねって事だよ。」
「そうですか。ならばよかったです。」
俺が起きあがって立つと、いつのまにか裸になっていた。
アナミスは・・侮れないな。
気が付くと外に出る服を着せられていた。
《どうやった?なんでこんなに早く服が身についているんだ?》
するとドアがノックされる。
コンコン!
「はい!」
「失礼します。」
昨日のおばさんと娘がそこにいた。
「朝ごはんを持ってきたのさね。」
「ああそれはありがたいです!」
「また食器は後でとりに来るからね。ゆっくりお食べ。」
「昨日のタラム鳥のシチューは絶品でした!」
「口にあったみたいでよかったよ。朝食もどうか食べておくれ」
「はい!ありがとうございます。」
「本当にいい子だ。」
「それで・・俺達はこれで出ます。」
「ああ・・本当に大変だろうが頑張っておくれよ!きっといい事があるからね!」
「ありがとうございます。一晩大変お世話になりました。」
「こちらこそこんな歓迎しかできなくて、食器はそのままにして挨拶無しで出て言ってくれていいからね。」
「お気遣いありがとうございます。」
朝ごはんは魚料理とパンだった。この魚は見たことないな・・川魚か?
パクっと一口くちに入れる。
「うんまっ!!なんだこれ?」
鱒みたいな魚だが少しニンニクのような風味が効いてて、表面にパン粉?揚げてるような感じなのかな?身がぽくぽくとほぐれて食べやすい。そしてパンが柔らかい・・焼きたてのようだ。
また・・3人分食べてしまった。
昨日から本当に贅沢させてもらっちゃったな。
食べ終わり出かける準備をして部屋を出る。
廊下の外に出ると女の子がいた。
ぺこりと頭を下げて鍵を使って部屋に入っていく。
一階に行くとカウンターに主人がいた。
「ふん!ユークリットの小僧が、適当にその辺で飯でも食うんだな!」
食堂に居たバルギウス人らしきやからがヘラヘラ笑っていた。
俺達は宿屋をそそくさと出る。
どんな状態なのかを探るには十分な1泊だった。
そのころラウルたちが泊った部屋では、少女が皿をかたずけていた。
皿の一つを持ち上げると。
そこには金貨が1枚置いてあるのだった。