第124話 潜行侵入作戦
結局、昨日はそのままテントを張りマリアと一緒に居たものの・・
カトリーヌも一緒に寝ると言い張り、3人で眠る事となった。
《両手に花で眠れたのはいい事だが・・何かが・・何かが・・》
朝が来て雨は上がっていた。
「ふぅ、とりあえず・・眠ったんだか眠らなかったんだか分からないけど起きるか。」
「はい私も起きます。」
俺とマリアが一緒に起きようとする。するとカトリーヌが一人で落ち込んだように話す。
「なんか・・私、すみませんでした。二人と一緒に寝るなんて言ってしまって。」
「良いんだよ」
「良いんですよ!カトリーヌ様!」
「でも皆が二人の語らいの場を設けていたのですよね? 」
「確かにそうだけど、カトリーヌだって同じユークリットの人間じゃないか!」
「そうです!カトリーヌ様を一人にして寝ようとした私も悪かったのです。」
「マリアは悪くないです。悪いのは私です。」
《俺は君にそんな顔をしてほしくないんだが・・だが確かにやましい感じがなかったわけでもないし・・うーむ。》
なぜかカトリーヌが冷静になり自己嫌悪に陥っていたのでマリアと二人でフォローしていた。
「お目覚めでございますか?ご主人様」
シャーミリアがテントの外から声をかけてきた。
「ああ起きてるよ。」
「朝食の用意が出来ております。どうぞ皆の所へ・・」
「わかった!今行く。」
とにかく3人でテントをでる。
涼し気な空だった。夜に降った雨で実際気温も下がり肌寒さを感じるようだった。
「昨日捕れたグレートボアを焼いておりました。」
「ああ昨日の夜お香の匂いに誘われて発情して来ちゃったやつか。」
「はい。新鮮でございます。」
「じゃあ俺達もいただこうとするか。」
3人で魔人達が集まっているところに行く。
魔人達は相変わらず俺達が来るまで食べないで待っていた。
《べつに気を使わないで先に食べててくれていいのに。しかし朝からグレートボアの炙り焼きかあ・・俺は平気だけど・・マリアとカトリーヌにはちと重たいかも。》
「マリアとカトリーヌはとり飯でも食うかい?」
「ありがたいです。」
マリアが答えカトリーヌもうなずいた。俺は自衛隊の戦闘糧食からとり飯缶を召喚して二人に渡す。
マリアが火魔法で暖めはじめる。
「みんな!昨日の夜は気を使ってくれてありがとう。おかげでマリアといろいろと話が出来たよ。」
「はい?ご主人様・・”お話”だけですか?」
シャーミリアが残念そうに言う。
「まあなんだ、グレートボアが乱入してびっくりはしたが後は落ち着いて3人で眠ったよ。」
「えっとラウル様?他には?」
カララも何かを期待するように聞いてくる。
「いや・・ただ話をして、眠った。それだけだな・・」
「ええ、それだけでしたね。」
マリアもただ頷くだけだった。
ギレザムが空気を察したのか声をかけてくる。
「ラウル様!ささっ!いい感じにグレートボアが焼けております。どうぞお先に!」
「お、おう!いつもありがとう。」
「ルタン町でマリアの指示で買った調味料をかけてあります。」
「おお!なんだかうまそうな匂いがする!」
一口食べるとピリッとする。
《これは・・胡椒だ!塩コショウ味のグレートボアの肉!美味い!》
「マリアとカトリーヌも一口どうだい?」
「はい、じゃあ一口。」
「私も少し。」
塩コショウのグレートボアの肉をほおばる。
「おいしい。」
「本当ですねピリッとしていて食がすすみます。」
それを見ていた魔人にも進める。
「みんなも食おうぜ!」
俺の合図を待って皆が焼けた肉を頬張り始めた。
「うまいですな!何とも言えないピリッとした感じがいいです。」
「おお、グレートボアの肉がまた一段とうまい。」
「味が引き締まったような気がしますわ。」
「これは・・マリアに感謝ですね。」
「うまい!俺おかわりしたい!」
魔人達がそれぞれにグレートボアの塩コショウ焼きに舌鼓をうつ。
「ふふふ。それは良かったです。」
マリアも微笑ましく魔人達を見ていた。
「ところでシャーミリア。マキーナはどうした?」
「ええ、再度索敵に行かせております。昨日は50キロ先に商人たちが野営しておりましたので、動きがあるかどうかを見にいかせました。」
「そうか。敵対の意志など無いといいんだがな。」
「はい。」
俺がアンドロマリウスを取り込んでから、今の魔人達はより人間の見た目に近づいている。ミノスは牛の獣人とそう変わりがない。ドラグは竜人特有のうろこが無く、トカゲのような輪郭から若干顔色の悪い人間の顔になっていた。ラーズも下あごから牙が突き出たような人間になっている。
「問題があるとすれば・・角だよな」
「はい・・」
ギレザムとミノスが相槌をうった。
オーガ、ミノタウロス、サキュバスは獣人のそれとは違う角が生えていた。こればかりは消えなかったらしい。
「とりあえず人間に接触するようならフードをかぶっていれば問題ないだろう。」
そんな話をしていると上空からマキーナが降りてきて俺のもとに跪いた。
「ご主人様、50キロ先の商人達が野営のかたずけをしておりました。じきにこちらに向かって歩き出すでしょう。」
「わかった、俺達も朝飯を食ったらすぐテントを焼却してここを出よう。」
皆で肉を喰らう。結構味わいながら食った。
それから出立の準備をして集めたテントをM9火炎放射器で焼き払った。
西に向けて街道を40キロほど行軍していくと人間の気配がしたため、全員が荒野の草むらの中に潜んだ。
《俺達がゆったり飯を食う時間もあったのにな。馬車を使ってもまだこんなところまでしか進んでいないのか・・やはり人間の行動範囲は魔人の数分の1もないんだな・・》
馬車は3台。
護衛は5人・・前衛が2人魔法使いが1人しんがりが2人。
「ラウル様いかがなさいますか?」
ギレザムが聞いてくる。
「やり過ごそう特に問題はなさそうだ、目的地はルタン町だろうからマーグ隊長の判断に任せるさ。間者かどうかはサキュバスが尋問すればすぐにわかるから、もし間者なら殺すだろうし、普通の商人なら町の人に渡すだろう。」
「わかりました。」
《このあたりから人間に遭遇する確率はあがるってことだよな。》
商隊をやり過ごして俺達は再び街道に出てきた。
「シャーミリア、マキーナここからは先行して上空から索敵してくれ。情報は俺が意識を共有すればわかるから常時意識はつないでおこう。」
「かしこまりました。では!」
二人は飛び立っていった。
「まもなくラシュタル王国への分岐点にさしかかる。そこから北へ進むとラシュタルだ!俺も行った事がない地域となる!手分けして調査しながらの行軍となるだろう。森の中にも人間がいる可能性がある、先に覚られる事の無いように十分に注意しろ。」
「「「「「は!」」」」」
「まあ、力の増したお前たちが人間に後れを取る事はないだろう。気を付けるべき相手はデモンだ。また新たな敵が出る可能性がある!今度は計画的に相手を殲滅するぞ。」
「「「「「はい!」」」」」
そして俺達はそのまま街道を進んでいく。シャーミリアとマキーナからの意識の共有では特に人間がいるらしい反応はなかった。
《シャーミリア、マキーナ。分岐で待て。》
《かしこまりました。ご主人様。》
俺たちがヴァンパイア2人の元へ到着したのは、半刻(1時間半)が過ぎたころだった。
「あの商隊が通った後は特に人は来ないようだな。」
「はいご主人様そのようです。」
「俺はここから先のどこか・・もしかするとラシュタル王国の首都に、敵が魔法陣の罠を仕掛けているのではないかと思っている。ルタン町では魔法陣を解除して気が付かれたから今回は隠密行動をとろうと思う。」
「はい、それでは予定通り3つの班に分かれ森を進みましょう。」
ギレザムが俺の行動予定を記憶して、あらかじめ決めてあった各班に分かれる。
戦力が偏らないようになっている。
チームA
ラウル(人魔)ファントム(ハイグール)マキーナ(ヴァンパイア)アナミス(サキュバス)セイラ(セイレーン)ティラ タピ(ゴブリン)
チームB
シャーミリア(ヴァンパイア)ミノス(ミノタウロス)ルフラ(スライム)ガザム(オーガ)ゴーグ(ハーフライカン)ラーズ(オーク)マリア(人間)マカ(ゴブリン)
チームC
カララ(アラクネ)ドラン(竜人)ギレザム(オーガ)スラガ(スプリガン)ルピア(ハルピュイア)カトリーヌ(人間)ナタ クレ(ゴブリン)
どこにデモンや敵の主力部隊がぶつかっても、他の部隊が合流するまで耐えられる布陣となっている。
「すまないが戦力バランスと特性を踏まえて隊を分けさせてもらっている。ただ兵器を呼び出せるのは俺だけだ、もし兵器の残弾がなくなった場合はそれぞれの武器戦闘方法で戦ってくれ。」
「「「「「はい!」」」」」
「アンドロマリウスのようなデモンに遭遇したら各隊撤退してから合流する。力が増したお前たちなら逃げ切れるはずだ。」
「「「「おまかせください。」」」」
「では森に潜伏しながら、ラシュタル王国付近に俺達が潜伏できる場所を探す!全員意識の共有を切らすな!あとはチームにいる人間を優先的に守る事!お前たちより弱い存在であることを覚えていてくれ。」
「お任せください、マリアはご主人様の大切な人。必ずお守りします。」
「カティは私がお守りします。」
「ありがとう。二人なら安心だ。俺はお前たち全員に絶大な信頼を置いている、自分を犠牲にすることも許さん!」
「「「「はい!」」」」
「あくまでも万が一に備えての事だ、今回の作戦の目標はラシュタル王国首都付近に潜伏場所を見つける事、そして首都に潜入しサイナス枢機卿の手がかりをつかむこと!以上だ!」
俺達は森に潜伏した。ここから先は街道脇の森の奥を伝ってラシュタル王国の首都迄進む予定だ。クルス神父の書いてくれた地図にはここから先に山が一つあり、そこを越えた先にラシュタル王国の首都があるらしい。その首都の名はラータルという。
山を登りラータルが見えるところで集まる予定となっている。
大部隊で街道を進むと目立つため、3つの隊に分かれて森の中を進軍するのだった。
途中で魔獣に襲われた場合俺たちの食料としてとらえる事を許可している。
途中ですれ違う商隊や冒険者などがいれば接触を避ける事。
敵兵に見つかった場合は殲滅し、デモンが現れた場合は撤退し集結して再度攻撃する。
俺の隊だけより人間らしく見えるものを集めたのは、町や村に潜入するためだった。
冒険者や旅行者として入り中を調査する予定となる。
俺の隊の戦力はファントムが要となる。
《こいつだけでも一国を滅ぼせそうな勢いなんだがな・・》
俺達は他の隊に後れを取ること無いように先を急いだ。