第120話 進化した魔人たち
・・ラウル様・・
ぽたっ
俺のほっぺたに水が落ちてきた。
・・ラウル様・・
手が握られている。
薄っすらと意識が戻りつつある。
《えーっと俺はどうしたんだっけ?》
・・ラウル様・・
少しずつ光が目に差し込んでくるのが分かる。
スッっと目が覚めた。
「マリア・・」
目の前にいたのはマリアだった。
「ラウル様!よかった・・」
ぽろぽろと俺の顔に涙が落ちてくる。
手にも涙が落ちてきているようで、見るとカトリーヌが手を握りしめ泣いていた。
「えっと、俺はどうしたんだっけ?」
「アンドロマリウスを撃退してから、ここで3日も眠っておりました。」
マリアが答える。
「エリクサーも私の回復魔法も効かずに、ずっと目を開くことなく寝ておりました。」
カトリーヌが答える。
「3日!?えっと!みんなは!?ここは!?」
どうやら建物の中にいるようだった。木造の建物のエントランス?いや広い部屋だ。そこのベッドの上にねていたようだ。
「みな無事です。デイジーさんのエリクサーは本当に素晴らしいです。全員全快してトラックに食料を積みこんだり、装備の点検をしたりしています。」
マリアが全員の様子を伝えてくる。
俺が上半身を起こすと足元にシャーミリアがいた。神に祈りでも捧げるように前で両手を組み俺を見つめている。
「シャーミリアがいるって事は夜か?」
「いえ・・それが・・ご主人様がアンドロマリウスを倒した後から・・体に異変が起き初めまして。」
俺が窓の方を見るとさんさんと太陽が輝いていた。
「えっ!大丈夫なの?」
「あの・・ご主人様から私に流れ込んでくる、元始の魔人の力が膨大で守られているようです。」
「えっとそれは・・ファントムと同じ現象かな?」
「近いものがあるかと思われます。おそらくご主人様が滅びぬ限り私も滅びる事はないかと・・」
「どうして?」
《なにか変わった事をしたといえば・・あいつか!》
「おそらくアンドロマリウスをご主人様が取り込んだからかと。」
「とり・・こんだ・・?あ、ああたぶんそうかもしれない・・俺の中が、魔人の側が全く違っているのが分かる。なんだこれは?」
するとカトリーヌが言う。
「ラウル様は全く変わった様子がありませんが?」
「カトリーヌ違うんだ。・・なんというか芯が膨れたというか。」
「芯が?」
「分からない・・とにかく信じられない力を感じるんだ。」
するとマリアがいう。
「今はラウル様ではないのですか?」
「いや・・マリア。俺は俺だよ」
「なら全く変わっていません。」
《あ・・そういうことか、彼女らは不安なのか。》
「ああ変わっていない。」
部屋の中にはマリア、カトリーヌ、シャーミリア、マキーナ、ルフラ、ギレザム、ゴーグ、ファントムがいたが、みなの雰囲気が変わっている。あともう一人・・
《だれだ?この美女は・・美しいにもほどがあるだろ。というかだな・・》
「魔人のみんなも少し見た目が変わっていないか?」
ギレザムが答える。
「それが・・アンドロマリウスを倒した後、ラウル様から元始の魔人の力の流れ込みが始まりそれぞれの種族に変化が訪れました。」
「えっと、みんな?」
「はい。」
「全員?」
「はい。」
《どういうことだ?俺だけに限らず部下全員が変わったのか。》
「あのちょっと聞きたいんだけどさ・・そこにいるなんていうか、目も眩むほどの美人がいるんだと思うんだけど・・みんなにも見えているよね?」
「見えております。」
ギレザムが答える。
「あーよかった。女神がお迎えに来たんだと思ったよ・・で、誰?」
「ラウル様・・目もくらむような美人などと、私でございますよ。カララです。」
「えっと、アラクネの?蜘蛛の体は?」
「ラウル様がアンドロマリウスを倒した後、私に力が流れ込みまして・・私も眠ってしまったようです。目覚めたらこのような姿に。」
「寝て起きたらこうなってた?」
「はい」
どうやら俺の配下と俺の系譜につながったものに変革がもたらされたようだった。
「私とカトリーヌ以外全員倒れて寝てしまったのです。」
マリアがその時の状況を話す。
「よく町まで戻ってこれたね。」
「獣人たちが総出で運んでくれました。」
「獣人たちがか・・」
「はい、ニケとテッカが呼びかけてくれて100名の獣人が運んでくれたのです。」
とにかく3日も経ってしまった。敵の悪魔を殺し魔法陣を塞いだのだ、こちらが何らかの動きをとった事は掌握しているだろう。俺達ももともと隠密に事を進めようという計画だったが、ルタンの街に敵が拠点を設けていた事と、デイジーさんが作った鏡面薬により一気に作戦を変える事となった。隠された魔法陣を見つけられるようになったというのは大きい。
「わかった。礼を言って来よう。」
俺はベッドから起き上がった。
ん・・?
俺は・・真っ裸だった。
「あれ?」
「すみません!急に起きられるから・・」
カトリーヌが真っ赤になって言う。
《いや・・恥ずかしいが、ここで「きゃぁ」なんて言って隠したらよっぽど恥ずかしい。堂々としているしかないじゃないか!》
「まあ・・」
「ああ・・」
「ふふ・・」
「はぁぁ・」
「あらら・」
マリア、シャーミリア、カララ、マキーナ、ルフラの反応がそれぞれ違う。
《えっと・・今までにない反応だがどうしたことやら》
俺は下を向いて自分の体を見た。
「あ・れっ?」
豆鉄砲→コンパクトガン→ハンドガン
ここまでが俺の認識だった。
《いやぁなんかにやけちゃうな。まさかこんなものを俺が保有する事になるとはな。前世でも並くらいだったもんなあ・・うははははは》
「ラウル様?笑っていますか?」
ギレザムが聞いてくる。
「いや、笑ってないよ。」
《なんか裸で立っているのが全く恥ずかしく無いなんて、恥ずかしいどころか誇らしいなんて!俺の人生はなんて素晴らしいんだ!まだ一度も使った事の無いデザートイーグルをこんなに誇らしく思えるなんて!人生はバラ色だ!まだ一度も使った事ない・・そうだった・・まだ俺は・・》
「ラウル様?泣いていますか?」
「いや、泣いてないよ。」
コンコン!
ドアがノックされた。
「少々お待ちください!」
マリアが答える。
「さ、ラウル様こちらの服にお着替えください。」
「これは?」
「この街を救ってくれた感謝の意を表すと町長様よりいただきました。」
「わかった、ありがたく頂戴するよ。」
その服を着てみる。
《えっ・・貴族のような。えー!こんな服を着るのか!》
「お似合いです。まるでグラム様を見ているようです。」
マリアが絶賛している。
「まるで社交界のパーティーに出席されるような素敵なお姿ですね。」
カトリーヌもどうやら気に入っているようだ。
しかし・・
魔人達の表情は微妙だ。きっと《ダサぁーい》とか思ってるんだろう。彼らが着る服は前世で言うところの一流デザイナーが作るような奇抜なものが多いため、このような人間のフォーマル服はあまり気に入らないらしい。
「えっと・・ポール王のように立派ですね。」
「本当だ!ポール王のような素敵ないでたちだ。」
魔人達が何とほめていいのか分からず、初老のおじいさんを引き合いに出して褒めだした。
「あ、ありがとう・・」
とりあえずお客さんが来たんだ。ドアを開けなくては
「マリア」
「どうぞお入りください。」
入ってきたのは痩せ気味の優しそうなおじいさんと、ニケの宿屋の店主とニケだった。
「ラウル様お初にお目にかかります。私町長のパトスと申します。」
町長のパトスと宿屋の主人が俺の前に跪いて頭を下げる。ニケが慌ててその後ろで跪く。
「あ、頭を上げてください。宿を貸していただいてありがとうございます。」
俺がパトスに礼を言う。
「いえ、私たちの街を奴らから解放してくださった。おかげで獣人たちも戻ってきました。私たちはこれまで獣人の彼らとの共存の道を選んできたのです、それを奴らは踏みにじりたくさんの獣人を殺しました。ラウル様にはなんとお礼を申し上げて良いか分かりません。」
「いや俺達の作戦遂行上やったことで、まあ共通の敵だったって事ですよ。礼には及びません。」
「そういうわけにはいきません。私たちのささやかなお礼を受け取っていただかないと!」
「作戦行動中ですのでお気持ちだけでも。」
「では皆様のお食事をご用意いたしました。ぜひそれだけでも味わっていってください。」
「それぐらいならば・・」
「40名の魔人様たちもご一緒に。」
「ありがとうございます。じゃあ魔人の配下達を呼んできます。」
「おまちいたしております!」
「ラウル様、街の人間たちも協力的ですよ。この3日間は我々の進軍の準備など手伝ってくれております。」
ギレザムが俺に教えてくれる。
「わかった。じゃあとりあえずあいつらを呼びに行くとするか。」
「はい」
俺達は全員で外に出る。
「シャーミリア。」
「はいご主人様」
「お前と昼に出歩けるのがすっごく嬉しいよ。」
「あ・・ああぅ」
シャーミリアが少し股の所をもじもじさせて変な返事をする。
「お、おいおい!」
「し、失礼いたしました。ご主人様がいきなり素敵なお言葉をかけてくださるものですから・・」
「いや本心だよ。マキーナもここにいるし、これでこれからは安心して行動できそうだ。」
「はい、全身全霊をかけてお守りしますわ。」
「頼もしいな。」
シャーミリアと俺のやり取りをみて、マリア、カトリーヌ、カララ、ルフラがうらやましそうな顔で見ていた。
「なんだ、俺はみんなとも一緒でうれしいんだよ。カララだって人間の姿になって俺といつも入れるじゃないか」
「ありがとうございます!私もラウル様を生涯お守りすると誓いますわ。」
「強い味方がいてうれしいよ。」
するとマリア、カトリーヌ、ルフラが私たちは!?どうなの?という顔で見つめてくる。
「えっと、ルフラはいざというとき体をはって守ってくれるし、マリアは俺の世話なら何でも知っている、カトリーヌは俺の傷を治してくれた命の恩人だ。俺は本当に幸せ者だよ」
「ラウル様をお守りするのは当然です。」
「ラウル様の事なら子供の時から一緒です!なんでも分かっているつもりです。何なりとお申し付けください。」
「ラウル様は私の命の恩人です。ありがとうございます。」
3人ともとてもうれしそうに俺に返事をしてくれた。
「いやあ、本当にありがとう。」
《はあ・・どうしよう、魔人達は元始の魔人の力で俺の好みの見た目になってしまった。》
「みんな本当に素晴らしい人だと思う。これからもよろしく頼むよ。」
《そして・・人間のマリアは幾多の戦闘をくぐりぬけてアスリートのような体の美人になり、カトリーヌはイオナの姪ということもあり俺のドストライク以上の美貌を持っている。それなのに俺は俺のデザートイーグルを使った事も無いなんて・・》
そんな会話をしつつ、屋敷の外に出た。この屋敷はどうやら町長の屋敷だったようだ。ほかの家より大きいようだった。
外では魔人と獣人、人間が力を合わせて作業をしていた。
「おお!ラウル様お目覚めですか?」
《えっと・・誰?デカい人間・・いや頭の脇に見た事のある角がある。》
「心配かけたな。ミノスか?」
「あ、失礼しました。なぜか見た目が変わってしまいましたからな。」
ミノタウロスのミノスが人間の偉丈夫になっていた。茶色いふさふさの髪が風になびいて、どこかの神拳の継承者のような体つきになって俺を見ている。
「ラウル様―!」
通りのむこうの方から駆けつけてくる小さい女の子がいる。人間のような感じだが・・うっすら緑色だ。
「ええっ?声からすると、ティラか!?」
「はい!」
《え!ティラって・・女の子だったの!!って、危なく傷つけてしまう言葉をかけるところだった!
!しかも人間形態に近づいたらロリの心臓を射抜きそうな少女に変貌しているじゃないか!》
どうやらみんな、俺の好みの見た目に変化してしまったようだった・・