第12話 王都散策と家庭教師のおじいちゃん
俺はひきこもった。
4才でひきこもりっていうのかわからないが…
母のイオナとは会話があるし完全なヒキコではないはずだが。
それから、ひと月ほど俺はイオナに文字を習い、空いている時間は全て武器のデーター作成と魔法の考察に勤しんでいた。
グラムは忙しいようで、1度帰ってきたきりまた出ずっぱりだった。
文字も多少読めるようになった為、グラムの本棚にあった本を読んでみたが、読める文字と前後の流れからみても、伝記物や歴史に関する書物などがほとんどだった。
上の棚は届かないのでまだ読んでない本もある。もう少ししたらイオナにとってもらう事にでもしよう。勝手に書斎を漁ってるのがバレたら怒られるかもしれないけど。
武器や魔法に関する物があれば読みたいのだが。
4才に31才の知識が備わってはいるが、それは前世の日本人のマニアックな武器の知識と一般常識だけであって、この世界の特に魔法の存在は前世には無かった。まだまだ知らないことが多すぎる。
さらに、まだ幼児のため行動範囲は広がってはいない。知識を得ようにも自分でどこかに行くには非力すぎる。
そこでだ!俺は毎日市場に買い出しに出ている、マリアについて街に行くことにした。
イオナに伝えたら「いつも部屋に閉じこもっていてはいけないわ。たまには外も見て回るのも大事よ。」といわれた。引きこもりを心配されていたらしい…子供を心配するのはこちらの世界でも同じということだな。
前世で引きこもった経験などないのだが。
前世の知識を呼び覚ますのに夢中で、まわりが見えてなかった。
それはさておき、出かけるにあたって俺はイオナからショルダーバッグを背負わされた。
「買った物や見つけた物を入れておくのに必要よ。」
少し大きめのバッグだが、肩紐をちょうど良い長さに調節してくれた。
「行ってまいります。」
「いってきます!」
マリアと俺はあいさつをして街にでた。
以前ピクニックの時に馬車の上から見ただけで、実際は武器の話しばかりしていたから、街の情景はほとんど覚えていない。
たまにすれ違うご近所の使用人らしき人に軽く会釈をしながら、市場に向かう。
《朝は清々しくて気分がいいな》
街にはもちろん標識もないし、目安になる場所など俺は知らない…俺は朝靄の中をマリアについていくが、はぐれたら迷子になりそうだよ。大人なのに。
やはり新鮮な風景だった。中世ヨーロッパみたいな感じだが、中世どころかヨーロッパにも行ったことがないのでよくわからん。ただ自動車やバイクも自転車すらいない。すれ違う乗り物は時折りすれ違う馬車くらいだ、電線もないし風光明媚な外国の名所観光しをている気分だ。
40分以上歩いてやっと市場についた。
《結構遠いな、マリアはこれを毎日往復してんのか…俺も足腰を鍛えるために毎日一緒に来ようかな。まあ、俺の子供の足に合わせた結果これだけ時間がかかったのかもしれん。》
凄い人の数だ。マリアのスカートの端をつかみ離れないようにする。子供の体は不便だった見通しが悪い。
最初に寄った八百屋は品薄な感じがする。グラムが言っていたように、帝国との貿易の都合で物が入って来ないのかもしれない。芋類だけは豊富にありそうだ。
肉屋はわりと豊富だった。西の魔物の活性化で流通がよくなったのだとか。マリアは少し多めに肉を買い込んだ。うちの人数からすると多そうに見えるが、保存はきくんだろうか?
食料を買い込んでから、調味料を見に行くがこちらはかなりの品薄のようだ。マリアは物を手に取ってじっくりと品定めをしているようだ。
まわりの店をよく見てみると、小さい子も買い出しにきている。5〜6才くらいに見えるが立派な労働力なのだろう。
買い物を終えて市場をでた。
「凄い人が多いですね。」
「はい、この時間はいつもそうです。」
「皆、朝に買い物をするんですか?」
「あとは冒険者が獲物を運んできた夕方もですね。ちょっと街の中が荒っぽい者で増えるので、私は朝にくるようにしています。」
ああ、そういえばピクニックのとき王都の出口付近には、ガラの悪いのもいたな。ああいうのが買いにくるのかな?そりゃ怖いな。
「用はないですが、ちょっと商店街の方も見に行ってみますか?」
「いいんですか?」
「ラウル様に街をお見せするように言われておりますので。」
「ではお願いします。」
商店街に向かう。すると、道具などが売っている店や薬屋があった。
…と言うことはまさか…
「マリア、武器屋はありますか?」
「ありますよ。でも私たちは女子供ですから、中に入ると何か言われてしまうかもしれませんね。」
やった!武器屋があるんだ。見てみたい!しかし…確かに女子供ではちょっと入りづらいか。でも…ちょっとだけなら…
「ここが武器屋です。」
おおお!キター!これが武器屋か。うむ、えもいわれぬ余韻がある。普通のやつには分からんだろうが俺にはわかる。たぶん。
まあ、普通のドアがついてる素朴な小屋のような建物だ。
「中に入ってみたいです。」
「入ってみましょう。」
ドアを開けた瞬間中からブワッと熱気が襲ってきた。マリアには感じないだろうが、俺には分かる。
中に入ると、武器が並んでいた。しかしグラムが着ていたようなフルプレートメイルなどはなく、皮の鎧や小手、剣や槍などが置いてあった。でも…武器屋だ!
こころなしか店の主人も厳つくて只者ではない雰囲気だ。恐ろしい。入らなきゃよかった。
「いらっしゃい!おや?フォレスト様のところのメイドさんじゃないですか。」
「は、はい。」
マリアもびびってるようだが…
「覚えてないかな。旦那様のフルプレートの修繕を承った時に、お伺いしたことあるんですがね。奥様が対応なさったから覚えてないかもしれませんね。」
「あ…ああ、わかりました。覚えております。」
「えっともしかしたら坊ちゃん?」
「そうです。」
「それはそれは!それで今日は何用で?」
「僕が見たいって言ったんです。」
「武器が見たいと?」
「そうです。」
「刀に興味があるとは、お父上ゆずりですな。」
「はは…」
「どうぞ見ていってください。」
なんか…気さくだった。只者って感じ。
店はそれほど広くなく、特に変わった武器は無かったのですぐに見終わってしまった。
主人から、どうぞご贔屓に!といいながらお見送りしてもらった。武器屋に対してのロマンは見事に打ち砕かれた。
残念な気持ちになりながら商店街をあとにした。あれでも王都の武器屋だ、十分商品も揃っているほうなのかもしれない。
家に向かって歩いていると、明らかに違う方に向かって歩いているのに気がつく。
「どこに向かっているんですか?」
「はい、サナリア領から一緒にきた家臣たちの家です。」
「レナードの他にもいるんですね?」
「はい、レナード様はグラム様のお付きですから、今日はいないと思いますが、家臣の者と使用人はいると思います。」
そうか…サナリアから領主夫婦と子供、護衛がレナード1人だけというわけないもんな。みんな単身赴任みたいな感じかな?
家臣の家はうちより小さかった。来客などもないのか、余計に人を泊める場所はいらなそうだが…。どちらかと言うと宿舎のように見える。
コンコン!と玄関をならすと、使用人が出てきた。年は30半ば〜40才といったところのちょっとふっくらしたキッチンメイドだ。
「あら!お坊ちゃま!いらっしゃいませ!」
えっと。覚えてない。とりあえず挨拶だ。
「おはようございます。」
「少し大きくなられましたね。私を覚えておいでですか?お伺いするといつも部屋で何かを描かれているとかで、お会いすることがなかったものですから。」
引きこもっていたから見たことなかったのか…
「マリアもおはよう。」
「おはようございます。」
「ささ、中にお入りください。」
俺とマリアは食堂に通された。
「ラウル様こんなところで、申し訳ございません。」
「いえいえ。」
「ところで、マリア今日はどうしたんだい?」
「朝市に行ったら肉屋が豊富で安かったんです。多めに買って持ってきました。」
「わざわざすまないねぇ。でも夕方行く予定だから良かったんだよ。」
「実はイオナ様にラウル様をこちらにも顔を出させるように申しつかりました。」
ああ、そうか…引きこもっていたから、人と接するように考えたのかもしれない。
「それはちょうどよかった。イオナ様に持っていこうと思っていた、魚のパイが焼き上がるから持って言っておくれ。」
「セルマの料理は美味しいから、真似したいんですがなかなかうまくいかないんですよね。」
「そうかい?なら今度、魚のパイを教えてあげるさね。」
「うれしい!お願いしますね。」
マリアはにこにこしながら答えていた。
ここに師弟関係があるのね。そういえばマリアはキッチンメイドだったって言ってたもんな。セルマさんはいい人そうでよかった。パイが焼き上がり包んでもらい、家路についた。
家につきイオナに挨拶をしようとリビングに言ったら、イオナと見知らぬ老人がいた。白髪と白いヒゲで丸眼鏡の好々爺としたじいさまだが、魔法の帽子とローブは着ていない。紳士という感じの格好で、なかなかさまになっている。眼鏡あるんだこの世界にも。
「ラウル君かい?こんにちは」
「こんにちは。」
「いらっしゃいませ。急ぎお茶をご用意いたします。」
お茶はイオナがいれていたが、マリアは新しいお茶を用意するようだ。
「あと、セルマから魚パイを預かってまいりました。」
「あら?そうなの?モーリス様は魚のパイはいかがですか?」
イオナがたずねた。
「おお、それでは頂こうかのう。」
じいさんはモーリスというそうだ。
イオナが紹介する。
「こちらはサウエル・モーリス様よ」
「ラウルです。よろしくお願いします。」
「賢い子じゃのう。これからよろしくお願いするのじゃ」
これからよろしく??どういうことだろう?
「お父様がお願いして来ていただいたあなたの先生よ。」
「グラム殿より頼まれたんじゃが、もう魔法学校を辞めて久しいからのう。ろくなことは教えられんかもしれんが、よろしくたのむよ。」
「こちらこそよろしくお願いします!」
家庭教師だ!マジでありがたい。しかも超ベテランぽいじゃないか!優しそうだし!
「ワシも長いこと生徒をもたんかったから普通なら断るところじゃが…なによりグラム殿の息子とあれば、断りようがないわい。」
「私の学生時代の校長先生よ。」
えっ!超偉いひとじゃないか!そんな人に知り合いいるんだグラムとイオナは。
「モーリス様は賢者様ですから、ラウルが聞きたいことも知っているかもしれないわね。」
「おお、まだ小さいのに学びの心があるのか、感心感心。」
いやー、この世界のことなんにも知らないもんで、ホントお願いします。
するとモーリスさんは少し訝しそうな顔をして言った。
「良く顔をみせておくれ…」
しばらくじっと見つめて
「ラウル君の魔力は凄いのう、4才とは思えない…いやかなりの量を感じるの…あと…なんだこれは…」
ん?なんなの?何があるの?
「不思議な魔力の流れだの。なんというか乱れがない。理路整然としているというか…でも乱れもあるか…」
あ…データベース…ばれる?大丈夫かな。
「しかし偏りがあるというか…なんというか…」
何?俺は変なのだろうか?
「一部分だけ大賢者という感じなのだが、半分は赤ん坊のような…いや…魔獣のような魔力の暗い部分があるのう。」
「えっと、それはどういうことですか?」
俺は聞いてみた。
「人間の大賢者と魔族や魔物がどちらも中にいる感じじゃの」
どゆこと?
俺は一気に不安になるのであった。
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