第117話 電撃作戦
計画通り地雷である罠の魔法陣を探す作業はおおむね3日かかった。
シナ村、南の先の駐屯地付近の荒野に一つ、西のラシュタル方面の駐屯地付近に一つの合計3つの魔法陣を発見した。
ルタンの街には何度探してもどこにも魔法陣らしきものはなかったが、夜間の確認作業も兵士の目をかいくぐってなので結構時間がかかった。
「合計3カ所か・・同時に魔法をそそぐのは若干の危険が伴うか。」
魔法を使えるのは3人、俺とマリアとカトリーヌだ。マリアは魔力が少ないので魔法陣が発動しないかもしれない・・となると実質は俺とカトリーヌの二人になるだろう。
「俺が予想しているのは、シナ村の魔法陣が一番大きいということだ。そこは俺が行った方がいいと思う。」
「南の魔法陣はカトリーヌにお願いしたいが、カトリーヌを守るため戦力を多く投入したい。マリアも南に行ってくれ。」
「西側はどうしますか?」
ギレザムが確認する。
「南と東をやったら全軍で西へ向かう。この作戦は時間がカギとなる!時間との勝負だ。7人のトラックを操作する者と、俺、シャーミリア、マキーナ、ファントム、ルフラでシナ村の魔法陣を発動させた後、ルタン町東の敵兵の駐屯地に進軍する。残りの30名で南の魔法陣を発動させた後、南にある敵兵駐屯地を壊滅させろ。」
「それではかなり戦力に偏りがありますが、東の敵兵に強者がいた場合危険では?」
竜人の隊長ドラグが進言してくる。
「はぁ?私の力が心もとないと言いたいの?さらにファントムとルフラがいて?ラウル様を必ずお守りすると誓うわ。」
シャーミリアが軽くいなす。
「俺の判断だ。おそらくは東はファントム一人でも壊滅できるだろう。南はカララ一人で十分すぎるほどだと考える。シャーミリアとマキーナが上空から鉄の弾丸をまき散らすんだ、敵になすすべなどないさ。いままでの戦闘で嫌というほど分かったからな。」
「「「「はっ!わかりました!」」」」
「ルタン町には夜明け前までに集結。早ければ早いほどいい。予定時間をすぎてしまいそうな場合は必ず連絡してこい。」
「「「「はっ!」」」」
「魔人はカトリーヌとマリアを守り抜いてくれ。危ない時は退いていい。」
「ラウル様、屡巌香などの毒にやられていない状態で我々が人間の騎士に敗れる事はありません。グラドラムの洞窟でファントムのもとになった騎士とやり合った時は、かなり毒が効いておりましたゆえ不甲斐ない結果になってしまいましたが、もう不覚を取る事はないでしょう。」
ミノスが力強く言う。
「ラウル様、私が責任をもってカトリーヌ様をお守りいたします。イオナ様の大切な姪御さんであらせられるカトリーヌ様にけがなどさせられません。ましてや侯爵家からのお婿様がお父様ですから、ユークリット王家がなくなった今、カトリーヌ様が正式な王位継承の権利がございます。」
「マリアさんユークリットは無くなってしまったのですよ、いまさら王などと・・」
「いや、カトリーヌ。マリアの言うとおりだよ俺達は必ずユークリット公国を取り戻し復興させる。その時にカトリーヌは必要なんだ、だから絶対に死んではならない。」
「わかりました・・」
「ふふ・・ラウル様・・このカララがカトリーヌをお守りしますわ。誰にも指一本触れさせることなく敵を全滅して差し上げます。」
「た・・頼もしいな。」
魔人全員の背筋がしゃんと伸びた。ミノスやドラグ、ライカンのマーグなどの魔人が恐れおののいている。
するとクマの獣人テッカが脇から話してくる。
「あの・・俺達はどうすれば?」
「ああ、危険だから動かなくていい。」
するとニケも合わせて話してくる。
「でも私たちが何もしないって言うのも。」
「いや・・むしろ巻き添えで怪我をする可能性がある。なら・・ルタン町で何か動きがあったら皆を避難させてくれ。おそらくルタン町の衛兵に気づかれる前に事は終わると思う。」
俺がそう説明すると、テッカが言ってくる。
「いや・・ラウルさん。いくら何でも駐屯地には300程度の兵はいるぞ。腕の立つものもいるいくら魔人と言えどそれほど簡単にはいかないんじゃねえか?」
「いや・・テッカさん。”300しか“いないんだ。おそらくすぐに終わるよ」
「300しか?東西南とルタンにいる兵を合わせたら1000人になるんだ。それがすぐに終わるとは・・」
「むしろ3方に分散してくれてて助かったよ。各個撃破出来るぶん早く終わりそうな気がしてる。」
「そうか・・魔人ってのは伝説通りの生き物なんだろうな・・じゃあルタンの街は俺達が引き受ける。なにかあったら必ず人を助けると約束するよ。」
「よろしく頼むよ。ニケはこれを持って宿屋に居て状況を報告してくれるか?」
俺は通信機を召喚してニケに背負わせる。
「これを持ってこうやって話すと俺に話が通じる。やってみろ。」
「はい・・あの・・こんばんわ。」
「こんな感じだ。俺が持っているここから連絡が聞こえるようになっている。」
「わかった・・」
「今の時間は20時。では時計あわせ!0:00時までに各方面を制圧しろ!01時にルタン町集合!02時にルタン町の衛兵を黙らせろ!04時西の駐屯地を制圧して8時間で作戦終了だ!」
魔人達が腕時計をいじっている・・
「ではルタン町制圧電撃作戦開始だ。いけ!」
「「「「「はい!」」」」」
シナ村までファントムに担がれて走っている。こいつはまるで重戦車のような安定感だが、さらに物凄いスピードだ・・乗り物とは比較にならないほどのGがかかる。なにもなければ頭にがっちりしがみついていないと、振り飛ばされてしまいそうだ。しかしルフラが俺を包み込みファントムにまとわりついているため、手ぶらで周りを見回す余裕もある。シャーミリアとマキーナは同じ速度でついてきていた。
しかし車を動かす魔人達は遥か後方にいる。スピードに優れたダークエルフですら止まって見える。彼らは車が置いてある場所までなので俺達よりだいぶ遅くても問題はない。
「飛ぶようなスピードだな・・」
そんな速さで移動しているため、トラックなど比較にならないほどの時間でシナ村に到着した。
シナ村は一昨日来た時と変わっていない。
「静かだな。」
「はい」
「じゃやってみる。」
地面に手を当てて魔力を流してみる。
ズッズズ
魔法陣に光が流れていく。
「この街全体に広がっているのか・・俺の魔力でいけるか?」
一気に魔力を流し込んでいくとどんどん光が広がっていく、魔法陣の縁に座って魔力を入れて行く。
「マキーナとシャーミリアは上空から見てくれ。ルフラとファントムは離れていろ。本格的に魔力をいれてみる。」
ズウォン!!
「どっちの魔法だ?インフェルノか・・転移魔法か・・」
「ご主人様、魔力が町中にいきわたりました。一面が真っ白になっています。」
「グラドラムで逃げられた時と一緒か?」
「はい全く一緒です。」
「よし」
魔力を止めてみる。
しかし光はすぐに収まらなかった。どうやら魔法陣には魔法を増幅する機能があるらしい。
「ご主人様、光が収まってきました。」
「そうか。」
20分くらいかけて光が収まる。
「これで・・消えたんだろうか?」
「どうなんでしょう?」
俺は鏡面薬を取り出して地面に注いでみる。
「光らないな。」
「消えたのでしょうか?」
「もう一回魔力をそそいでみるか」
再度魔力をそそいでみると・・
光らなかった。
「これで使えなくなったんだろうか?」
「どうなんでしょうか?」
「まあいい。トラックの連中が待ってるから行こう。」
「かしこまりました。」
《しかし凄いな・・デイジーさんの鏡面薬はこんな使い方が出来るなんて・・》
俺達はトラックの方向に向かって移動し始めた。
そのころ南の駐屯地からさらに南の荒野に見つけた転移魔法陣では、魔人達とカトリーヌ、マリアがいた。カトリーヌがみんなに向けて話し出す。
「では魔力をそそいでみます。こちらの魔法陣はラウル様が向かったものより小さいとの事ですが・・私の魔力で足りるといいのですが。」
カトリーヌが魔法陣の縁に座り魔法を流し込んでいく。
すると魔法陣が輝いてきた。
「これは・・白く輝いている。おそらくラウル様が言っていた転移魔法陣かと・・」
マリアがカトリーヌに教える。
しばらく魔力をそそぐと線が消え円盤状に光を放つ。
「おそらくこれで大丈夫でしょう。魔力を止めます。」
カトリーヌは魔法陣を知っていった、1度使用した魔法陣は効力をなくす。何種類かの魔法陣が書けるが見た事の無い魔法陣だった。
「モーリス様からは習った事がありませんね。やはり禁術なのでしょう。」
光が収まり魔法陣が消える。鏡面薬を振りまいて確認してみるが反応はなかった。
「これでおそらく援軍はないはずです。皆さん!進軍いたしましょう。」
全員が街道をそのまま進み進軍していく。マリアとカトリーヌの移動速度はどうしても魔人に劣るため、マリアは狼化したゴーグに乗り、カトリーヌはライカン隊長のマーグにまたがった。5人のゴブリン隊長も他のライカンに乗って移動する。
北へ向かうと、松明の明かりが見えてきた。
「駐屯地が見えてきました。」
ティラがマリアに伝える。
「じゃあ奇襲をかけましょう。」
「あのマリアさん?私、カトリーヌを少しも傷つけないように言われているの。私一人でやります。」
カララが申し出てきた。
「カララさん一人で?危険では?」
「守らなくちゃいけないとはいえ無理する事は・・」
マリアとカトリーヌがカララに言うが、ほかの魔人達に制される。
「カララに任せましょう。」
ミノスが言う。
誰あろう最強格のミノスが言った。
全員が遠く兵士の駐屯地が見える場所で立ち止まる。
「では皆様いってまいりますわ」
カララが駐屯地の方に向かっていった。遠くから見ていると兵士たちの駐屯地の灯りが消えた。
すぐにカララからマリアの無線機に通信が入る。
「終わりました」
「えっ?」
「終わった・・?」
マリアとカトリーヌがあっけに取られている。
「では全員でまいりましょう。」
ミノスが促すので敵兵の駐屯地まで進んでいくと・・
兵が死んでいた。外傷はないが糸が駐屯地内に広がっているだけで特には相手が暴れた形跡もない。
「テントの中に兵が潜んでいるのでは?」
マリアが聞く。
するとギレザムが答えた。
「いえ・・生きている者の反応はございません。」
銃火器を全く使わずに戦闘が終わってしまった・・魔法の発動すらない。
マリアとカトリーヌはおろか、カララ以外の魔人全員が身震いするのであった。
カララが300の人間を殲滅したころ。
ラウルたちの戦闘が始まったばかりだった。
トラック部隊を後方に置いて、シャーミリアとマキーナが上空からM240機関銃を掃射し、ファントムがM61バルカンを豪快にぶっ放してあっというまに300の兵を撃退する。
こちらもあっという間の出来事だった。
「あっけないな。」
「ご主人様。300の兵には多少の手練れもおりましたが、ご主人様の兵器の前にはなすすべなどございません。」
「寝込みを襲った奇襲だったし、魔法使いも身動きが取れなかったようだ。」
「見事な作戦でございます。」
「よし、それじゃトラック部隊でルタンに乗り込むとするか。」
「はい」
1台の4駆と6台の装甲トラックが西に走り始めるのだった。