第110話 新生グラドラム
グラドラム消失から半年が過ぎた。人と魔人は協力して復興を行っている。
俺が援助を要請したところルゼミア王が心良くうけてくれたのだった。
ルゼミア王は魔人国にいる兵士の3分の2を大陸に送ってきた。いや・・ルゼミア王は自分とガルドジンだけ残して、魔人は全員大陸に行けと言っていたのだがそれは俺がやめさせた。どうやら二人きりになりたかったらしい・・ルゼミア王だけで国を守る事など容易いそうだ。
「まあルゼミア母さんが言うように、いずれは全魔人を大陸に呼ぶつもりだが、まだこちらに基盤ができていないしね。」
「そうよね。一般の魔人はまだ大陸にくるのはまだ無理よね。」
イオナも大陸に戻ってきていた。
イオナとカトリーヌとの再会の時はもう涙涙で収拾がつかなかった。カトリーヌも久しぶりに見る美しいイオナの笑顔に、泣き崩れしばらくは2人で抱きあって泣いていた。お互い少し年を重ねて印象が変わっていたらしいが、当時の面影は変わっていなかったらしい。
それからは二人はまるで本物の親子のように寝食を共にした。
カトリーヌはアウロラの良い遊び相手になった。彼女の日中の仕事は怪我人の回復を主に行っていた。復興作業を進めるとどうしても怪我人がでる、結構忙しく働いて合間にアウロラの相手をしてくれているらしい。
イオナはグラウスから連れてきたシロの面倒と、グリフォン5匹の世話をしていた。まるで牧場主のようにシロとグリフォンを調教しているように見える・・・彼女はいったい何者なんだろう。
イオナが動物の世話をしている他のほとんどの時間は、グラドラム内の組織作りの為にポール王と共に動いていた。もとは上流貴族の生まれだったのとサナリアの領主の妻だった彼女は、組織をまとめていくことにもかなり能力を発揮していた。
「さてそろそろ巡回してくるよ」
「いってらっしゃい。ファントムもよろしくね。」
こいつが何か言葉を発する事はない・・
俺はファントムを引き連れてイオナのテントを出る。
グラドラムの人たちは、はじめて見る魔人もいてびっくりしていたが一緒に生活をしているうちに、魔人に危険性が無い事がわかり協力し合いながら町を再興していた。
グラドラムの正門から外側に魔人の街ができ始めていた。グラドラムに入るにはまず魔人の街を通らねばならなかった。魔人街には人間の商人の生き残りをおいていたが、あの戦い以降全く物資が届かなくなったそうだ。敵国から物資が届くはずもなく貿易などなかったのだ。
食料と住居用の木材はすべて自給自足で賄う事が出来た。畑の野菜はまだ実っておらずダークエルフと人間が採取してくる森の果実や動物と、ペンタが獲ってくる海からの恵みで生活していた。さらに俺が召喚する食料も補助的に使っている。調味料は海水を蒸発させて作る塩が取れた。衣類や紙などが不足しており魔人国からの物資で賄っていたが、敵国が物資を全て止めているのはいずれ発展の妨げになるだろう。
街中を歩いてながめてみると、ほとんどの人間が俺の召喚した迷彩戦闘服Ⅱ型をきているため、まるで自衛隊の駐屯地にいるみたいだった。
「物資が足りてるか確認しないとな・・」
俺のデータベースが復興支援作業に伴いリビジョンアップされている。俺のこの世界での経験がデータベースに反映されているようだった。復興作業にともない自衛隊の復興用の物資がどんどん召喚できるようになった。そのおかげで、兵器、軍用施設、戦闘糧食以外にも召喚できるものが増えた。おそらく自衛隊で使用された事のあるものならほぼ召喚できるようになっていたのだ。
特にうれしかったのは戦闘糧食についているコーヒーやスープではなく、いろんなお茶が召喚できるようになったことだった。
インスタントコーヒー、砂糖、ガムシロップ、日本茶、麦茶、紅茶、ウーロン茶、ミルク、コーラ、ミネラルウォーター
これにはイオナもポール王も大喜びしていた。まさかこんな貧困な状況でおいしいお茶が堪能できるとは思わなかったらしい。そして飲料についている砂糖で料理の味も向上した。俺が個人的にうれしかったのはコーラだ!これは魔人達に大好評で建物が一つ建ったり水路ができあがったりと記念にふるまった。
そしてさらに究極はレトルトなどの加工食品の召喚だ。
白飯、五目飯、山菜飯、中華風おこわ、ドライカレー、豆ご飯、五目釜飯、ひじき飯、五目チャーハン、チキンライス、カニチャーハン、サツマイモご飯
鶏だんご野菜あんかけ、鶏と根菜のうま煮、かつお野菜煮、さばみそ煮、さんま味付け、さんま甘露煮、いわししょうが煮、ビーフシチュー、ポテトサラダ、ベーコンポテト、ボロニアソーセージ、麻婆豆腐、酢豚
人数分となると俺の魔力の問題もあって常に供給する事は難しいが、作業しているやつらの所には届けるぐらいは余裕で召喚できた。仕出しとして持っていけるので作業に専念してもらうことができた。配達はミゼッタを筆頭にゴーグとライカン部隊が引き受けてくれた。
俺が町の中を巡回して回っているとポール王が顔を出す。
「しかし魔人様たちの働きぶりは凄まじいですな。」
ポール王が素直に感想を述べる。
「ええ人間よりはるかにある力、そして休みをあまり必要としませんから。」
「いままで人間は魔人様を虐げ共存を拒んできましたから、そんなに素晴らしい力を持っている事を知る人間は少ないでしょうな。」
魔人達は本当にすごかった。
まずドワーフの物づくりの技術は素晴らしいものがある。俺が召喚したテントや兵員輸送車などをばらして研究し、建造物や道路などの工事に役立てる事を考えた。すでに数人はM939 5tカーゴトラックを運転する事さえできいる。そのため物資の運搬などは全てトラックで賄っていた。かつ燃料がなくなると分解して削岩用の重機の代わりに利用したり、消耗品として物販用の部品にしていた。30日で消えてしまう事を理解して上手に使っていたのだった。
そしてミノタウロスやスプリガンはものすごいパワーがあった。前世でいうところの土木用重機顔負けのパワーで土を掘り木を切り家を建てた。ドワーフが分解したトラックなどの部品を使って、地面を掘ったりしていたのだった。前世の重機より繊細な動きが出来る為、ミスも起こりづらく効率よく土木作業を進める事が出来ている。
いまではグラドラムにもともとあった城壁のさらに西側に、1キロ間隔で2枚ほどの岩盤を積み上げた城壁が作られた。3重の砦を突破せねばグラドラムにはネズミ一匹侵入する事は出来なかった。その城壁と城壁の間に街が作られ1壁と2壁のあいだにミノタウロス、ライカン、竜人、オーガ、オークの強い魔人の住居ができた。まだ木造の家はそろわずテントも併用しているが少しずつ作業は進んでいる。
2壁と3壁の区間には比較的弱い魔人の住居が出来て行った。ハルピュイア、サキュバス、ゴブリン、ドワーフなどがそこに住み着いた。ドワーフやダークエルフは人間の居住地区にも住居を構え、人間のために依頼された作業を行うようにしていた。さらに言うとサキュバスの夢の力は凄かった、人間の心身の疲労や異常を回復する力があると思う。ただ・・歓楽街のような様相を呈してきている気がする。
ダークエルフはグラドラム高原墓地の奥の森に住み着いた。水の管理や森での狩りをおこない、グラドラム上空からの敵の警戒も行うようにしていた。
グラドラムと魔人の敷地内にはいたるところに通信施設を置き、魔人の業務のやり取りなどはスムーズに行われるようになった。
俺が町の出口方面に向かって歩いて行くと、ゴーグがミゼッタを乗せて現れた。
「ミゼッタ!ダークエルフ達に飯を持って行ってくれたか?」
「はいラウル様。行ってきましたよ!ゴーグとライカンたちが私と物資を乗せて手伝ってくれました。」
ミゼッタとゴーグは本当に仲が良かった。まるで・・ゴーグがミゼッタのペットのようだった、物資の運搬などの作業がある為ゴーグやライカンたちはほとんどの時間を狼の姿で過ごすようになっていた。
ミーシャは最近すっかりドワーフの村に入り浸っていた。いろんな技術が面白かったようでドワーフに習っているようだった。さらにはグラドラムのお母さんたちの生き残りから、グラドラムの郷土料理を習いグラドラムのお母さんたちにはユークリットの料理を教えて交流を深めているようだった。
そしてクルス神父の元で、カトリーヌとミーシャ、そして女のドワーフが薬品の開発にも取り掛かっていた。森でとれる薬草や魔獣の素材を使ってポーションや、腹痛に効く薬などを作るようにしている。
今は丁度、その薬品開発の時間らしかった。
「クルス神父!お疲れ様です。薬品の研究は進んでおりますか?」
「ええポーションや腹痛の回復薬は順調にできています。」
「クルス神父に薬師の知識があって助かりましたよ。」
「神父になる前は薬師だったのですよ。」
「ああなるほど!」
クルス神父が答えると、ミーシャがさらに合わせて答える。
「ラウル様!戦闘で使える可能性のある薬品も出来上がりそうです!」
「戦闘で使えそうな薬品?」
「アラクネのカララ様のお子達が分泌する毒でございますが、あれを抽出して揮発性の高い果実脂とまぜあわせ、空中に巻くことで人間は麻痺をして身動きが出来なくなるか、もしくは死に至る可能性があります。」
「えっ!人体実験したの?」
「いえ・・たまたまそれを開発していた時に、ギレザムが吸い込んじゃってカトリーヌが回復魔法掛けても、1日身動きが取れなくなっていましたので、人間ならひとたまりもないかと・・」
「えっと!危険なので、別なところで研究しようか!それ!」
「は・・はい。」
「ドワーフと協議して洞窟にその研究室を作らせるよ。」
「わかりました。」
《あの頑丈なギレザムが1日身動きが取れなくなるなんてまずいだろ!人間なら間違いなく死ぬと思われる》
「とにかくその研究室が出来るまでは、その薬品の研究は中止な!」
「はい・・」
するとカトリーヌが言う。
「その研究をするときは必ず私が近くに居たほうが良いと感じました。」
「そうしてくれ。くれぐれも注意してくれよ!」
「わかりました。」
《まったく・・俺の知らん間に恐ろしい物を開発しやがって・・ミーシャもだんだん魔人に侵されてきたな。》
しばらく行くと掛け声が聞こえてくる。
はっはっはっは!
はっはっはっは!
はっはっはっは!
はっはっはっは!
マリアとゴブリンが人間の男たちに稽古をつけているのだ。自衛団を結成させるようにしたのだった。
「マリア!状況はどうだい?」
「うーん・・まだまだですね。」
「相手は魔人じゃないんだお手柔らかにな」
「わかっております。」
「ティラ、タピ、マカ、ナタ、クレ!そしてその部下たちもグラドラムの人たちには丁寧に教えてあげてくれよ!」
「はい!マリア隊長のもとできちんと指導させていただいております。」
《・・・・・マリア・・・隊長?》
「ちょっとまてまて!お前たちが隊長だろう!」
「いえマリア隊長はわれわれゴブリン隊の総隊長を務められております。」
「マリア・・これはどういう・・」
「さあ・・わたしにもよくわからないんです・・」
はっはっはっは!
はっはっはっは!
はっはっはっは!
はっはっはっは!
人間たちが稽古する声だけが高らかにこだまするのだった。