第103話 シリアルキラー転生 ー大神官アヴドゥルー
時は少しさかのぼる。
グラドラムが巨大インフェルノで消滅した次の日。ファートリア神聖国にある大神官の部屋で一人の男が歯ぎしりをしていた。
「なんで・・なんであんな・・」
その男は卑屈そうな小男だったが、たいそう立派な神官の服を着ていた。
しかしその目は怒りに赤く充血していた・・・
アヴドゥルという男・・この者は特別な過去をもっていた。
俺は転生者だ。
24年前にこの世界に転生してきた。
この世界の名前はアヴドゥル・ユーデルという。
前世で俺はアメリカという国に生まれた。
そしてたくさんの人を殺した。
俺はアメリカのものすごい田舎町のさらに郊外のボロ屋に生まれた。俺の父親は本当の親ではなく粗暴な人間だった。母親は体を売って生きていたが、その稼いだ金はろくでなしの父親を名乗る男が使った。母親は俺に愛情はなかった、体を売って生きているうちに孕んだ父親が誰かもわからない子供だったからだ。俺は面倒もみてもらえず野良犬のようにゴミをあさり、学校にも行かされずその日1日を生きるのが精いっぱいだった。前世の名前すら忘れてしまった・・つけてもらってなかったかもしれない。
父親を名乗る男は母親が体を売りに行っている間に俺をたっぷりと犯した。そこに愛情などなく暴力的にただ犯されるだけだった。気がすむと俺を放置して金を持って出ていくのだった。おそらくどこかで安酒でも飲むのだろう。
母親が帰ってくると俺に飯も与えず酒を飲んで寝てしまう。目をさますと父親を名乗る男が帰って来て乱暴に母親を抱くのだった。
しかし・・母親は気が付いていた。男が俺を犯しているのを・・
男が家を出かけると、実の母親は嫉妬に駆られていろんな道具を使い、俺をまるで拷問のようにせっかんした。何度も失神をしては延々と続く地獄・・あれでよく死ななかったものだと自分でも感心する。
俺にはとっくの昔に人間の感情など存在していなかった。
初めて生き物を殺したのは腹が減っての事だった。街にいくとスーパーマーケットの前のガードレールに犬がつながれていた。俺はその犬を誰にも見られないようにすみやかに連れてきて、森の中で殺し焼いて食ったのだ。
そして満たされた。
何よりも気持ちが満たされた。不安な顔で見上げる犬の表情を見ながら手にかけるとき、何とも言えない興奮と高揚を味わった。生き物を征服するような喜び、俺が生き物を支配しているという感覚が俺を支配した。
《生き物を簡単に呼び出して殺す事ができたらな・・》
そんなことを考える事もあった。
それから俺はいろんな動物を殺して食った。
生き物なら何でも食った。いや・・喰わない時もあった。
ネズミをバケツの罠で大量に捕って火をつけたり、鳥を捕まえては羽をもいだりして遊んでいた。食う前に気が変わって捨ててしまう事もあった。警察があちこちでそれの犯人を捜していると聞いた事もあったが、俺は逃げ回る自信があった。この街に俺の生きている証拠などどこにもないからだ。
とにかく生き物を殺すたびに得る快感は何物にも代えられなかった。
「すばらしい・・」
生き物を殺すたびに起きる性欲を抑える事も出来なくなってしまった。
性欲のはけ口に選んだのは街の子供だった。その時はじめて・・人を殺した。動物と人間の境界線は特になかった。ただ俺は自分の気持ちのままに・・神出鬼没に・・空気を吸うように人を殺した。
13才頃の話だが俺がある家に忍び込んで人を殺した時のことだ。玄関のドアが開いていたのでこっそり侵入し、家族を皆殺しにして冷蔵庫にあった食材を食っていた。するとパトカーのサイレンが聞こえてきたので俺は急いで裏の窓から逃げ家に帰った。
家に帰るとあいつらが、父親と母親を名乗る二人が汚いベッドでやっていた。
きっと警官はここにもやってくるだろうと思った。
「やっぱりな。クズどもが」
俺は隣の牧場からひろってきた鋭利な牧草の爪フォークをもってあいつらに近づいた。ふたりは夢中になっていて気が付かなかった、俺が男の首の後ろめがけて爪フォークを振りかぶったとき、はじめて母親が目を見開いて俺をみた。
目があった瞬間俺は爪フォークを思いっきりふりおろし、二人の喉をまとめて串刺しにたのだった。
親を殺して直ぐにそのボロ屋に火をつけた。乾いた木のボロ屋は一気に燃え広がりあっというまに大きな炎となった。大きく燃える火を眺めそして俺は家を離れた。
そして俺はそのまま街を出た。
それから俺はアメリカの街を転々としながら金を盗み人を殺し生き長らえた。
もう何人殺したか分からなかった。
俺はその後も生きながらえ続けていつしか29歳になっていた。いろんなところで逃げて偽名を使って、新聞やテレビで情報を得て俺はだいぶ知恵をつけた。世間では俺のような奴の事をシリアルキラーと呼ぶ事も知った。
そんなある日その女と知り合った。なぜか俺はその女をすぐに殺す事はなかった。俺は適当に働いていると嘘をついてそいつを殺そうと近づいたのだが、その女はなぜか殺す気にならなかった。不思議な感覚だったが自分でいられるようなそうでないような・・おかしな気持ちだ。
「あなたの名前は?」
俺はそいつに名前を聞かれたが、テレビで見た事のある人間の名前を言った。
「ジョンだ」
「ジョンね。私はアイリーン」
俺はアイリーンと生活を始めた。アイリーンは商売女で体を売って金を稼いでいた。俺はその金で暮らすようになった・・まるであの父親を名乗った男のようにだ。
しかし俺はあの父親のようにはならなかった。アイリーンに暴力をふるう事はなかったのだ。俺達は普通に愛し合いそして一緒になった。裏社会に手を伸ばし身分証明書を作ってもらった。ごみ処理の仕事をするようになり俺は普通の暮らしをするようになった。
そして俺とアイリーンに子供が出来た。
不思議な気持ちだった。アイリーンは体を売る仕事を辞めてスーパーマーケットで働くようになった。俺たちの暮らしは貧乏ながらも普通の暮らしのように見えた。子供も保育所に通わせていた。
しかし俺にはアイリーンにも子供にも言えない衝動があった。
それは・・殺人衝動だった。
普通に暮らしているのにまたその気持ちが鎌首をもたげてきた。しかし俺がまた誰かを殺せば逃げなければいけなくなる。今まで誰にも見つからずに逃げてこんな暮らしができるようになった。軍隊に入れば戦場に行って人が殺せるかもしれなかったが、俺には本当の身分がなかった。軍隊になど入れるはずはなかったのだ。
するとある時、安酒場で知り合った男からある話を聞いた。
「以外におもしれぇんだよな。」
「なにが面白いんだ?」
「まあ、戦争ごっこみたいなものだよ。」
「戦争ごっこ?おもしろそうだななんだそれ?」
「サバイバルゲームって言うんだよ」
「サバイバルゲーム?」
「ああ、空気銃をもって対戦するゲームみたいなもんだな。駆け引きとかあっておもしれんだぞ!」
「俺もやってみたいな。」
「じゃあ今度参加するか?」
飲み屋での話から俺は一度サバイバルゲームというものに参加してみた。
『なるほどな・・おもちゃの銃を使った戦争ごっこか。そのままだな・・でもこれはいけるかもしれねえな。』
俺はその時ある事を思いついた。次のゲームの時も俺はそいつに誘われた。そこで俺は闇ルートからあるものを取り寄せてそのゲームに参加したのだった。
「くくくっ。」
最初に事故を装って殺したのはその時だった。サバイバルゲームに本物の銃が混入していたように見せかけて、サバイバルゲームマニアのアメリカ人を殺害したのだった。
満足だった。久しぶりに殺す感覚に俺は家に帰ってから興奮してアイリーンを抱いた。
「まあしかし、そうしょっちゅうやってたら足がつくよな。しばらくは我慢だな。」
そう思って数年間は普通にサバイバルゲームで疑似的な殺人を楽しんでいた。そんなある時俺は退役軍人のサバゲ―チームに目をつけられて勧誘されてチームに入った。そいつらは俺が鋭い感覚を持っていると誘ってきたのだった。俺が過去に軍隊経験が無い事を伝えると驚いていた。
「へえ、こんなベテラン兵みたいな目つきで軍経験者じゃないとはな驚いたぜ」
「本当だよ、もう何百人も殺してきたみたいな目つきだったから特殊部隊出身だと思ったよ。」
「傭兵にもお前みたいなヤツは、なかなかいないぜ。」
「そうか?まあ俺はゲームが好きなだけの一般人さ。特別大したことはねぇよ。」
俺が何百人も殺してきたって言われたときはビクッとしたが、チームのやつらは俺を疑う事はなかった。
そして俺はしばらく元軍人チームと一緒にサバイバルゲームに参加していた。俺はそれだけにかまけることなく真面目にゴミ焼却の仕事を続け、アイリーンと子供と一緒に普通の家族の父親を演じ続けた。
そしてある時、チームの連中から大きな大会の事を聞いたのだった。
サバイバルゲームの運営が、各地の有名なチームを集めた大きな大会があるということだった。そしてそこにはアジア人が参加するのだとか・・日本からの参加者がいるのだと聞いた。俺は無性にそいつらをぶっ殺したくなった・・なぜかはわからねえ。
《白人や黒人はたっぷり殺ってきたが、黄色はねえな。》
早速・・俺は闇ルートから米軍で使っている拳銃を入手した。拳銃を闇ルートで持ってきたやつも撃ち殺して土に埋めた。
そして大会の当日が来た。俺のチームは元軍人らしく強かった。そのおかげで順当に勝ち続けて準決勝までいった。
「ちっ!猿のくせに準決勝かよ」
俺のチームはなんとその日本人の猿のチームに負けそうになっていた。
《負けたら殺す機会がなくなるじゃないか!?》
すぐさま腰につけていた本物の拳銃を引き抜いた時、振り向くと日本人の一人が飛び込んできた!
ニヤリ!「馬鹿が!勝ち誇った顔してやがる!」
すかさず銃で胸を撃ち抜いた。
そいつは血を吐いて吹っ飛び仰向けに転がった。
すぐさま仲間と救急隊が駆けつけて手当てが始まる。
「くくくっ!馬鹿がおめおめとアメリカまで殺されに来やがって!」
そして俺はその騒乱に乗じてその場を逃げ出した。
俺は急いで会場を後にした。しかしカーラジオのニュースで流れてきたのは、なんとあのアジア人が重体というニュースだった。
「まさか殺し損ねた?」
悔しさが俺の顔ににじんだ。
「くそ!くそ!くそ!なんで死んでねえんだ!」
そのまま車を飛ばして家に着いた、車のトランクからガス式のモデルガンをとりだして家に向かった時・・家から男が数名出てきた。その後ろにはアイリーンと息子が呆然を俺を見ていた。
「FBIだ!銃を下ろせ!」
「おまえには殺人の容疑がかかっている!」
「手を上げてすみやかに投降しろ!」
「はぁ??なんだなんだ?なんでFBIが来てんだ?」
「あなた!やめて!」
アイリーンが叫ぶので、俺がモデルガンを捨てようと肩にかかっている自動小銃のガスガンを下ろそうとしたとき。
パンパンパン!
パンパン!
銃弾が俺の眉間に入り込み、俺は意識をなくすのだった。
その数十分後に救急車の中で、死んでいく日本人の事など知る由もなかった。
俺はすぐに気が付いた。
「あれ?死んでねぇ。よかった!また殺せる!」
しかし目覚めたところは・・不思議なところだった。
暗いが赤い煙が立ち込めるおかしなところだった。
「なんだここは?病院か?」
-おまえはおもしろいな-
「はぁ?お前は誰だよ?」
俺の前に変なカラスみたいな顔をした奴が現れた。顔が徐々に変わって人間の顔になったがこいつは俺よりずっと悪そうだった。目が赤く光っている。なんだか・・ずっと昔から知っているような声だった。
-私か?まあこの空間にただよう意識のようなものだ-
「なに訳の分かんねえこと言ってんだよ。」
-ふむ。お前の世界では悪魔、鬼、邪神などと呼ばれてる存在と言えばわかるか?-
「悪魔?なんだよ知らねえよ。結局俺は死んだのか!?」
-まあ・・そういうことだ-
「で、その悪魔様が何の用だ?俺は人を殺しまくったし地獄へいくんだろ?」
-そうではない。お前をもっと楽しい世界へいざなってやる-
「楽しい世界?なんだよそりゃ。」
-お前はまだまだ殺し足りないんだろう?私がもっと楽しい世界へいざなってやろうというのだ-
「殺せるのか?」
-まあお前次第だがな-
「おもしれえじゃねえか。じゃあやってくれよ」
-分かったじゃあその世界に送ってやる前にお前がやらねばならない事を教える-
「それを聞いたら殺せるんだな?」
-ああそうだ思う存分やれるぞ-
「わかった!なんだ!」
-まずはお前が我を呼び出す事-
「お前を呼び出す?どういうことだ?」
-時間が無い。我が名はマルヴァズールこの名を覚えておけ-
「わかった。それだけか?」
-いやもう少しある。我の目論見を妨げるものがいる!お前が我の名前を憶えているだけではダメだ。これから行く世界にユークリットという国がある。その土地には女神も霞む美しい女がいる。それが身ごもる前にその夫を殺せ!女を殺しても良い。もし生まれてしまったらその子供を殺せ!とにかく子供を生かしておくな-
「覚えていたらな。」
-それでは生き返らせることは出来んな。我と約束をすると誓え-
「わかったよ、誓えばいいんだろ!」
すると俺の周りが光り輝き始めた!
パァァァァァァァ
白い光が俺を包み込んでいく。
-誓いを違える事は許さんぞ!もし違えればお前の魂は未来永劫、燃やされ続けるであろう!-
「おいおい・・約束したとたんおっかねえ声で・・ムカつくなぁ」
俺はそのまま意識がなくなっていくのが分かった。