第101話 魔人と人間の共存
グラドラム消失から1週間ほど経過したある日の夜。
俺達はテント村に集まって、ディナーをとりながらミーティングをしていた。
ポール王とクルス神父そして人間の男衆3人に対して、俺とマリア、ルピア、ギレザム、ジーグ、ダラムバ、ダークエルフ5人、ティラとタピが一緒に食事をとっていた。シャーミリアとマキーナ、ファントムが俺の護衛として後ろに立っているが彼らには食事は必要ない。
シャーミリアとマキーナは夜の活動時間中は必ず俺のそばにいた。情報を共有するといいつつ俺の護衛からひと時も離れたくないらしい。ファントムは相変わらずどこかを見て突っ立っている。
食事はシーサーペントのペンタがとってきたマグロの炙り焼きと、俺が召喚したレーションの乾パンとコンソメスープだった。焚火を囲んで話し合いながら食べていた。
「水路工事もだいぶ見えてきたな。」
「そうですね。」
俺とギレザムが話しているとポール王が話をはさむ。
「まさかこんなに早く工事が進むとは思いませんでした。ラウル様のあのお力そして魔人様たちのおかげです。」
ポール王が言っている俺の力とは爆薬の事だ。実は工事を短縮するため大量のTNT火薬やプラスチック爆弾をつかって木を倒して岩を砕き、邪魔な岩や土砂を巨人化したスラガとマズルが運んで積み上げた。積みあがった土砂を運ぶために陸上自衛隊の73式大型トラックを召喚して、他の魔人達が土砂をトラックに積み込んだ。それらを運搬して海に捨てた。
湖からの用水路がだいぶ出来てきてはいるがまだ水を通していない。湖の出口でせき止めて作業を進めていた。
「もう少しで町の近くまで来ます、崖の淵から滝にして街の方に流します。水門を作って水量を調整できるようにしましょう。」
「これでグラドラム都市内に畑が作れそうです。」
「もう間もなくですね。」
「今のところ敵が攻めてくる様子もないですな。」
「そうですね。」
俺と魔人達でグラドラムの西に延びた一本道の街道を、グリフォンのイチローとニローに俺とマリアが乗りルピアと共に飛行して索敵した。100キロほど先にあったシャーミリア達が人間をゾンビ化させて壊滅させてしまった町までは敵の気配はなかった。
「マリア、あの町はいまだに廃墟になっていたな。」
「はい。」
「俺・・あの町の人に申し訳ないと思ってるよ。」
「いえ私たちではありません。シャーミリア達です。」
マリアが断固として否定した。
「その節は申し訳ございませんでした。私の存在を消してでも謝罪せねばならないところ、このようにご主人様のしもべとして使っていただけるとは、寛大な御心に感謝をしております。」
「いやーシャーミリア。いままで俺達もお前のおかげで何回、命を救われたか分からないよ。」
するとポールとクルス神父が不思議そうな顔をして聞いてくる。
「あの・・何かあったのですか?」
《まずい・・!》
「いやなんでもないです。もともとシャーミリアは俺達をさらいに来た経緯があって・・そのことです。」
「そうでしたか。いろんな事情があるのですね。」
「はい、今ではシャーミリアは俺の一部ですよ。」
「ラウル様は本当に不思議な方ですな。」
「ははは、そうですね。」
《今は人間のために慈善事業をやっているが、その時はシャーミリア達が人間をなんとも思っていなかった時だったんだよな・・さすがにそれは墓場に持っていこうと思う。》
などと考えながらマリアを見ると、マリアもどこかに目をそらしてディナーを食べていた。
《うん・・それでいいよマリア。》
「ここから西にある町も、ファートリアバルギウスに滅ぼされてしまいましたからな。」
いきなりポール王が言いだす。いまその話題はかわしたと思ったのに!
「えっ!」
「はっ!」
俺とマリアが変な声を出してしまった。
「どうなされたのですか!?」
「いえ、本当にけしからんです。」
するとクルス神父が合わせて言う。
「ファートリアバルギウスには必ず天罰がくだります!そういうことですねラウル様。」
「はい!そういう事です。」
シャーミリアとマキーナが今でも口笛を吹きだしそうな顔でとぼけている。
《まあ今はシャーミリアとマキーナも俺の配下になり、人のために働いているからな。俺が墓場まで持っていけばいい事だ。わ、話題を変えよう。》
魔人国への早急な連絡のためグラウスの街に飛ばした、ルフラとアナミスがそろそろ魔人国についている頃だった。
「サンローとヨンローに乗ってグラウスに飛んだ、ルフラとアナミスもそろそろ魔人国についている頃でしょう。持たせた書簡には、俺を魔人国王の息子と知って攻撃してきたファートリアバルギウスの宣戦布告とも考えられる行動について、またグラドラム復興に向けての増援について書いてます。返答はどうなるか分からないですが数週間で戻ってくると思いますので、その間に出来るだけの事をさせていただこうと考えています。」
実はルゼミア王への書簡とは別に、イオナへの書簡も送っていた。イオナの姪であるカトリーヌを救出したことを伝えてある。
「十分です。ここまででもかなりの助力をいただいておりますから。おかげで民にも生きる気力が芽生え、家族や仲間を失った悲しみから立ち直ろうとしております。民もみな感謝の気持ちを持って魔人様たちを迎えています。」
「そう言っていただけるとありがたいですね。これから一緒に戦う仲間となるのです、正直なところ魔人に裏切りはございません。彼らは純粋で元始の魔人の系譜に連なるものは、主に従うよう定められております。」
「本当に情けない限りです。使用人の皆から裏切られた私には、人間を信じてくれなどという言葉は言えません。しかし魔人様を疑う気持ちは生き残った人間にはございません。」
「ポール王よ人間とは弱いものです。死んだデイブもそもそもポール王の家族を取り戻すための裏切りでした。それが人間の良さでもあり弱点あると思います。私も半分は人間で人間の貴族に育てられました、純粋な魔人と違い人間の気持ちもよくわかります。あの悲しい出来事をくりかえさないためにも、この戦争は必ず勝たねばなりません。」
「人間を信じてもらえるように尽力します。」
「大丈夫ですよポール王。生き残った民は皆あなたを信じています。私たちはあなたが王でいる限りはもう裏切りは無いと思っています。一緒に戦ってまいりましょう。」
ディナーも終わり皆が食べ終わった。人間たちにも同じものを配って食べてもらった。
そして・・極めつけは、俺が召喚した陸上自衛隊の仮設浴場施設だ。巨大テント施設と中に設置するシャワーと風呂を召喚して施設を組み立てた。ボイラーと発電機を召喚したところ燃料も電源もフル状態で召喚された。そして10キロリットルの貯水槽に湖で水を入れて運んできたのだ。その貯水槽を運んだのはそう・・ファントムだ。
《あいつがいなければ水を細かく運ばなければならなかった。10キロリットル・・10トンもの重量をこともなげに運んできた・・とにかくあいつが俺のマスコットでよかったよ。》
「ラウル様が用意してくださったあの・・風呂。あのお湯が出る細かい水が出てくるあの・・」
「ああ、あれはシャワーと言います。」
「シャワーですか?」
「はい。」
「あれは本当に皆に大好評でして、ラウル様を神様だと讃えるものもいるくらいです。」
「ええ体が汚れたままだと皮膚炎や病気にかかる可能性が高いですからね。ポール王が湖の存在を教えてくれたのですぐに設置する事が出来ましたよ。」
「皆にはきちんと規範を守って使わせていますよ。」
「ああ、ちゃんと体をシャワーで流してから風呂に入る事・・ですね。」
「ええ、あれで風呂のお湯が汚れずにすみます。もう我々もラウル様がお呼び出しになる武器に驚く事もなくなりましたが、あれは本当に驚きました。街の名物にしたいですね。」
「すみません・・30日で消えてしまう施設です。」
「そうでした・・ラウル様の武器は30日という期限がございましたな。」
「私にもなぜかよくわかんないんですけどね・・」
「とにかく!民は本当に助かっています!ラウル様のためになんでもすると言っておりますので、ぜひ決起のさいは皆を連れて行ってください!」
「まあ必要ならそうさせていただきます。しかし極力生き残った人々には生き延びる事だけを考えていただきたいものです。」
「わかりました。しかし戦いたい男たちもおりますので機会があれば何卒!」
「その時はお声がけします。」
「ありがとうございます!」
そして俺は服がぼろぼろだったものに、自衛隊の迷彩戦闘服Ⅱ型を支給した。これも30日で消えてしまう為、消える前に自己申告で言って来るように伝えてある。そうしないと作業中いきなり裸になってしまう可能性があるのだ。特に女性には十分気を付けてもらう。
「よし!ギレザムとジーグそしてマズルは、正門のガザムとゴーグ、スラガの3人と見張りを代わってくれ。正門に呼びにいってあいつらをここによこしてほしい。あとは朝まで3人で交代しながら見張りだ。」
「「「はい」」」
3人は船に積んであった自分たちの鎧と服を着ていた。やはりこっちの方がしっくりくるのか聞いてみたら、涼しいんだとか‥ただそれだけの理由だった。
3人が焚火から立ち上がり正門に向かって歩いて行く。装備している武器はギレザムが自分の剣を背中に、マズルは斧を背負って、ゴーグは特に武器は持たず、全員のホルスターにはデザートイーグルがフル装填で1丁とベルトにはフルのマガジンが3本、手にはロシアのマシンガンRPK-203 — 6P8M 7.62x39mm弾装填タイプを肩掛けで持たせた。ガザムとゴーグ、スラガにも同様の装備をつけさせている。ダークエルフ達にも全く同じ装備をつけさせており、夜は毎日5人ずつで船の警護を交代で行っていた。
ルピアとマリア、ティラとタピ、ダークエルフ2人は今日の見張りは非番である。
見張りには非番の日を設けることにした。魔人達は非番などいらぬと言ったが、休息をとってもらい人間とのコミュニケーションの時間をとってもらうためだ。おかげで人間の魔人に対する偏見も薄くなったように感じる。普通に会話して接すれば彼らが本当に純粋であることが分かるからだ。魔人は子供とよく遊ぶ、人間の子供は可愛く見えるらしい。子供と遊ばないのはシャーミリアとマキーナとファントムぐらいだった。彼女らは・・子供と接すると腹が減ってくるらしいので、俺が近づけないようにしているのもある。
人間との共同生活で、出来るだけ魔人の事を知ってもらいたかった。この素晴らしい魔人の事を知ってもらえば差別など消えるはずだからだ。おそらくグラドラムを出れば魔人は討伐対象の生き物となるだろう。まずはグラドラムだけでも魔人に対しての本能的な差別意識や恐怖をなくしていこうと思う。
《これが・・魔人と人間の共存の第一歩になる。俺はそう信じている・・魔人にも人間にも必ず分かり合えるものがあると信じている。日本人ならではの平和主義的な考えかもしれないが、魔人達にこの大陸で生きる権利を与えてやる。それが俺の使命なのだと思う。》
「ではポール王とクルス神父そして人間の皆さん、今宵はもう遅いですのでおやすみ下さい。」
「かたじけない。」
「ラウル様に神のご加護を」
人間たちは自分のテントの方に向かって歩いて行った。
とにかく魔人と共により人間らしい生活をしてもらうこと、俺が魔人との壁がなくなったのはこれだった。
《グラドラムの人たちの意識を変え世界を変えてやろう。俺は数千年の歴史が作った魔人に対する偏見を壊すための無謀な戦いに挑む愚か者かもしれないな。》
長い道のりの第一歩が始まったばかりだった。
「あのご主人様。そろそろお風呂のお時間でございます。」
俺が心の中で熱い決心をしている時シャーミリアが声をかけてきた。
「危険の無いように今日も私奴が護衛をいたします。ご安心してお風呂を堪能してくださいませ。」
《あ・・・始まった・・風呂を設置してからのこの数日間のお決まりのやりとりが・・・》
「あの・・大丈夫だよ。俺は一人でも身を守る事ができる。」
「いえ!ラウル様は武器を持たない裸の時は危険なのです!必ず私がお守りいたします!」
「シャーミリア様が守るのであればもちろん!私奴も護衛にまわらねばなりません!」
シャーミリアに合わせてマキーナも護衛する!と言い出した・・
《ああ・・だと・・今後の展開もいつもどおりなんだろうなあ・・》
「何を言っているのです。ラウル様は幼少の頃より私が体を洗って差し上げたのですよ。私も当然一緒に入らせていただきます!」
《やっぱり・・マリアが参戦してきた。》
すると・・
「ラウル様は獣人にもご興味を示されております。私の裸がとても珍しいのだとか!今日も穴のあくまで私をお眺めになってくださいまし。」
ルピアが入ってきた。
「あの・・そうだね。争うのもおかしいしまた全員で入ったら?はは・・」
「「「「「そうですね!」」」」」
濃密な夜はいま始まったばかりだった。