第100話 グラ森物語
復興に関しての相談をした後、俺はすぐにグラドラムの正門に来ていた。
ルピア、ルフラ、アナミス、スラガの4人を連れて正門前のファントムのところにいる。相変わらずファントムはどこか遠くを見て立っているだけだった。
正門には戦闘で俺が搭乗したBMP-T テルミナートル ターミネーターが置いてある。5名搭乗できて47トンもある鉄の塊は、敵が来たとしても簡単に破壊されることは無いだろう。戦車を改造して対人攻撃に特化したこいつは、この世界に敵などはいないはずだった。それをわざわざ正門においているのは威嚇および危険な敵が来た時の盾となるからだ。ファートリアの魔法師団の攻撃で破壊された門を復旧するまではこいつが門の代わりだった。
「よし!ルフラとアナミスの2人には魔人国で訓練してきたとおり、俺が召喚する武器で見張りを行ってもらう。こんな状況で行商人がくるかはわからないが、人が来たら必ず俺に連絡しろ!到着するまでに危険を感じたら応戦してかまわない。魔法陣はミサイルで破壊したから敵兵がたどり着くとしても少数だろう、お前たちの敵ではない」
「「はい」」
俺はバックパック装填型のM240中機関銃を召喚して二人に渡す。さらに太ももにつけるホルスターには召喚したVP9ハンドガンをフル装填で装備させ、腰回りに3本のフルのマガジンをつけさせた。ルフラはスライムなので魔法の攻撃しか通用しないし、アナミスは敵が人間なら瞬間的に眠らせてしまうため、それらの特性を使用したのちに武器を使うよう訓練してきた。
「俺とファントム、ルピア、スラガでグラドラムの森に入り調査する。ルフラ!アナミス!じゃあ見張りを頼んだぞ。身体の危険を感じたらこのBMP-T テルミナートルに搭乗してハッチを閉めろ。中からでもこれについてる30mm機関砲が撃てるからそれで応戦するようにしろ」
「「かしこまりました」」
「ここを突破された場合は早急にガザムに連絡してくれ。後はガザムが敵が到着するまでに全員を呼び戻す手はずになっている」
「「はい!」」
俺の指示のもと正確に動いてくれる魔人は、まるで鍛えあげられた特殊部隊のようだった。どんな状況にでも柔軟に対応して、環境が変われば自分の特性を考えて自発的に動く。さらに人間では死んでしまうような過酷な環境でも平気で活動できるものもいる。まあそれぞれに弱点みたいなものもあったりするので、完璧とは言えないかもしれないが人間を基準にしたらレベルが違う。
俺はそれを過信しないで生存確率が少しでも高い作戦で動くようにしている。それを無視して使えるのはファントムぐらいのものだ、死んだり消滅したりする確率が少しでもあるものは、きちんとした作戦行動の元で動いてもらうようにしているのだ。
「よしいこう。」
俺、ファントム、ルピア、スラガが正門をでて、夜に戦地となった正門前の岩に囲まれた荒野を進んでいく。
魔人は俺の武器を使うことでほとんど疲労する事がなくなった。ギレザムやガザムなどのオーガ、ダラムバやその部下のダークエルフ、スラガやマズルなどのスプリガン、他の魔人たちも自分の身を削った剣技や能力をほとんど使わずに相手を殲滅できるため、魔力を消費する事が無くなったのだった。人間ならば戦闘をしたり眠らないだけでも疲弊するのだが、彼ら魔人は戦う事は息をするのと同じ様なもので、かつ2、3日眠らずとも疲労せず稼働し続ける事が出来る。
「よし!とまれ!」
グラドラムの森の正面についた。グラドラム港に夜に到着して大規模戦闘をへて18時間近くが経過している。おそらく今は前世でいうところの午後2時くらいで気温が一番上がる時だった。夏の始まりといった季節ではあるが30度くらいはあるため十分に暑い、人間にとってはかなり厳しい時間帯だろう。人間と魔人ではその環境温度でも動ける幅は広かった。
人間が防寒具をつけてマイナス20度から上は40度くらいが稼働の限界だろうと思う。それでもかなり強靭に鍛えられた騎士ならばだ、魔法使いや一般の市民などはもっと活動の限界は低いはずだった。魔人はそれぞれに能力が違うが、強い種族でマイナス70度から60度くらいの活動領域がある。アラクネのカララなどは溶岩のそばで120度近い温度の中でも動けるのだった。反対に体の小さいゴブリンでは人間の一般市民並の体力しかない。
「さて入るぞ。」
俺達はグラドラムの森の中に入る。
うっそうとした森の中は陽の光が遮られ涼しかった。この世界の森は木の密度が高い、更に辺境グラドラムの近くにあるこの森は木の密度があり地面の雑草に日光が届かないため、苔がびっしりと生えてとても幻想的な雰囲気となっていた。
「目的の場所に向かうが遭遇する魔獣に注意してくれ、魔人のお前たちならこちらから先に気が付くだろう。なるべく刺激しないように向かいたい。人間の大陸の魔獣に俺の元始の魔人の力がどこまで作用するか分からない。まあ・・攻撃してきたらこれでファントムが撃退しろ。」
オンタリオ 1−18 ミリタリーマチェットナイフ、いわゆるナタだがそれを二つ召喚してファントムに渡した。二刀流のような形になる。
「魔獣を始末するのに出来るだけ銃を使いたくない。すみやかに首を落としてくれ。」
ファントムは特に答える事もなくただ遠くを見つめて立っていた。
「他の2人は食べ物になりそうなものがあったら教えてくれ。」
「「はい」」
森の奥はひんやりとしていて気持ちが良かった。小型の魔獣に遭遇する事はあったが俺達が来ると逃げて行った。何事もなくさらに森の奥の方に進んでいく、人間の行動速度よりかなり早くスムーズなためだいぶ距離が稼げる。そのスピードで1時間ほど進むと急に森が開けた土地が出てきた。
「ついた。」
「ここに、なにか?」
ルピアが俺に聞いてくる。
「ああ、知り合いに会いに来たんだ。」
俺は口に指をくわえて、指笛を高らかに鳴らした。
ピィーーーーーーーー
シーンとした森の中で奥の方まで響き渡っていく。
なにもおきない・・
しばらくシーンとしていたが、ルピアが聞いた。
「あの・・」
するとルピアとスラガが同時に気が付いたようだ。
「なにか来ます!」
スラガが警戒するように俺の前に立つ。
「大丈夫だよ。」
すると上空の青空の中に5つの点が浮かんでそれがだんだんと大きくなってくる。
「あれは?」
ルピアが俺に聞く。
「ああ、俺の仲間だよ。」
上空からは鳥の頭に馬の体そして羽の生えた魔獣が5頭降りてきた。
グリフォンだった。
《タ〇ー!〇ロー!》
感動のシーンだよ。これは感動のシーンなんだよ。
5頭のグリフォンが俺に近づいてきたので、スラガとルピアが警戒するように俺を囲んだ。
「いや大丈夫だって、俺が使役してるんだよ。」
1匹のグリフォンが俺のそばにきて、俺の顔くらいの大きさの舌でベロンと顔を舐め上げる。
《あの、この挨拶方法だけはかわってないのな。》
他のグリフォンが俺の腕を甘噛みしてベロベロしている。俺がどんどんねちょねちょになっていくので、そろそろやめさせるとしよう。
「お前たち!元気にしてたか!3年もたつのによく俺を覚えていてくれたな。」
ピィィィィィ
クァァクァア
ピピッ
クゥゥゥゥ
みんなで甘えた声を出してくる。
逃亡していた頃に途中で敵が使役するグリフォンが寝返り、俺の味方になってくれた5頭だった。
「この5頭をラウル様が?」
スラガが聞いてくる。
「そうなんだよ。いろいろあってこの地においてったんだけど生きててくれてよかった。」
「グリフォンを使役している!すばらしい・・」
まただ、グラウスでもシロを使役した時に魔人達は驚いていた。シーサーペントのペンタを使役した時なんか崇め奉られたし・・魔獣を使役するというのは特別なことなんだろうか?
「いや、でもこれ最初は敵に使役されていたんだよ。」
「えっ!そんなことが?気高きグリフォンがですか?」
「ああ、そうだ。」
「そんな・・」
そうかやはりグリフォンを使役するというのは何か特別な意味があるんだろうな。
するとルピアが聞いてきた。
「この5頭にお名前はあるのですか?」
「えっ?」
そういえば名前なんてつけてなかったな・・どうしようかな。
「名前あった方がいいかな?」
「おそらくさらに絆が深まるかと思います。シロやペンタのように。」
うーん・・名前かあ。じゃあ感動の再会の物語をしたわけだし・・郎をつけないとな。
「イチロー、ニロー、サンロー、ヨンロ―、ゴローでどうかな?」
「聞きなれない言葉ですが、素敵だと思います!」
ルピアが褒めてくれたのでこの名前にすることにした。ただ・・ちょっと高校や大学にスベッた人のようだけどね。5人の浪人生を使役している・・。あれ?微妙だったかな。
「しかし魔獣を使役する人間がいるのですか?」
「ああ、グレートボアに乗った騎士もいた。」
「そんなことが・・」
「やはり魔獣を使役するのは難しい事なのか?」
「魔人国ではルゼミア王だけです。」
「えっ!そうなの?」
「はい。」
そうだったのか。まったく知らなかった・・
「ある程度知能のある魔獣ならばルゼミア王が使役出来ます。ただグレイトホワイトベアーはラウル様だけが使役しておられますけど、不思議なことにイオナ様の言う事も聞いてましたね。」
「ルゼミア王が船に乗るとシーサーペントも何もしないって言ってたもんな。ビッグホーンディアは全く使役できなかったし、やはり知能なんかも関係するものなんだな。」
「はい。」
「イチロー、ニロー達グリフォンは使役が難しいんだよね?」
「そうです。気高く人や魔人に従うなどあまり聞きません。」
「敵に・・それを使役できるだけの力のあるものがいるということか。」
「しかしグリフォンが寝返ったということは、ラウル様の使役する能力が相手より強いということです。」
「ただグレートボアのような知能の低い魔獣を使役するとは・・」
「なんだろう。使役するにしても得意分野とか特性があるのかもね。」
「そうかもしれませんね。」
《とにかく敵の情報が少ないな、今の段階ではかなり不利だ。魔獣を使役するやつに転移魔法を操るやつ・・同一人物なのか複数人なのかもわからない。とにかくどちらもユークリットにいたころには聞いた事の無いものだし、敵を調べなければならないようだな。》
俺達はグリフォン5頭を連れて森の出口にむかって歩いて行く。
静かで小さな動物たちや、キラキラ光る虫が漂うグラドラムの森はとても美しかった。昨日の過酷な戦闘を忘れてしまいそうに優しく俺達を包み込んでくれていた。前世にはない原始時代のような手つかずの自然の恵みが俺達の前に広がっている。
《ちょっとだけ復興のためにお恵みを頂戴しに来ます。森にいるかどうかわからないけど、恵みの神とやらがいるのならばどうかグラドラムの民をお助けください。》
俺は心の中で祈りを捧げた。