第01話:プロローグ 〜サバゲーで死ぬやつって俺ぐらいじゃない?
連載始めました。よろしくお願いします。
俺はサバゲーのアメリカ大会に出場していた。
日本のサバゲーの全国大会で優勝し知名度が上がったところへ、アメリカのとある運営から大会へ参加の招待メールがきたのだ。
俺の名前は高山淳弥31才。子供の頃にミリタリーにハマって、今ではミリオタでおまけに童貞。昔から武器が好きで好きで子供の頃は武器大百科なるものを買ってもらい、武器をひとつひとつをノートに書いては妄想を膨らませていた。
それからもどんどんミリタリー物にのめり込み、銃にライフル、手榴弾、バズーカから戦車やミサイル、戦闘機や戦艦までとにかくあらゆる武器の事を調べていった。
こともあろうに31年間1度も彼女を作った事のない俺は、ただひたすらモデルガンを集め続け、今では一人暮らしのアパートは部屋中モデルガンだらけ。まるでスパイ映画の隠れ家みたいになっている。いつごろからか実戦したい!という欲求が生まれサバゲにのめり込み、立派なミリオタ童貞になったわけだ。
こんなマニアックな性格ゆえ、なかなか友達も出来ずにいつも孤独だった。
リア充とは正反対の生き方を満喫しサバゲ―歴12年、彼女いない歴31年の童貞だったが、そんな俺でもサバイバルゲーム専門店に入り浸っているときにできた趣味友がいた。
いわゆるミリオタ仲間だ。
その後、俺はミリオタ仲間たちと一緒にチームを作り日本のサバゲ大会で戦い続けてきた。チームメンバーの入れ替えも何度かおこなったが、今が最強のメンバーと言ってもいいだろう。
言わば戦友だ。
今回はミリオタ仲間と俺の4人一組で一緒にアメリカまでやって来たのだ。
そして今はアメリカ人チームと準決勝戦の真っ只中だ。
多様な障害物が設けてある特設会場にはたくさんの観客がいた。観客たちは各所に仕込まれたカメラの映像をモニターで見ている。さすがはアメリカ、ずいぶん金がかかってる会場だなと思う。これなら安全対策もバッチリだろう。
今は試合開始から5分が経過したところで対戦が膠着状態になり、こちらからしかけようとしているところである。
「さすがはアメリカ準決勝進出チームだな。」
本場アメリカのサバゲーはレベルが違い、簡単には勝たせてもらえないようだ。それもそのはず、どうやら退役軍人や元特殊部隊がいたりするそうだ。まあアメリカの大会に出られただけでもうれしいんだけどね。
俺から見て右の障害物の陰から、同じチームの皆川が軍隊式のサインで左から回れの指示をだしている。俺はすぐに左手前方の障害物に滑り込んだ、もう相手チームは目と鼻の先にいるはず。
さすがに皆川は元陸自で的確に敵の動きをよんでいる。しかも陸自ではレンジャーだった。
息を殺して潜みながら俺のさらに左手にいる林田を見る。林田はIT系の社員で頭がいいし状況を理解しながら動くことができるやつだった。林田は俺が前進したのを確認して、さらに前の障害物に進もうと飛び出した瞬間
タンタン!
と言うモデルガンの渇いた音がした。
林田はピンク色のペイント弾に被弾しバンザイをした。
くぅー!やっぱり本場のやつらは強いなあ。だがな…これは想定通りなんだよ。
林田は一発で仕留められてしまったようだがこれで
4対3
しかし彼はオトリだ。俺らのチームはここからが本領発揮なのだ!と、思いながら右を見ればやはり間髪入れず皆川と田中が素早く動いていた。1人仕留めた事でほんの一瞬集中が切れたアメリカチームの真横に飛び込んで、
タンタン!
2人の相手の背中に正確に青のペイント弾を打ち込んだ。相手の意識のふいをついて有利な状況を作り上げていく。林田をおとりにする作戦はみごとに成功したのだった。サバゲならではの戦術であり、命がかかっている実戦ならば使えない作戦である。
2対3
動揺している残った2人の後ろから、俺がペイント弾を打ち込めば相打ちでもこの勝負は勝ちだった。本物の銃での実戦と違ってモデルガンなら相打ちでも死ぬことは無い、それが俺らが考えたサバゲーの戦略だった。
そして、この速攻の攻めが俺達の真骨頂だ。
一瞬の勝負!
1人目をペイント弾で青色に染め2人目にモデルガンを向けた時、相手も振り向きざまに銃口を向けてきた。最後の1人はずいぶん冷静に動いているようだったが、とにかくこちらの思った通りに動いてくれた。
勝った!
《ん?笑ってる?》
タンタン
バンバン!!
【バンバン?】
相手を青色に染めたのを確認した瞬間、俺はやたら大きい発砲音を聞きながら胸のあたりに強い衝撃を受けた!
「ぐあっ!」
痛っっっだい!
ものすごい激痛と火箸でも突っ込んだような熱さを胸部に感じた。
「ゴフッ!」
血を吐き撒き散らしながら仰向けに吹き飛ぶ。
目の前が暗くなり…意識がおちた。
・・・・
重い瞼をあけたら泣きそうな顔で、皆川と田中と林田が俺をのぞきこんで何か叫んでいる。…いや…もう2人いる…救急隊員ぽい格好だな。というか救急隊員なのだろう。
息が出来ない…
途切れ途切れだが、こいつらが言うには本物の銃を持ちこんだやつが紛れ込んでいたらしい事がわかった。
ゴーグルとマスクで相手の顔が見えなかった…でもたしかに笑っていたように見えた。本来ゴーグルで目なんか見えないはずなのに…
なんで本物の銃が?
どうやら本物の銃で胸を撃たれたらしい…うっそだろ…あるわけない…しかも自動小銃のモデルガンじゃなくハンドガンだった…なんでだ…
また目の前が暗くなった。
朦朧としながら目を開けると、俺は救急車に乗せられているようだった。車の天井と救急隊員そして視界には入らないが皆川の声が聞こえる。
「高山!がんばれ!日本に帰ろう!」
とにかく俺の意識を手繰り寄せてくれているようだ。
そういえば最初は、俺が皆川をサバゲーチームに誘ったんだっけな。まさか元陸自のレンジャーだったなんて知らずにショップで声をかけたんだ。こいつはすっごくいい奴で、俺のサバゲーに最初っから今までずーっとつきあってくれたっけ。アメリカにまでついてきてくれたんだもんな。あとここまで俺のチームが強くなったのは全部こいつのおかげ…だって元自衛官のレンジャーなんだし…
「なんか…つまらな…思い出…しちゃっ…ごめん…」
苦しくて言葉が発せないが、申し訳なくなって俺は皆川にそういった。
「ばかやろう!そんな事どうだっていいからしゃべるなって!」
皆川は真剣な顔で怒ってた。相変わらずいいやつだ…
気道に何か突っ込まれていてしゃべりづらいな。
…彼女くらい作ってみたかったな…
「フッ…ゴフッ」
俺は血反吐を吐きながらもニッコリ笑った。
そして深い闇に落ちた。
ピーーー 心電図が音を立てた。
「高山ーー!」
俺は死んだ。
うっすら目が開いた、しかしあたりがぼやけている。
光しか見えない。
ボーっとする。
また眠る。
腹が減った。
うっすら光が射す。
口から何か温かいものが入ってくる。
満たされる。
ぼやけている。
また眠る。
ぼんやりしたなかでも股間が湿っぽく気持ち悪い。
起きる。
誰かが腰回りでなんかしてる。
気持ち悪さが取れた。
また眠る。
なんか目が覚める。
腹立たしい。
急に体がふわっと浮く感覚。
ゆったり揺れる。
また眠る。
体が熱い頭が痛い。
不快で起きる。
気持ち悪い。
苦いなにかを飲まされゆったり揺らされる。
また眠る。
ずいぶん長い間そうしたことがまどろみの中で繰り返された気がする。白っぽい濁った世界の中でしばらく生きていたような気がする。よく思い出せないしハッキリもしていないモヤモヤした時間だった。
ただ…
なんだろ?
ただ幸せな気分だ…暖かい…
そして…
揺れている。
頬に風が当たっている。
暗い。
騒がしい。
振動を感じる。
ボーっとする。
また眠る。
…
そしてある日、俺ははっきりと目が覚めた。
どうやら俺はベッドの上に寝ているようだった。天井がうっすら見えるが、木目調?見慣れぬ天井だ…暗い室内には窓から月の光がさしているようだった。
あれ??
えっと…皆川は!?
慌てて体を起こして、ベッドから降りようと足を伸ばしたら。
???
異変に気が付いた。
床に足がつかない!
あれ?俺ずいぶん短足になってないか?幼児の足が見える。手も…手もちっさ!!もみじみたいだ。これ…俺の手だぞ!
「どうしたの?」
ギクゥ!
後ろから若い女性の声が聞こえた。
一緒のベッドに誰かが寝ていたのだ、後ろを振り向くと20才くらいの端正な顔立ちの金髪美人がいた。髪を肩からたらして胸元にかかっていた。
えらい美人だな…しかも薄着だし。服は緩くて…胸元が空いている…というか、先っちょが透けて見えている。
わお!アメリカの病院にはこんなサービスがあるのか…なんて素敵な!
…なわけない。
てか…俺はこの人の事をよく知っていた。
少しずつ意識がはっきりしてきた。
この超美人の金髪の女性は…
間違いなく俺の母親だ…日本人じゃないけど。俺自身がなぜかそう理解している。超美人で緩い服を着た女性。
俺の本来の年齢からすれば、えらい年下だ。
「おしっこに行きたいの?」
彼女が言う。
俺はコクリと頷いた。
「はいはい」
美人ママは優しく俺をベッドから床に降ろしてくれた。ベッドを降ろしてくれる時に、胸がはだけて見えそうになったが惜しくも見えなかった。
そして美人ママは、枕元のロウソクに火を灯し俺の手をひいて部屋を出た。ドアも木で床も木、廊下も全て木でなんか古臭い。でも日本家屋ではない…ここは病院でもない…記憶が正しければ…我が家だ。
おれはトイレを済ませて部屋に戻ってベッドに入った。
「ラウルもう寝なさい」
美人ママは優しく呟いた。
「うん」
俺は目をとじて寝たふりをしていたが、困惑し鼓動は高なっていた。
ドクンドクン
今日、寝る前までの記憶は確かにある。たしかに俺の横で寝ている美人ママから育てられてきたらしい記憶だ。ラウルと言うのは俺の名前で、あきらかに日本人の名前じゃない。昨日は彼女から本を読んでもらいながら眠った。
しかし、たった今…目覚めて思い出したのだ。
サバゲーに参加し本物の銃で撃たれ救急車で運ばれ、そして暗黒に包まれてしまった事を。
そのあとはボーっとしていてよく覚えていない、モヤモヤの中で身動きがとれない、考えようとしても何も考えられない…長い間そんな感じだった事だけ覚えている。
しかし間違いなく、この隣で寝ているうら若き超美人は母親だ。寝る前から数ヶ月前までの記憶がある。それはこの家でこの母親から育てられた記憶だ。
たしか、父親もいる。
父親は逞しい男でまずまずのイケメンだったはずだ。腹筋がバッキバキにわれている。家族にはめちゃくちゃ優しい良い父親である。
頭の中でピントが合ってきた。
たぶん俺は…サバゲーで実弾で死んだのだ。それは間違いない。
俺はどうやら死んで、この外国の家の子として生まれ変わったらしい。信じられないのだが、サバゲで本物の銃で死んで…転生したようだ。
誰だよ!サバゲに紛れて俺を実弾で撃ったやつは!
しかし…な…
まさかの転生前の記憶が蘇るなんて、テレビのバラエティーでそんなの見たことあるな。
急に思い出された前世の記憶に心臓が高鳴るのをおぼえた。
ドキドキしてきた…
《ていうかさ!俺、子供になってるし!!受け入れられるか!!こんな現実!!》
赤ん坊の頃の記憶は全くと言っていいほど無い。記憶があるのはほんの数ヶ月前からだ。しかし言葉が文章レベルで話せるようになってきた今になって、なぜか前世の記憶が思い出されたらしい。脳が成長して理解力がついたからか?
たぶん。
しかしな、マジか…
まだ前世の記憶は曖昧だ。高山淳弥と言う名前で31歳のサラリーマンだったこと、友達の皆川とサバゲーにハマってアメリカ大会まで行ったことは覚えてる。そんな大まかな事は覚えているのだが細かい諸々の事が朧気だ。
3歳並みの脳に、大人の記憶が入り込んできて情報処理が出来ていない感じかもしれない。
とにかく今は何年の何月なんだろう?日本に行けるのか?てか俺バイリンガルじゃね?なんか外国の言葉話してるし。この言葉は聞いたこと無い言葉だったが…英語でもフランス語でもドイツ語でもなさそうだ。中東あたり?よくわからん。
いいとこのお坊ちゃんだといいな。でかいベッドの感じや母さんを見る限りは、品の良い家柄っぽいんだけど。でもさっきのトイレは不思議だった。下の方から川のせせらぎのような音がしてた。特に水を流す物はなくそのまま出てきちゃったけど、見たことないトイレの形状だったな…
いろいろと考え込んでいたら、だんだん眠くなってきた…たしか俺の体は見た感じ3才くらいだもんな。夜遅くまでは起きてられないらしい。寝落ちしそうなので明日の朝がきたらまた考えるとしよう。
とにかく明日だ…
しかし…美人だよな…俺のかあちゃん…
母ちゃんなんだから触ってもいいよな…
俺は美人ママの胸を触りながら眠りに落ちた…
次話 第02話 たぶん異世界転生?
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