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消えたシュウ

「愁?あれ?どこ?」

「マチルダっ!頼んだ!」

「……!」

 倫が戸惑っている間に、マチルダもその場から何者かを追って消えた。

「私達も行きましょう。失礼します」

 そういうとシーマは私の返事を待つ事なく、抱き上げて駆けだした。細い腕なのに、軽くもちあげられた事に驚いた。

「どうしよう……愁」

「大丈夫ですから、そんな不安な顔をなさらないでください」

「ママに、小さい子はちょっと目を離すといなくなるって言われてたのに!」

「それは多分ちょっと意味が違うと思うのですが……。えっと、マチルダが追っていますから安心して下さい。直に連絡が入ると……あ、捕まえたようです」

「ほんと?!」

「はい。そちらに向かいましょう」

 シーマは私を抱っこしたまま目的地へとスピードを上げた。シーマが言うのだから、きっと愁は見つかったのだろう。彼の言う事は信用できる。と、思う。


「愁っ!」

 マチルダに抱っこされている愁を見つけた倫は、シーマの腕から飛び降り、そばに駆け寄った。

「ねぇね、いたー!」

 筋肉質なマチルダの頭によじ登ろうとしていた愁は倫に気付くと、わあいと両手を上げ。元気にふりふりしている。その姿にほっとする。

「……」

「あ、ありがと」

 マチルダが無言で愁を渡してくれた。ぎゅっとすると確かな体温を感じてほっとした。良かった。もう絶対手を離さないからね。

「さてさて、どうしましょうかね」

 倫から遅れる事数秒、ゆっくりとした足取りで近づいてきたシーマは、後ろ手に縛られたまま床に座らされている人物へと声を掛けた。

「最近、獣人狩りが起きているという話は入ってきていましたが、まさかまんまと我々の目の前でそんな事件が起こすなんて……ねえ?」

 よわっちょろい優し気なお兄さんだと思っていたシーマだけど、認識を改めなきゃならないらしい。穏やかな表情だけど、なんかめちゃくちゃ怖いのだ。

 シーマは深くフードを被っている犯人の横へと膝をついた。

「今からあなたを連行します。よろしいですね」

 それでもフードの犯人は何の反応もしない。

「はあ、無口なのはマチルダだけで十分です。何も言う事がないなら──」

「……さい……」

「はい?」

「ごめんなさいっ!」

「え?」

 勢いよく頭を下げた拍子に、ばさり、とフードが脱げた。そこに現れたのは情けなく垂れさがった耳だ。

 犯人だから、怖い声かと思っていたけれど、想像よりも声が高くて、驚いた。

「ごめんなさい、俺……俺……やれって言われて」

 シーマを見上げたケモミミ少年は、大きな目をうるうるさせていた。今にも泣きそうである。

「謝ればすむという話じゃないですよ。全く今回は私が追跡していたから良かったものの……」

「うぅ……」

 しょぼんと太めの眉を下げた姿を見て、倫の中の何かが弾ける。多分、倫よりは少し年上だろう少年へは本来抱かないであろう感情。愁への感情ととても似ているこれは──。

「ちょっと待って、シーマ」

「リン様?」

「追跡って何?」

「あぁっ?!」 

 慌てて口を隠したが、一度外にだした言葉は戻る事は無い。

「つまり、愁をおとりにしたって事?」

「いえ、あの、それはちょっと人聞きが悪いと言いますか、私はしっかり魔法をかけていましたし、マチルダも──」

「黙って!むしるぞ?!」

「ひぃ!」

 むしるポーズを見せると、守るようにシーマは頭に手をやってしゃがみこんだ。

「えっと、あなたお名前は?私は倫よ」

「お、俺はユーリ……ごめん、俺は君の弟を……」

 しょぼんとたれたもふもふな耳、大きなくりくりっとした黒いおめめ。形の良い唇。うーん、やっぱり思った通り、ユーリはめちゃくちゃ美少年だ。

「ユーリ。あなたは私の弟が可愛くって一緒に遊びたかっただけよね?」

「え?」

「え?」

「あう?」

 ユーリもシーマも口をぽかんと開けた。抱いたままの愁は、それを真似して口をあける。

「ね?」

「は……ぃ……?」

 無言の圧に、ユーリがそう返事をする。

「ほら、シュウも楽しそうだし、ね。これでいいじゃない」

「いやいや、それは……」

「シーマが私に何か言える立場?愁を危険にさらしといて?だいたいユーリは誰かにやらされたんでしょ?そいつをさっさと捕まえるべきじゃない?」

 シーマは信じられると思ったけど、それも撤回した方が良さそうだ。簡単に人を信じてはいけないのだ。

「それは、そうですが。それはそれ、これはこれでして……」

「あーもー!難しい話は大人がやっちゃってよ。私はユーリと愁と遊びたいの!」

「そ、そんな暴論!」

 右往左往するシーマへとマチルダが近づいてきて、何やら耳打ちをしている。

「わかりました。ではとりあえず彼は身柄拘束という事で」

「なんでよ?!」

 再びむしるポーズをした倫に慌てて距離を取る。

「最後まで聞いてくださいよ!彼の安全も考慮して、ユーリへの指示役を捕まえるまでは我々と行動を共にするという事でよろしいか?」

「いいね!……ってそれでユーリは良いのかな?おうち帰らなくていいの?」

「い、良い!良いの?!」

 大きなお目目がキラキラしていて、とても可愛い。愁のケモミミも可愛かったけど、ユーリはまた少し違う可愛さがある。なんというか、大きな犬っぽい。

「お父さんとか、お母さんは?」

「いない。俺、一人」

「え?!一人?!何歳?!」

「えっと、確か……十三!」

「十三……」

 自分と三つしか変わらないのか。十三歳で一人で生きていくために、罪を犯していたのだろうかと思うと胸が苦しくなる。

「この国は子供に優しくないの?」

「そんな事は……無いはずですが……獣人保護はかなり進んできましたが、やはりちょっと心無い人も一定数いるのは確かです。獣人は、高く売れる場合があると聞いています」

「人身売買じゃない……それ、駄目なやつってママ言ってたよ」

「多分、そう。捕まえた獣人、いつの間にかどっかに消えていた。俺は素早いから、捕まえる方をやれって言われて」

「それは、悪い事って分かってやったの?」

 じぃと目を見つめると、ユーリの目が再び潤んできた。

「ご、ごめんなさい……っごはん、くれるって言うから」

 声が涙声になっていく。ずずっと鼻水をすするユーリへと、とてとてと愁が近づいていく。

「だいじょーぶー?」

「ご、ごめんね、俺……」

「ぺったん、しゅるねー」

「ぺったん?」

「たいのたいの、てんでけーっよー」

「たいのたいの?」

「ぺったんは、痛い所に貼る薬の事だよ。たいのたいのっていうのは痛いの痛いのとんでけっていう私の国のおまじない」

 涙を溜めた目のまま首を傾げたユーリに説明してあげると、溜めていた涙が流れ出した。

「俺は、ごはんの為に本当に悪いことを……」

「また、ぴゅーしてー」

「ぴゅー?」

「……多分、さっきユーリが愁を抱っこして飛んだ事だと思う……遊んでもらったと思ってるから」

「!うん!またぴゅーしよう!」

「かわ……かわい……」

 ケモミミが目の前で二体戯れている光景に、めちゃくちゃ癒された倫なのであった。



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