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リンとシュウ

 はしゃぎつかれた愁は、あの後すぐに寝てしまった。そういえばお昼寝をまだしていなかったからなぁと寝顔を見ながら思ったりもしたけど、こっちの気も知らないで、穏やかな顔で眠る弟に僅かないらだちを感じる。さすがに赤子に文句を言うわけにもいかないからぐっと我慢したけれど。

「と、いうことでリン様とシュウ様を呼び出したという事じゃ」

 その後あの大きな部屋から少し小さな部屋へと移された私たちは、しゃがれ声のおじいさんから説明を受けた。受けたのだけど、その内容は素直に受け入れられるものじゃなかった。

「ご理解、いただけましたかな?」

「ええと、つまり……『近々魔王が現れるという占い結果が出たので、対抗するために勇者を呼ぼうとなった。魔法陣を描いて呼び出して現れたのが私たちだった』ってこと?」

「その通りですじゃ」

 じゃーじゃーうるさいこのおじいさんは、チョウという名でこの集団の長らしい。長いひげを撫でながら頷かれると、その髭を引きちぎりたくなる。

「どうして愁だけじゃなくて私も来ちゃったの?愁だけで良くない?」

「それは……シーマ、どういう事じゃろ?」

「はい。あの魔法陣は一人しか召喚出来ないはずですが、お二人が一緒にいたタイミングで召喚、子供だから軽く、重さ的に二人一緒にきてしまったのでしょう」

 シーマと呼ばれたのは先ほど私を押さえつけていた神の長い男だ。しきりに髪をいじっているのは私が髪を引っこ抜くと言ったからだろうか。ちょっとだけ悪い事を言ってしまったなと思った。

「納得は出来ないけど、私たちは元の世界からこの世界に呼ばれたって事はおじいさん達の服とかみるとそうとしか思えないから納得せざるを得ない。け!ど!普通!異世界って転生するんじゃないの?!そんでチート能力つくんじゃないの?冴えない陰キャが転生してイケメンになって可愛い女の子に優しくされたり、『あれ?なんかやっちまいました?』とか言って知らない間に祭り上げられて楽しく暮らすもんじゃないの?!」

「え、ええと……リン様、チート?テンセイ?インキャ……?」

「なのに姿形もそのまんま、年齢もそのまんまじゃない!愁は勇者で魔力があるからいいけど、私は何もなしってどういうことよー!!!」

 ずるい!愁だけ勇者で私はなんなんだ!せっかく異世界に来たって言うのに魔法の一つも使えず、完全に愁の付属品じゃないか!こんな事ならママと一緒にアニメでも見ている方が楽しいのに。

 叫びながら、涙が目にたまっていくのを感じた。

「お、落ち着いて下さい、いきなりこんな所に連れて来られて動揺するのはわかりますが、来てしまったものは仕方がないのですっ」

「うるさい!!!そのうざったい長い髪引きちぎるぞ!」

「ひぃっ!マ、マチルダお前がいってくれっ!」

 言われた背の高い筋肉質の男(眠った愁を抱っこしてくれている)が頷いて私の近くへと歩いてきた。残念ながら彼は短髪で、私の手では髪を引っ張れない。だからといって私の単語力を侮るな!

「くるなー!マッチョゴリラ!でも愁を落としたら許さない!」

 どことなくしょんぼりとしてマチルダが肩を落とす。異世界なのにゴリラって意味通じるのだろうか?

「ふ、ふぇ〜っ」

 高さが変わったからか、私が大きな声を出していたからか、愁がぐずりだした。それと同時に、どこからか風が入ってくる。

 風は愁がぐずる度に大きくなっていく。まずい予感がする。

「うあぁぁああん!ママーっ!ねえねー!」

 目を開けた愁が見たのは、見なれない短髪マッチョだ。泣くなという方が無理だろう。

 泣き声に連動して風がうねりをあげ、徐々に渦を形作っていく。

「ま、まずい!マチルダ、泣き止ませろ!」

「ーーん!」

 高い高いをしてみたり、揺らしてみたりと試しているが一度火が付いた愁がそんなもので泣き止むわけがない。

「リン様、なんとかなりませぬか?!」

 室内にあった軽いものが浮き、渦の作る風へと吸収される様を見て、チョウが焦る。慌てて倫が愁を受け取った。

「ええと、愁君ーねえねだよー。ほら、泣き止んで。ほらほら、大丈夫大丈夫!」

 安心させようとにこにこ笑顔を作り、愁を揺らす。倫に気付いた愁がぎゅっと抱き着いてきた。愁が落ち着くと同時に、小さな竜巻は散り散りになって消えた。

「可愛い~!ね、ママ見て、今愁が……」

 泣き止み、可愛い仕草をした愁をママに見せたくて振り向いたが、そこにママがいるはずは無い。愁と共に泣けば良かったなと思った。

「っていないんだった」

 間違えた事が恥ずかしくて、小さくそう呟いて自分を慰めてみる。

「え、ええと、つまり先ほどのテンセイとか言うのは、ご自分の容姿を変えたいという事ですかね?姿かたち全てとは行きませんが、髪色くらいならすぐに変えられますが、どうしますか?」

「え?出来るの?!」

「一応私も魔法師ですので。さあ、何色になさいますか?」

「えーっと……水色!」

 落ち込んだ顔から一転、ころりと笑顔を見せた倫に皆胸を撫で下ろす。シーマが何やら呪文を唱えると、手を倫の頭に手を添えた。その瞬間目の前が光に包まれて、次に目を開けた時には倫の髪も愁の髪も綺麗な水色に変わっていた。

「ご兄弟ですから。お揃いにしておきました」

「す、すごい本当に魔法だ!ありがとうシーマ!」

 愁も光ったのが楽しかったのかきゃっきゃと笑い声をあげている。楽しそう顔をする倫へに笑顔で頷くと、シーマはチョウへ近づいていった。

「しかし、チョウ様。ちょっと若すぎませんか?勇者様……」

「ううむ……」

「こんな赤ん坊に倒せるのでしょうか?と言いますか、さすがに子供どころか赤ん坊を戦いに出すのは胸が痛むのですが」

「ううん……」

「今までの様子からもシュウ様はまだ魔力のコントロールも出来ませんし」

「うーん……」

「今のところ、不機嫌になったり泣いてしまうと魔力が増大し、なんらかの魔法が発動するようですが、それを止める術が我々には……このままでは、シュウ様が泣き、誰かが傷つく事もありえるかと」

 聞こえてきたシーマの言葉に、ぞくっとした。愁が、誰かを傷つけてしまったらどうしよう。まだ眠いのか、私の肩に顔をすりすりしている愁を見ると、誰にも傷つけられず、そして傷つけずいて欲しいと思う。

「今は私で泣き止んでるけど、本当にごねた時は私じゃ無理だよ。ママじゃないと……」

「あいわかった。まずはシュウ様を泣き止ます何かを調達せよ。シーマ、マチルダ頼んだぞ。わしはどうすべきか、神託を受ける」

 私の言葉に、しばらく考え込んでいたチョウは、ぽんと手を合わせそういった。

「そ、それはどういったもので?!」

「とりあえずリン様に聞いてみよ。違う世界の知恵があるやもしれぬ」

「つまり丸投げじゃないですか!」

「しょうがないじゃろ!わしも想定外じゃ!」

 シーマが不満を爆発させて叫んだが、チョウおじいさんはさっさと部屋を出ていってしまう。脱力し、がっくりと肩を落とすシーマに、すっかり機嫌が治った愁がよたよたと近寄っていく。

「シュウ様?」

 目線を合わすようにシーマがしゃがむと、にぱーと愁は笑顔を浮かべた。その可愛さに皆が心奪われる中、倫だけは冷静にこう叫んだ。

「あ、危ない!」

「い、いででで!!!」

 叫んだが、ちょっと遅かったようだ。愁はシーマの長い髪を小さい手で掴むと、思いっきり引っ張り出したのだ。そう、いつもママの髪を引っ張って遊んでいたのと同じように。

 部屋の中に愁の楽しそうなはしゃいだ声と、シーマの痛みに耐える絶叫が響いたのだった。

(抜けた数本を見て、彼はさらに肩を落としていた)


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