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10歳の私が異世界で目を覚ましたら、1歳の弟が勇者だと言われてしまいました。

遠くにママの声が聞こえる。泣いているような声に、何かあったのかと心配になった。走り寄って、どうしたの?と聞いてあげたくて駆けだそうとした手を、ぎゅっと握られた。誰だろう?手の方を見ると「ねぇね」とにっこりと笑う弟・愁の姿があった。

 まだ歩き始めたばかりの愁をこんな所に一人置いてはいけない。抱き抱えて、ママの所に一緒に連れていかなくちゃ。

 そこまで考えて『こんな所』とはどこだろうかと疑問が湧いてきた。

 周りをきょろきょろと見てみるが、愁以外は誰もいない。真っ白とも真っ暗とも感じられる空間に私──倫はいた。

 急に不安になり、愁をぎゅっと抱いて目を閉じた。赤ん坊特有の甘い匂いがして、少しだけ心が安らいだ。


「成功じゃ!!!」

 声にびっくりして、私が目をあけるとそこは見たこともない部屋だった。白い壁にフローリングの床だった我が家とは程遠い、石で出来た部屋の、何やら台になっている所に私達がいた。たくさんの大人達が360度私達を見つめている。

「う?」

 大人が近づいてきた。愁が不安そうに私にしがみ付いて来たから、安心させようと抱いていた手に力を入れた。でも、私も不安なの。ママはどこ?ここはどこ?この人たちはだれ?頭がパニックになって鼻の奥がつーんとしてくる。

「二人いるぞ!どっちだ?」

 背の高い男が、愁を私から取ろうとした。私は抵抗したけれど、もう一人髪の長い男に押さえられて取られてしまう。どうしよう、愁に何かあったら、ママも私も悲しい。

「あう?」

 目線が変わって楽しいのか、愁は呑気にきゃっきゃと笑っている。高い高いでもしてもらっている気持ちなのかもしれない。全くこれだから赤ん坊は馬鹿で仕方がない。

 とはいえ、あのまま下に落とされでもしたら怪我をしてしまう。ちょっと馬鹿だけど笑顔が可愛くてぷくっとした愁が私は大好きだ。家族のアイドルだ。私が欲しがったからママは愁を産んでくれた。だから、私が愁を守らないといけない。

「いた!」

 かぷ、と私を押さえていた男の腕を噛むと、力が緩んだ。その瞬間に手を振り払って、愁に近づく。

「愁!」

「ねぇねー!」

 こっちが必死に守ろうとしているのに、にこにこ笑顔を振りまいている弟に脱力しそうになりながらも、手を伸ばす。

 でも、愁を持っている男の背が高すぎて手が届かない。そうこうしているうちに私はまた髪の長い男に肩を掴まれてしまう。

「愁を返して!愁くん!ねえねのとこおいで!」

「大丈夫だから、落ち着いて」

「バカバカバカ!愁に何かあったらママが怒るよ?!」

「ちょっと、暴れないでお嬢さん」

「しらん!はなせ!その長い髪引きちぎってハゲにしてやるからな!」

「ひぃっ」

「あぁああああああんんんーーーーー!!!」

 私が激昂した声に驚いたのか、愁が大声を出して泣き出した。

「わーっ?!」

「きゃー!」

 それと同時に地響きが鳴り、地面が揺れ始める。周りにいた大人たちが慌てて右往左往している。私を押さえている男も、愁を持っている男もどうしようかと動きが止まっている。

「その子、返して!」

「返してやれ」

 低いしゃがれた声が指示すると、背の高い男は私に愁を返してくれた。立ったまま抱っこして、ゆらゆらしてやると、愁はすぐに泣き止んだ。泣き止んだと同時に、揺れも収まった。

「なんという魔力……その子が勇者様じゃ。皆の者、頭を垂れよ」

 しゃがれた声に従うように、先ほどまで慌てていた大人たちが私に(というか私が抱っこしている愁に)頭を下げ始める。

「そなたは、その子の姉かの?」

 近づいてきた声の主は、100歳を超えてるんじゃないかというくらいしわくちゃのお爺さんだった。ママのおじいちゃんよりももっと年いってそうだ。

「そうだよ。ここはどこ?ママのところに帰して」

 目上の人にこんな言葉遣いをすると、ママに怒られそうだが、この人たちが良い人じゃない可能性も高いわけで。悪い人に礼儀正しくする必要なんて無いから良いのである。

「申し訳ないが、それは出来んのじゃ」

「なんで?!」

「我々は秘術を使い、あなた方を召喚した。帰るためには成し遂げなくてはならぬ」

「な、何を?」

 今更だが、お爺さんの服装をちゃんと見てみた。アニメとかゲームとかで見たことがあるような、ずるずると長い服を来ている。魔法でも使えそうな出で立ちに、ふと、この前図書館で読んだ異世界転生のマンガが思い出した。なんとなくだがこのお爺さんは白魔法とか使えて、回復役っぽい。さっき愁を持ってた人は背が高くて、筋肉もあるから近接戦が得意なタイプで、私を押さえていた髪の長い人は、髪の毛が青いから水魔法かな。改めてみるとママが好きそうなイケメンだ。さっきはハゲにするとか言ったけど、あの人がハゲるとママも悲しみそうである。

 等と一瞬現実逃避しているた私に、おじいさんはこういったのだった。

「この世界を魔王の脅威から救って下され。勇者様とその姉君よ」

「ええーーーーー?!」

「きゃっきゃっきゃ!」

 嫌な予感が的中し、絶叫する私の腕の中で、遊んでくれてるとでも思っている弟が楽しそうに声をあげて笑った。呑気なもんだ。

 こうして私の異世界での生活が始まったのだった。



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