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第6話:夜空を彩る魔法


「捻った所も治っているね。もし、次の日に違和感があれば遠慮なく言って欲しい」

「はーい」



 王都に戻ったルーカス達は、その足でイベント本部に向かった。

 騎士団、魔法師団以外にも迷子案内や簡易的な救護施設を設置していた。その救護室の中で、お医者さんからそう告げられたのは、カトリナの魔法で治した男の子。



「今、君の両親もここに来るから待っていなさい」

「はーい。あ、子犬。フサフサ尻尾触らして~」

「はいはい。思う存分、触って触って」

((良いんだ……))



 その光景を見たファールとラングが、そう言いたくなるのをぐっと堪える。

 よっぽど心地いいのか、今もずっとギューと触っては抱きしめている。そんな和やかな雰囲気を見ていると、すぐに男の子の両親が入って来た。



「フィルント!!!」

「お母さん、お父さん!!!」

「友達から聞いたぞ。危険な所で遊ぶなと何度言えば……」

「ごめんなさい……」



 そう言いながらも、ルーカスの傍を離れない。

 怒られるのだと思い意固地になっているのだ。さっと抱き上げたルーカスが両親の元へと返すと、そのまま尻尾を握られる。



「やだ……。子犬といる」

「嬉しいお誘いだけど、まだ仕事があるんだよ」

「……やだ」

「あはは……。そんなに好き?」

「ん。落ち着く」

「そっか」



 優しく子供の頭を撫で、このまま両親と別れても良いのかと聞くと迷うように交互に見る。

 


「でも……」

「また来年もやるし。その時に、また会ってくれると嬉しいな」

「会える??」

「うん」

「お姉ちゃんも?」

「うん。また会えるよ」



 フィルントはルーカスに降ろされると、カトリナの方へと歩き足元にピタリとくっつく。そんな息子の様子に、両親はハラハラした様子で見守りお医者さんは微笑ましそうに見ている。



「ありがとう、お姉ちゃん。……お姉ちゃんとお兄さんのお陰で、寂しくなかったよ」

「えへへ、それは良かった。ね、ファール」

「はい。今度からかくれんぼする時は、場所を考えないといけないですね」

「気を付けます。あと……あのお化けさんにもお礼を言いたい」

「平気。ちゃんと伝えるよ」



 その後も、名残惜しそうにするフィルントとお礼を言い続ける両親と別れる。

 カトリナ達の姿が見えなくなるまで、手を振り続けるフィルントに微笑ましい空気に包まれる。



「ルーカス様。そろそろ時間になります」

「あれ、もう?」



 小声で話すラングに、思い出したかのようにポンと手を叩く。

 最後はルーカスの合図で打ち上げられる魔法の数々。夜空を明るく彩り、厄災が来ても守れるようにと願いを込める為のもの。


 本来ならその総指揮を師団長がやるべきなのだが……。



「今、師団長であるリファル様は副師団長に説教を受けている真っ最中です」

「だよねぇ。じゃあ――」

「もう1人加担したディル様でしたら、リンド様によって各方面へと謝罪させていますよ」

「……どしよ」



 ファールが次々とルーカスのやろうとしている事を潰していく。 

 涙目で訴えるそんなルーカスに、ラングが仕方ないとばかりに引っ張り出し準備へと取り掛かる。

 首根っこを掴まれ、そのままずるずると引きずられていく。この国の王子に対してそんな事が出来るのは、この国ではラングしかいない。

 ポカンとした顔でそれを見送ってしまったカトリナだったが、すぐに体の力が抜ける。



「お嬢様!!」



 咄嗟に抱き留め、魔法を使った代償だと思い出したファールはすぐに救護室のベットを借りる。

 そのまま気絶するような形になったが、本当はどうなのだろうかとハラハラした気持ちで見守っている。

 


「しばらくすれば目を覚ますよ。このまま様子を見ててくれるかい?」

「はい」

「ちょっと疲れた様子だし、確か昼からずっと子供達にお菓子を配ってただろ? ちゃんと休ませないとね」

「気を付けます。……すみませんでした」



 今までの疲れと魔法を使用した事で、思った以上に負担をかけていたようだ。

 しかもルーカスの前だからと、倒れないように気を張っていたのだろう。



「……俺の前では弱音を吐いても良いんです」



 そう言って優しく頭を撫でる。

 無理をしがちなカトリナに、少しでも安らぎを。



「俺はスラムに居たから、いつも華やかな王都を憎んでいたのかも知れない。でも、そんな暗い気持ちに光を差したのはお嬢様なんです」



 ルーカスが前に、カトリナの事を太陽だと称した。

 ラングと話をしていて、2人で離れていた時にふと言われた。明るくて笑顔が弾けている。

 

 自分を照らしているみたいで、自然とその輪の中に入りそうになるのだと言っていた。



『不思議な魅力だよね。公爵家としての気品もあるし、礼儀もなっている。ま、ラングと幼馴染身に近い関係だったのは妬けるけど』



 そうだとしても、今は婚約者としているのだから別に良いのでは。

 ファールが何気なくそう言うと、暫く考え込んだ。



『いやいや、ダメだよ。もっと近くにいたいもん。……幼いカトリナってどんな感じなの?』

『言いたくありません』

『ひどっ!!』

『愛らしくてルーカス様の言う様に、太陽のように輝いている。ですかね』

『……』

『俺は傍にずっと居ましたから。……10年以上の付き合いです』



 とどめの一言を言えば、涙目のルーカスは負けじと睨んでくる。

 


『幼いカトリナの絵姿とかない? 絶対、可愛いじゃん。見れないのショックなんだけど!!!』

『首輪を渡した時に対面しましたよね?』

『あの時は、恥ずかしくってまともに見れてないの!!!』



 彼が言うには、首輪を渡すまでは緊張が凄くてあの時の状況はよく覚えてないのだと言う。

 ただ、言葉はスラスラと出てきたのは遺伝なのか、王族としての指名なのか。不思議な事だったとファールに語ると『覚えてなくて良いです、一生』と低い声で脅した。



「お嬢様の傍にいられるのを、誇りに思います。ですから、ルーカス様達の前で弱音を吐けない時は俺を頼って下さいね」



 そっとカトリナの手を握る。

 弱々しく、だけど握り返してくれる反応に嬉しくなる。


 人に頼りにされると言う事は、こんなにも嬉しい事だとは知らなかった。ルーカスが言ったように、カトリナは太陽だと言ったのはあながち間違いではないのかも知れない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「我が国の魔法師団による最後のイベントを、ご覧ください!!!」



 ルーカスの声に、次々と魔法が空へと打ちあがる。

 大小さまざまな光。

 人によって見え方が異なるように、仕掛けをしたのはもちろん魔法師団によるもの。そして、今回は触れただけでも色が変化するのだと説明に付け加えた。



「わあっ、凄い!! 赤だったのに、緑になったよ!!!」

「こっちはオレンジだ」



 風に乗り、フワフワと浮かんで進む。シャボン玉のようなそれは、王都中を埋め尽くし街灯の光さえも優しく包み込んでいる。

 こういった細かい作業が出来るのは、悔しいかな師団長のお陰だ。

 分析に優れたリファルは、ただ優れているだけではない。師団に所属している者、騎士団の中で魔法が扱える人物全ての悪い癖を教えた。魔法を扱っている本人ですら気付かない程の細かい部分まで。



(悔しいが、見抜く力もある。だというのに)

「あーー、もう。始まってるじゃないか!! どういうことなの、何で私が居なくて実行に移すかな!?」

「そうですよ。毎年、師団長の指揮の元でやっているのにー」



 リーベルが睨んだ先には、縄でグルグル巻きにされ木の幹に固定されているリファルとディル。その横ではエドがしっかりと縄の先を握っている。レゼント家の屋敷には、広い庭もあり大きな木がある。

 2人はそこで繋がれている状態だ。

 

 

「貴方のお陰で、魔法師団は基礎能力も高いですし」

「そうだろ、そうだろ♪」

「とはいえこれからは、連携もしっかりしないといけないです。貴方方を捕まえる方向も含めて」

「「何でっ!?」」

「この件をしっかりと胸に刻み、これからも騎士団も含めて近衛騎士も出張りましょうか。……苦情は、全部師団長である貴方に差し向けます」

「ひどっ!!!」

「これで怒りが収まるんですから、感謝してくれないと」



 綺麗な笑顔で、リファルを見るリーガル。

 ディルはちょっとだけほっとした。なんせ、軽く協力をしただけだから。



「貴方には1年の減給だと言う事です。カトリナ様に迷惑を掛けたんですから、これ位は当然だというのは宰相とその息子であるラング様……2人の意向だと言う事で」

「うっ……」



 途端にシュンとうな垂れた。その上にフワフワと浮かんできたのは、魔法で作られた光の玉。シャボン玉のように風に流れ、ディルの頭の上に乗った瞬間にパチンと弾けて消えた。


 自分達が参加していなくても、このようにイベントは進んでいく。


 2人を参加させたら、ロクな事にはならない。それは今までも身をもって体験したが、カトリナの父であるカラムからそうするようにと言われたばかり。

 自分はただそれに従っただけ。そう胸に秘め、リーベルは反省を見せない2人の頭を叩いたのだった。


 

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