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第4話:怒りの鉄槌


 何年も人の手が離れた廃墟は当然、ほこりはあるし床が抜け落ちている所もある。

 なので、ファールが先導し安全確認をした後でカトリナに声を掛けて進む。それを繰り返して、声が聞こえている方へとどうにか辿り着く。



「うっ……。うぅ……」

「大丈夫?」



 うつむき、体を縮こませている男の子が1人。

 カトリナが声を掛ければ、ビクリと体を震わす。恐る恐るカトリナとファールを見て、怯えるように声を詰まらせた。



「お父さんとお母さんはどうしたの?」

「……」

「はぐれたのかな?」



 質問に答えない代わりに、涙がポタポタと流している。

 そんな様子の男の子に、カトリナは警戒しているかも知れないと思った。もしくは、自分達がお化けの類なのかと疑っている。



(だったら……)



 警戒心を和らぐ為にと魔法を使う。

 男の子の体を包むように、膜を作り出すイメージを頭の中で思い浮かべ手をかざす。

 その動作だけでも、「ひぃ」と怯えた声を出し目を閉じる。



「わあっ……」



 何も起きないのを不思議に思い、男の子は恐る恐る目を開ける。

 自分の体が光っている。

 この事実に驚き、男の子の目がキラキラと輝き「すごいっ!!」とテンションが上がっている。



「こ、これ。お姉ちゃんがやったの?」

「そうだよ。なんたって、魔女をイメージした衣装だし。お化けは従えてないけど……信頼できる執事が居るわ!!」

「お嬢様……そこは、誇らなくてもいいかと」

「え、やだ。ファールを頼りにしているのに」

「あ、ありがとうございます……」



 ニヤケそうになるのを堪える為、ファールはワザと咳ばらいをする。そんな行動に思わず、カトリナは首を傾げた。

 明かりが最低限で良かったと思うファールは、気を取り直しつつ男の子に聞いた。


 どうしてここに居るのか、と。

 その質問に、ポツリポツリとだけど話していく。


 彼は数人の友達とこの近くで遊んでいた。

 かくれんぼをしようと決めたのは単に時間を稼ぐ為。ハロウィンのイベントでは、夜になると夜空に打ちあがる魔法が放たれる。


 ルーカス王子の合図で打ち出す魔法の全ては光の粒子。

 まるでオーロラを見ているような幻想的な夜空を演出するのは、国に所属する魔法師団の団員達。その指揮を任されているのは、当然と言うべきか師団長なのだ。


 毎年派手になっていくのは、王子と師団長の波長が合うことと、お互いに〈魔法の友〉と呼ぶ位に仲が良いのが原因だ。


 夕方には切り上げようと話していたが、隠れている内に不安になった。

 もし、このまま見付からないとなると夜になってしまう。だったら、見付かってでも良いからと彼はかくれんぼを止めたまでは良かった。



「でも、途中で……どこにいるのか分からなくなって。そう思った時、見覚えがある建物があったんだ。ここ、前に遊んでいた事があったから」



 前に友達とで、遊んでいた時に騎士に注意をされたのを思い出したからだ。

 巡回で来ているのなら、ここに誰か来るかもしれない。そんな望みを持っていた時に、ドミノ倒しのように何かが倒れる音が続く。

 ハロウィンイベントとはいえ、お化けを寄り付かせないようにと言う意味も込めているのは知っている。

 だから、つい思ってしまった。ここにお化けが住み着いているのかも……と。



「そう思ったら怖くなって……。奥に進んじゃったの」



 奥に逃げ込んだのは良いが、倒れていく音が自分に迫っているようで最初はパニックを起こした。

 派手に転んだ時、変に足をひねった。ズキリとしたが、パニックになっていた彼は慌てて奥へと進んだまでは良かった。



「でも、時間が経つと足が痛くなってきて……。歩くのも嫌になったんだ」

「そっか。だからここに座り込んでいたんだね。じゃあ、お姉ちゃん達と一緒にここを出よう」

「……良いの? で、でも、ここにケラケラって不気味な声を出すお化けが居て」

「「……ケラケラ」」



 それはもしかして、王都で見かけるお化けの仮装の事だろうか。

 リンドもカボチャのお化けに扮した騎士の恰好をしていた。そこで、ファールははっとなる。

 そのお化けが、最初からここに子供がいる事を知らせる為にカトリナを連れ去った。そうなると彼女の素性を知っている上に、関係性が知れている事になる。


 公爵家である令嬢で、王子の婚約者である彼女を連れ去る。そうなれば、自然と追って来るのは王子であり彼の護衛なり婚約者の護衛をも一緒に付いていくる。

 いや、必ず追って来ると言う確信があったのだろう。



(最初からこれが狙いだった……?)

「ね、ねぇ。あのケラケラっていうお化け。あ、あれって、やっぱり怖い者なの」



 涙目になる男の子にカトリナは安心させるように笑顔を見せる。

 そうしながら、光の魔法を強くする。

 捻挫をしているからと思い、治癒を施すことに集中する。



「よし。これで歩けるようになるはずだよ。大丈夫。お姉ちゃんとこのお兄さんが絶対に守るから」

「う、うん……」

「お嬢様」



 ファールの声がいつもより低い。

 どうしたのかとカトリナが振り返る前に、ファールが2人を守る様に立つ。男の子を守る様にして、抱き込むと「ケラケラ」と聞き覚えのある声が聞こえて来る。



「あっ……!!」



 そこにいたのはカボチャの被り物をし、白い布を被ったお化けがいた。

 そのお化けは、こっそりと中を窺うようにしてカトリナ達を見ておりそのままじっとする。



「ケラケラ。ケラ~」

「中身が分からない相手についていくバカは居ない。……一体、何者だ」



 ファールの質問にそのお化けは必死で答える。

 だが、返ってくるのは「ケラケラ」という言葉のみ。ちゃんと話せと思うが、今度は身振り手振りをして表現して来るも……結局は誰も分からないままとなった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あーー、もう!!! 何でこんな事したのか教えろ!!!」

「ケラ~ケラ~」

「イライラするから止めろ!!!」



 リンドが怒りながら剣を振るう。

 対して空中を自由に動いているお化けは、ヒョイとかわしては空中で足を止めて楽しんでいる。ルーカスもその後ろから魔法での援護をしているが、必ず相手に着弾する前に消え去るのだ。


 相殺ではなく消える。


 これは魔法の分析を行い、放たれる前に打ち消した事によるもの。

 そのスピードは凄まじく、ルーカスが何度も行っても魔法は止められ打ち消されていく。



(やっぱり、これが出来るのは――)



 最初は仮定だった。

 でも追っていく内に、段々ともしかしたらと疑念に変わる。ついには「まさか……」と、ルーカス自身も気付かないまま呟いていた。



「ケラケラ」

「えっ」



 突如、ルーカスの目の前にあのお化けが現れる。

 構えるのも忘れている内、視界が暗くなりはっとした。



「ケラケラ!?」

「何遊んでいるんですか!!!」



 遊んでないし!!! と、ルーカスが答えるも「ケラケラ!!!」と言葉に変換される。



「じゃあ、頑張ってね」

「ケラ……?」



 どういうことかと思った時に「いい加減にしろ!!!」と声が聞こえて来た。



「ケラーーー!?」



 瞬間、ルーカスの体に電撃が走った。否、それは本当に放たれたものだ。

 魔法として。拘束力を強めるものだが、放たれたそれは完全に気絶されるだけの威力がある。



「ルーカス!?」

「えっ……!!!」



 驚きの声を上げたのは、赤茶色の髪に黒い瞳の魔法副師団長のリーベル・レナード。

 ギョッとしたのは、自分が放った相手が王子でないと確信していたから。


 絶対に、当たらない。という確信の元に放った魔法は、見事に外れた。それに驚きながらも、自分が相手をしている人物に思わず(あぁ、そういう奴だった)と自分の考えの甘さを痛感した。



「ふっふっふっ……。甘いな、リーベル!!! 多重に仕掛けた魔法は解いたし、ついでに友に電撃を喰らって貰ったぞ」

「アンタ正気かよ!!!」



 思わずリンドが倒れたルーカスに駆け寄りながら、ニヤニヤする相手に怒る。

 カボチャの被り物を外し王子に魔法が当たる様にしたのは、この国の魔法師団長であるリファル・レイバース。

 緑色の髪にオレンジ色の瞳。鼻歌交じりで既に炎や風を小さく作り出し、ダンスをするように操る。

 ルーカスとは魔法の友と呼び合う程に仲が良く、彼に『力を抑えるのはよくない!!』と教えた1人。


 お化けの衣装が気に入っているのか、今も彼は嬉しそうに空中に足を止めてはフラフラと動く。その動きが余計に、リーベルに対してイライラを増しているのも含めてやっている。



「くそっ、お前のその無駄な能力……イライラする!!!」

「あはっはっはっ~~。もっと怒れ、イベントなんだから楽しまなきゃ損だろ?」

「それでルーカスに攻撃を加えて、どうするの!!!」

「ケラ、ケラ……」

「あぁ、もう話さなくて良い!!! 何を言ってもケラケラしか言えないから」

「……ケラ」



 そう言われて意識を飛ばしたルーカスに、リンドはラングへと連絡する。

 


「リーベル。私だと思って、加減なく放ったね……。あとで謝りなよ?」

「お前が余計な事したからだろが!!!」

「確かに♪」



 一向に反省の色を見せない。

 そんなリファルに縄が投げ付けられ、勢いよく地面へと落とされる。



「ぐあっ!!!」

「確保です。旦那様」



 実行に移したのはレゼント家の執事、エド。しっかりと縛り付け、身動きを封じていく。

 その後ろから来たのはカトリナの父親であるカラム。彼は未だ吸血鬼の仮装をしているが、にこやかに微笑みながらも圧が凄い。



「さて……。言い訳は聞くから、何でこんな事をしたのか話してくれるね?」


 

 


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